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5ー3ー1 調停者と原初の女 

仕切り直し。

 キャロルさんが倒れて三十分ほど経っただろうか。銀郎と瑠姫に様子を確認させつつ、俺たちはミクが用意したレジャーシートの上で休憩していた。ミクと「婆や」の淹れるお茶を飲みつつ経過観察だ。

 イブが現れて戦闘した後、言葉責めをしたらイブとキャロルさんで身体の内側に閉じ籠ってしまった。すぐに動きそうにもなかったのでそのまま戦闘態勢を解いて様子見に移った。他の神々もいきなりのことで監視を手伝ってくれているし、俺たちが見るまでもなく多数の目が見張っている。

 それだけイブがこの場に現れたのは想定外のことだった。


「大天狗様。ここまで神の御座のセキュリティは杜撰なものでしたか?」


「そう言うな、晴明。今回は特例じゃ。お前さんと鬼たちを何回か招いてしまったことと、こちらからの介入で(みち)を示してしまった。そこに付け込まれただけじゃよ。文句は葦那陀迦神(あしなだかのかみ)にすべきじゃ」


「何で私なのですか!こちらの管理はあなた方に一任したでしょう!それは大神たちによる承認を得たはずです。杜撰になったのはあなた方の怠慢でしょう?」


 大天狗様の言葉に、過去地上に降りていた時より髪を伸ばした葦那陀迦神(あしなだかのかみ)が反論を唱える。天の逆鉾が元に戻って神格を取り戻したために本来の力に戻ったため、管理を中つ国だけにしてもらったんだとか。

 神の御座は大神たちに、地上には最近土地神から神の御座に上がった神見習いに管理を任せているために彼女の負担は減ったのだとか。地上の管理を任せている神のことを知ったら星斗は驚きそうだ。


「あの物の怪もどきについては妾たち全員の怠慢かしら。全員が観戦を望んだからこそ、路を開いたんでありんすから」


『連帯責任ー!』


『クゥちゃんも悪いー!』


「介入された側のオレまで巻き込むんじゃねえよ!」


『『葦那様が悪いならクゥちゃんも同罪だよ?』』


「んなわけあるかー!」


 またゴンとミチ、コトがじゃれ合っている。あの三人小狐という共通点があるからか仲良いな。宇迦様の後ろから顔だけ出してゴンを苛めている様は何というか、可愛らしい。

 というか宇迦様。仮にも原初の人間を物の怪もどきって。確かに力だけ見れば神に近しいよくわからない存在だけれども。


『明様。彼女目を覚ましそうです』


「わかった。銀郎ありがとう」


 呼ばれてしまったのでキャロルさんの元に向かう。さて、起きたらどっちの意識が表に出てくることか。イブだったら面倒だなあ。

 彼女の深層意識に眼を向ける。銀郎の言う通り彼女の中での対話は終わったようだ。それに、イブが還っていくのがわかった。

 キャロルさんが目を覚ます。何度か瞼をパチパチした後、俺の顔を見て状況を理解したようだった。


「キャロルさん、おはようございます」


「それって眠らせた本人が言う言葉?しかも永遠の眠りだシ」


「殺さないとあなたを解放できないと思ったので。それに即座に蘇生させる準備もできていましたよ」


「そういう勝手なところ、イブとそっくりヨ?」


「……それは甚だ遺憾ですね」


 正しく人間ではないという意味では俺もイブも大差ないどころか似た者同士かもしれないが、だからって彼女と同一視されるのは嫌だ。

 人間を食い物にしたり、星をめちゃくちゃにしたり。そんなことはしていないんだから。

 キャロルさんが身体を起こして、身体についた草などを払う。軽く身体を動かして異常がないかの確認も終えて、俺の方へ向き直った。


「さてト。とんだ邪魔が入ったけど、続きしましょうカ」


「続けるんですか?またイブに介入されるとか嫌なんですけど。それに彼女が出てきたとなれば、あなたを殺して右手の呪縛を解呪するなんて手段を取れませんし」


「それはいいのヨ。イブとも約束しちゃったし、この力を使ってあの寂しがり屋に会いに行かないといけないかラ」


「ああ……。やっぱりそういう選択をしましたか。その時になったらちょっとは手伝いますよ。イブの封印の一つが日本に在り続けるというのは気色が悪いですし」


「そこまで知ってるとか、ワタシにプライバシーなんてないノ?」


「今後の世界を一変させる可能性のあるあなたに遠慮なんてしませんが?」


「タマキー。あなたの彼氏、他の女のお尻を追いかけてるけどいいノー?」


「現状テクスチャを変える可能性のあるキャロルさんを監視しておくのは当たり前の措置かと」


 ミク以外にも周りの神々が全員頷いている。まあ、だよなあ。「婆や」が未来を視たことだし、また巻き戻しに巻き込まれるのは勘弁だろう。

 今度のテクスチャの変更は巻き戻しじゃなく、地続きなままの変化っぽいけど。


「寛容な彼女で良かったわネ?普通の女の子じゃ許してくれないわヨ?」


「ミクも俺も、普通じゃないので」


「何でワタシの周りって普通じゃない存在ばかりなのかしらネ?『方舟の騎士団』になんて入っちゃったから?」


「え?キャロルさん本気で言ってます?キャロルさん自身が普通じゃないからですよ?」


「……確定させたくなかった事実を突きつけるのはやめテ。それから目を逸らしていたのニ」


 そこから目を逸らしたってダメだろう。原初の男にされかかっている女の人なんて、どこからどう見ても普通じゃない。魔術に関しても世界最強で、原初の女に目をつけられていて。そんな女の思惑によって悲惨な人生を歩んできて。

 様々な怪異と戦ってきて、異能者の犯罪者を追い詰めて。学校にも行かずにずっと異能と関わってきて。

 最終的にイブのための人身御供になろうとしている人間のどこが普通だっていうんだ。


 キャロルさんは普通という言葉の意味を辞書で調べてきた方がいい。類は友を呼ぶではないけど、普通じゃない人の周りは環境から何から、普通じゃなくなってしまうものだろう。俺だってそうなんだから。

 世界の人口で考えたら異能が使える人間の方が圧倒的に少ない。大多数から漏れた時点で普通じゃないのがこの世界の常識だ。

 ミクなんて普通の女の子から一番逸脱している存在だ。神様だし転生体だし、最高神だし。そんな存在が人間の女の子のフリをしている。

 そんなミクとキャロルさんはどっこいなくらい普通の存在からかけ離れている。


「最初の予定からはだいぶ狂いましたが、戦うというのならいいですよ。仕切り直しといきましょう。ただし、やるなら俺一人です。三人相手なんて今のキャロルさんじゃ無理ですよ」


「そこまで実力が違ウ?」


「それはもう。俺たち一人一人がキャロルさんと同等以上です。そんな戦いは模擬戦としてお互いのためにならないですよ」


「だからってアキラ一人?ワタシ、接近戦辞めるつもりはないわヨ」


「承知の上です。だから──」


 法師の真似で、一本の日本刀を創り出す。神気を使えばこれくらいお茶の子さいさいだ。

 銀郎の日本刀くらいしか使ったことがないから、ベースにしたのは銀郎の腰にある刀。何度か振るってみるけど、たった三ヶ月程度で刀の扱い方が上達するわけはない。

 それは記憶を思い出しても同じこと。演舞としての刀の扱いしか習っていないし、このところ事件が多かったから結局刀の扱いもまともに教わっていない。

 夏休みに銀郎からちょっとと、ここ最近吟から少し教わった程度だ。無難に振るうことができるようになった程度。


「物質創造?生命を創れるんだから、物質ぐらいじゃ驚かないけド……。アキラ、規格外すぎなイ?」


「そんな存在と同等の陰陽師である金蘭、近接戦闘では右に出る者がいない吟を一緒に相手していたことを自覚してください。それもここは日本で、神の御座。俺たちのホームグラウンドです。キャロルさんにとって状況が厳しすぎますよ」


「そうネ。それでもやりましょウ。もしイブが暴れたら、ワタシが止めないといけないんだもノ」


 だから格上の俺とも戦いたいのか。最初は純粋に俺の実力を調べて日本を任せられるか、俺たちが会議で言っていたことが真実かを調べる程度だったんだろうが。

 状況は刻一刻と変わっていく。キャロルさんの人生がここに来てから変わったように。

 吟と金蘭をミクの元に戻して、俺もキャロルさんと距離を取る。今度こそ、誰にも邪魔をされない試合になるといい。

 今度は合図もなく、どちらからともなく相手目掛けて駆け出した。


次も三日後に投稿します。

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