1-1-2 入学式から波瀾万丈
教室での一悶着。
「……天海か。知らない人間じゃなかったからマシ、なのか?」
「久しぶり、難波くん。私も合格できたことに驚いてるよ……。難波くんなら知ってるよね?私のお父さんのこと……」
一般受験の前に起こったウチの土地でやらかしてくれた蟲毒。その犯人はおそらく安倍晴明の血筋で、天海の父を呪術によって洗脳して隠れ蓑にした。実際に引き起こしてしまったのは天海の父なので言い逃れはできないのだが。
父さんの話では洗脳を解いて今は入院中。呪術省の介入が頻繁に起こっているとは聞いていた。
「あー……。人質か」
「え?えっと、何に対して?」
「もう二度と父親がそんなことをしでかさないように。ここは国立で、呪術省の手も入り込んでる場所だからな。また何かしたらすぐに天海をどうにかできる。下手に県立高校に行かれるよりこっちの方が制御できるって思われたんだろ」
「それじゃあ明様。薫さんは……」
「父親のことこれ以上疑われたくなければ大人しく生きて国に貢献しろ、ってところか?」
「そんな……」
天海がうなだれる。とはいえ全部想像でしかない。呪術省ってそういうことするよなっていう認識があるだけで、この学校自体は天海を普通に実力で受からせたのかもしれないし。
「深く気にすんなって。祐介が受かったんだから実力は十分にあるんだっての」
「それはそれで俺に失礼じゃね?」
「お前の内申点を鑑みれば疑問もないだろ。万年呪術ビリのサボり魔くん?」
「ま、内申点の差は確かにあるな。中学の俺の評価は最悪だっただろうし」
「……住吉くんと仲が良いのは、陰陽術の実力が近かったからなんですね。疑問が解けました」
「それはなにより」
俺と陰陽術で語り合えるのって中学じゃ祐介くらいだったからな。陰陽術に限れば今でも天海より祐介の方が上だ。俺の両親に加えてゴンにも教わってるからな。夜に街の巡回もしてたし。
実戦経験がダンチ。比べるのもちょっとって感じか。
大峰さんもいることだし、ウチの学年は強い人が揃ってそうだ。行事に学年別呪術対抗戦とかなかったよな?ミクがいる時点でヤバいってのに、それに大峰さんとかいう麒麟がいるなんてひどい一方的な虐殺になりかねない。
「タマ。俺たちの席は?」
「黒板に座席表張り出されてますよ?」
「ありがとう」
祐介と二人で確認していく。出席番号も書かれていたのだが、その座席表を見て祐介と顔を合わせてしまった。
祐介とは席が離れていたので一旦別れる。そして自分の席にカバンを置くと、隣の席で満面の笑みを浮かべる相手に問いかけた。
「隣ですって言ってくれれば良かったのに」
「それはそれで新生活の醍醐味がないじゃないですか」
ミクの笑顔を見て、どうでもいいかと思ってしまう。効率で考えたらさっきミクに教えてもらえば移動する手間が省けたわけだが、何でもかんでも効率で考えたらダメだ。
ここには高校生活を送るために来ているわけで、ミクとの学校生活を楽しみに来たんだから。もちろん陰陽術の研究は進めるが、最優先事項ではないかもしれない。
「それもそうだな。俺が悪かった」
「フフ、いいんです。薫さんもお願いしますね」
「うん。そうそう、難波くん。約束覚えてる?」
ミクの後ろの席は天海だった。さっきから席に座って話していたからそうかもとは思っていたけど。
で、約束か。
「ゴンから教えを請いたい、だっけ?」
「そう。合格したらって話だったけど、学校卒業したら会う暇なかったから……」
天海は俺の家を知らないから当然だし、ウチの京都高の合格発表は中学の卒業式より後だった。
それに俺は俺でやること多くてあまり実家にいなかったし。連絡先も交換してなかったから連絡が来ることもなく。
「今度の暇な時にな。学校の中でゴンのこと出そうって思ってないから、休日にでも」
「わかった。お願いね」
そういえば天海ってゴンが狐だって知らないのか。初めて会った時は犬の姿に偽っていたわけだし。もし狐だからって偏見持ってたらそこまでだな。
そんなことを考えていると教室の中がざわめき始める。クラスメイトの視線を追いかけてみると、教室の後方の扉から入ってきたのは一人の女子生徒。
日本人としては有り得ない空色のショートボブカットに、鬼のような真紅の瞳。片手カバンを持ってこちらを睨んでいるようだった。おそらく見ているのはミクの金髪。髪を染めていない限り、生まれつき霊気の量が尋常じゃなく多い場合のみ髪や瞳の色が変色する。
変色しているのは教室内でミクと今入ってきた少女のみ。単純な考え方をすればこのクラスの2トップはこの瞬間に決まったことになる。
特に今入ってきた少女。霊気をダダ漏れにしすぎだ。陰陽師の名家なら抑える方法を真っ先に覚えるもんだろ。陰陽師の才能がある人間は霊気に敏感になる。大きな霊気には委縮するものだ。
宣戦布告ってところか?初日から立ち位置をはっきりさせておこうっていう。それならそれでいいけど、そんなもの対立感情煽るだけだろ。実際クラスメイトが全員警戒してるし。
その少女はズカズカと歩いてきて、ミクに向かって見下し気味に睨んできた。その視線の怖さから俺の後ろに隠れるミク。
これが全力ならミクの方が霊気の総量上だよなあ。
「……金髪のあなた、お名前は?」
「な、那須珠希です……」
「那須?聞かない家名ですわね。地名としては知っておりますが……。もしやその那須かしら?」
「は、はい。地元ではありふれた苗字ですが……」
ミクの父親はマジでただの一般人だからな。陰陽師の才能なんて欠片もない。それに俺たちの地元では地名なこともあって本当にありふれた苗字だ。全人口の一割はいたはず。
初対面の人にすごまれて怯えるミク可愛い。じゃなくて、変なことにならないように警戒しておかないと。おそらくこいつがアレだろうし。
「まあ、あの地はとても大きな霊脈のある土地。あなたのような突発的な存在も産まれるでしょう。目ぼしい実力者は目を通しておりましたが、あなたのことは名前も聞いたことありませんでしたわ。家柄もそうでもないようですし」
「お父さんもお母さんも一般人ですから……。でも、ちゃんとした先生がいてくれたので、足は引っ張らないと思います」
「そう。それならいいわ」
そっけなく返しながらも俺の方を睨んで来る。俺はただの黒髪黒目なのにな。
いや、原因はミクが掴んでる俺の袖だっていうのはわかってるけれど。
「……で?あなたは誰なのかしら?この子の保護者?」
「まあ、あながち間違ってない。難波明だ。どうも」
「まあ!あなたが無礼者の難波家嫡男ですの!よくもわたくしの前に堂々と姿を見せられましたわね!」
メリークルシミマス。
次も三日後に投稿します。




