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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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1-2-2 入学式から波瀾万丈

総代の挨拶。


「新入生総代、土御門(つちみかど)光陰(こういん)


「はいっ!」


 式を進行する教員のアナウンスに元気よく返事をして立ち上がる最前列の男子。だが、立ち上がった姿とその名前から講堂の中がざわめきだす。

 正直俺からすれば賀茂が総代じゃなければ土御門の方だろうと思っていたのでさもありなんって感じだ。他の人間は土御門の嫡男がいるなんて思ってなかったからざわついているのか。

 それとも、制服の上から重ね着した白い羽織、胸元のピンポイントと背中には大きな五芒星が黒で描かれたものを着て登壇したことに驚いているのだろうか。


 そうそう。ウチの京都校は日本で最難関の陰陽師高校だ。そのため、記者席というのもあってさっきからフラッシュがたかれまくっている。これが今日には編集されて日本全国のお茶の間に流れるわけだ。

 そんな場で、土御門の嫡男が自分の存在を堂々と示すような行動をすることにはたしかに驚く。こんなことした奴、他にいただろうか。


 登壇してマイクの前に立ち、懐から挨拶のカンペを出す。正面から見た顔は中々に整っている。だからこそ黄色い声をあげる女子生徒も少なくなかった。濡羽色の髪に藍色の瞳。日本の中でもそこまで浮くことはない変色だ。

 というか、安倍晴明と同じような変色だな。でも、アレなあ……。そもそも土御門は安倍晴明の姿を知っているのかどうか。

 そんな余計なことを考えていると挨拶が始まる。


「春の暖かな日差しを浴びて、この京都にも春の訪れを感じさせる今日。一学年二百八十名全員が無事に入学できたこと、我ら陰陽師の祖である安倍晴明様へ心より感謝申し上げます。私たちは成人したとはいえ、まだまだ陰陽師としての一歩を踏み出したに過ぎません。ですので、入学という節目を経て環境が変わったことで怖気づくことなく、更なる未知を求めて果敢に物事に取り組み、呪術の腕を磨いていくことを誓います。そして一日も早く日本のため、民のために安寧の世で暮らしていけるよう、一人前の陰陽師になることを誓うとともに新入生総代としての挨拶とさせていただきます。新入生総代、土御門光陰」


 土御門の嫡男としての、お手本のような挨拶だっただろう。そのお手本すぎる挨拶に会場からは割れんばかりの拍手が送られた。俺も拍手を送っているが、お手本すぎてつまらない。あんな目立つことをしたんだから、狐を断絶しますとか、魑魅魍魎を根絶してみせますとか言ってくれれば面白かったのに。

 前半について言った瞬間にぶち殺し確定だけど。


《坊ちゃん、あいつですぜ。蟲毒を起こした時に上空から見てた奴》


《あ?あいつが?》


 銀郎から伝えられた念話の内容に驚く。銀郎の目は狼なだけあって夜目も効くし、視力は人間と比べ物にならないくらい高い。それに鼻も利く。ちょっと上空にいたぐらいで判断を誤ることはないだろう。

 せいぜい土御門を語る莫迦かと思ってたけど、まさか自意識過剰大莫迦野郎だったとは。不可侵のことを知らないのか、それも知っていてなお攻め込んだのか。


 前言撤回。どんな理由があろうとぶち殺し確定。自分たちの土地を攻められた当主が何を思うかなんてわかりきっているだろうに。

 そこには先祖代々から受け継いできた土地と民が暮らす場所。そこを長年維持して、民のために何ができるかを模索し、次代へ継がせるために何を残すかを悩み、次代の選抜を行い、次代の育成に励み、そうしてようやく任せられると確信してから引き渡す。


 名家が治める土地というのは、幾星霜の悩みと血と思いやりが込められた結晶だ。その土地をできるだけ良い状態で次代へ引き継ごうとした、そしてそんな先人の想いに応えるように精進するという循環によって形作られる奇跡(どりょく)の象徴。

 名家が土地を失い、呪術省管轄になるということは先達の遺してきたものをぶち壊すということ。だから土地を治める名家の当主は何よりも土地を失うことを恐れる。脈々と受け継がれてきた誇り高き産物を、自分のせいで失うのを受け止めきれないからだ。


 正直、他の名家の当主も俺と同じく攻め込んできた陰陽師がいたら殺意が湧くだろう。土地とは名家足り得る由縁そのもの。そこに他の陰陽師がちょっかいをかけてくるとは、自分たちと先祖たちの顔に汚物を投げつける行為に等しい。

 嘗められている、とも言う。そのお礼参りは当然しなくてはならない。先祖たちの名誉を守るために。

 それがたとえ今の呪術省を牛耳る、陰陽師名家No.1の家が相手だとしても。


《銀郎。当分あいつのことを探れ。……いや、そういうのはゴンの方が向いてるか?》


《お察しの通りあっしは戦闘バカなんでね。そういう諜報員とかは向いてないですわ。後で天狐殿に頼みましょう》


《だな。稲荷寿司いくつか買ってやればやってくれるだろ》


 随分扱いが悪いが、それだけゴンのことを信用しているからだ。あと、ゴンもあの襲撃に憤っている。ゴンは俺と契約してからあの土地に住んでいるが、わりかし愛着を持ってくれている。玉藻の前が眠っている土地だというのもあるかもしれないが。

 稲荷寿司さえ与えれば大抵何でもやってくれるチョロイン。それがゴンだ。


《瑠姫に警戒させておこう。ミクの姿も見られてるんだろ?》


《そうですねえ……。おそらく狐憑きってことはバレてるでしょう。本格的に麒麟へ護衛を頼みますか?》


《それは最終手段だな。やれることはこっちでやらないと。……あの人が土御門について警戒しろって言ってたのはこういうことか。さて、この場合警戒するのはあいつだけでいいのか?それともあいつは先兵に過ぎないのか?》


《あのガキの独断の可能性も、一族ぐるみなのかも現状はっきりしていやせんからねえ。ま、情報戦は昔の陰陽師にとっても日常茶飯事。呪術師を名乗ってるバカどもには痛い目みせてやればいいんじゃ?》


《だな》


 銀郎はミクの傍にいる瑠姫に報告に行く。ミクがこっちを見てきたが、今は式中なのでひとまずは前を向かせる。あとでちゃんと説明してやればいい。俺も分かってないことが多いし、整理する時間も欲しい。

 主な内容としては、どうやって報復するかだ。呪術師じゃないから、そこまで呪いのレパートリーがあるわけじゃない。だが、執拗に、陰湿に、そして絶望に駆られるように関係者全員を地獄に落とすために、その者に合った鉄槌を。

 俺は結局、その後の式はそっちのけで土御門に対する復讐ばかり考えていた。




明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

次も三日後に投稿します。感想などお待ちしております。

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