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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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4-2-3 反撃ののろし、届かず

マユと玄武と外道丸と。


 たとえ勝てそうにないほど実力の開きがあろうと、ここで逃げるわけにはいかない。それが四神としての責務だ。


『よお、玄武。お前が実体化してるなんて一千年振りじゃねえか。相変わらず鶏が好きなのか?』


『うん……。外道丸、立派になったねえ。御柱になってからは、会うのは初めて……?』


『あー、この姿見せるのは初めてだったか?わざわざお前たちに会いに行こうとしたら面倒な輩にも会う羽目になったからな。都には極力近寄らないようにしてたわ』


 同じ時代を生きた異形だからこそ、そして対極な存在だからこそこうして今に再び仮初めの命として生を貪り、邂逅した。

 そして再び、知己として敵対することにお互い嫌気が差したりしていない。立場上そうなるだろうとは予期していたからだ。


『お前の趣味は昔から良く思わなかったが、そんな女が良いのか?……なんというか、普通だな』


『普通で、いい。特別な子は、皆疎まれる……。さっき君が言ってたけど、人間も鬼も、本質(もと)が同じだから。だから、君も金蘭も玉藻も、拒絶される』


『そういう意味じゃ晴明は上手く溶け込んだな。……ん?お前と戦うのは初めてか?影とは何回も戦ってきたけどよ』


『そう、だね。そもそもぼくたち、あの頃は戦うような存在じゃなかったから。影のことは一々覚えてないし……』


 呑気に話しているのは玄武の方だけで、マユと外道丸は臨戦態勢を解いていない。外道丸から発している殺気を受けて、ものともしていない玄武の器が大きいのか鈍感なのか。

 外道丸は手をプラプラさせながら、マユの方へ視線を飛ばす。品定めをしているようだが、外道丸は陰陽師ではないため呪いや霊気の量くらいならわかるが、それ以外となると門外漢だ。そうなると、見ているのは外見などになる。


 悪意を感じるのはこの現場を見れば誰でも浮かべる感情のため除外。魅了にも異性にしてはかかっておらず、恐怖も理解しているため特に思わなかった。

 ということは、マユが外道丸に向ける感情は至って普通の、鬼に向けるには一般的な感情ばかりだった。


 異性であれば、大体は外道丸の容姿に落ちる。たとえ鬼であっても、人間の女で落ちなかったのはたった二人だけ。その二人だって相手のことを真剣に想い、そのブレが一切なかっただけ。他の所帯持ちの女でも簡単に落ちたのに、マユは明確に敵として外道丸を認識していた。

 それが物珍しく、姫のようなこの時代ではおかしな陰陽師であったため、外道丸としてはマユに興味を持ち始める。


『おい、女。お前の名前は?』


「大西、真由です」


『大西?お前、稲荷神社の関係者か?……面白え。あそこ出身で普通の感性の女になるなんてな。四神になるのは納得だ』


「な、何で実家が祭司だって知ってるのですか⁉ゲンちゃん、この鬼エスパーなのですか⁉」


『ううん……。外道丸は、マユの霊気に混じってる神気を感じ取っただけ。今の人間で神気を帯びてるのは、先祖返りか、まともな祭司の家だけ……。マユの場合は、両方、なんだけど』


 マユは実家を苗字だけで言い当てられたことに慌てふためいて玄武に問い詰めたが、玄武の説明に余計こんがらがった。

 神気とは、本来人間には感じ取れないものだ。人間の中でも霊気を感じ取れる者のみが陰陽師になれるのに、その霊気よりも質が高く扱える存在もほぼいない神気を感じ取れる人間は絶滅危惧種だ。


 難波家のように、契約している式神がその神気を帯びていたり、現存する神に出会わなければまず神気を感じることなどない。一般的には霊気の量が多いと、綺麗な霊気だと思われる程度。それほど神気は浸透していない。

 マユの場合は実家と先祖返り、そして四神の本体である玄武を常日頃彼の要望に沿って実体化させていて自分で抱えていることも大きい。間近で神気を浴び続けてマユの霊気が変質した結果でもあった。

 現存する神々や、神の末席に位置する存在を除いて、マユは人間が持ちえるにしては有り得ない程の神気を帯びていた。下手をすれば、死後に神の末席に加えられるほどには。


『悪霊憑きでもなく、それだけの神気を帯びているだと?ハハッ、最っ高じゃねえか!姫の野郎、気付いてたのに黙ってやがったな⁉ああ、よくやったぜ!今度酒でも何でも奢ってやる!それとも復讐の手伝いか⁉なんだってやってやるぜ!こりゃあ式神になってようやく巡ってきた愉しみだな!』


『ぼくと再会できたのは、良いことじゃないの?』


『それを実現できる陰陽師がどこにいる?Aはやる意味がないし、実体化なんてさせてたのは晴明だけだろうが。麒麟はちょくちょく会ってたけどよ、それ以外の連中はお前も含めて基本臍曲がりだからな。さあ、やり合おうぜ!Aの戯れの付き添いだが、夜明けまで心行くまでの死闘といこうや!』


「ゲンちゃん!」


 外道丸が突っ込むのと同時にマユは玄武に霊気を送って三メートルほどの全長へと大きくした。その玄武が体当たりで外道丸を食い止めて、動きが止まってる間にマユは呪符を取り出して霊気を込めた。


「水流弾けて!(けい)!」


 玄武の蛇のような尻尾が外道丸の身体を巻き取り、マユの水を大出力で放った術式を全身に浴びる。だがそれは口上とは異なり攻撃術式ではないようで、水浸しにするのが目的のようにも思える。

 攻撃術式ではなかったのは玄武の尻尾に当てることを前提としていたから。そして口上だけは攻撃性のものにしたのは、言霊上は攻撃性にものにすれば詠唱も込みで大規模な水を呼び出せる。そこで違う術式を使うことで詠唱と術式の不一致により攻撃能力は帯びない莫大な水を浴びせることに成功した。


 もう一つの理由としては、攻撃性の術式を使ったのに威力が全然ないために一瞬でもいいので混乱してもらうため。思考をしてくれれば、玄武がその後のことをしてくれると信頼していたため。

 その信頼に応えるように玄武は身体を回転させて遠心力を用いて外道丸を上空へ投げ飛ばした。それすらも決定打にはならないし、外道丸の身体能力であれば相当上空へ投げ飛ばされたとしても、地面へは難なく降りられる。

 だが、外道丸の目に映ったのは玄武の後方にいたマユが用意していたとある術式。五枚もの呪符を重ね掛けして用いられる五芒星を描いた特大の術式。それと似たものをAと姫が使っている場面を見ており、その術式がもたらした効果から外道丸は式神になって初めて冷や汗をかく。


『マジかよ⁉』


(くう)の彼方より顕現せよ、境界を穿つ天よりの使者!導く先は天に近し二対の反旗、水気満たる古の魔!春雷奉天(しゅんらいほうてん)‼」


『オオオオオオオオオっ⁉』


 雲などない空から外道丸へと降り注いだ雷撃。それは京都の外に出ていた人間全ての目に留まる光と轟音で、外道丸ほどの大きさであれば一瞬で消し炭にするような超級の雷だった。

 それが数十秒ほど上空で輝き続け、マユが維持できなくなって雷撃が消えた頃にボドッという音が聞こえるように黒い影が地面に叩きつけられた。

 神の裁きとも海外では呼ばれるような雷神の鉄槌。それにも似た一撃は一体の鬼を倒すには過ぎた一撃にも思えた。なにせ、この一撃を見た京都の陰陽師、特に呪術省の上層部が今回の一件に片が着いたと思ってしまうような人外の一撃だったからだ。


 こんな一撃が撃てたのはマユの霊気が尋常ではない程に多くあることもそうだが、やはり霊気に神気が混じっているというのも大きい。霊気よりも万能な神気は、それを用いれば今存在する陰陽術のほとんどを制限なく使えるほどに桁外れな力だった。

 物事の道理を捻じ曲げ、結果だけを残す。そういう事象改変のようなこともでき、しかも霊気よりも燃費が良い。霊気を使うところ神気で代用すれば消費する霊気の量は四分の一まで抑えられるほど。この力を自覚して使いこなせば、陰陽師として最高峰のAに追いつける可能性がある。

 それほどまでに、マユという存在は今を生きる陰陽師として群を抜いていた。こんな存在が今では四神の中でも一番実力がないと思われ、知名度も低いというのはどこか狂っていた。


「やりました……?」


『良かったけど、ダメだよ。外道丸は強いからねえ。あれをあと三発当てれば倒れるかも?』


「そんな⁉」


 手応えがあったからこそ、マユは悲鳴をあげる。今の一撃は確実に当たっていた。使える術式でも最大威力のものだ。それをあと三発となると、霊気はもつかもしれないが、当てられる保証はない。

 そして、一番の目的はやっぱり手早く倒して学校の敷地内に入って黒幕と戦うことなので、ここで足止めをされるのは辛い。中に入った時点で疲労困憊になっていたら黒幕の打倒など以ての外だ。

 玄武の言葉が正しいということを証明するかのように、先程落ちてきた物体がもぞもぞと起き上がってきた。身体に煤がついているが、五体満足の外道丸が、目の前にいた。


『クク……。いいなあ、マユ。お前麒麟やれよ。確実に姫……じゃねえか、瑞穂に匹敵する陰陽師だ。星見とかの才能は知らねえが、お前を中心に添えた方が確実に京都の結界は安定する。いいねえ、疼いてきた』


「京都の、結界……?」


『なんだ、玄武。教えてなかったのか?五神は京都の結界を維持するための人柱だって』


『教える必要、ないから……。今はほとんど、ぼくとキーくんで補っていて、後は他の四人にやらせてるし……。マユには関与させてない』


「え?え?」


『過保護だな……。こんな奴が呪術省に飼い殺しにされてるなんてよ。よし決めた。お前ら倒して持ち帰る。戦利品なら誰も文句言わねえだろ』


 そう言ってニッと口角を上げる外道丸。それを見てマユは何故外道丸が笑っているのかわからなかったし、持ち帰ると言われて警戒しないわけがなかった。相手は鬼だ。真の意味で何をされるかわかったものじゃない。


「……あなたに連れ去られることも、麒麟になることも望みません。だってわたしは玄武で、ゲンちゃんと二人で一人だから」


『ああ、普通だな。まったくもって普通の感性だ。だからこそ五神の中では異端になり得る。そして、普通だからこそ玄武も力を貸す。──人間らしいじゃねえか。そう、これこそ晴明が望んだ全ての存在の共存だったのに。一千年ばっかし、遅かったな』


「晴明様の望んだ……?」


『こっから先を知りたきゃこっち側に来るんだな!玄武、話すんじゃねえぞ!』


『それは、マユ次第。かな……』


『かーっ!んじゃあお互いすっきりさせるために、再戦といくか!オレはテメエらを持ち帰るぜ!そうすりゃあ呪術省側も戦力減るしな!殺すなとは言われてるが、持ち帰るなとは言われてねえしよ!』


 楽しそうな外道丸を見たからか、Aがこっそり霊気を追加で渡す。それによって外道丸の身体能力が更に戻っていく。

 傷を癒すサービス付き。これでようやく、外道丸は玄武とマユに並ぶようなスペックを取り戻したことになる。


 一人と二体のぶつかり合い。途中から更に送られてきたプロの陰陽師たちは、マユの代わりに遺体を保護していた方陣を受け継ぐ程度のことしかできず、あとは被害が拡散しないように周りへ方陣を張ったことくらい。

 中で行われている麒麟と姫の戦い。それよりも凄惨な戦闘痕が残ったのはこちら側の戦いだった。



次は二日後に投稿してみます。

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