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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
2章 新入生歓迎オリエンテーション
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1-1-3 入学式から波瀾万丈

面倒な人との邂逅。

「まあ!あなたが無礼者の難波家嫡男ですの!よくもわたくしの前に堂々と姿を見せられましたわね!」


 突然の大声に耳がキーンとなる。そんでもって俺らに向けられる視線が痛い。クラスメイトも俺の家と目の前の少女の家柄を理解した頃だろう。それでもって無礼者扱いだ。立場的には俺が辛いか。

 銀郎と瑠姫が護衛として姿は現そうとはしていないが警戒している。ゴンは姿を現さないと決めているためにどこ吹く風だ。おい、ちゃんとした式神。


 銀郎は帯刀している刀の鯉口に手を伸ばしてるし、瑠姫は今にもシャーって聞こえそうなほど威嚇している。難波家が辱められたってことはお前らも貶されたってことになるから怒るのもわかるけど自重しろ。


「無礼者?あんたが誰かもわからないのにそんなこと言われる筋合いはないんだが?」


「わたくしを知らない時点で無礼ですわ!その口調をまずは直しなさい!」


「……ならまずは名乗ってくれないか?名前も知らない相手に癇癪起こされても困るのはこっちなんだが」


 予想はついていても、それが合っている保証はない。難波と聞いてこうも苛立っている相手は大体血縁だとは思っている。目の前の少女と血縁関係などないが。

 賀茂がこうも威張る理由がわからない。血縁でも何でもなく、ただ祖先が師弟関係だっただけなのに。安倍晴明が当代一の陰陽師になってからは欠片も陰陽師としての実力で勝てなかった負け犬の癖に。

 それが子孫に至っても師弟関係を守れなんて言われたらうんざりするだろう。恩着せがましいというか、一千年も続けることなのかと。


賀茂静香(かもしずか)ですわ!安倍晴明様の血筋として知らないことを恥と思いなさい!」


「何故そこで安倍晴明の名前が?あんたは血筋じゃないだろうに」


「賀茂家と安倍家の関係性を知らないと⁉」


「一千年続けることか?それ。難波家は特殊な家系って知ってるだろ?京都から離れた土地に住んであの地の管理を任されていたんだ。京都の安定とか、陰陽術の普及とか、そういうのはそっちで勝手にやっててくれ。与えられた使命が違うって理解してるか?それこそ安倍晴明に与えられた使命を忠実にこなしてるんだけど?」


 封建的というか、意固地というか。安倍晴明が弟子だったからって分家までその師匠に遜れと?他の分家はそうしてるのかもしれないけど、京都に住んでいない分家の難波(おれ)がそれをする必要がどこにある。

 本家とされる土御門にさえ顔を出さないのに。必要だったら父さんが俺のことを土御門と賀茂の家に連れていってるっての。優先順位的に上の土御門にすら挨拶に行ったこともないのに、先祖の師匠の家系に挨拶とか。


 それに目の前の少女がすでにプロの資格を持っているとかそういう話も聞かない。それで顔と名前を知っていろっていうのは理不尽だろう。

 そっちも俺のことなんて本当は興味ない癖に。


「他の分家は皆挨拶に来ますわ!あなた方が異端だと何故自覚しないのです!」


「自覚してるけど?まさかそんな自覚もないお調子者だと思ってたのか?……賀茂本家の御令嬢だか何だか知らないが、こっちはこっちでやることがある。あんたにもやるべきことがあるんだろ?ならこんな傾奇者の奇行なんて気にしてんじゃねえよ」


 本当に突っかかってくる意味が分からない。相手が土御門の人間ならこの言い分も少しは聞き入れるだろう。それでも反省する気はないが。

 土御門と難波は一千年前の時点で分かたれた血筋の源流だ。その在り方に賀茂が口を出す謂れはない。安倍晴明が愛した土地の保護と災厄の獣が眠る土地の管理を任された家々。表向き(・・・)そういうことになっているんだからそれ以上関わらなければいいのに。

 そこまで目の前の少女が知っているのかわからないが。こちとら本気で降霊術を学びに来てるんだから邪魔しないでくれ。やることの違いにいがみ合ってたら疲れるだけだ。


「最低限の礼儀の話をしているのです!それを失しているからこうして──!」


「礼儀、ねえ?一千年前、安倍晴明が死に伏した時点で賀茂と土御門はお互いの家を同等としたはずだ。で、俺たち難波と本家とされる土御門も同じように本家と分家という違いさえあれ、同格として接することを取り決めている。お互い何があっても手を貸さないっていう不干渉の条件付きでな。だから土御門と同等の賀茂は、土御門と同等の難波と立場は変わらないってことだよな。それを記した証書が俺の家に代々受け継がれているが、それはいつの間に破棄になったんだ?それを土御門でもない賀茂が知ってるのか?」


 こっちだって正式に難波の次期当主に据えられた以上、受け継ぐべきことは頭に入れている。あの事件以降学校に行く機会が減ったということもある。家に篭って父さんからの個人授業を受け続けていた。

 それで知ったことだが、賀茂だろうが土御門だろうが難波に大きく出られる理由がない。なにせ同格なんだから。

 なら、礼儀だのなんだのは言いがかりだ。


「……破棄には、なっておりませんわ」


「じゃああんたも家柄においては俺と同格ってことだ。同格に礼儀なんて必要か?ここではお互い、ただの一生徒だろうが。年上ならある程度の礼儀を持って接しただろうが、ただのクラスメイトに敬語で話したり頭を下げて接しろって言うのか?俺はお前らの家臣になった覚えも下僕になった覚えもないんだけど?」


「──っ!その口調は上に立つ者として相応しくありませんわ!それで下の者がついてくるとでも⁉」


「ついてきてるだろうが。なあ、タマ」


「そうですね。口調だけで明様を軽視しようとは思いません。それに今口論になっている理由は難波の格を落とさないためのものですから、分家の身としては嬉しく思うことはあっても、嫌な思いはしませんよ?」


 そう言ってくれたミクの頭を撫でてやる。ついでに瑠姫が抱き着いていた。こら、頬摺りするな。俺だってしたことないのに。

 礼儀だの優雅さだのは上に立つ者としての作法とは聞くが、今の世界でそれを気にしているのは皇族や王族、宗教のトップと日本で言うところの名家のトップ層だけだろうに。難波も名家だけど、そういう教育を受けていない。

 表舞台に出るような家じゃないから別にいいんだろう。きっと。


「というわけで分家との仲も悪くない。あんたが気にすることなんて一つもなさそうだぞ?」


「いいえ、気にします!わたくしたちと同格というのであればこそ、それに相応しい作法と世への示し方があるのです!なのにあなた方は篭ってばかり!あなたの父君も皇族の御方々の拝謁式に一度も出席しない始末!それは不遜ではなくて⁉」


「じゃあ入学して初日の教室でこうやって叫んでるのは作法としてマズくないのか?それに表側は土御門の領分だ。一番厄介な、後ろめたい案件をこっちで預かってるんだから表側くらいそっちでどうにかしろよ。ウチの近くで起きた事件は積極的に解決してるし、何が不満なのかまるでわからん」


 そういう区分けは本来陰陽師としてあまりやってはいけないことだ。陰陽、つまりは光も影も両方を受け入れてどちらも伸ばしていかなければならない。

 一千年前に都の崩壊と、玉藻の前の封印なんて厄ネタが同時に起こったために分担しただけ。どっちも安倍晴明が関わってるんだから仕方がない。物理的にも距離がありすぎたし、別れた方が効率的だっただけ。


 土御門と賀茂に対して、関わっていないからこそ与える不利益なんて存在しないはずなのに。何に憤っているんだか。自分は賀茂家なんだから他の人間は傅くべき、なんて選民思想に陥ってるんじゃないだろうな。


「不満ですわ!今の世をご存知?いつまで経っても魑魅魍魎は減らず、むしろ活発的になっている傾向もあります。それなのに同格である難波が手をこまねいていれば苦言も申したくなるものでしょう!」


「そんなの呪術省管理の案件だろ。それを名家の嫡男とはいえ、高校生に求めるのか?父さんはそういう要請を受けてそこそこ出張してるらしいけど、それを俺たちまでもがやる理由は?」


「もう成人したでしょう!名家の大人としての自覚はないのですか⁉」


 もう飽きた。星斗や大峰さんのようにからかっても面白くないし、キンキン騒ぐだけで言い訳考えるのも面倒になってきた。目の前の少女は俺のからかいリストからは除外しておこう。

 それにこういう、家柄を威張って上に立つべきだのなんだの、自分の成果でもない物を土俵に出す奴とは話が合わない。


 成人したとはいえ、まだ学生の身。それで魑魅魍魎をどうにかするために力を貸せと。一千年以上前からの難題を、たかだか学生に解決できると思ってるのか。安倍晴明だってどうにもできなかったのに。

 それは正確じゃないか。どうにもする気がなかったんだ、陰陽師の祖は。人間のこと嫌ってたからなあ。


 そんなことを考えていると、終わらない口論に嫌気が差したのかミクが両手で柏手を打っていた。そこに込められた霊気に、一瞬で全員が抵抗する気力を削ぐほどのもの。耐えられたのは俺と祐介と、廊下の一人だけか。

 って、あの霊気大峰さんじゃん。見てたなら手助けしろって。


「賀茂さん。もうすぐ先生が来られると思います。教室に近付いた際に口論が起きていたら困らせてしまいますよ?」


 だからって力技で解決しすぎだろ。俺もこれ以上会話したくなかったけど。


「……そこの男には様をつけて、わたくしにはさんなのね」


「賀茂家がどういう立場にあるのかはわかっていますが、あくまでわたしは難波家の分家の子どもですので。明様に敬意を向けても、あなた方に忠誠を誓うわけではありませんから」


「……いいですわ。分家含めて、あなた方が異端だと理解しましたので」


 そう言って黒板に向かって席を確認し出した。あー、長かった。もしかして他の分家って土御門と賀茂に絶対の忠誠を誓ってるのか?じゃないと、忠誠を誓って当たり前のような態度してこないよなあ。

 口論が終わったために教室の空気が若干良くなる。だがそれ以上に俺とミク、そして賀茂静香は注目されていた。憶測が飛び交ってることだろう。


「珠希さん、何したの?あの柏手を聞いてから身体が硬直したんだけど……」


「言霊と同じで、音に霊気を混ぜて相手の動きを封じるものですよ。今回はこの場を支配しようとしたので不特定多数を標的にしましたし、言霊のようにしっかりとした内容も決めていなかったので数秒動きを封じるのが関の山です」


「十分すぎるけどな」


 教室の前の扉から大峰さんがこちらを睨んでいた。無視無視。手を出せなかったのって賀茂もあの人にとって護衛対象だからか。

 お仕事って大変だな。しかし護衛対象を全員同じクラスにしないで、大峰さんも違うクラス。護衛対象が三人いるクラスよりももう一人の方か?それとも大峰さんは全員と別のクラスとか?


 確認も取れないままそれから数分して、クラスメイトは全員着席していた。担任の先生がやってきたためにチャイムの前に話が始まると思ったからだ。

 担任はまだ若い男性教師。その教師もチャイムが鳴ってから話が始まった。


「さて、君たち入学おめでとう。君たちの担任になった八神(やがみ)(れん)だ。現在五段、君たちには健やかな三年間を過ごしてほしい。それでは入学式について説明する」


 そうして始まった入学式の説明。リハーサルがないのもどうかとも思うが、面倒だったのでなくて良かったかと思い直すことにした。




次も三日後に投稿します。

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