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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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3-1-1 陰陽師大家・賀茂の実力

図書館での調べ物。



 入学して二週間が経った。この頃にはほとんどの生徒が陰陽師学校のカリキュラムに慣れたのか最後の授業になっても眠らずに済んでいた。この二週間、昼の三時から日付が変わるまでという通常の学校とは異なる時間割に、いわゆる一般の家出身の生徒が慣れていなかったので集中力が持たず、というところだろう。

 だがそれでもこの学校は陰陽師の高校としてはトップ。二週間もすれば授業中に居眠りするような輩はいなくなった。エリートとはいえ、生活習慣を変えることには時間がかかるものだ。俺の場合はこっちを主にしていたから朝の方が辛かったけど。


 俺たちは授業の前に図書館に来て、Aさんにもらった巻物の内容を確認していった。事例などは図書館にある資料を確認しながらだ。

 この内容は他の人には見せられないから俺とミクと式神しか周りにいない。他の生徒も図書館に来て勉強したり調べ物をしたりしているが、同級生はいないように思える。シューズの色で学年がわかるが、同じ色をさっきから見ていない。


 一年生は青、二年生は赤、三年生は緑。緑が圧倒的に多くて、赤は少ない。昼飯直後の、始業前の時間だから熱心な人しか来ていないんだろう。最悪自室で勉強するって手もあるし。

 俺たちはミクの狐憑きについて知れることがあるならと、調べ続ける。Aさんと姫さんは数百年前の事例まで引っ張ってきてくれていて、時には大学図書館に書籍の取り寄せを頼まなければならないこともあった。

 狐憑きについては本当に資料が少ない。発見されたとしてもすでに呪術省の前身である陰陽寮によって悪評が広められた後だったために母子共に惨殺された後だったりと、本当に凄惨な過去ばかりだ。


 これを変えようと思ってるのが俺たち難波家。その噂は全国に広がり、健常者(いっぱんじん)からは気狂いの一族として、狐憑きの関係者からは救済者として知られている。今でもミクを除く三人の狐憑きとその関係者をウチの土地で保護してるし。

 とはいえ、メカニズムとかはまるでわからないし、他の狐憑きたちは尻尾が増えたりしていない。だからこそ、Aさんたちがくれたこの巻物の解読が必要なのだが。


「……本当に、尻尾が増えるなんて事例ないんだな……」


「九尾というのもお二人の推測でしかないんですね。そもそもとして、九尾は神様と同類の災厄って認定されていますから、見付け次第討伐対象なんでしょうけど……」


「玉藻の前と、中国の妲己(だっき)が国を滅ぼしたからだっけか?玉藻の前は結果的にそうなっただけで、正確には安倍晴明が死んだからなのに」


「安倍晴明が死ぬ原因を作ったのが玉藻の前だからではないのですか?」


「そりゃあ泰山府君祭なんて大儀式行ったら死にかけになるのも当然だろ。今の世になっても誰も解明していない死者復活の儀式とされる、秘術。玉藻の前を封印するのに使った儀式だともされてるが、そもそも玉藻の前を封印するはめになったのは──」


『坊ちゃん、例の少女が近付いていますぜ。迷いなくこっちに向かってる』


「ありがとう、銀郎」


 銀郎の注意のおかげで話を切り上げることができた。巻物も仕舞う。もし他の人に触れられて燃えたりしたら一気にパニックに陥る。それを避けるためにカバンへ仕舞った。勉強道具は元から出してあるから偽装にはもってこいだ。

 例の少女こと、大峰さんが机にやってくる。


「やあ、明くんに珠希ちゃん。始業前に勉強とは感心だねえ。将来きっと大成するよ。うん」


「何で同級生にそんな上から目線で言われなきゃならないんだか。アレか?お前も賀茂のうざったい女と同じで家の箔とかで判断するタイプ?感心しないな、おチビさん」


「……周りに気遣ったのは良いけど、近くに聞き耳立ててる生徒もいないし、そういった術式も使われてないわ。だからもうちょっっっと柔らかくならない?そう目の敵のように接してくるのは心に来るから……」


 年上なのに年下として接しなくてはいけないのがめんどい。いじりがいがあるから、賀茂の箱入り娘よりも全然いいけど。

 俺も周りを見てみて変な術式もなさそうだったので警戒を解いて話す。


「まあ、大丈夫そうですね。で、何のようですか?」


「入学式の時に変な人いなかった?ボクの知らない術式を使ってた人がいたみたいで」


「俺の両親と呪術省の大臣様は来られていたようですけど、変な人は特には。術を使っていたのも俺の父さんと大臣様だけですし」


「大臣がボクの知らない術式を使ってるとも思えないし……。明くんのお父様って星見以外に何か特殊な術式使えるの?」


 あれ、父さんじゃなくてAさんだったしなあ。術を使ったのは姫さんだけど。その姫さんの術式を感知しただけでも大峰さんは優秀なんだろうけどさ。

 父さんと母さんにAさんたちと接触したことを伝えたら心配された。瑠姫たちが知ってたんだから知る人ぞ知る犯罪者ってことなんだろうけど。

 で、大峰さんが知らないという術式についてなんて答えよう。この人はたしかに麒麟なんだろうけど、だからと言って知らない術式がないほど博識とも思えない。

 だからとりあえず誤魔化してみよう。


「父さんは難波家の本家にのみ伝わる禁術をいくつか使えますよ。それを入学式の時には使っていませんでしたが……。何か気になることでも?」


「何かの妨害術式を感知したから。何か仕掛けてくるならイベント事だと思って警戒していたのに、発動したことにも気付けなかった。術を行使しているかもわからないような些細な違和感だったんだけど、気になって校門に向かってたらその違和感もなくなっていて……。あの時、明くんたちの姿は見えたから何か知らないかなって」


「はぁ。父さんと大臣様が霊気をぶつけ合って一種の異界のような物を構築していましたが、それ以外には特に何も。なあ、タマ」


「はい。そのぶつけ合っていたのもわたしたちが着いてすぐに収まりましたし。その前のことはさすがにわかりませんが……」


 実はあなたよりも凄腕の陰陽師が周りとの全ての情報を断絶させるような術式を無詠唱で発動させていましたよ、とは言えない。それに、その人たちがもうすぐこの学校に選抜という名の殴り込みをかけてくることも。


「そっか。なんだったんだろうな、アレ……」


「まさかその確認のためだけに俺たちを探していたんですか?」


「それも目的の一つ。もう一つは生徒会にご招待しようと思ってね」


「生徒会、ですか?」


 生徒会なんてこれまでの学校生活で一切関わりのない組織だった。所詮生徒間の遊びごと程度の認識しかなかった。俺もミクも生徒会役員なんてならなかったし、なる理由もなかった。

 そして今後も一切関わらないだろうと思ってたのに。


「ボク、今生徒会の庶務なんだ。生徒会は緊急時に生徒への指揮権が与えられてね。だからこそ生徒会長には顔を通しておいた方が良い。役員になれって話じゃなくて、緊急時に備えてお互い顔を知っておいた方が良いっていうこと。これは目ぼしい実力者には全員行ってることだよ。君たちが安倍晴明の血筋とか関係なくね。血筋だとしても会わないこともある」


「で、今回は俺たちの番だと」


「そういうこと。校外授業とかも増えてくるからいざという時のために実力者はどのように動くべきかっていう確認さ。教職員の指示に従うのが基本だけど、その教職員が傍にいなかった際の矢面にたってほしいとかそういうやつ」


 要するに断れないってことだ。陰陽師になるんだからそういう事態に対処しなければならない。そして学校という組織で行動している以上、対処法も確認した方が良いということだ。

 あとは、ゴンについて生徒会だけにでも通達しておいた方が良い。校長がすでに伝えているかもしれないけど。


「わかりました。大峰さんについていけばいいんですか?」


「そうだね。ちょっと移動するからついてきてくれる?」


「はい」


 借りる本だけ借りて、それをカバンに仕舞ってからついていく。生徒会なんていう組織に縛られるわけじゃないんだから、気楽に話を聞きに行くという感覚でついていった。




次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。



ハッピーバレンタイン。

まあ、渡す相手も家族くらいしかいないわけですが。

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