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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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4-2-1 反撃ののろし、届かず

麒麟と姫の術比べ。


「大峰さん。あなたがあの人を止めるしかないと思います。最大戦力はあなたですから」


「わかってるわ。ボクはあの人を、倒さないといけない」


「……どこか、浮かない顔ですね?第一陣が手も足も出なかったようですが」


「それはそうよ。あの人には八段が十人、四神全員が束になってようやく拮抗する方だもの」


「……あの人のこと、ご存知で?」


 ソウタくんが聞いてくるが、知らないわけがない。いや、正確には何も知らないのかもしれない。あの容姿と、名前を知っているだけ。だけど、これまでもよく当たってきた直感が告げている。

 あの人は本物だと。何故あの年齢で成長が止まっているのか、そもそも何故生きているのかもわからないが、見間違えるはずがない。あの人こそ、ボクが麒麟になるきっかけを作った人だから。

 瑞穂さんこそ、ボクが追いかけてやまない陰陽師だから。


「瑞穂っていうのはね、長野における旧家の当主が襲名する名前なんだよ。その当主は何でもできるの。陰陽術も呪術も、式神行使も過去視も未来視も千里眼も、オリジナルの術式を産み出すことも」


「……それは、最強の陰陽師と言っても過言ではないのでは?」


「まさしくそうだろうね。でも、表舞台には現れない家だった。呪術省もその家のことを把握してないんじゃないかな。表舞台に出れば八段なんて簡単に取れる人たちばっかりだったから」


 基本的にあの家の人間は陰陽関係の学校へ進学することはなかった。それはおろか、陰陽術が使えることすら隠していた。周囲には陰陽術なんて使えないと、才能がないと偽っていた。家の名前すら詐称していた。

 そんなに隠し事をして何をしていたのか。正解は何もしなかった。魑魅魍魎を狩るでもなく、妖を保護しているわけでもなく、ただただ知識と力を次代に受け継ぐだけ。世のため人のために何かをすることはなかった。


 だというのに力だけは他の家を圧倒するほどの実力者たち。そんな中から表舞台に出る際には実質勘当され、家の名前も変えさせられるほどだった。

 そして、世の中の普通を知る。狭い閉じこもった世界は、広すぎる世界でもかなりの魔窟だと知るのはそれなりに後のことだった。


「ソウタくん。先に言っておくよ。……ボクがあの人に勝つ手段はたった一つだけ。あの家では得られなかった力。絶対の式神をぶつけるしかない」


「その時間稼ぎをすればいいですか?」


「そうだね。しかも初手で出して対応されたくない。最初は数で押して、ここぞって時に呼び出すから」


「……難儀な任務ですね。麒麟でしか勝てないだなんて。一介の生徒会が対処する案件を超えてますよ」


 全くもってその通り。ボクがいても、丁半博打なんてやってられない。陰陽師の頂点たるボクがいても、だ。

 いや、あの人が生きていたのならたしかにボクが最強というのは間違っているだろう。小さな時の朧げな記憶しか残っていないけど、あの人は何でもできた。周りの人たちが、日本中を見回しても優秀な人たちが諸手を上げて賞賛していた鬼才。


 その人が今の呪術省に反旗を翻したことは悲しくない。間違っているのは呪術省と、それを支える名家だ。それはわかっているけど、今の呪術省という組織は必要だ。なくなったら魑魅魍魎たちに人間が食い殺されてしまう。

 だから、たとえ瑞穂さんが相手だとしても止めなくちゃ。人間を守るために、呪術省は必要なんだから。


「いくよ。アンサー」


 一節の詠唱で浮上する足場を作って、ソウタくんと他の生徒会の子二人と講堂の屋根へ向かった。書記の子だけ教師と協力して連絡網を作り上げて連絡役に徹してもらっている。全員が戦闘向きというわけでもないし、一人くらいは残しておかないと統制が上手くいかない。

 着いた先にはボクたちより先に向かっていた教師陣を蹴散らして、不敵に笑っている瑞穂さん。元凶の男は近くに足場を作っていて、そこから見下すように眺めていた。護衛のはずの鬼は寝そべっている。


 間近で見ただけで霊気の圧を感じる。気圧されてる?ボクが?……いや、認めなくちゃいけない。あの二人は別格だ。四神束になって敵うかどうか。二人まとめて戦わなくて済んで、安堵しているのかもしれない。


「ようやく来はったん?待ちくたびれたわ。ほな、やろうか?術比べ」


「……ボクに勝てると思って?あなたは瑞穂を名乗る偽者だ。偽者に、当代最高峰の陰陽師、真の瑞穂が負けるはずがない」


「あら?」


 瑞穂さんが首を傾げる。ボクよりとても女性的で可愛い。じゃ、なくて。こんな言葉は戯言だ。目の前で見て確信している。彼女は本物の瑞穂さんだ。あの時のまま、十七年前から時の流れが止まったまま。

 あの可憐な銀髪も、ボクよりも澄んだ翡翠の瞳も、あの遺影での笑顔のまま止まっている。


「……ふうん?偽者なら、勝てると思ってるん?周りにはお友達もおるから?……実力差はわかってるようなのに、どこからその自信が来るんやろね?真の瑞穂さん、今は大峰翔子って名乗ってるんやっけ?じゃあ翔子ちゃん。……麒麟がその程度とは笑わせる」


 その一言と笑みの後、霊気の暴流がボクたちを襲う。霊気はそれだけで武器になる。式神に肉を与えるように、霊的なものに実体を与えることができる。

 それが振るわれるということは、突風が巻き起こるなんてチャチなものじゃない。竜巻が局地的に発生したようなものだ。

 その結果は。


「おや、予想外やったね。立ってるのは翔子ちゃんくらいやと思ったけど、君もやるやん。名前聞いていい?」


「都築、蒼汰と申します。この学校の生徒会長を務めております」


「生徒会長。ソウタくん。どや?あたしらと一緒に来ない?今の世の中退屈やろ?」


「停滞の中にも、安らぎがあるものです」


「そっか。なら仕方ないわ」


 いきなりの勧誘に拒絶。勧誘を始めたことにも驚いたけど、ソウタくんが立ってることにも驚いた。伊達にこの学校の生徒会長やってないわね。

 というか、瑞穂さん軽いし、初撃からなんてことしてくれるんだか。吹っ飛ばされた人たちはみんな生きてるけど、逆に言えば戦力にはならない。ふるいにかけられたってことだ。

 ソウタくんしか当てにできないのかあ。キツ。それに麒麟ってバレてるし。


「で?翔子ちゃんに聞きたいんやけど、麒麟ってなんやろ?」


「……当代最強の呪術師で、麒麟を従える者」


「あかん。あかんなあ、翔子ちゃん。呪術省の受け入りそのままやん。最強っていうのがあかん。瑞穂も麒麟も何も変わらんのよ。麒麟は全ての中心。扇の要、絶対的支柱。そして、何事も満遍なくこなす万能性。ようは最高峰ってことや。戦闘もその他のことも、全てにおいて一番じゃなきゃあかんのよ」


「……そんなの、人間じゃないわ」


「せやから、名前を捨てて麒麟と名乗るんやろ?人間的思考なんて要らない。五神の中央足り得る世捨て人。そして全てを知る者。そこは四神も変わらへんな。五神に近付くには、力を借り受けるには人間じゃなくならんといけんよ。だからこそ、五神から遠ざかる」


 麒麟、というより五神は全てを捨てて国に奉仕する従僕だ。強力な魑魅魍魎から人間を守る。そんな機構に、人間性は要らないのかもしれない。ボクが言っておいてなんだが、人間味なんて微塵もないじゃないか。

 そして、五神に近付こうとした結果遠ざかるなんてどういう矛盾なんだろう。その真意が全く読み取れないわ。


「その顔、全くわかっておらんね?ま、それでええわ。ほな始めよか。術比べなんてするんは久方振りやわ。楽しい死合いにしよね」


 霊気がぶつかり合う。ボクは事前に用意しておいたものとは別の呪符を取り出して詠唱を始める。


「アンサー!」


「オン」


 霊気によって形作られた岩塊によって、射出した雷は防がれてしまった。一節詠唱の中ではかなりの威力を誇るものだったのに、簡単に防がれてしまった。

 しかも、今瑞穂さんは呪符を取り出していなかった。呪符を気にせず戦えるというのはかなりの利点だ。消耗品を気にせず、取り出す手間も戦力分配を考える必要もないなんて。

 これだけで壁を感じてしまう。でも、ボクは一人じゃない。


「水流来たれ、土剋水!発!」


 ソウタくんが放った水流が瑞穂さんを守っていた土塊を崩壊させる。身を守るものを壊したというのに涼やかな顔をしてこちらを見てきた。

 まるで、歯牙にもかけていないように。


「うんうん。まあ、こんなもんやろね。ちなみに翔子ちゃん。あんさんの実力は五神の中でどれくらいやと思っとる?」


「ボクは麒麟だ。五人の中では一番実力がある」


「ふうん?その認識からして間違っとるね。あんさんらはほぼ横並び。で、頭抜けてるんは玄武やわ。あの子ぐらいやない?あたしと肩並べられる陰陽師は」


「ボクじゃあなたに届かないと?」


「足元にかろうじているレベルやろね」


 四神の皆とは面識もあるし、一緒に戦ったこともある。だけど、術比べを模擬戦としてやったことがあるが玄武の彼女が際立って優秀だったという記憶はない。

 それなのに彼女だけ瑞穂さんに並べて、ボクたちは横並びの理由はどこにあるのか。玄武が星見の力を持っているなんて聞いたことないし。瑞穂さんは星見だったはずだけど、ボクは違う。ボクたちとの差異なんてそこしかないと思うのに。


 いや、差異は式神もか。瑞穂さんは式神行使も問題なく行っていたけど、強力な式神を所持していたわけじゃない。こっちには麒麟がいる。その差は大きいはず。

 もしかしたらあの鬼のように、強力な式神を所持しているかもしれないけど、最大戦力はこっちの方が上だ。麒麟なら、あの鬼たちをも圧倒する力を所持している。


「お、外道丸が本気になっとるやん。ええこと教えたろか?青竜、外道丸に負けたで?死んではないようだけど」


「……え?」


 仮にも四神の一角が、そうも簡単に敗れるはずがない。そこまでの規格外な鬼だとは思いたくなかった。四神の二人が敗れたら、京都に対抗できる戦力は残っていない。

 さっき後方でたしかに青竜のような霊気を感じて、一瞬で消えてしまったから気のせいだと思っていた。だが、あの感覚が本物だったとしたら。

 この事態は、ボクの想像以上に詰んでいる襲撃事件なのかもしれない。



次は三日後に投稿します。

よろしくお願いいたします。

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