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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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4-1-3 京都に響く、襲撃の音

道化と狸のナイショ話。


「コウくん!」


「静香。……アレはヤバい。外にいる大きいのはもちろんだが、傍にいる鬼も、あの人型二人も霊気からしてヤバい。僕程度じゃ、手も足も出ない」


「コウくんがそう言うほどのですか……?」


 土御門光陰と賀茂静香は講堂の屋根の上にいる存在たちを見て廊下で話し合っていた。顔を仮面で隠した裏・天海家を語る男と、巫女服を着た少女。その二人は確実に蟲毒を引き起こした時に会った二人だと確信した。

 この二人、陰陽師の名家のトップとして何度も会っていて、幼少から付き合いのある間柄だった。二人して名家を背負い、いずれは陰陽界を率いていくことを約束し合った。その結果が最難関の学校で主席・次席を得るまでになった。


「ああ。お父様や四神の方々よりも霊気が計り知れない。上だっていう漠然とした物しか感じられない」


「そんな方々が何故呪術省へ反乱を……?」


「わからない。そもそも裏ってなんだろう……?」


 本家の人間として、次期当主として育てられてきた二人には呪術省の知識は学生とは思えない程ある。そんな二人でも、裏世界の住人と、呪術省を裏から支える存在という物がわからなかった。

 呪術省を支えているのは名実ともに土御門家と賀茂家。それをまるで外部の人間が支えているというような発言をされても信用できるものではなかった。


「虚偽、かもしれない。こうやって混乱させて時間を稼ぐ作戦かも。真偽は発する言葉の霊気を読み取ればわかると思う。あの瑞穂って人も止めないといけないし、個人的にあの人に聞きたいことがある。静香は正門の方へ行ってくれないか?呪術省が援軍を派遣しているはずだから」


「わかりましたわ。コウくんも気を付けて」


「この状況じゃ、誰だって危険だよ。静香も、気を付けて」


 二人は別れて行動を開始する。教師の有志への参加を立候補して出てきたのだが、それから抜け出しての単独行動だ。それができる実力があると思い込んでいる。ライセンス自体は持っていないが、実力だけなら六段には匹敵するとさえ考えていた。

 教師や護衛に雇っている陰陽師たちも、全員が七段以下だ。八段ともなれば京都の巡回をしていて一か所に留まって防衛などしたりはしない。


 この学校の中では上位の実力者ということで単独行動をしていた。事実、賀茂は型落ちとはいえ大鬼を使役しているため、それなりの実力は有している。

 だが、百鬼夜行に対しての行動としては確実に間違っていた。しかも人為的な百鬼夜行なのだから、主導権はAたちにある。


 悪意の塊であるAに対して、協力し合える存在の手を取らなかったのは悪手だ。何を持って複数の相手を対象としたイベントを引き起こしたのか。個人の技量はともかく、個人ではどうしようもできない事柄にどう対処するのか。

 それを見たかったAからしたら、この二人の選択は心底肩透かしだっただろう。そんな犯人の思惑など気付かず、そこそこの実力者は各々行動を始めた。


────


 京都の街中で大混乱が起きている最中。いつもよりも魑魅魍魎が活発に発生している頃、路地裏でゴソゴソと動いている存在が複数いた。その影で動く存在は、路地から外の様子を覗いて、また影へと戻っていった。


『始まったのら。とうとうエイが表舞台に戻ったのら』


『皆に知らせなきゃならないのら。京都にいるお偉いさん方は少ないのら』


『人間どもはてれびとかデンワとかですぐに話し合えるのに、オイラたちは直接伝えなくちゃいけないのは面倒なのら』


『だからこそ頑張らないとですね!ポンポコリン』


 路地裏にいたのは四匹の狸。その狸たちはAの宣言を聞いて京都中に届いているかの確認をして、Aたちに返答をしていた。

 Aの式神というわけではなかったが、協力者ではあった。宣言の中で存在を示唆された、裏世界の住人たちの一部だ。

 その狸たちの内の三匹が、ポンポコリンを語尾にしたメスの狸へ視線を向けていた。


『そのポンポコリンというのは何なのら?おかしいのら』


『そんな擬音、初めて聞いたのら』


『オノマトペって言うんだったのら?』


『そ、そんなおかしいですか?ポンポコリン』


『狸らしくないのら』


 三匹はしきりに頷く。ポンポコリンという語尾がふざけているようにしか聞こえないのだ。


『ま、語尾なんてどうでもいいのら。オイラたちは京都以外にいる妖の皆さんや、表側から追放された陰陽師の方々に決起を促す必要があるのら』


『それにこの魑魅魍魎たちの暴動に巻き込まれたくないのら』


『さっさとズラかるのが一番なのら』


『わたしたち、戦えませんからね。ポンポコ……うゅーん』


『狸はそんな鳴き声じゃないのら』


 狸たちは竜や亀、鳥や虎へ変化していく。四神をイメージした選出だ。今なら堂々と出て行っても魑魅魍魎の一種だとしか思われない。狸のままでも良かったはずだが。


『さていくか。各々が化けた存在が司る方角へ行くように』


『わかった。妖たちには伝えればすぐにでも暴れてくれるだろうが、暴れすぎないようにきちんと制御しなければな』


『裏側の陰陽師たちは説得に応じるかどうか……。そこは我々の腕の見せ所だな』


『皆さん普通にしゃべってるじゃないですかー!』


 メスの狸は鳥に変化しながらそう叫ぶ。先ほどまでの変な語尾をしていた先輩方が、変化した途端に口調が普通になったことで叫ぶのを止められなかった。


『叫ぶ暇があればさっさと脱出しろ。我々ができることは限られている。日本を変えられるのは我々だけだ』


『正確にはその手助け、だがな』


『では、次まみえるまでさらばだ。解散!』


『普段からその調子で話してくださいよ!』


 四匹は散り散りに去る。今際から隔離した生活をしている存在へ、今日の出来事は詳細に語られた。

 そう、これは何も京都だけに関した問題ではない。

 呪術省の影響力は日本のどこでも存在している。

 その全てを崩壊させる一撃が今日の出来事だっただけで、京都以外にも影響は出始めた。


 それが人間にとって良い物だったか悪い物だったか。

 それは地域ごとにはっきりと別れて、目に見えるようになった。

 今日の事件は建巳月(けんしげつ)の争乱と呼ばれ、後世にも語り継がれる歴史の転換点として記憶にも記録にも残されることになる。



 誰かはこう言った。



 あの日から、日本は平安時代に回帰したようだと。




次も二日後に投稿してみます。

感想などお待ちしております。

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