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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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2-1-1 新天地散策

目が覚めた先にいたのは。



 空へ手を伸ばす。何故そうしたのかもわからないし、そうするべきだとも思った。その手が掴んだのは細長い何か。艶があり、うにょうにょと動いている。生き物の何からしいが、別段嫌な気はしなかった。

 強いて言うなら、もう少し柔らかい方が良いけど。


『ニャッ⁉そんな情熱的に握られると困っちゃうニャ……』


 その声で誰だか理解したが、何故ここにいる。


「瑠姫?何してるんだ?」


『前に言ってた緊急時を想定しての式神の入れ替えニャ。クゥちゃんと銀郎っちは代わりにタマちゃんの方に行ってるニャ。坊ちゃんうなされてたけど、夢見が悪かったニャン?』


 父さんからやるように言われていたことだ。京都では百鬼夜行に近い騒動が起こりやすい。俺とミクが離れ離れになった時用の訓練だ。週一回くらいの頻度でやるように言われてる。


「過去視を見てたんだけど……寝相悪かったか?」


『あ~、アレが過去視の兆候ニャンね。一人部屋で良かったニャア。アレは痴態と言っても過言じゃないニャア』


「どんな姿だったんだよ……」


 上半身を起こす。見た限りベッドが荒れている様子はない。瑠姫がベッドの端に腰を掛けてニヤニヤ笑っているが、からかっているだけなんじゃなかろうか。


『ところでどんな内容だったニャン?あちしは過去視なんてできないから気になるニャー』


「瑠姫は方陣がメインで、あとは基礎的な陰陽術だけだもんな。……金蘭が、安倍晴明に拾われた時のこと」


『金蘭って晴明っちに拾われてたノン?知らなかったニャー。玉藻っちの護衛をしてたのは知ってたけど』


「金蘭って悪霊憑きだったんだな……。知らなかった。他の時に見た姿は綺麗な女性だったから、ミクのように隠してたんだろうけど」


『あ~。それはタマちゃんに聞かせられないニャア。他の女性に目をやってたら悲しまれるニャア』


 ミクも過去視できないからなあ。こんな女性だった、とは言えるけどどれほどの綺麗さかは伝えきれない。見ないとわからないことだろうし。


「そういえばゴンいなかったな。ゴンってだいぶ後に拾われたんだな……」


『クゥちゃんはあたしら式神でもほとんど知らないからニャア。いつ頃だったか、特にはわかってないニャ。晩年の頃にはいたっていうくらいしかわからないニャ~』


 吟と金蘭という安倍晴明にとっても特別な式神の名前すら、後世には残されていない。二人ともかなりの実力者だったはずなのに、安倍晴明の傍にずっといた存在なのに認知されていない。

 それならゴンのことがあまり伝えられていないのも仕方がないか。狐であることもそうだが、今も生きている存在が式神たちにまで浸透していることの方がおかしい。式神たちは基本死んでから情報共有しているんだから。

 ウチの歴史書にも玉藻の前の眷属に一匹の狐がいたって書いてある程度。それが天狐になったなんてわかるはずもないか。


『それで坊ちゃん。今日はお出かけニャ?』


「そうだな。天海にゴンのこと知らせる。それで今後の付き合い方を決めるつもりだ」


『まーだ天狐って教えてないのニャ?それで態度変えてきたら金輪際関わらなければいいのニャ。狐が悪く見られるのは完全な風評被害。そんなものに巻かれてもし悪く言って来たら、その音を発する首を掻っ切ってやるニャ』


「流血沙汰は勘弁してくれ。それ、ミクの管理不足でミクが罰せられるんだから」


『仕方がないニャア。我慢するニャ』


 大きな溜息と大げさなリアクションで返答されたが本当に勘弁してほしい。それで退学になるミクなんて見たくない。俺だって殺意を覚えるが、我慢する。それが人間社会で生きていくってことなんだから。

 式神の瑠姫には少し難しいかもしれないけど。


『ちなみにお昼は?』


「ラーメン」


『坊ちゃん、そんなにラーメン気に入ったのかニャ?さすがに手打ちラーメンはめんどくさいのニャ』


「瑠姫がわざわざ作る必要はないよ。大将が俺なんてまだまだって言ってたからな。大将のところより美味しいラーメンがあるなら食ってみたいってだけ」


『あー、あの僻地の。お店ができたばかりの頃に御当主様と坊ちゃんとタマちゃんの三人だけでコッソリ行ったとかいう。あれから坊ちゃん、あの店通うようになったニャ。ヨヨヨ。家政婦であるあちしの手料理より、あんなオッサンが作ったラーメンの方が好きとか悲しいニャン』


「いやいや、瑠姫の手料理はご飯としてかなり好きだよ。寮生活になって食う機会減って悔しいくらいだ。ラーメン以外なら外食するより母さんか瑠姫の飯食いたいし」


 いきなり始まったウソ泣きに、面倒になって本心で答える。母さんと瑠姫の料理は美味いし飽きないし、そこらの料亭に行くより断然マシだ。ただ高いだけの料理より、真心込められた料理の方が良い。

 いや、料亭も技術や質とかできちんと値段相応なんだろうけど。その技術や質を家庭料理でどうにかしてくれるんだから行く意味がないというか。


『ホント、坊ちゃんはダメニャ……。坊ちゃんは周りの人をダメにするニャ』


「貶してないか?」


『今度料理作ってやるニャ。あちし、心情的には坊ちゃんの乳母のつもりだからそう易々と絆されニャイよん』


「どうせ父さんのこともそう見てるだろ?」


『ま、康平君も大きくなったってあちしにとっては子どものままニャ』


 式神と人間の差だろうな。というか瑠姫、嬉しくないフリするなら態度くらいどうにかしろって。顔赤くして尻尾振ってたら心情なんて丸わかりだっての。

 瑠姫と銀郎がいつからウチに仕えてくれてるのか知らないんだよな。瑠姫がわりかし最近で、銀郎はずいぶんと昔から仕えてくれてるらしい。最古参なのにヒエラルキー最下層なのはなんでだ。


「んじゃ、そろそろ行くか」


『いいのかニャン?まだ四時間くらいしか寝てニャイけど……』


「いいんだよ。天海のことも確認しないといけないし。霊脈の把握はほとんど終わったからAさんたちの襲撃にもある程度対応できるだろうし」


『坊ちゃんが良いならそれで良いけどニャア……』


 朝飯を食べよう。後は事務員さんに空き教室を借りないとな。

 学校は休日でも陰陽術の向上を推進するために様々な教室を貸し出しているし、指導員が必ず常駐している。何かあった際に対応するためだ。教員の場合もあるが、雇われの場合もある。

 部屋は無事に取れたし、大峰さんも近くで見張ってくれているらしい。大峰さんがいればたぶん大丈夫だろ。簡易式で連絡先教えてくるとは思わなかったけど、連絡できた方がもしもの場合に助かるし、重宝しているということにしておこう。

 ミクにも大峰さんの連絡先は伝えておいたけど、祐介には伝えていない。あいつは無関係だからな。関わらない方が良い。なんちゃっての門下生が首を突っ込む案件じゃない。

 あとはどうやって自然に大峰さんと学校で関わるかだよな。知り合いって言っておいた方が有事の際に動きやすい。直近の有事については何も言っていないが。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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