表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/405

1-2-3 さてさて始まりますは、神の御前で語られる滑稽話

移動。


 授業と帰りのHRも終わって、一度寮に戻って要らない荷物を置いて更には私服に着替えて、その上で桑名先輩との待ち合わせ場所である喫茶店のマルカの前でミクと一緒に待っていた。

 いくら京都とはいえ、この時間に喫茶店はやっていない。夜にやっている店はコンビニとファミレス、あとは奇特なお店くらいだ。公共機関は交通系を除いて基本的に稼働している。緊急時の避難場所になっているし、陰陽師の拠点としても活用されるからだ。

 そういうわけで、辺りにある光は電灯くらいのもの。そんな暗い中で待っていてしばらくすると桑名先輩が歩いてやって来た。


「やあ、待たせてしまったかな?」


「いえ、大丈夫です。それでどの辺りに行きますか?」


「そうだね……。定番だけど銀閣寺の方へ行こうか。あの裏山辺りには多くの魑魅魍魎もいるし、銀閣寺以外には建物も少ない」


「わかりました。行きましょう」


 歩いて行くにしたら時間がかかりすぎる。鳥の式神を出してそれに乗る。歩いているより式神で空を飛んでいる方が陰陽師の移動と思われて怪しまれない。

 今が緊急時とはいえ、夜の魑魅魍魎狩りはプロのお仕事。ライセンスを持っていない人物は自己責任だ。たまにプロが主催する体験会のようなものがあったりもするが、たぶん今はそんなことは起こりえないだろうけど。


 そんな善意で人員を育てるという余裕がないのだ。元からの人手不足が更に極まった状態で、無償のお手伝い(ボランティア)なんぞするお人好しは皆無になったということだ。そのお人好しが引退したり現場復帰したりしたというだけのこと。

 俺とミクは同じ大きな鳥に乗っているが、桑名先輩はもう一匹の方に乗っている。のだが、その桑名先輩はその鳥を物珍しそうに見ていた。鳥の形状が気になるというわけでもなく、式神そのものが珍しいというような。

 もしかしたら。


「桑名先輩。もしかして式神も……?」


「ああ、ごめんごめん。実はそうなんだ。誰かの式神に乗せてもらうことはちょくちょくあるんだけど、一人で、しかもこんなに大きな鳥の式神に乗るのは初めてでね」


「簡易式神ではないですけど、初歩の式神ではあります。……本当に難波の血筋なんですかね?」


「アハハハ。何とも言えないね。まあでもほら。土御門は満遍なく術式を用いれて、難波は結構特化してるだろう?大元のそこですでにそんな変化があるんだから、僕たちでも変化があるのはおかしくないんじゃないかな?」


 そう言われてなあなあで納得する。土御門は中堅程度で全体的にまとまっている。難波はそれぞれ一点特化。安倍晴明の血筋と呼ばれている大家がこうも偏っているのだから分家の中でもブレるのはおかしくないことだと。

 星斗も先祖返りというか、性質的には土御門に近い。そのことを考えるとおかしくはないのだろう。どちらかというと星斗が俺たちからしたらおかしいのだが。あいつ橋の下から拾われたとか、産まれた家間違えたとかないのかなあ。土御門家からの養子ですって言われたら納得する。


「本当に退魔に特化されていらっしゃるんですね……。桑名先輩、失礼ですが悪霊憑きとかではないんでしょうか?」


「ウチの家系に悪霊憑きは現れたことないなあ。退魔の家系だからかな?」


「それは珍しい。霊気が多くなりがちな陰陽師の大家こそ悪霊憑きは産まれやすいとされているのに」


 ミクの質問の返答に、桑名という家の歴史から考えるとありえないと思って尋ね返してしまった。桑名は六百年近く続く名家だ。その中で一切悪霊憑きが産まれないというのは同等の家であればありえないと断言する。

 難波だろうが土御門だろうが、霊気を一般の家よりも多く持って産まれがちな家は百年に一人くらいの頻度で悪霊憑きを輩出する。危険性はもちろんあるが、制御してしまえば憑かれた存在の力を引き出したり霊気が増えたりと様々な恩恵も得られる。


 ミクや金蘭がその良い例だ。

 桑名の家のように何かの力に特化するというのも悪霊憑きらしい特徴なのだ。ミクの場合はその霊気。金蘭もおそらくそうなのだろうけど、他の悪霊憑きであれば人間よりもよっぽど身体能力が高かったり、変わった術式が得意だったりする。

 蛇の悪霊憑きであれば、毒の生成が上手だったり、身代わりの術式が得意だったり。桑名の場合は退魔なので悪霊憑きは産まれにくいとも思うけど。


 真逆の属性だからな。悪霊と退魔なんて。

 そうして話している内に目的地である銀閣寺の裏山に着いた。辿り着くのと同時に式神を戻す。ただ大きいだけの珍しくない鳥だったのに、残念がる桑名先輩がどうも印象的だった。

 この辺り、左京区は夜であっても明かりが灯っていて、いわゆる特殊なお店が多かった。銀閣寺自体がライトアップされていたり、比較的に魑魅魍魎の被害が少ないからだろう。


 京都全域で魑魅魍魎の被害が大きいということもなく、地域によってその規模は異なる。学校がある西京区は比較的出現率が高く、鴨川が流れている北区の方は左京区のように魑魅魍魎はあまり出ない。

 それも京都の中では、という意味だし、先日のAさんが起こした事件の後からはその様子は変化した。魑魅魍魎の出現率を呪術省がマッピングしていたが、少し様相が変わったらしい。まあ、これだけ神気が溢れ始めたら様子も変わってしかるべきだろうけど。


「じゃあ全員の戦い方を確認しようか。那須さんからいいかな?」


「はい。わたしは主に霊気のごり押しで戦います。基本的な術式に、思いっ切り霊気を込める感じです」


「聞いたよ、月落とし。巨大な怪鳥を一撃でのしたんだって?防衛をしつつそんなことができるなんて、本当に霊気がたくさんあるんだね」


「本当に技術があるわけじゃないから恥ずかしいです……」


 そう言うミクだが、技術がないわけではなく、膨大な霊気を制御できていないだけ。最近尻尾が五本に増えたせいで更に霊気が増えてしまい、細かい調整がしづらいだけ。ゴンですら匙を投げるほどだ。

 だから単純に、莫大な霊気を消費する簡易術式や極大術式のような術の方が得意なだけ。

 基礎は一通りできるのだが、戦うとなると式神を呼びだすか力のごり押しになってしまう。そのごり押しでも一線級の活躍ができるほどの霊気なのだが。ぶっちゃけそのごり押しだけで星斗には出力だけなら勝てる。精度を競ったらさすがに負けるが。


「難波君は?」


「基本的には式神を呼んで、後は補助術式や簡単な単一術式で戦います。後はこの呪具で戦いますが、まあ玩具なんで雑魚専門って感じです」


 ジャケットの中から取り出したのは父さんから受け取っていた黒いハンドガン。夜中に魑魅魍魎狩りに行くなら外せないアイテムだ。マジで術式使うより雑魚相手ならこれの引き金を引く方が早い。

 あれば少し楽ができる程度で、劇的には変わらない。三本のストレージを上手く使い分けられればもっと戦術も広がるんだろうけど、これをメインに使おうと思わなければそこまで広がるもんでもない。本当に玩具の領域を超えない武器だ。

 だからこそ価値もあるんだけど。

 そういえばこれ、この前使わなかったな。伊吹相手に通じるとも思わなかったからいいんだけど。


「いかにも難波って感じの戦い方だね」


「次期当主ですから。あと式神も紹介しておきますね。タマも」


「はい。瑠姫様」


「ゴン、銀郎」


 呼びかけてすぐに出てきてくれる俺たちの式神。最高戦力だけあって皆態度がふてぶてしい。

 あと、日本全国に神気が溢れたことでこの三匹もかなり強化された。送る霊気の量が少なくなり、スペックが全体的に上昇。事件の前後で周りの霊気と神気の量が桁違いになったことで見られた変化だ。

 まあ、そのせいで魑魅魍魎たちも全体的に強くなってるけど。それでもこの三匹の上昇率はかなりのものだ。銀郎なんて父さんが使役してた頃よりスペックが良い。むしろ今が当たり前のスペックなのだとか。

 そんな目の前に現れた小狐、二又の人型をした猫、同じく人型をしたオオカミの式神を見て桑名先輩は感嘆の声をあげていた。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ