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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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2-1-3 新天地散策

ゴンという存在の、現代での評価。


『さて小娘。たしかにお前は天海の末裔だろうよ。数百年ぶりに見た才能の欠片だ。お前は風水に向いている。風水は方陣と占星術の複合とも呼べる結晶だ。それは特異な才能で、賀茂の元々の血流よりも優れた、誇っていい力だが……。少し弄られてるな』


「弄られている?」


『人の手が入っているだけだ。昔からそういうこともあるってだけだ。別に悪い意味ではないぞ?それで陰陽師の始祖、その師匠たる賀茂を超える才能を持っているんだからな。星見の才能は日本を見ても碌にいないのは知っているだろう?最高峰の星見は明の父親の康平だ。全国を見たって五十人いるかいないかの才能、それを持っているお前は先祖に感謝すべきだぞ?一千年の束縛も、血縁を誇る痴呆共も持ちえない才能を、たかが数百年の歴史の積み重ねで会得しているんだからな』


 人種交配、のようなものだろうか。江戸になってから為り上がった天海という名家。江戸幕府が平安以上に長続きしたことには江戸の建設にあたり風水を取り入れた天海の功績だとされる場合が多い。

 その天海が風水に特化するように意図的な改造・教育をされている可能性があるだけの話。そんなこと、難波の家でもされていることだ。降霊と式神に特化した教育、そして本家を継ぐ者に限った星見の伝授。


 次代がどういった陰陽師になるか。方向性を絞ることで特化して大成するようにする陰陽師の家系なんて珍しいわけではない。むしろどこだってやっている。

 おそらく天海の家は江戸で大成する前から風水に特化していき、芽が出たのが江戸だったというだけ。風水に特化した家なんて自然発生はしないだろう。


「その、弄られているって具体的にはどうやって……?」


『今のオレのように、他人の手によって方向性をずらされたってだけだ。──ああ、オレはずらしてないぞ?お前の隠れていた霊気の秘孔をついて、持っているものを自覚させただけだ。人間は基本気付かないことが多いがな』


「それ、俺受けてないぞ?」


「わたしもです」


『バーカ。お前ら二人なんてオレの尻尾握って仲良く眠ってた幼少期にそれぞれ突いてる。明は無茶しやがるし、珠希はその力を制御しなくちゃならなかったからな。その方向性へちょっと手引きしてやったまでだ』


 そうなのか。知らなかった。俺とミクはそんなことをされていたとは。無茶っていうのはミクと結んだ契約のことだろ。自分だけの力じゃなかったのか。

 いや、そうじゃないと説明つかないことも多いか。俺が小さい頃からゴンと契約できていたのも、ミクが俺と会ってから急に隠形が上手くなったのもゴンが手を回していたから。

 なんだこの式神。有能すぎるだろ。可愛くて有能とか最高かよ。


「あれ?俺は?」


『……祐介はとっくに方向性を自覚してたからな。やる必要なし』


「ゴンは気に入った相手にはとことん甘いからな。大将の娘さんとか」


『あいつが出す角煮丼が美味いのが悪い』


 このツンデレさんめ。あのラーメン屋に行くのが楽しみな癖に。そんでもって大将たちには一切言わないんだからな。これでオスとかあざとすぎるだろ。


『小娘。風水を磨くかどうかはお前次第だ。オレも詳しくないから教えることはできん。才能とやりたいことは別だからな。風水を極めるつもりがないならそれでいい。お前の人生だ、好きにしろ。風水なんて特殊すぎて教えられる人間がほぼいないだろうからな』


『とかニャンとか言って、風水の基礎ぐらいは教えられるクセにー。クゥちゃんは星見の才能ゼロだけど、他の気配察知とか置換術とかなら教えられるはずニャー』


『人前でその呼び方すんじゃねえよ!噛み殺すぞ!』


『やるのかニャ⁉』


 なーんで喧嘩に発展するんだか。銀郎に目線を送って瑠姫だけ黙らせる。例の一閃だ。ゴンにはもう少し説明役をやってもらわないと困るのでそのまま。

 あとでモフモフの刑に処すけど。


「ほら、ゴン。風水なんてそんな高度なこと、ゴン以外に教えられると思うか?大学でもあまり専攻されない科目だぞ。占星術すら学問として下火なのに」


『若干はいるだろ。それに、選ぶのは小娘だ』


「だって。天海どうする?ゴンは気まぐれだから早めに決めないと今後教えてもらえなくなるかもよ?」


「教わりたいです!お願いします!」


 即答だった。この機会を逃したら風水なんて教わることもできないだろうし、ゴン以上に教えるのが上手い人がいるだろうか。一千年の知識の結晶がそこにいるのだから、そこに頼るのが手っ取り早い。

 この三年間はまともに教われるとは思えない。大学に行ったとしてもまともな教えが受けられるかどうか。

 稀有な才能。それを活かせる天狐という逸材。この組み合わせは今後一切交わることのない夢幻。そもそも天狐自体他にいないだろうし、いたとしても陰陽術に詳しい天狐がいるとも思えない。


 師となり得る存在がどれだけいるか。才能がある人間と、教えることができる人間は別だ。風水なんて占星術よりも特殊な代物。基礎的な陰陽術であれば研究されつくされているが、風水はそこまでだ。江戸城の周辺に仕掛けられた風水によって出来たとされる方陣らしきもの──それだって風水によって出来たものだろうという推測だけで確証なんてない。

 風水という技術を産み出したのが誰なのか。基本だけは中国からのものとされているが、日本での技術を確立したのは天海と言われているが果たして。


「ゴン、どうするんだ?」


『ま、いいだろ。オレだって基本的なことしか知らん。千里眼を持ってるわけでもなく、陰陽術も教わったのは一時的なものだ。四百年前はそこらを放蕩していたからただ感じ取っただけだ。感覚的な教えになるが良いな?』


「もちろんです!……四百年前?」


「ゴンは一千年前から生きてる天狐だから」


「天狐って数百年生きた狐がなれる、神様と同格の……?」


「そう。その天狐」


 天海はゴンをマジマジと見つめる。そりゃあ、天狐なんて珍しい存在がいたら見つめたくもなるよな。

 狐は貶す風潮が広がっているのに、天狐は神に連なる者だという話も流れている事実。これは難波が頑張ったのか、Aさんたちのように、狐のために動いていた人間が昔からいたのか。

 この二律背反、今の世の中が混沌とされる原因じゃないだろうか。


「……天狐ゴン。あなた以外にも先程のようなことができる存在がいるのか?」


『先程っていうのは?』


「人間の隠された才能を見出す、ということだ」


 八神先生が脂汗を浮かべながら尋ねる。質問の意図はよく分かる。授業や年月を重ねた上で開花するはずの才能が、ゴンの一押しで芽生えるなら教師という職業と今までの研究全てへの冒涜だ。

 それがきっかけにすぎないとしても、もしかしたら永遠に眠ったままの才能を発掘できるとなれば重宝されるだろう。

 そんなことができてしまうということの重要さと、それができるのが狐であるということ。それが魑魅魍魎と毎日戦っている今の陰陽界には多大な影響を与える。ゴンを巡って争いが起きかねない。

 それが教え子の式神なんだから八神先生も気が気じゃないよな。


『さっきも言った通り、オレは千里眼を持っているわけでも、星詠みができるわけでもない。だから知っている範囲で、という話になるがこんなことができるのはオレの他に一人だけだ。オレが神の一柱に数えられたとしても、他の神々に同じことができるかといわれれば否だ。根本的に神は人間に興味がない。だから人間を育てるという考えがないのだろう。人間と子を為したり、人間に会いに行くために下界に降りる神は軽蔑されたり、神の座を失ったりするだろう?過去にはオレと同じことができた方が一人と二柱いたが、今やいない。現在は一人だけ、その一人も人間嫌いだからそうそう世界は変わらないぞ?』


「そう、か……。それは良かった。呪術省の上層部に知られたら事だからな」


 明らかに安堵して一息つく八神先生。ゴンは本当に気まぐれだし、こんな風に施しを与えるのは本気で珍しい。俺が知っている限りでは確実に片手で足りる。

 他の人に同じようなことをするかと言えば、たぶん数年先だ。それくらいの珍事が今回の事。だからうん、先生が心配するようなことは起きないだろう。

 それとゴンのコミュニティは限りなく狭い。狐なんて見付けたら不幸になると言われるほど。知り合いなんてほぼできやしない。そんな中、ゴンが言っている知り合いというのはおそらくAさんのこと。あの人なら何ができても驚きはしない。

 で、Aさんもそんな施しをするような人物じゃない。陰陽界のパワーバランスが崩れることはないだろう。

 物理的に崩れる可能性はあるが。


「ゴン様が害されるということですか?」


「排除、だろう。抹消とも言える。一千年かけて築いた地位だ。それが崩れるのを嫌がっているのが今の呪術省だ。自分たちは安倍晴明ゆかりの陰陽師だからという、誇りがあるんだ。天海が台頭した時は相当焦ったらしい。そこまで今の呪術省は排他的だ」


「ゴン先生の存在は隠せってことっスか?八神先生」


「そうだな、住吉。狐であることもそうだが、人の力が変わるというのを恐れることが多い。政治家などもそうだ。その場を守るために広報活動などするだろう?その一環で天狐ゴンを始末するだろうな。四神のような力が増えるのは良い。だが増えすぎたら呪術省の上層部へと入り込むだろう。上層部は頭でっかちの現場を知らない老害が多い。そこに現場の知識がある有能が増えたら?蹴落とすのは当然だろう」


 この先生、かなりの毒舌だ。呪術省嫌ってる人多いな。嫌われる要素が多々あるために仕方がないかもしれないが。

 政治的権力を持ち、四神の指名権も持つ。日本全国の霊地を多数保有し、税金をかなり取るうえで自分たちは百鬼夜行のような大事が起きても静観。上層部のメンバーは家柄でほぼ決める。

 実情を知れば知るほど好きになれないか。


『安心しろ。オレももう一人も人間の成長なんて促す予定は今後ない。小娘のように最初から弄られているか、難波の家に関わりがある人間じゃねーと手ほどきなんてするか。不完全な人間をこそ、あの御方は愛していた』


「それにゴンは則ると?」


『ああ。オレの行動理由なんてそんなもんだ。さて、個別授業を始めるか。風水の基礎中の基礎ってやつを叩き込んでやる。それ以降はお前次第だ』




次も三日後に投稿します。

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