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1ー2ー5 さてさて始まりますは、神の御座で語られる滑稽話

退魔の力。


「説明するよりも見せた方が早いと思う。そこら辺に魑魅魍魎がいるし、さっそくやってみようか」


 辺りを見回しても脅威になりそうな魑魅魍魎はいない。雑魚ばっかりだ。全員そこら辺をふよふよと浮かんではいるが、危害を加えようとはしていない。

 魑魅魍魎は人間を見つけたからといってすぐさま襲ってくるとは限らない。そういう魑魅魍魎もいるが、大半はそこに存在しているだけだ。放っておいたらかなり数が増えているので基本的に見つけたら倒すが。


 桑名先輩は上空に浮かんでいる魑魅魍魎をターゲットにしたらしい。そいつらに向かって右手を広げて掲げる。

 次の瞬間。光ったと思ったら魑魅魍魎は崩れていくように消えていった。乖離というか、剥離というか。構成要素がポロポロと剥がれていくように消えていった。

 通常なら霊気が大気に還るように消えていくのだが、今回のように消えていく魑魅魍魎を見たことがない。それもそうだが、無詠唱というのは驚いた。呪符も使っていなく、煩雑な術式を使っているようにも見えなかった。


 その力がもう、身体に浸み込んでいるかのように木の葉が流れるように用いられていた。六百年という年月を、その術理を全て継承していくことに費やしているような。

 ただあの術式、どういうものなのか読み取れなかった。手が光ったのはわかっても、それがあの魑魅魍魎たちに当たった瞬間は見えなかった。どういう原理であの現象を起こしているのかまるでわからなかった。

 なのでそれを直接伝える。


「見てもわかりませんでした。どうなったんです?」


「退魔の名の通り、魑魅魍魎を浄化させたんだ。普通魑魅魍魎を倒したら霊気になるだろ?でもこの術式で倒すと霊気ごと消し去る。悪しき霊気を大気に還すことなくそのまま消し去れるんだ」


『ほう?やはり桑名は魑魅魍魎の絡繰りを知っていたのか』


「もちろんです、天狐殿。難波にはきちんと晴明様から魑魅魍魎や魔について継承されましたから。それを分家である我々が知っているのは当然でしょう」


 それが本家である土御門の場合当然にならないのかもしれない。魑魅魍魎の在り方をあの本家は知っているのだろうか。俺たち難波と京都に根を張っている土御門たちはどうも知識量の差があるように感じる。

 意図的に表側の土御門には隠したとして、その真意はどこにある。難波が裏側の家だから全てを知らせたとして、人間の管理を任せる表側に伝えない理由とは何か。

 どうにか土御門に間者を送り込めないかな。向こうの情報が欲しい。

 それは後にして。


「桑名先輩。さっきの術式、まるで見えなかったんですが不可視の術式ですか?」


「いや。純粋に威力が低いだけだよ。相手が魔だったら作用する術式で、威力が高いほど霊気も喰うし、可視化もするんだけど。あれはちょっと敵が弱すぎて可視化できなかった。見せるって言っておきながらいつもの癖で倒せるギリギリの力しか出していなかった」


『常在戦場の意識からしたら合格でしょう。退魔の家ということは本来の陰陽師の家とは在り方が違うんですからねえ。むしろあっしらと心構えは同じでしょう。節約結構。そういう風に家からして変化していったんでしょうから』


「銀郎殿に褒められるとは、光栄です」


 桑名先輩がはにかむ。分家の中でもウチの式神は別格らしい。

 今は誰もが忘れている本業としての陰陽師。その在り方を貫いたのが難波で、今の呪術師としての在り方に早くシフトしていったのが桑名家。というよりはその体質から戦うことに特化するしかなかったんだろうけど。

 戦うことに専念するなら霊気の節約を心構えにするのは間違っていない。必要最低限の労力で切り抜けるのが一番だからだ。そうじゃないと長時間戦い抜くことはできやしない。


「タマ。先輩の術式見えたか?」


「霊気は感じ取れましたけど、目で見ることはできませんでした……」


「だよな」


 意図的に霊気の流れを感じ取ろうとしなければ本当に手が光って魑魅魍魎が浄化したようにしか見えないだろう。まさか見えない術だとは思わなかったので、そこまで念入りに見ていたわけじゃない。次見る時はもっと念入りに見よう。

 とか思っていると、地上にもふよふよと魑魅魍魎が寄ってきていた。敵意を向ければさすがに魑魅魍魎も寄ってくる。数も多くなく、また雑魚ばかりだったが。


「今度こそわかりやすいと思う。見えるように術式も使うからさ」


 また手を掲げる桑名先輩。その右手から光が出るのと同時に黄色い閃光が魑魅魍魎へ駆けて行った。目の前にいる魑魅魍魎を倒すには過剰にしか見えない巨大な閃光。それに呑み込まれて魑魅魍魎はさっきのように剥離しながら消えていったが、驚くべきことがあった。

 後ろの木にも直撃していたはずなのに、それらに一切傷がない。倒れることも葉が落ちることもなく、術式を放つ前の状態を保っていた。あれだけの霊気がぶつかればありのままの状態を維持できるはずがないのに。

 霊気の量などからして高等術式に違いない。だというのに変化がないということは。


「もしかして、魑魅魍魎にしか効かない術式なんですか?」


「あと妖にも効くよ。それ以外には効かないね。周りを気にせず出力を最大にして撃てるっていうのはすっごく便利だよ。反射的に術式を用いても誰も傷付けないからねえ」


「……確認したいんですけど、悪霊憑きの場合ってどうなります?」


「あー。悪霊憑きは傷付くね。たぶん憑いてる側が反応して、内側を傷付ける。悪霊憑きを浄化させるには相当高位の術式を使えば剥がせるけど、普通に術式使うと内蔵とか血管とか傷付けちゃうんだ。悪霊憑きの人に浄化を頼まれることもあるよ」


 確認しておいて良かった。悪霊ってまるっきり悪と言っておいて、退魔の力なんだから作用してしまうのもさもありなん。むしろ悪霊を祓えなかったら退魔なんて名乗れないだろう。


「あのですね。何が憑いてるかは言えないんですが、タマは悪霊憑きです。それと、その悪霊を祓わないでいただけるとありがたいです」


「え?そうなのかい?」


「はい。わたしは悪霊憑きで良かったと思っています。ですので、できればその手をわたしに向けないでいただければ……」


「そっか。わかった。詳細は聞かないし、細心の注意を払うよ。まあ、その人が魑魅魍魎に囲まれてたりしない限り人ごと巻き込んで術を使ったりしないよ。それは陰陽師として当たり前の心構えだろう?」


 話のわかる人で良かった。問答無用で悪霊憑きなんて絶滅すべきとかって理論で実力行使してくる人じゃなくて。退魔士なんて初めて会ったけど、先天的な才能じゃなくて、魑魅魍魎に大切な人を殺されたからと復讐心で退魔士になる人もいる。

 きっかけなんてわからないから、家柄だけで判断するのは危険だし。人類の守護者たる土御門と賀茂であれだったもんなあ。


「陰陽師、なんですね」


「それはそうだよ。僕はそもそも呪術もからっきしだしね。いや、本質的には陰陽師にはなりきれない一家だけど、呪術師なんて余計に名乗れないし。難波から分かたれた家だから、そういうのはちゃんとしてるよ」


「ウチの分家は若干変質し始めてますよ。今の世の中の風潮だから仕方がない部分もあるんですけど、戦闘に重きを置き始めて」


「あら……。でも香炉星斗さんを輩出したのは純粋に栄光なんじゃ?」


「才能から見ても実力から見ても誇れる人材ですよ。むしろ彼の万能性というか、器用貧乏加減が戦力重視の錦の御旗になってしまったというか」


「あー……」


 別に星斗を責めているわけではない。こうも変わった世の中じゃ、桜井会こそ必要とされる存在だし。だから父さんも見逃していたんだろうか。たぶんここまで未来視で視ていたんだろう。

 ああ、父親の背が、当主の座が果てしなく遠い。

 それからはゴンたち式神も含めた連携を見せることになり、三人で大きな事態に当たることになってもいいように様々な確認をしていく。


 その途中で桑名先輩がやっぱりというか、ゴンたち式神に感動して一時中断することにもなったが、それ以外は順調に動けていた。

 俺たちはもう長い間銀郎と瑠姫と一緒に暮らしてるから感動とかしないけど、分家の中では本家の式神ってどういう扱いなんだろうか。本家にずっといるからそこまで姿を見せないらしいけど、今はこうして俺たちの式神になってるからなあ。


 次期当主には貸与されると思うんだけど、どういう語り口をしたらここまで信奉されるんだろうか。それとも獣に目がない血筋のせいだろうか。

 その答えは出ないまま、丑三つ時まで三人で魑魅魍魎を狩り続けていた。生徒会ではない信頼できる上級生ができたというのはパイプ的にも嬉しいことだ。もし何かあったら頼れるし。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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