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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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1-2-1 入学式から波瀾万丈

偽者の親の参観。


 入学式はただ担任の後についていき、二列で入っていって自分たちが座る椅子の列で男女別れるだけ。前から順番に詰めていくので間違えようがない。

 あとは寝ないように起きてお偉いさんの話を聞いているだけ。校歌斉唱もなし。これならたしかにリハーサルなんて要らない。


 そうして始まった入場。在学生の吹奏楽部による演奏で入っていく。そういや部活も考えなきゃいけないのか。帰宅部でいいかなあ。中学も帰宅部だったし。強制じゃないだろうし。

 C組の入場が始まる。一番先に近寄る場所は父兄席で、カメラなどを持った保護者達がこちらの入場を見守っていた。親の中でも周りに霊気を放っているバカ親が複数。そんなところで良い大人が争ってるんじゃねえよ。

 ウチの親みたいに霊気を抑えて手を振るくらいに──。


「あ?」


 思わず口に出してしまったが、出席番号の関係上隣を歩いていたミクも気付いてその方向を凝視していた。

 その視線の先には日向紋をこしらえた見るからに高そうな黒留袖を優雅に着こなした母さんと、五つ紋付きの黒い紋付き袴を着た父さん。にこやかに笑いながらこちらに手を振っている。


 母さんの黒留袖なんて既婚女性が着る最上級の和服で、たしかオーダーメイドもの。父さんの物もそれに劣らない雅な物でしっかりと着こなしていた。

 問題はそこじゃない。

 来ることを伝えずにサプライズで来ていたことでも、笑顔でこちらへカメラを回していることでもない。


 あの霊気は誰のものだ(・・・・・・・・・・)

 祐介も気付いてなさそうだが、産まれてからずっと一緒に過ごしてきた家族の霊気を間違えるはずがない。父さんたちの霊気を知っているかのように周りには誤魔化しているが、俺とミクにだけは気付かせたような、些細な違和感が残るように調整していたかのような作為的思考が見て取れた。

 あれは父さんたちじゃない。なら、あれは誰だ。


《ゴン》


《あー、なんとなくわかったが、確認してくる。銀郎は明の傍にいて大丈夫だろ。カメラ回してるのも康平たちへのあてつけだろうから》


 ゴンに念話で頼んで、姿を隠したまま偽の両親の元へ向かってもらった。隣のミクにも大丈夫ということを目線だけで伝えて、そのまま式に参加する。

 一気に疲れるサプライズを受けたが、式は誰も気付かぬまま進行する。難波の名を落とすわけにもいかないので真剣に参加しなければ。

 結局式の間、ゴンから彼らの正体が伝えられることはなかった。


────


「やあやあ、天狐殿。明君のお使いご苦労」


 二人の傍に着いた途端ゴンは康平の姿を偽っている相手にそう言われた。声にしっかり出ていたはずなのに、周りの人間は一切気にしていない。

 この周辺の空間に直接術で干渉しているようだった。その源は明の母である里美の姿をしている少女。


『声を出しても大丈夫なのか?』


「ああ、彼女が空間をいじっているからな。現麒麟にも気付かれない空間支配だ。土御門の棟梁も賀茂の当主も気付いておらんよ。お前たちには気付いてほしくて別個の術を飛ばしたが」


「お久しゅう、天狐殿。あたしのことを覚えておいでで?」


『姫、だったか。変わらず素晴らしい術の腕前だ。本当にあの若さで亡くなったのが惜しいな。きちんと成長していれば、安倍晴明に匹敵する陰陽師になれただろうに』


 ゴンは姫のことを謙遜ではなく本心で褒め称える。事実十二歳の段階でゴンに匹敵する陰陽術の使い手。ゴンとて安倍晴明の弟子だった期間はそこまで長くないが、霊気の量や術の精度は一千年生きてきて培ったものだ。

 天狐に変化したことで得た力もある。そんな天狐に、わずか齢十二で追いついてしまった鬼児。それが生前の姫だ。いや、分野によっては天狐であるゴンをも凌駕していた。ゴンにも得意不得意は存在する。


「もしもの話やなぁ。しかもかもしれないという妄想の類でしょう。あたしは早熟だっただけの、ただの子どもでした。勘違いのまま、何もできずに死んだ。その程度の子どもです」


『あれほど正確な占星術を見せつけておいて何を言う?晴明の本質は星見だ。晴明に最も近かったのは確実にお前だ。そして、真実を知りすぎた。だからこそ、だろうな』


「フフフ。天狐殿、A様が最も晴明様に近しいでしょう?それに逆立ちしてもあたしでは晴明様には敵いまへん」


『こいつは除け。規格外だ』


 ゴンはAのことを口で指しながら笑う。Aと比較したら他の陰陽師なんて全員塵芥に等しい。唯一比肩しえる存在が姫だったのだが、その姫もこれ以上の成長はなく、死したことによって星見の能力は失われた。

 星見は生者にしか用いることはできない。死んで式神になった今の姫ではその能力を生前から丸々失っている。それでも、今の名だたる陰陽師たちと戦っても負けないような実力が姫にはある。

 そもそもとして。天狐たるゴンと互角の力を持っている時点で姫も規格外に含まれる。


「まあ、今では天狐殿に褒められた星見はできへんわけですが」


『それでも十分な実力はあるだろう。特にこの京都だったらオレでもお前に勝てるか分からん』


「御冗談を。ただの式神が天狐殿には敵いまへん」


『龍脈抑えてる麒麟児が何を言ってやがる?』


 そのことはゴンには誰も伝えていなかった。Aとゴンは昔馴染みということで時々会って情報交換しているが、お互い全部を話しているわけではない。だが、ゴン側の情報は全て筒抜けという不平等さ。

 だが、ゴンとて気付くことはある。特に自然については天狐たるがゆえに感じやすい。数百年近付いていない土地とはいえ、生まれ故郷の京都についてならかなり詳しい自負があった。


「ありゃ。さすがに隠し通せまへんでしたか」


『むしろエイが支配してなくて良かったとさえ思ってるぞ。そこのバカが京都の龍脈を所持してみろ。気まぐれで日本が消えるぞ?』


「私とてそこまで非常識ではないさ。やるとしたら建築物を全て破壊して人類を九割抹殺するくらいだ」


『それは全滅と同義だ、バカ。頼むぞ、姫』


「仰せつかりました。善処しましょう。ただあたしも日本は滅びてもええという考えなので悪しからず」


『それは金蘭が悲しむからやめろ』


 金蘭はどう考えたかわからないが、玉藻の前のために日ノ本を守ることを誓った安倍晴明の式神の一角。だが、残念なことに安倍晴明が生きていた頃から一千年が経過した今、その時代の産物などほとんど残っているはずもなく。

 日本は残ったが、玉藻の前が見たら喜ぶ世界かというと正直首を傾げたくなる世の中だ。


『それで?今回の目的はなんだ?前みたいに傍から見ているわけでもなく、直接乗り込んで来るなんて』


「ん?康平君への自慢だよ。君が見られなかった息子たちの晴れ舞台を収めてきてやったぞってな。あとで届ける予定だ」


『あの二人にも予定があったんだから勘弁してやれ……。土御門の棟梁に会ったら面倒だからって避けてたのに、お前が来たら台無しだろうが』


「はっはっは。今を生きる人間が苦労するのは当たり前のことだろう。この世から解脱したところで天国や地獄に人間の魂が行くわけではない。冥界やらなにやらはたしかにあるのだろうが、それは人間が行き着く先ではないよ。人間にとって現世こそが天国であり地獄なのだから。生きている間くらい苦労してしかるべきだ」


 他人の不幸を眺めたいAとしては、大なり小なり他人が悶絶するような表情を見られれば、わりかしなんだってする。その火種を自分で引き起こしているために他者から見ればマッチポンプでしかないが。


「まあ、それ以外にもやることはあるんだがな?土御門の醜態を見に来たり、現麒麟の実力を測りに来たり。今のところは興醒め、と言ったところか」


『ああ、今の麒麟か。たしかにアレは興醒めだろうよ。康平と変わらない程度の実力で麒麟とはな。戦ったわけじゃないから正確なところは分からんが、もう一つの方はダメだな』


「やはり天狐殿なら見ただけで分かるか」


『ああ。あいつは星見じゃない』


 星見、つまり占星術に長けていたり未来視の力がある人間のことだが、星見同士はお互いを分かり合う。Aも星を詠めるので一目見て気付いただろう。ゴンは星見ではないが、天狐なるモノは神に等しい視点を得ている。

 人間の一能力くらい看破するのはわけなかった。


「ふむ、つまらん。先代の跡を継いだからよほど優秀なのかと思ったのだが……。ただの見得だったとは。天狐殿なら彼女の隠している霊気も見えているのだろう?戦闘能力がずば抜けているとかあるのか?」


『霊気の総量なら珠希の方が上だな。まあ、珠希が異常だというのもあるが。他の四神や先代麒麟をオレが知らないから何とも言えんが、姫よりは遥かに格下だろうよ』


「それはそれは。おおきに」


「ハッ。先代の跡を一年で継いだから期待していたのにその程度か。星見でもなければ利用価値がないな。狐憑きの少女も規格外とはいえ、それで人類最強の陰陽師を名乗るなんてな」


 Aと姫もミクが規格外なのは蟲毒の時に見ているからわかっている。そのミクにも今なら二人とも完勝できる。現麒麟もその程度だろうと思って脅威となるであろうリストから外した。


『お前が考える人類最強の陰陽師は誰だよ?』


「明君はまだまだだし、珠希君もそれは同様。姫は現状式神だ。それらを除外して生きている人間ということで考えれば先代麒麟だろうな。他の九段共ではどうにもならん」


『そんなにもか?』


「康平君よりも戦闘能力が高い上位互換。星見ができる姫だと考えてくれればいい」


『そんな奴が今でも生きてるのか……。一千年っていう区切りだからこそか?』


「かもしれないな。時代の節目というのは存外、そういう逸脱者を産み出すのかもな」


「さらりと人を人外扱いせんでくれます?」


『安心しろ。生前の時点で人を辞めているし、今は式神だ』


「あたしだって好きで式神になったんとちゃいますのに……」


 ゴンの軽口に姫は拗ねてしまった。存外没年に囚われているのか、姫の精神年齢は割と低い。式神として何十年生きていても、精神も肉体も死んだ時に止まったまま。永遠の十二歳から、未だに一歩も踏み出せないまま。


「おや?二人とも、軽口はそこまでだ。面白い余興が始まるぞ」


 Aの言葉でゴンと姫も前を向く。何か気になることでもあるのかと壇上を見てみたが、誰かの霊気が高まってハプニングが起きそうな気配もない。


「新入生総代、挨拶。新入生総代──」




今年も終わりですね。よいお年を。

次も三日後に投稿します。感想など待ってます。

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