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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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4-4-1 終わりの円舞曲はノクターン

明たちと伊吹の戦い。


 ゴンの背中に乗って疾走する。指示を出して駆けてもらい、辿り着いた先には辺りを容赦なく壊しながら一人の人間をボコボコにしている一匹の鬼だった。見覚えのある殺気を放った鬼。そしてその鬼が今首を掴んでいる人間は土御門光陰だった。

 三秒ほど助けなくていいかと思ったが、結局鬼を止めないと校舎が破壊され続けるだけなので、止めることにする。

 向こうもこちらに気付き振り向く。首は絞めたまま。


『おっ、明に天狐に銀郎じゃねえか。姿見えねえとは思ってたけど、どっか別の場所で戦ってたのか?』


「えーっと、とりあえずそいつ離してくれますか?ウチの生徒なんで」


『あん?何でお前が土御門を助ける。理由なくね?』


「ないけど……。もしそいつがやらかした結果あなたが戦場に出ているなら、釈明してもらわないといけないんで」


『ああ。こいつがAを攻撃したからおれが暴れてるんだけどな?こいつ、外付けの呪符やらなんやらでいくらぶん殴っても挽肉にできなくて飽きたんだ。くれてやるよ』


 鬼は土御門をこちら側に投げ捨てた。鬼の握力で首を絞められていたのに傷一つない。何か特別な呪具を持っているんだろう。

 というか、Aさんに攻撃するとかバカかよ。実力差わかってないのか。手を出さないって宣言してた相手に喧嘩売ってどうすんだか。厄介ごと産み出す天災かよ、くそったれ。


『さあ、やろうぜ。雑魚虐めるの好きじゃねえんだよ。ブランクあけの相手としちゃあお前らは上玉すぎる』


『坊ちゃん。端から全力で行かせてもらいますぜ。さすがにあいつ相手には出し惜しみなんてできないんで』


『少し離れてろ、明。伊吹と戦ってたらお前の身の安全までは保障できないからな』


「わかった。伊吹、ねえ。二匹の鬼で、伊吹っていったら……」


 伊吹童子、だろうか。大江山の鬼の棟梁。そして伊吹山も縄張りにしていたとされる、鬼の中の鬼。どちらかというと酒呑童子の方が知られる通り名ではある。

 平安最強の鬼であり、茨木童子と組んで平安を脅かした、無類の酒好き。女を惑わす美貌と、一説によると八岐大蛇の子どもでもあるという混じり者。伊吹山と八岐大蛇は密接な関係があり、伊吹と名乗っているのはそれが由来なのかもしれない。


『明には名乗ってなかったか?んじゃあ改めて。平安に生きた鬼、大江山の棟梁の伊吹だ。今じゃAの式神やってるが、あいつには色々と借りがあってな。この前の鬼、あれおれの部下の一匹だ。人間風情と契約するなんて地に落ちたもんだぜ』


「……まるであの人は人間じゃないみたいですが?」


『Aは混じり者の半端者だからな。だからこそ、妥協してるんだ』


 背中にしょっていた大剣を取り出す。あのサイズの鬼と戦うのは初めてだ。小鬼よりは大きく、中鬼よりは小さい。だが、その能力は大鬼以上。全力でゴンと銀郎を補助するとしても、どこまで引き下がれるか。


「銀郎、四式の解放」


『ええ』


『四式?前の六式じゃねえのか?あれ、対鬼専用の形態だろ?』


『大鬼なら迷いなく六式使うんですがねえ。あんたは的としちゃ小さすぎる。なら四式の対獣形態が一番だ』


 銀郎が一本の刀を抜いて構える。普段の銀郎とそこまでの差異はなかったが、人型としての理性をかなぐり捨てるのが四式だ。むしろ狼としての野性を取り戻した形態が四式と呼べる。


『刀身変化四式・狼王招来。天狐殿、好き勝手外野からやってくれていいんで。どうせ気にかけられないし、珠希お嬢さんか瑠姫が治してくれるでしょうから』


『ああ。先に謝っておくぞ。悪い』


『こちらこそ』


 銀郎が前衛、ゴンが中衛、俺が後衛。一番攻撃力が高い陣営だ。防御を捨てていると言ってもいい。


『来な!難波家の人外ども!』


 銀郎と伊吹が同時に駆け、そして大剣と刀が交じり合う。キィンッ!と甲高い音が聞こえるが、それも一瞬。伊吹が持っている大剣のような耐久性は銀郎の刀にはあらず、大剣の腹の部分を弾いた際に出た音だった。

 銀郎が伊吹の下へもぐりこんだ瞬間にゴンが放った陰陽術の雷撃が伊吹へ直撃する。それと同時に銀郎が真下から斬り上げるが、それは足の裏で止められてしまった。


 伊吹の体表は化け物か。いや、鬼だった。とはいえ、刀の刃を普通足の裏で止めるか?裸足だぞ、裸足。ゴンの術もまるで効いてないし。

 それに呆気に取られず、俺も呪符を用いて催眠術式を放つ。効くとは思わなかったが、何が効くかわからなかったので物は試しだ。もちろん効くわけもなかったが。

 銀郎が刀を持っていない左手で、爪で喉元を引き裂こうとしたが伊吹にはバク転で避けられてしまう。ゴンも飛びついて噛みつこうとするが、片手で顔を押さえられてしまった。


「ON!」


 目晦ましとして閃光を伊吹の真ん前で起こすが、それをいとも容易く無視し、俺に合わせて斬りかかった銀郎も大剣で受け止めてしまう。

 三方向から攻撃してるっていうのに、どれ一つとして決定打にならない。伊吹にいたっては笑みさえ浮かべる余裕がある。それほどまでに実力差があるということだ。

 早まったかもしれない。いくら俺が本調子ではないとはいえ、力押しが通じないなんて。


『オラァ!』


 ゴンが全身から狐火を放って、ようやく距離を取れた。その狐火でちょっと火傷した程度。これで倒せというのは無理だ。誰ならできるんだか。

 ゴンの狐火の火力はかなり高い。星斗の大鬼ですら倒せるほどの威力がある。全開で放ったわけではないとはいえ、火傷しか負わせられないとは。


「平安の鬼ってここまで理不尽なのか……?」


『バーカ。ここまで理不尽なのはこいつともう一匹くらい……。いや、もっといたな?アレだ。後世に名が残ってる鬼どもはだいたいこんなもんだ』


「これを倒してた武士って何者なんだよ……」


『一人は人間じゃなかったな。人間側に回った異形だったか』


『あー、そいつの名前出さないでくれ天狐。別に裏切り者とかそう言うつもりはねえけどよ。あいつとはおれら遺恨残ってるからな。正義の味方が実は鬼の同類でした、なんざ知れ渡ってほしくないだろ?あの時代ならまだしも、今は奇異の目で見られるだけだからな』


『……そうだな』


 知己の人物で、実は人間ではなかった誰か。それを聞いてもどうにもならないが、その人物のことは知己の人物たちは知っていて当然だったのか、これも呪術省が隠したのか。その人にとっても、隠していることが正解だったのか。

 何が正解かわからない世の中だからこそ、過去と未来を知る陰陽術が重要視されるべきなのに。


『フゥーッ!フゥーッ!』


 隣のうめき声を確認してみると、前傾姿勢の銀郎が荒い呼吸を繰り返していた。四式に身体が馴染んできた証だ。ここから銀郎にはほぼ指示を出せなくなるだろう。それが野性に戻るということ、四式の真骨頂だ。

 敵味方の判別はつくが、本能のままに行動するためにこちらと連携がとりにくくなる。だから先程二匹で謝っていたのだ。

 身体能力がかなり上がり、小型の敵と戦うにはうってつけではあるのだが。それは一対一に限定した話で今回のように味方が複数だとそうとも言えない。だが、目の前の鬼に対抗するにはこれが良かったというのも事実で。


『ウヲオオオオンッ!』


『オウッ⁉』


 雄たけびを発しながら銀郎が刀で斬りかかると思ったらそれをフェイントにして回し蹴りを放つ。かすりはしたがすんでのところで避けられた。そのまま連撃を重ねる。

 爪で切り裂く、噛みつく、頭突き。刀で振るつもりが刀を投げて空いた手で殴る。浮いた刀は足の指と指の間で掴んで振り落とす。正直見てる側としては次どうやって攻撃するのか判断がつかない。

 まさに考えずに、身体が勝手に動いている感じだ。


 それを伊吹も上手く捌く。時に大剣で、時に腕全体で、時に身体全体で。防ぐ時もあれば大きく後退して避けることもある。

 伊吹も両手で大剣を回し、遠心力で得た力で力任せに振り回す。銀郎もかろうじて避けるが、その勢いが強すぎて今度はこちらが手を出せなくなった。


 ゴンが陰陽術で大規模な岩塊をぶつけても容易に消し飛ばす。力という意味では鬼に敵わない。それほど筋力という意味では群を抜いた存在だ。対抗できるのは土蜘蛛くらいしかいないとかって文献に書いてあった気がする。

 正攻法が効かないなら裏技だ。


「ON!」


 足元に機雷型爆発術式を仕込む。呪符を術式で機雷へ変え、それを踏めばドカンだ。

 だが、相手は銀郎の刀を裸足で止める規格外。それを踏んでも顔色一つ変えずにこちらへ突っ込んできた。


『オラオラオラオラァ!この程度か?もっと粘ってみせろ!』


「本当にバケモノだな!」


 質量の暴力、純粋な力の差の暴力だ。

 正攻法じゃどうやっても敵わないなら、裏技でどうにかするしかない。というよりは、それしか使える手がない。だとしたら、その裏技が効くような隙を見つけるしかない。

 銀郎とゴンにどうにか凌いでもらいながら観察する。相手は鬼とはいえ、人型だ。身体の構造自体は人間と大差ない。

 つまり、大剣のような大きな物を振るうにはある程度決まった動きが必要だということ。そこを突けば動きを止められる。その止められそうな箇所目掛けて、術式を用いる。


「ON!」


『あ?』


 振り上げた腕にぶつかるように四角い障壁を設置する。むしろ高速で動く腕だからこそ、邪魔されると一気に動きが止まる。その動きが縮こまった瞬間に銀郎が通り抜けざまに刀を振り抜く。

 右腕に一閃。腕を落とすことはできなかったが、腕から緑色の血が零れる。これで両手を使っていたあの動きはできないはず。


『へえ?自分の血なんていつぶりだ?一千年もあって、そこそこ戦ってきたが平安以降はまともな奴がいなかったからな。人間どもの争いは傍観してたし』


『平安京がなくなるのと同時に妖共も人間の世から姿を消したからな。戦う相手がいないのも当然だろ』


 その流れている血もすぐに止まり、傷も治っていく。自然治癒能力が高いのか、それともAさんが何かしているのか。どれにしても、超高火力で一気に攻めないとすぐに立て直されるということだ。

 一千年戦ってきたって、つまり平安が終わった後もずっと?そうなるとAさんは一千年前から生きている?だからゴンとも交流があった?

 わからん。気になってしまうが、それは戦い終わった後に考えればいい。


『そうそう。この一千年暇すぎてよ!精々が土地神との交渉が失敗して争ったくらい?いやー、Aの隣は飽きないぜ。神に喧嘩売るとか、生きてた頃は考えなかったからなー。とはいえ、暇な時はとことんひ──』


「ウン!」


『ま?』


 話している最中に、上から滝のような水流を喰らっていた。

 土御門が呪符を用いて攻撃したようだが。それ、漁夫の利でもなんでもなく、ただ伊吹を逆上させるだけの行為ってわかってやったのか。

 怒髪天だ。髪が完全に逆巻いている。


『……飽きてよ。歯牙にもかけねえゴミ屑だから生きてても捨て置いたってのに。楽しい闘争に旧知の仲の天狐との語らいを、何の価値もねえ肥溜めの分際で邪魔してんじゃねえぞ、アァン⁉ちょっと霊気があって、生まれが名家ってだけで、あとは道化の無能が!てめえらは晴明に頼まれたくせに、一千年経っても人間を纏められなかった口だけ野郎がイキがってんじゃねえぞ!裏の存在も知らねえバカが、土台を組み上げてもらってその上を歩いてるだけのウジ虫が何勘違いしてんだよ!』



次も二日後に投稿してみます。

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