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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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3-3-1 陰陽師大家・賀茂の実力

移動。


 五限・六限も終わって俺たちのクラスが移動したのは実習棟の一室。高さ四メートル、幅は縦横どちらも三十メートルある演習室。ここに連れて来られるなり、賀茂が挙手した。


「先生。この部屋ではわたくしの式神が真価を発揮できませんわ。別の場所を要求いたします」


「あ?……ああ、お前の式神、そんなに大きかったんだっけ。申請書には正しく書いたか?」


「書きましたわ。そちらの不手際ではなくて?」


「おっかしいなー……。まあ、隣も空いてるしいいか」


 そこから更に移動して、さっきの部屋三つ分縦にも横にもぶち抜きのとても大きな部屋に案内された。ここならゴンを本当の姿にして暴れさせても問題なさそうだ。ゴンは使わないと思うけど。

 下のフロアに残ったのは俺と賀茂、そして八神先生だけ。他の皆は二階部分に相当する観覧席へ移動した。上からなら術比べをやっている人間の指の動きや表情など見やすいだろう。

 賀茂と対峙するために歩き始めたら、ぬっという音と共に、どこからともなく一人の人物が現れた。隠形のようには見えず、隠形で隠した場所から一歩踏み出したという方が正しい気がする。


「明君、お久しゅう。元気そうやね」


「姫さん……。何やってるんですか?」


「敵情視察。安心しい。あたしの姿、明くんと珠希ちゃんにしか見えとらんから。天狐殿は気付いたみたいやけど。……ふうん?明くんのセンセ、優秀やね。あたしのことに気付いたよ」


 いつかのように、艶やかな着物を着た姫さんが現れた。姿は消してるようだが、ゴンや八神先生は気付いたようだ。プロのライセンス五段で、姫さんの隠形に気付けるものだろうか。麒麟の大峰さんすら欺いたというのに。

 八神先生は本当に五段で留まるような人じゃないのかもしれない。当の本人は姫さんを見て目を細めた後に、俺のことを睨んできた。


 いや、関係者ではあるけど、俺が連れてきたわけじゃないんです。

 姫さんが口の前で人差し指を立てている。秘密にしてくれ、ということだ。俺の隣に幼女にしか見えない女の子がいきなり現れたのに、誰も騒ぎ立てない。認識すらしていないということだ。


「敵情視察って、あなた方に対抗できる存在がここにいますか?ゴンくらいでしょう?」


「今の麒麟がおるのは知っとるよ。あとは一応賀茂の才女と土御門の天才を見に。霊気見ればある程度わかるんやけど、なんや面白いことやるん?見学させてもろおうかな」


「こんな近くで?」


「いやいや、さすがに上に行くよ。連れもおるし」


「ッ⁉」


 言われた瞬間に殺気を背中に感じ取った。その向けてきた方向を見ると、くすんだ赤色のやぼついた髪を無造作に伸ばし、額からは天へ歯向かう漆色の角が二本生えた、見るからに人外。

 筋骨隆々な身体に、野伏を連想させる簡素な衣類。口から伺える牙は砕けない物がないのではないかと思うほど大きく分厚く、鋭かった。


 背中には身の丈ほどのある太刀。背も軽く二メートルを超しているが、それに匹敵するほどの巨大な刀だった。あんなもの、人間には扱えない。銀郎でも無理だ。あれは鬼のみが使う、人の血を啜り、叩き潰すための凶器。

 そして陰陽師ではないために霊気を感じることはできないが圧が違うと察せた。銀郎に稽古として向けられた殺気とは丸っきり別物。本当に、俺なんていつだって殺しても良いというような指向性の殺気が向けられていた。


「……術比べの前に、なんてもの浴びせるんですか」


「あれが奴らなりの挨拶やからねえ。適当に酒でも与えとけば大人しいんやけど、今日は切らしとるわ」


「切らさないでほしかったですね……。宥めてもらえます?」


「天狐殿が話しに行くやろ。旧知の仲やし、昔話が咲くんやない?」


「そんなに昔からの……?」


「あたしよりはよっぽど、ね」


 一千年前の関係者、だろうか。あの鬼、改めて見てみても星斗の大鬼より遥かに格上だ。星斗の大鬼だってプロ八段が数人で討伐するような相手だっていうのに。

 それであんな纏まった体型をしている鬼。中鬼や大鬼はその身体のサイズから判断されるが、あのサイズの鬼は普通の鬼としか分類されない。例外中の例外だ。


 おそらく名前のある鬼。見ただけではどの鬼かなんて判断がつかないが、日本の歴史には数多くの鬼が現れている。その内の二体を使役しているということだけでも、この学校の総力を挙げても敵わない。大峰さんがいてもダメだ。

 これで死者を出さないようにすることの難しさがまた上がった。できれば今度の襲撃で負傷者は出しても死者は出したくない。だというのにこの人たちは格の違いを一々見せつけてくる。


 桜井会とか、前回みたいに呼べる戦力があるわけじゃない。襲撃がわかっているのに公に戦力を調達できないのが辛い。それもこれも情報源が襲撃する本人からだということだ。何か物的証拠でもあれば要請できるのに。

 予告状とかそういうの。

 学校の施設に小細工仕込むわけにもいかないし。どうしたものか。


「あー、難波?用意は良いか?」


「はい。すみません。ちょっとぼうっとしてました」


 姫さんのことも気にしながら八神先生が問いかけてくる。もうこの人たちは放置しよう。俺たちの手には負えない。

 姫さんも大人しく上に行ってくれた。ゴンはいつの間にかあの鬼の所に向かっている。


「では、二人とも式神を召喚しろ。形式は一対一で、どちらかが降参するか、式神を維持できなくなった時点で俺が止める。できるなら、式神への補助術は使用して構わない。では召喚しろ」


「はい。銀郎」


『はいはい』


 そもそもずっと実体化させてるに等しい銀郎を呼ぶのに大仰な祝詞を紡ぐ必要はない。やろうと思えば教室の一件のように霊気を送るだけで実体化させられるし。呪符とかも必要ない。

 一方、賀茂は一枚の呪符を胸の前で浮かせて、五芒星を作るように指を切っていった。

 ただ、霊糸を構築しているわけではなく、ただ五芒星を作っているだけに見える。


「天の三、人の五、地の八、神の一。顕現なさい、茨木童子(・・・・)!」


「……茨木(いばらき)童子(どうじ)?」


 呪符が霊気を纏って実体化する。赤黒い肌に、五メートルを超す巨漢。そして左肩の付け根から何も生えていない隻腕の大鬼。右手には身の丈よりは小さいが、人間なんて簡単に叩き潰せる巨大な棍棒。

 鬼の象徴である一本角が額から生えていて、吐く息には瘴気が含まれているのではないかと思うほどの青紫色の何か。


 特徴だけ見ればたしかに茨木童子だ。渡辺綱に左腕を斬られ、説話によっては女性に化けて左腕を取り返したという伝承もある、平安時代に名を馳せた悪逆の鬼。大江山の棟梁だった、悪の象徴。

 そう、特徴だけ見ればたしかに合致するのだが。


『アハハハハハッ⁉おい、聞いたか姫!茨木童子だってよ!賀茂の血流が平安の鬼を従えてるんだと!おい、天狐!酒出してくれ、酒!豊穣の神なんだろ?こんな笑い話は久しぶりだ!』


『豊穣の神をなんだと思ってやがる?出せるか、酒なんて。むしろ奉納して、その対価として土地を豊かにするんだろうが。酒は貰う側だ。原料の米とかなら上質なもん与えてやれるけどよ』


『かーっ!神のクセにケチくせえな!こんな滑稽話に酒もねえとか、そっちの方が滑稽だろ!』


『……お前、そんなに酒好きだったか?もう一体の方は浴びて飲むほどだったが……』


 あの式神たちの会話が当事者にしか聞こえないように隠蔽している姫さんが憎い。別に鬼を従えていることくらいは不思議じゃない。それがどんな家系だったとしてもだ。

 だが、俺だって笑いたかった。声を出して、笑い飛ばしてやりたかった。だが、そんなことはできない。一人だけ浮いてしまう。


「驚きのあまり口が利けなくて?そうでしょうね。この鬼はあなたの式神なんて容易く屠るでしょうから!」


 たしかに驚いた。だが、九年前よりは楽ができそうだ。


『坊ちゃん、指示を』


「ああ。適宜補助をする。難波の威信を示せ」


『了解。難波家次期当主に勝利を』


「では、術比べ。始め」


次も三日後に投稿します。

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