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5ー3ー3 調停者と原初の女 

贈り物と心内。

「陰陽術、及び神の権能までは受け止められないことが確認できました。先ほどぶつけた霊気と神気を鞘が吸収できなかったことが良い例です。武器としても優秀でしょうが、あくまで魔術師を想定した武器なのでしょうね。神々が邪魔をしないと決め込んだことが原因か、そもそも神の権能に耐えられるような武器を作れなかったのか。その辺りはわかりませんが」


 今までも神々はイブをあまり邪魔していない。星のあるがままに身を任せて干渉をしなくなったからだ。それでイブが調子に乗っちゃったのか、自分に反抗されないために能力を抑えたのかまではイブに問い質していないのでわからないが、鞘としての能力はそんなもの。

 だが、らしいと言えばらしいだろう。他者の力を奪って溜め込んで。そのまま相手にお返しできる。やられた側からすれば魔術を消されて、そっくりそのまま相手が使ってきたと思い込む。自分の絶対の自信(魔術)を簒奪されたと思ってもおかしくない。

 他者の人生を平気で踏み躙るイブが与える、本人の性格が表れた能力だ。


 そこへ混乱しているところに、地上の武器では太刀打ちできない剣を使って制圧する。攻防隙のない組み合わせだ。まさしく地上を征することのできる、破格の贈り物(ギフト)

 魔術師と戦うには初見殺しにもなるのだろうが、俺たち陰陽師や神のなり損ないを相手にするには少し頼りない武器だ。リ・ウォンシュンと戦ったとしても、仙人モードだったら斬れ味と耐久力のいい剣と鞘としてしか機能しなかっただろう。

 凡百の魔術師から奪った魔術なんて、神の頂に届くかの仙人には通じない。片手で捻られるだけだ。


 右手の五芒星を使えば話は違うんだろうけど。

 そう考えると現代人としてリ・ウォンシュンは規格外だったな。さすが中国で独力で仙人の名前を継いだだけはある。彼が命を救われた天狐も、彼を導いた仙人も、神に連なる存在だからその域に辿り着く道標になったんだろう。

 だが、元々の才能がなければ仙人になんてなれない。彼はまさしく稀有な才能と意志の持ち主だった。

 だから母上も彼を案じて顔を見せたのだろう。母上は言葉こそぶっきらぼうなところがあるが、その心根は心配性で奉仕体質だ。


「もしイブやアダムと戦うことになったら。それを使わない方がいいですよ。おそらく対策されていますから」


「忠告ありがト。でもイブはまだしも、アダムと戦うなんてあり得るノ?」


「さあ?未来を全て視た訳ではありません。可能性の話です。身体の所有権を巡って身体の内側で戦うなんて、ついさっきやったことでしょう?」


「それもそうネ。あーあ、ワタシがボロボロと崩れていくワ。イブに与えられたものが全部なくなったら、ワタシはどこにいるのカシラ?」


 なんかいきなり訳のわからないことを言い始めたぞ?使っている武器や魔術はほとんどがイブに与えられたものだろうけど、それがなくなった後のことを心配してどうするんだか。

 というか。なくなったからってどう変化するわけでもあるまい。シェイクスピアの魔術はキャロルさんが自分で取得したものだろうに。


「その剣や鞘、五芒星を失ったとしても。キャロルさん(あなた)たった一人の存在(キャロルさん)だという事実は変わらないでしょう?身体にまだ大きな変化はないし、さっき交渉したんだから当分は大丈夫でしょう。記憶や精神を侵されているわけでもないんだから、何を心配することがあるんです?」


 思ったことをそのまま言うと、キャロルさんは目をパチパチとさせながら俺のことを凝視して頬を赤く染めている。

 少し離れた場所では大きなため息が三つほど聞こえて、その他大勢のギャラリーからはバカみたいに大きな笑い声が響いた。

 ……あれ。何か間違えたか?


「……難波君さあ。天然でそれやってるとしたら酷すぎるよ?」


『でも明様は昔からああいう方です。嘘偽りのない方だからこそ、これだけの神々に認められているわけで』


「だからって悪質ですよ、ハルくん。昔は関わる女性がほぼいなかったからいいものの、現代だと困った悪癖ですよ……」


 女性陣から非難轟々だ。キャロルさんも頬の熱を払おうと首から音が出るほどブンブンと頭を振っている。

 存在を認めただけでそんなに顔を真っ赤にしないでくれよ。愛の告白じゃなかったはずなのに。それともキャロルさんを一個人として認める人が周りにいなかったんだろうか。あれだけの大所帯である「方舟の騎士団」に所属しているんだから友達くらいいそうなものだけど。

 イブに繋がる五芒星や実力に関しては、上層部とかの知っている相手以外に隠していたのか。そうすると実力や境遇を含めた素の自分を晒け出せる相手なんてこれまでいなかった、とか。

 これ、俺が女性だったら今みたいな事態になってないんだろうな。

 人間って難しい。


「アキラは戦いたくないノ⁉︎さっきからずっとワタシの気に障ることばっかり言っテ!」


「変な捉え方してるのはキャロルさんの方でしょう?それに精神年齢考えたら俺なんてお爺ちゃんですよ。そんなお爺ちゃんに何か言われても嬉しくないでしょう?ただの若作りジジイです」


 そう。キャロルさんにお節介をしてしまうのも、同年代の若者を心配することも悔いることも。全て成熟してしまっている精神から漏れ出る甘えと慚愧の念からくるものだ。

 学校や社会に溶け込んでいるようで実のところ一歩引いている。横や後ろで離れているのならまだしも、時には上から眺めているような有り様だ。

 俺がずっと幼少期から味わってきた疎外感。


 母上の血を継いだ半妖であること。神の血と力を備えていること。調停者に選ばれてしまった元々の精神性。それに加えて追加される平安の頃の感情と経験。

 この異物感を正しく理解してくれるのは事情を知っていた両親や姫さんくらいのもので、後は絶対的な身内の式神たちやミクだけだ。妖や神々も事情を知っていれば理解してくれただろう。


 人間の理解者の、いかに少ないことか。

 これでは人間のコミニティで生活を送っていれば違和感を覚える。

 そんな異物に恋愛感情を抱いている天海やキャロルさんがおかしいんだと思うんだけど。ミクや金蘭は別にして、保護している狐憑きのヒヨリはそもそも関わっている人間が少ないからという一応理由もわからなくはないんだが。


「……人間は五感を使って感情をコントロールしているのヨ。アキラのその見た目でお爺さんに見えると思ウ?」

「ならその感覚が狂っていたか、騙されたということで。キャロルさんはイブによってそういうことに鈍くされていたんでしょうけど、天海は風水が使えるんだから気付けるはずじゃ……?」


「何で私に飛び火してるのっ⁉︎」


「薫さんがハルくんを好きになっちゃったから、仕方がないのでは?ハルくんはああいう人ですし」


「珠希ちゃんまで!それを言うなら珠希ちゃんと金蘭さんもでしょ⁉︎」


 ああ、向こうが騒がしくなってしまった。

 でも最初に俺に白い目を向けてきて文句を言ってきたのは天海なんだから部外者のつもりでいるのは虫のいい話だと思うぞ。


「わたしたちは一千年前からこの感じですから」


『大事なことは見た目や年齢ではありませんので』


「うう〜。二人は特別感出してズルいっ!特に珠希ちゃんなんて一人だけハルくんなんて呼んじゃってるし!」


「あら?ではセイって呼びましょうか?昔はそう呼んでいたんですよ?」


『じゃあ私はお父様と』


「金蘭ちゃんがセイをそう呼ぶのは久しぶりですねー」


「二人にしかわからない会話しないでよ!」


「ここにいる神々のほとんどはわかる会話ですよ?むしろ仲間外れは少数派だったり?キャロルさんと薫さんと、一千年前は神じゃなかった子たち以外には通じる話です」


 うわ、懐かしい。ミクも金蘭も今になってから一度も呼ばなかった名称を使ってくるなんて。

 俺は昔からミクのことは藻女(みくずめ)か玉藻。金蘭のことは金蘭としか呼んでなかったからな。呼び名が変わってるのなんて俺とゴンくらいだ。


『のう、まだ話は続くかの?もうそろそろ活動限界じゃ』


「『婆や』にはこの神の御座は辛かったですか?セイー。そろそろ終わらせてくれます?」


「わかった。と言うことでキャロルさん。そろそろ終わらせましょうか」


「……なんか、気の抜けることばかりなのだけド。ま、仕切り直して決着をつけましょうカ」


 イブの介入があってグダグダしたままだ。俺も一旦休憩が入ったりしたし。

 「婆や」は式神なのにミクとほぼ同一の存在なためにあまり神の御座に留まれない。ミクが側にいても限界がある。ずっとここにミクと一緒にいたら天照大神として同一化してしまう。

 それを避けるために、キャロルさんとの戦いを一旦終わらせないと。イブの介入があった時点で別の日に持ち越しても良かったんだが、神々がそれを許さないだろう。

 今度は合図もなしに、お互いが駆けて剣と刀をぶつけ合っていた。


次も三日後に投稿します。

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