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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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1-3-3 入学式から波瀾万丈

四神と麒麟について。


 今までの温厚な話は何だったのか。堂々とされた襲撃予告に頭を抱えたくなる。

 目の前の二人に敵う陰陽師なんて存在しない。麒麟だと聞いた大峰さんだって姫さんに敵うかどうか。ゴンがいるとはいえ、今まで友好的に接してくれた二人がいきなり敵対宣言をするなんて信じたくなかった。

 この学校を襲撃する理由も分からない。ゴンと友人だというが、その友人もいるこの学校を攻める理由は何か。

 当のゴンも首を傾げながら尋ねる。


『オレとやり合おうってのか?』


「場合によっては。君たち以外は殺す気でいくので心しておくように。死にたくなければ鬼や姫を見かけても挑まないこと。私は観覧しているだけだから、天狐殿さえいれば死にはしないさ」


「……他の人間は?」


「実力次第、運次第。これからの陰陽師の底を知りたくてね。近い将来、また第二次世界大戦のように陰陽師が徴兵される。徴兵されても良いように実戦経験を与えてやろうと思ってな。呪術省には気を付けたまえ。アレはもう、晴明の教えを広めるという曲解した思想を持つ権力の権化だ。陰陽師がただの戦闘屋になった時点で信用ならないが」


 おそらくAさんは未来を視ている。それが誰のためになるのかわからないが、必要だと思ったから行動するのだと直感が告げていた。

 目の前の二人が無駄なことをするような人物には見えなかった。ゴンの友人だという二人を信じたいということもあるが、呪術省が信用ならないという意見には同意できるからだ。


 呪術省はあまりにも過去のことを知らな過ぎる。難波家に残されている歴史書と呼んでいる過去視で視たことのまとめ本や父さんとの談合で得た情報、それらを市販されている学術書や参考文献などや呪術省が正式に発行している「正史」とされる「編纂史」との違いを纏めている。

 そのズレの多いこと多いこと。意図的に間違った歴史を国民に流布しているのか、そうだとしてその意図は何なのか全くわからないが、そうやって隠している時点で呪術省は信用ならない。


 もし間違っている歴史を本物だと信じ切っているのだとしたら。滑稽すぎて笑えもしない。

 だからこそ、どちらにしても二人は呪術省に喧嘩を売るのだろう。まるでとばっちりのように俺たちの学校にも攻めてくるようだが。


「徴兵って、内乱で?それとも他国との戦争で?」


「まだ未来視はできていなかったか?なら研鑽を積みたまえ。そしてどちらの可能性もあると言っておこう。カギを握るのは土御門家だよ」


「では、そうなる前に潰してしまえばいいんですよね?俺たちに喧嘩を売ったのは、あっちが先だ」


 その宣言に、Aさんと姫さんは優しく微笑んだ。あの場にいて観戦していたということは、あのクソッタレ総代があの現場にいたことも知っているはず。

 自分の手は汚さず、他人を操って罪を擦り付ける下郎だ。そんな人間がどうなろうが、むしろそんな人間が陰陽界のトップに君臨する方がマズいだろう。国を操って何をやらかすか知れたもんじゃない。


「その言葉が聞きたかった。土御門を潰すということは、呪術省を潰すことと同義だ。いやぁ、愉快愉快。君たち難波を味方に引き入れられたことはこの上ない僥倖だ。天狐殿という戦力も、難波家の最強式神も手駒だ。これは勝ったと同義だな」


『あっしらはアンタの手駒になんかならねーよ。坊ちゃんの邪魔をする輩は斬るが、アンタの手助けは一切しねえ』


『そうニャ!坊ちゃんとタマちゃんの艶のある肌に傷がついたら大変ニャ!』


『瑠姫は微妙にズレてやがるが……。そんな味方が通う学校を襲撃する意味は?』


 銀郎の敵意、瑠姫の過保護なほどの防衛本能、ゴンのため息交じりの問い。それら全てを受けてAは答える。


「さっきも言ったが、陰陽師の卵の実力調査。それと同士の発見といったところか。まだ呪術省に手をかけられていない純真な人間を手駒にしたくてな。何回か同じ目的で大学を攻めたが少々手遅れだった。もう大学生になれば自分の一族に恭順するか、呪術省に媚を売るかの二択だった。高校生というのは思春期ということもあって揺れやすい。呪術省のように脅すような真似はしないが、つけ入りやすいのは事実だ。先代麒麟や、歴代の四神を犠牲にした罪滅ぼし、といったところだよ」


「先代麒麟さんや、歴代の四神さんは呪術省の犠牲になったのですか……?」


「そうだとも、お嬢さん。四神と麒麟とは、『人柱』だ。京都という格別な霊地を抑え込むために選ばれた実力者。そしてたしかに強大な力を得るだろうが、その代償として寿命を削り、そんな事実も知らされず呪術省に使い潰される。それを犠牲と呼ばず何と言う?」


 京都の霊地としての価値が凄いのは実際に来てみてわかる。ウチの難波の土地だって京都に負けずとも劣らない霊脈を備えている。だけど、ここの霊脈は異質だ。魑魅魍魎が活発になる特異性、そして時折感じる霊脈が制御しきれていない、暴発しそうな霊気とそんな霊気を超えるもっと異質な、でも何か似ている力。

 そんなものが入り混じっている時点でこの京都はおかしい。こんな土地を人間が住める街へ調整するには代償がいるとは思ったが、それが四神と麒麟という人柱だなんて。


「力……。もしかして、式神契約?」


「その通りや。この土地は安倍晴明が産まれる前から相当な曰く付きの霊地だったようやね。それを抑えるための方陣の核になっとるのが五体の式神。その式神は特別製で相当の実力者やないと扱えんのよ。扱えても、霊地の封印に力を持っていかれてまともに戦闘なんてできへんはずやったんやけど」


『晴明のバカが式神を改良してな。核となる奴が動けず抵抗もできないのはマズいって思ったらしくて緊急時の最終手段として寿命を引き換えに式神の影を戦闘に用いれるようにしてな。呪術としては寿命を用いるのは一般的なんだがな。その術式の、後付けの方を今の呪術省は重要視しているってわけだ』


 姫さんに加えてゴンも説明してくれた。昔の方が今よりも人間の住処ではなかったとは知っている。陰陽師の数も全然足りていなかったし。その式神を扱える人間が、代わりがいくらでもいるわけではない。

 ならばその場しのぎをして、陰陽師の育成を急ぐ。要となる方陣が壊されたら教育どころではないだろうし。


「力の在る者は高校の時点で多くが見出されるからな。大学で才能が開花する遅咲きの者など稀だ。人間は努力なんていう無駄なものが好きだからある程度は変わるのだろうと思っていたら、成長限界が存外早くてな。技術は変わっても、霊気の底は打ち止めが早い。四神には絶対的な霊気が必要だから目ぼしい者は大体手をつけられていると。趣味で人間観察をしている程度では足りなかったな」


『四神と麒麟を救ってどうするつもりだったんですかい?そこのお嬢さんのように手駒にして京都を潰そうと?』


「割合善意なんだがな。向こうの戦力はいなくなってこちらの戦力は増す。良いことづくめだ。──ああ、彼らの寿命が延びる、ということもあったか」


『坊ちゃん、こいつはこういう奴です。信用ならないでしょう?』


「たしかに……」


 式神による寿命のための話をしていたはずなのに、それを結局ついでかのように言う。その善意の前提が崩れてしまったら今までの話が無駄になる。


「私はこういう人間なんでね。これでもやりたいことと嫌悪していることははっきりしているぞ?今一番やりたいことは君たちとの術比べだ。是非心行くまでの清々しい術のぶつかる調べを堪能したい。そのためなら強引なこともしよう」


「ってことは、今回の襲撃は俺たちのせいでもあると?」


「人間は危機的な状況で力を覚醒させやすい。火事場の馬鹿力とも言うが、生存本能を刺激されるのがもっともな理由だろうな。あとは場数。お嬢さんの尻尾は蟲毒の直後に増えただろう?他の霊気に充てられて成長するのかもしれない。こんな楽しい実験は初めてだ。だから色々と愉しませてもらおう」


「A様。麒麟がようやく気付いたようやわ。こちらに向かって来てはるが、どないします?」


 姫さんが校舎の方を向きながら言う。俺は全く気付かなかった。それだけ姫さんの探知能力も桁が違うってことだ。大峰さんと比べても、姫さんの方が上に感じる。麒麟よりも上の幼女ってどういうことなんだか。


「撤退するか。姫の存在はまだ隠しておきたい。麒麟は味方にする価値もないし、奴は麒麟のままの方が良いだろう。ではな、諸君。次会う時は姫との術比べを楽しみにしている」


「あら、あたしは戦うこと確定なん?」


「もちろんだとも。君は私の式神の中では最弱だからな。測るには最適だろう」


「……言い返せまへんな。なら、最弱は最弱なりにやらせてもらいます」


 そのままAさんは姫さんの手を取ってエスコートするように帰っていった。もちろん俺の両親に姿を偽って。さすがに年中ラブラブなバカップル夫妻な俺の両親でも、白昼堂々と手を組みながら歩いたりしないぞ。


「良いですねえ……。とても仲良しで」


「羨むことか?ミク」


「それはもちろんです。お互いがお互いをとても大事にしているのがわかりますから。──瑠姫様?いつまでハル様にくっついているんですか?」


『アンチクショーがあちしの嗅覚の範囲から脱するまでニャ!』


「警戒するのは良いですけどいい加減離れてください!羨ましいです!」


「そういう問題か?」


 いつまでもひっつかれているのは公衆の面前なので俺も困る。銀郎と一緒になって引き剥がした。ウチの式神とはいえ、メインの守護はミクだろうに。


「ところでハル様。姫さんがAさんの式神の中で最弱というのは本当なのでしょうか?とてもそうは思えないのですが……」


「あとの式神が俺の知ってる鬼二匹なら、間違いないと思うけど。どうなんだ?ゴン」


『オレも知る限り、その二匹しか知らんな。あの二匹は別格だろうよ。一匹だけで百鬼夜行そのものに匹敵する』


「……そんなのに喧嘩売って、よく俺生きてるな……」


『エイも本気じゃなかったからな。それにあいつは難波が好きな変人だ。楽しみをさっさと食い散らかすのは性に合わないんだろうよ』


 貴重な星見の家系だからだろうか。それとも狐を信仰する家系だからだろうか。どんな理由にしろ、俺は家のおかげで長生きしているわけで。先祖にはちゃんとお礼を言っておこう。


「ゴン。姫さんがこの学校を襲ったとして、全校生徒と教員で対峙して勝算は?」


『姫一人なら充分勝てるだろうよ。だが、エイのことだ。それだけで済むわけがない。ってことは、勝算はない。負け戦だ。あいつはやろうと思ったら京都なんて半日で壊滅させられるぞ?どういう条件で挑んで来るのかわからんが、あいつの今回の遊戯は生き残ることに全力を注げ。全滅させるはずはなく、お前たちを殺すつもりはない。今回の勝利条件は生き残ることだろ』


「遊戯に条件ね……。それに調査、楽しみに術比べ。そういう性格なんだな?あの人」


『そういうことだ。死傷者が出てもお構いなし。あいつにとっては必要なことを実行してるだけ。深く考えずに身を守れ』


 とは言われたって考えてしまう。学校がなくなったら当主になれないし、ミクを守るための防波堤がなくなる。手を差し伸べられる範囲で伸ばそう。やれることはしないと。

 その後大峰さんは何かを探しているようだったが、俺たちは無視して帰った。




次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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