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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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エピローグ2 カーテンコール~変革した日本は~

喫茶店にて。


 建巳月(けんしげつ)の争乱。先日の事件をそう呼称することが決定されて三日。建巳月(けんしげつ)の争乱からはちょうど一週間経ってから。俺たちは鴨川にあるとある喫茶店に来ていた。

 この一週間、日本は激動の一週間だった。見たこともなく、とても大きな、霊気も膨大で朝日が昇ろうと消えない存在の群雄割拠。京都以外にも百鬼夜行と変わらない群体の襲撃にそこかしらから感じる巨大な力。


 陰陽師はその大きな力に畏怖し、一般人は突然増えた魑魅魍魎と思われる存在からの被害に頭を抱える。

 その巨大な力が神気で、魑魅魍魎と思われているのは大半が妖や土地神だ。それを呪術省が把握していないか、把握しているが公表していないだけ。そのためプロの陰陽師は昼夜問わず調査や戦闘に駆り出されている。


 非常事態宣言が発表されて、それがいつ解除されるかの見通しも立っていない。ゴン曰く眠っていたものが起きただけらしいから、今の状態はずっと続くということ。日本という国は神も妖も魑魅魍魎も境なく根付いていたのが原初の姿らしいので、むしろ今の方が正常なのだとか。

 過去視で視た限り、たしかに今の状態の方が平安に近しい。原初回帰、ということだ。


 俺たちの周囲に話を移すと、まず学校は再開されていない。

 学校の建物への被害もそうだが、死傷者への対処もあった。その諸々と父兄から今の京都は危険だから引き取るという声も多く、帰省する生徒も多かった。先生たちの多くも負傷していたし、授業なんてやれる状態じゃなかったってことだ。


 俺たち四人は誰も帰ってないけど。向こうの状況を聞いて、大きな被害が出ていないことを聞いて安心したことと、Aさんたちに会えないかと思って残ることにはしていたのだが、結果は空振り。

 あと情報収集をしたかった。陰陽に関することだったら東京より京都の方が情報が手に入る。あとは大峰さんという麒麟がいるから色々と知れるし。ミクたちと情報の摺り合わせをしたかった。


 今日この喫茶店に来たのも一つの目的があったからだ。

 昨日のうちに俺の部屋に一匹の簡易式神が手紙として届いた。差出人はAさん。内容としては喫茶店への招待だ。美味しい店だから行ってみるといい。お金は先払いしてあるから好きに食べたまえ。珠希君はもちろん、友達も連れて行きたまえ。


 そう書かれていて、本人たちに会えることも一応期待してやってきていた。祐介も天海も家に帰ってやることもなく、いつ学校が再開されるのかわからないのでこちらに残っている。あとはゴンから教えを受けてもしもに備えている。

 祐介は勘当されているようなものだから陽気だが、天海は裏天海家なんてものが出てきたために分家一同の当主が本家に集まって集会を開いているらしい。その結果は後で教えてもらうことになっている。


 父さん曰く、悪い集団ではなく、むしろ影から日本を支えている集団らしいが。呪術省の無能を尻拭いしている者たちを裏側の住人と呼んでいるらしい。それは大変な仕事だと思ったし、子どもですら無能だと分かる呪術省が破綻しない理由もわかった。

 ウチの難波家も半分裏側の住人だとか。正確には表と裏の橋渡しをしているらしい。当主になった時責任重大だな。


 さて。俺たちが来ている喫茶店だが、鴨川周辺でかなりの有名店らしい。お昼の今は全席埋まっている。そんな中俺たちと式神で二席占領しているのは申し訳ない。予約席として一番景観が見られるテラス席を用意されていたことには驚いたが。

 この様子ならAさんも姫さんもこないな。来たら注目の的だ。


「難波くん、よくこんなお店予約できたね」


「あー、知り合いのツテ」


 ウチの学校襲った人たちに勝手に予約されていたとは口に出さない。ミクには言ってあるけど。

 メニューを注文しようとして手を挙げると、返事をしてくれたウエイトレスさんではなく、何故かわざわざ奥へ行って、そこから四十代くらいの男性がやってきた。

 まさか、ここってAさんの息がかかっているお店なのか。


「いらっしゃいませ。難波明君とそのご友人。今日は好きなものを注文してくれ。とはいえそちらのお稲荷様にはもうお出しするメニューが決まっているんだが」


「お手数おかけします」


 ゴンはいつも通り外出用の犬の格好をしているのだが、すでにバレていた。たぶんAさんが事前に言っていたんだとは思うんだけど。


「いやいや、気にしないでくれ。康平殿にはお世話になっているんだ。姫さんたちにもご贔屓にしてもらってるからね……」


「父に、ですか?」


「ああ。返しきれない恩がある。腕によりをかけるから、楽しみにしていてくれ」


 はて。京都の地で父さんに恩があるとは。姫さんとは別口らしいし、何をしたんだろうか。というかやっぱり姫さんたち御用達の店かよ。

 それはさておき各々注文していく。写真を見ただけで美味しそうなことは分かる。ゴンたちも特に困った注文をせずにオーダーを終えていた。

 しかしあの店長さん、Aさんにいいように使われているんだな。苦労が滲み出てたよ。


「やっと日常が戻ってきたってところかね?お昼に外食して、復興が進められているってことはよ」


「変化したことに順応したんだろ。どうしたって明日は来るんだから」


 祐介が周りを見ながら呟いた言葉に、訂正を入れる。変化する前の日常になど戻りっこないんだから。人々はただその変化を受け入れ始めているだけ。

 対岸の火事を気にしないというか、魑魅魍魎関係の変化が起きても一般人は陰陽師に丸投げ。何もできることがないからだ。Aさんという呪術犯罪者が再び現れたことに関しても同じ。

 見かけて通報することはできても解決することはできない。なら、日常を取り戻すしかないというのが現状だろう。


「仮面をつけた呪術犯罪者A。建巳月(けんしげつ)の争乱なんて呼ばれた事件も一切解決してないからな。呪術省は血眼、一般人は傍観。そんなもんか」


「あの瑞穂さんを式神にしている人ですからね。瑞穂さんには誰も敵わなかったみたいですし……。マユさんも瑞穂さんの式神と互角だったようですよ」


「玄武で?それよりも上の陰陽師……。うん、呪術省でも見つけられないな」


 今必死になって呪術省はAさんたちを捜索しているし、瑞穂という肩書きの説明もしていた。麒麟という存在は隠したまま。

 だから俺たち以外と話す時は麒麟についても話さないようにしている。今も祐介の話にミクが合わせた。父さんたちにも相談したが、俺たちが知っていることは外に漏らさない方が良いということになった。


 それはもちろん、大峰さんであっても。祐介と天海であっても言わないことになっている。難波が裏側の住人なため、表側の住人を巻き込まないため。危険だった場合は情報開示も辞さないが、基本的には口を割らない。

 呪術省が本来やることを、わざわざ裏側の住人がやる必要がないということ。何故呪術省が情報を隠すのか、その真意を探るため。厄介ごとを一つでもなくすため。


 呪術省に反旗を翻す可能性があるので、そこまで懇意になるなという当主命令。

 ように、情報規制さえしっかりしておけば今まで通りでいいということだ。

 というかAさんたち、確実に京都のどっかにいると思うけど。


「マユさんで勝てなかったら誰が勝てるんだよって話だよな。そんな人らに襲われた俺らは確実に運が悪かった」


「それもあるけど、もしそんな人たちが呪術省を襲ったらすぐに壊滅しちゃわない……?」


「するだろうなあ。仮面付けてたから特定できていない最強の陰陽師に、裏天海家の当主だっていう瑞穂って人。この二人とあの鬼二匹いたら四神がそれだけで手一杯どころか負けるかもしれない。他に戦力があったら呪術省なんて一晩で沈むな」


 天海の言葉にそのまま頷く。本当の話、マユさんと大峰さんでようやく姫さんを抑えられる。その姫さんがあの四組の中で最弱というのだから手に負えない。外道丸は青竜を瞬殺したらしいし。

 となると、あの四組だけで呪術省を落とせるということだし、今回のように百鬼夜行を呼ぶこともできるらしいし、俺たちいなくても呪術省潰せないか?何で俺たちを勧誘するかなあ。


「これからどうなるかねえ、日本は」


「呪術省がまともに対応しなければ、滅びるだろ。近いうちに。タマ、そうなったら外国のどっかにみんなで引っ越すか」


「そうですねえ」


「二人がそれを言うとシャレにならないからやめて……」


 天海が青褪めつつそう言うが、日本というか地元が好きだから本当によっぽどのことがない限りあの地元から去ろうとは思わないけど。

 まず陰陽師ってその体質から海外に出ることかなり制限されるしなあ。陰陽術を使ったら罰金まで発生するし。


 日本がどういう道を歩き出すのか知らないけど、バカな道を歩まないことを祈りつつ、俺たちは運ばれてきた料理に舌鼓を打つ。

 どうか平穏な日常を。狐を保護して、地元で静かに暮らしたい。


 それってそんなに難しいことかなあと思いつつ、変化してしまった日本で生きていくために将来を案じるのは当然だった。

 最終手段として、本当に日本を捨てなくてはならないかもしれないことも一つのありえなくはない選択肢だと、頭の片隅に置いておきながら。


これで二章は終わりです。

次の三章は三日後に投稿します。次の「大天狗襲来」編でお会いしましょう。


感想などお待ちしております。

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