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2-1-2 神の座する御山へ、お参りに

今回のラーメン。


 ミクとは学校の正門で待ち合わせをして、それからデートに向かった。市内バスに乗って、伏見区に向かう。家事をやってからの集合だったために、もうお昼時だ。昨日も、というより今日も丑三つ時まで魑魅魍魎狩りをしていたために寝たのは朝日が昇る頃だ。そんな生活に慣れてるからあまり眠くはないけど。

 バスに揺られてニ十分ほど。今日の最重要観光場所からはちょっと離れた所で降りる。まずは腹ごしらえだ。目的地に行っちゃうと軽食しかないし。


 というわけでバス停から少し歩いて裏路地に入る。この辺り一帯は蕎麦屋が多く、どこのお店に入っても外れはないと言われるほど。水が美味しいことから、かなり上質な蕎麦ができるのだとか。

 同じ理由で和食のお店と料亭も立ち並ぶ。飲食店に入って手持ちさえ気にしなければどこでも満足できるというのはかなり大きな利点だろう。特に旅行者からしたら迷う必要がないということなのだから。

 まあ、俺たちはそんな料亭から離れてラーメン屋に行くんだが。表通りはそういった景観に合わせたお店が多い。あとはお土産屋だったり、観光案内所だったり、それこそ観光施設だったり。


 そういうものから意図的に外されるお店は裏路地にありがちだ。この前巡回ついでに夜裏路地を歩いていて、やっていたお店を覗いたら座敷童がやっている骨董店にめぐり合わせたのは驚いたけど。まさか妖が平然とお店を開いてるなんて思わなかった。興味本位で昔の扇子を買ってしまったけど。

 それはおいておいて。ミクと一緒に裏路地へと入って少ししたところにラーメンと書かれたのぼりを出しているお店があった。今日のお店はここだ。

 裏路地ということもあって、そういう匂いが辺りに溢れかえっているために複数の猫が群がっていた。奈良の鹿とまでは言わないが、その匂いも毎日のことで、並んでいるお客さんも警戒心がないからか猫は人懐っこく寄ってきている。


『うわー。こんな複数の魚の匂いがしちゃえば、こうもご同輩が近寄るのも納得だニャ』


「開店当初は出汁を取った後の魚の身を入れていたゴミ袋が猫に荒らされて、周辺住民から苦情がたんまりと来たらしいぞ。今では物理的な防護ネットと陰陽術の二重警戒でその苦情もパタリとなくなったらしいけど」


『こんだけ魚の匂いがキツければそりゃそうだろ。あれと一緒だ。ナントカ系の豚骨の匂いと。ラーメン屋なんざ、ああいう匂いがするのは仕方がないんだろうが、周辺住民からしたらいい迷惑だろうよ』


「横浜家系とか、ジロー系か?ゴン」


『そうそう。ジローって方だ。ああいう店はオレは金輪際行かねえぞ』


「俺もジロー系はいいかな。量多すぎだし、胃もたれするから並んでまで食べたいとは思わない」


 もちろんのことだが、今回も銀郎と瑠姫は普通に実体化しているし、ゴンもいつも通り犬の姿に化けている。

 俺と祐介は中学時代、大将のお店が至高だと思っていたが、それだって初めて食べた美味しいラーメン屋というだけでなく、足を伸ばせるラーメン屋なら他のお店も回ってみた結果そういう結論になっただけだ。


 その中には家系ラーメンもジロー系ラーメンもあった。家系ならまだ食べられなくはないのだが、ジロー系は野菜や麺の量を少なくしても飽きが来てダメだった。油がギトギトで、味が濃くて水がいくらあっても足りなかった。

 アレだけはラーメンとジャンルが違うなと思って、それ以降食べていない。ミクにも写真を見せただけで行くことを拒絶。アレは一回経験すればいいし、ミクのような女の子を連れていく場所ではない。


 話を戻して、今来ているお店についてだ。ここは限定メニューがない時はとてもシンプルで、鯛出汁ラーメンと魚出汁ラーメンの二種類しかラーメンはない。サイドメニューはご飯類と各種トッピングがあるが、メニュー自体は本当に少ないお店だ。要するに、魚系のラーメンのみということ。

 メニューを少なくするのは仕込みの手間を省くために個人店がよくやることだ。メニューが多ければ多いだけ開店前の仕込みが大変になる。特に魚なんて鶏や豚以上に捌くことが大変だ。鮮度の関係で捌いたり加工した物を業者に持ってきてもらうわけにもいかないだろうし、そこで楽をしていたら有名店の一つに数えられていないだろう。


 前にマユさんと出会った鶏ラーメンのお店ほどじゃないにしても、かなり並んでいる繁盛店だ。外にいるのは俺たちを含めて五組。十組とか待っているわけじゃないから大分マシだろう。

 今回はマユさんのような凄腕の陰陽師がいるわけではないようだ。いや、前のアレがありえない偶然で、わざわざラーメン屋で鉢合わせするのがおかしいんだ。あの後姫さんにも会ったし、あの時が変だっただけ。ラーメン屋に集まる陰陽師とか嫌だな、それ。


「タマ、どっちにする?」


「鯛出汁の方を食べてみたいです」


「じゃあ俺が魚出汁な。銀郎と瑠姫は?」


『あたし鯛―!』


『……じゃああっしは魚で』


「はいよ。ゴンはこの中だとどれがいい?」


 ゴンの目線に入るよう、携帯電話の液晶を見せる。本当なら俺かミクが抱えて見せれば楽なんだけど、この前ミクと桑名先輩が思いっ切りやっちゃったからか誰かの胸元に収まるということをしない。クラスの女子からもらう餌付けはそのまま受ける癖に。


『やっぱり稲荷寿司はねえじゃねえか』


「後で買いに行くけど、そっちで食べるとしてここでは何も食べないでおくか?」


『いや、鯛茶漬けは気になる。これ食わせろ。あと卵』


「はいよ」


 案外ゴンって味玉好きなのかもな。ある店だったらほぼ頼んでるし。

 それから十分ほど待って、中に案内される。二人と三匹だと伝えていたので、大きいテーブル席に案内された。ここは食券式ではなく注文式なので、席についてすぐに頼む。ゴンは俺とミクの間に鎮座した。そんなに瑠姫の隣で飯を食いたくないのか。まあ、色々口うるさく言われるのが嫌なんだろう。

 注文を終えると、店員さんが一つ確認をしてきた。


「鯛茶漬けは食後にお持ちしますか?」


「いえ、先に持ってきていただいても構いません。できれば味玉と一緒だとありがたいです」


「?わかりましたー。ではそのようにしますね」


 疑問に思いながらも、店員さんは笑顔を浮かべながら厨房へ戻っていく。犬の姿をしたゴンが食べるとは思わないよなあ。式神の認知度は上がってきたとはいえ、式神を傍に置くだけで一緒に食事を食べるなんて稀だろうし。ゴンや玄武という生きたままの式神を除けばする意味がないんだから。

 食事を取ることで霊気を補うこともできるが、その間実体化させている方が霊気を消耗する。霊気を補うことができると言ってもたかが知れているのだ。だから常時式神を実体化させているような陰陽師は変態扱いされる。要するに俺たちの一族は皆変態だ。


 では食事の際に式神を実体化をさせている陰陽師はどういった人種か。食事を一緒に楽しみたいと思っていて、霊気の消費を何とも思わない一般人か霊気のストックがかなりある人間。または俺たちみたいに常時式神を実体化させているだけの、修行の一環としている人種。

 増えてきているとはいえ、式神を供だって歩く人間はまだ少数ということ。

 そんなことを話していると、料理が運ばれてきた。


 ラーメンはどれもスープが黄色く透き通っていた。魚と鯛は魚の方が黄色が濃く、ラーメンではチャーシューが乗っているところ魚の切り身を炙っているものに変わっていた。鯛はそのまま鯛の炙りで、魚は今日は鱈とのこと。魚の方は日によって上に乗っている炙りが違うらしい。そこは朝の仕入れ状況にも左右されるんだろう。

 だからか、ここのスープは毎日仕込みが変わるようなので同じスープは一生飲めないらしい。鯛はほぼほぼ変わらないらしいが、魚はスープの色から匂いからもう別物なのだとか。本日使われている魚はお店の中のコルクボードに張り紙として書かれている。


 今日はえんがわ、マグロ、鱈、鱚らしい。ゴンの鯛茶漬けの方は炙りではなく刺身の鯛が入っている。お茶はこちらで入れるようだったが、ゴンでは入れられないので代わりに入れてあげる。運んできた店員さんはゴンが食べるとは思っていなかったようで目を丸くしていたが、それに一々対応するのはバカバカしいので気付かなかったフリをする。


「いただきます」


 麺は細麺のストレート。黄金色のスープに合わさって麺自体が輝いているように見える。先にスープを飲むと、確かに様々な魚の味がするのにお互いがお互いを潰し合うのではなく、上手く中和して旨味だけを主張してくる。日によって入ってくる魚が違うのに、ここまで完成度が高いスープを作れるのだからこそ、繁盛店たらしめているのだろう。

 あとは、このつみれか。これも魚のすり身なのだろう。とことん魚に拘らなければここまで徹底できないだろう。もしかしたらここの店主、和食のプロだったんじゃないだろうか。鯛茶漬けについてくるお新香とか、ラーメン屋で出すにしてはしっかりしすぎている。四種類も準備するかね。わさびも練りわさびじゃなくて山わさびだし。


 いつも通りミクとお互いのラーメンを交換する。麺をすすると、鯛独特の香りが鼻腔をくぐっていく。魚にありがちな臭みは全く感じず、上品かつあっさりとした味わいが舌を楽しませる。

 内装もラーメン屋というより、寿司屋っぽい。木目の見える木のカウンターに、木製のしっかりとした椅子。そして薄ぼんやりとした照明。

 これなら女性でも食べに来やすい味だと思った。周りを改めて見てみると、お客の男女比率はちょうど半々くらいだった。それも納得できる食べやすさだ。フレンチとかそういうお洒落なお店と変わらない感覚で来られるのだろう。内装を見る限りやっぱり和食の高級店か、寿司屋か。どっちにしろ格調が高そうな店内だ。

 そう考えたら腑に落ちた。ネギとかは食べただけではわからないが、おそらく一級品を使っている。こういう店は手抜きをせずに全てに拘るはずだ。

 ここも当たりだったなと思いながら、舌鼓を打つ。京都は観光都市として、そして第二の首都として美味しいお店が揃っているんだろうと感心しながら時間は流れていく。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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