2-2-1 新天地散策
おもちゃでの訓練。
ゴンと天海は二人で座って座学を始めてしまう。銀郎は用事がなくなったとして実体化を辞めてしまったし、俺たちもゴンを取られてしまったので自主的な学習しかできない。八神先生も結局読書に戻ってしまった。
昨日の夜も街を巡回していたので練習といえども霊気を使いたくない。となるとやることは限られていた。
懐から一つの銃を出す。祐介は俺が銃を出していたことにギョッとしていたが、別段珍しいものでもない。実弾が入っているわけでもないんだし。
最近は祐介と一緒に巡回してないから知らないのか。ミクは何回も見てるからわかってるけど。剣を持ってる四神もいるんだから、銃くらいどうってことないはずなのに。
「明、それは……?」
「呪具だよ。父さんに入学祝いでもらった。霊気を通したら術が発動するだけのおもちゃ」
「おもちゃって……」
利点は数多くある。詠唱もせずに無音で術を発動させられるし、指を向けるのと同じで指向性があるから照準をつけやすい。弱い魑魅魍魎ならこれ一発で倒せるから雑魚向けの一品だ。メンテナンスさえしておけば消耗も少ない。一々呪符のように買っておかなくていい。呪符がなくなったから術を発動できませんでした、なんていう不測の事態に陥らない。
欠点としては、強い相手には精々牽制程度にしか使えないこと。用いる霊気を増やせば威力の高い弾丸も放てるが、ぶっちゃけ高威力の術を行使したいなら呪符の方が良い。それに攻撃性の霊気の塊しか放てないために、水の弾丸を放ったとしても火を消火できるわけでもない。
この銃、多様性がないのだ。攻撃の指向性を銃という形で表してしまっているので仕方がないと思うが、陰陽師が使う物としては相応しくない。こんな物を使わなければいけない程京都が危険だということもあるが、こんな限定的な物は使い道も限られている。だからこそのおもちゃ。
ストレージを確認して、銃を構える。実技棟のために的のような物を出すこともできるので、ミクに操作してもらった。
現れた的目掛けて引き金を引く。発射音が聞こえないのも利点の一つだな。
上下左右様々な場所から現れる的へ威力を最小にして当てていく。威力の確認ではなく、銃の精度の確認がしたいだけ。
結果として命中率七割ほど。銃握ったのもここ最近になってからだし、牽制目的ならこれで充分だろ。ヤバい相手には呪符使うだろうし。
「いいんじゃね?結構的小さい割には当たってる方だろ」
「おまけとしてはまずまず。こんなの術比べにも格上との実戦にもまともに使えやしないんだからな」
「で?何でおもちゃなんて断言してる物をお前はこんな熱心に練習してるわけ?」
「不測の事態に備えて。未来なんて何が起こるかわからないんだから」
「未来でも視えたわけ?」
「あいにく、未来なんて一回も視えたことはねーよ」
祐介への返答をしていく。父さんの未来視を聞いたわけでもなく、星を詠んだわけでもない。
それに格上には使えないと言ったが、同格には充分使える。土御門の御曹司や賀茂の箱入り娘には有用ってことだ。使えるものは使っていこうと思って今も練習している。
未来が視えることは便利なことだろう。けど、できないことは望んでも仕方がない。むしろ千里眼の方を使いこなす方が大事な気がする。俯瞰した風景を視ることができるというのは大きな利点ではないか。
同時刻に他の場所で何が起きているのか知る。むしろこういうことこそ昔の陰陽師の本懐だったはずだ。その本懐を忘れて戦闘能力ばかりに注視して、学校で教える技術も戦うことばかり。
魑魅魍魎への対処が現代での一番の使命だというのもわからなくはない。それほどまでに魑魅魍魎が脅威だというのも分かる。
だが、その原因の追究をしないのはどうなのか。慢性的に現状維持をするのが得策なのか、永劫魑魅魍魎を産み出さないようにするべきか。後者の方が良いのだろうが、その道筋がわからないから戦力を増やすことばかりしている。
本当に莫迦みたいだ。そもそも呪術省は魑魅魍魎と妖の差を理解しているのだろうか。妖なんて単語、いくら調べたって出て来やしない。
これも呪術省は意図的に隠しているのだろうか。もし妖が本気を出したら今の呪術省で対応できるのだろうか。それとも妖対策で戦力増強を推しているのだろうか。それなら少しは理解できるが、妖の存在を公表していないのが気に障る。
「百鬼夜行……。京都だとそこまでおかしな現象じゃないからな。備えるに越したことはないだろ。魑魅魍魎もこっちの方が強い。ウチは所詮田舎だったって思い知るよ」
「そりゃー、田舎だからな。紛うことなき」
「それは言うなよ。霊地としたら一級地なんだぞ。あそこ」
玉藻の前の封印地に選ばれるだけあって、術の行使をするという意味でも良い場所ではあるのだが、魑魅魍魎は何故か強くない。陰陽師を育てる場所としては最良に近い。他の霊地はなんだかんだと色々なしがらみがあるとか。又聞き情報でしかないけど。
「一級地って十個ないんだっけ?」
「ないな。名家が治める土地はたくさんあるけど、一級地は八か所だ。まあ、京都は特級地って言っても過言じゃないくらい特殊な場所だけど」
「たしかにここは段違いだよなー。あっちだって霊地としては優秀なのは変わらないのに、こっちの方が霊気溢れてるもんなー」
「お昼にもたまに魑魅魍魎現れていますからね。警邏隊が少数とはいえお昼も巡回してるのは京都だけですもん」
本来なら夜にしか現れない魑魅魍魎。それがお昼も現れるから魑魅魍魎という存在の不可解さが一層増す。一千年経ってもメカニズムがわかりきっていない要因の一つだ。
これが京都だけの現象なのか、時たま他の一級地でも昼の魑魅魍魎の発現は報告されている。とはいえ、過去視ができる人間なら知っていてもおかしくはないことのはずなのに、誰も発表していない。
父さんですら発表しない。父さんは誰もが認める星詠みだ。父さんとは何度も過去視で視た情報は共有していて、俺が視たことはほとんど知っていた。知ることができたからと言って、どうしようもできないが。
「……ゴンの授業、長いな」
まだ座って講義をしている一人と一匹。霊気を放っているので何かの術式を試しているのだろうが、壁時計を確認するとすでに一時間が過ぎていた。
この教室の使用時間が過ぎてるんだけど、いいのか。八神先生もゴンの授業に座ったまま見入ってるし。
次も三日後に投稿します。




