4ー1ー1 鍵たる少女と日本の楽園
決戦場への移動。
最近、秘密の何かをするとなったらこの陰陽寮の屋上でやることになっている。今や陰陽寮は俺の庭だし、ここで色々やるのも問題ない。というか、隠蔽はここが一番便利だ。京都のどこでも変わらないけど、移動するのに面倒がなくて良い。
キャロルさんと戦うのはここじゃないけど、ここが京都で一番高い建造物ということもあって都合が良かった。屋上に来るには階段を上がらないといけないけど、簡易式神使えばすぐだし。
陰陽寮の正門にやってきたキャロルさんが、俺の簡易式神に乗って外から屋上にやって来る。屋上に着いた途端簡易式神は俺の手元に戻ってくる。やってきたキャロルさんはこの前の会談の時のようなスーツ姿じゃなく、八月初めて会った時のようなダメージジーンズにダボっとした黒い服。髪の毛はポニーテールで纏めていた。
そのキャロルさんは、屋上を見てここにいる人物を把握して、目を細めながら質問をしてくる。
「アキラ?ちょっとギャラリー多すぎなイ?」
「吟と金蘭、それに銀郎と瑠姫、ゴンは説明必要ないですよね?知らないのはミクの隣の二人でしょう?」
「ミク?誰?」
「ああ、タマのことです。俺の中でのあだ名で。タマの隣にいる栗色の髪をした京都校の制服を着ているのが友達の天海薫。狐の耳と尻尾が生えてる女性が『婆や』です」
俺とミクの呼び方は説明してなかったか。これをちゃんと把握している人も少ないだろうし、もう幼い頃の契約が満了したからなんの気もなしにミク・ハルで呼び合ってるけど、名前を鑑みたら全く該当しないからな。困惑してもしょうがない。
式神たちは八月とこの前の会談でわかっているだろうけど、天海と「婆や」はこれが初対面だ。天海も来たことには驚いたけど、ミクが誘ったらしい。
「天海薫です。難波君と珠希ちゃんのクラスメイトです」
『那須珠希様の娘なのじゃ』
「「エエッ⁉︎」」
天海とキャロルさんがハモった。「婆や」の言葉が意外で、上から下まで、「婆や」のことをガン見していた。
見た目で言えば「婆や」の方がお姉さんだから驚かれるのもさもありなん。喋り方も古風だしあんな大きな娘がいる年齢じゃないからな。普通なら。
「婆や」のお茶目な言葉にため息をついたのは金蘭。
『待ちなさい、「婆や」。そうすると瑠姫と銀郎は私の子供になるじゃない。瑠姫は良いけど、銀郎なんて吟との子供になるのよ?それは勘弁だわ』
『ええー。金蘭はめんどくさいのう。私はどう考えても主様の娘なのじゃけど。主様から産み出されたのなら娘というのが適しておるのじゃが。そもそも主様の来歴を考えると、これ以上に相応しい関係性はなかろう?』
ミクが元々神で、それこそ人間と同じ方法で子供を産み出したりしないために「婆や」は自分が神の子だと名乗れるわけだ。
それに瑠姫と銀郎はベースに金蘭と吟の他に猫と狼がいる。その猫と狼は金蘭が産んだ子じゃないので子供にはならないだろう。「婆や」が特殊なだけで。
あとはミクがほとんどの身内を子供扱いしているからだろう。法師ですら子供だ。確かに二人の共同作業で産んだ法師だけど、法師や「婆や」とは銀郎たちと在り方が異なる。金蘭が引っかかってるのは、まあ。
弟と子作りしたと思われるのが嫌なんだろ。
「俺だって法師のことは子供だって思ってないぞ。ミクの感覚が他とは違うんだよ」
『ならやはり私は主様の娘なのでは?』
「そういうことで良いだろ。だからって銀郎が金蘭の息子になるわけじゃない」
『私としては、銀郎はあくまで式神なんですよね……』
『あっしもそれで良いと思いますよ。珠希お嬢様と「婆や」が特殊なのかと』
金蘭を慰めつつ、天海もキャロルさんも「婆や」の存在に納得する。いや、まだキャロルさんはあんまり納得していないみたいで顔を顰めているけど。
「エット……。アキラたちは生命創造の秘術でも使えるノ?そういうところ、陰陽術って規格外だと思うけド。世界を見渡しても、そんなの奇跡って呼ばれる類のありえない現象なんだけド?」
「完全なる無から生命を新しく産み出せるのは、地上では現状タマだけですよ。あなた方がどこまで玉藻の前のことを把握しているかわかりませんから伝えておきますけど、玉藻の前はこの日本における最高神と同一です。で、タマはその産まれ変わりなので」
「誰もがポンポンできることじゃないのネ?なら良いワ。それこそテクスチャが変わっちゃうと心配したけど、今いるのはそこの『婆や』だけなのよネ?」
「はい。それ以外に生命の在り方に反した生物は日本にいませんよ」
俺やミクのような産まれ変わりは正直微妙なラインだろうし、法師はこの間までいたけど。キャロルさんが心配するようなことに当て嵌まるのは「婆や」だけだ。他に誰かを産み出そうなんて考えていないし、必要もないだろう。
今のテクスチャを崩そうとは考えていない、いわば保守派というのは「方舟の騎士団」と変わらない。昔はその辺りをあまり考えずに人手目当てで法師を産んだけど、神々に怒られなかったし何も言われなかった。テクスチャも変わっていないんだから問題はないはずだ。
むしろ皮肉なことに、今のテクスチャを強固にしてしまった。玉藻の前の死とその経緯で。
そんな俺たちがテクスチャを変えるはずがない。色々と書き換えられて失うのは真っ平御免だ。
「産まれ変わりなんてJAPANの人間はあまり信じないんでしょうけド。ワタシたちは信じられるワ。それの証拠が、ある意味この右手なんだかラ」
「いつの時代にも現れる適合者、ですか。その執念は気持ち悪いと思ってしまいますよ。でもキャロルさん自身が過去の人物の産まれ変わりというわけではないでしょう?精々魔術について記憶があるくらいだと思いましたが?」
「アキラ、本当にどこまでわかってるのヨ……?」
「また調べ直したので。俺たちの産まれ変わりとは別物ですよ」
でも、産まれ変わりと変わらないアプローチだ。魔術の継承、資格の譲渡。
人の人生を勝手に狂わせて。傍若無人な様は神のようだけど、やっているのは特別なだけの人間で。
俺よりタチが悪い。
「さて。そろそろ移動しましょうか。相手の素性もわかったので自己紹介はこれ以上要らないでしょう?天海と『婆や』にはあなたのことを掻い摘んで説明してあるので」
「ソウ?というか、移動するノ?ここでするんじゃなくテ?」
「こんな場所でやりませんよ。誰に見られてるのかわかりませんし、怖いストーカーに目を付けられるのは嫌ですから。ゴン」
「はいよ」
ミクが抱えていたゴンが、神気を解放する。その波動にキャロルさんが両肩をビクつかせていたが、ただ移動するだけなので何かフォローをしたりしない。
そのままゴンが発光して、道を開ける。
「豊穣の神、童空が許そう。我が神の御座へ、案内と決闘を許可する」
俺たちが光に包まれて、目を開けた先に現れたのは真っ白い空間。朱色の昔ながらの建物や鳥居などがあり、黄色い雲が浮かんでいるこの世から隔離された場所。
道は青く、どこまでも続く神の社。ゴンの神の御座に来たことはなかったが、断言できる。
俺はミクへ近付いて、差し出されたゴンの両頬を掴んだ。
「この駄狐!なんで自分の御座じゃなくて、日本の御座に繋げてるんだよ⁉︎」
「バ、バカな⁉︎オレはちゃんと自分の御座への道を開けたぞ!」
「どっからどう見てもお前の御座な訳ないだろ!こんな広い御座、主神級ですら持ってないぞ!何でここ一番でやらかすかなあ!」
「いやいや、待てって!オレのような木っ端な神がこんな人数連れて来られるわけないだろ!」
ゴンが叫ぶが、それはそうだ。いくらミクがいて、銀郎や瑠姫もいるからって御座の本丸に来られるだろうか。ミクが手を貸したならともかく、抱えていただけだ。「婆や」が何かしたわけでもない。
俺も法師のように忍び込むために道を開いたわけじゃない。となると。
「ようこそいらっしゃいまし。ハルとミク。それに御方々のお客人も」
「宇迦様」
『クゥは杜撰だねえ。こっちの介入に気付かずにそのまま移動させちゃうなんて』
『バカなの?異変に気付かないクゥはバカなの?』
「ほざきやがったなァ!このガキどもが!」
宇迦様と一緒にやってきたコトとミチへ飛び込みじゃれ合う三人。ゴン、コトとミチにガキって言ってるけど、年齢的には二人の方が圧倒的に上だし、役割としても木っ端な一柱よりも長年神に仕えてきた巫女の方が上じゃないか。
宇迦様のおかげで事態は把握できたけど、よく見ればそこら中に神々がいる。嵌められたな。
「ゴンのせいで観客が増えた」
「あはは……。でも皆さん気になったんだと思いますよ?ハルくんとキャロルさんの対決」
「はぁ。天海、ここにいるのは神々とそれに仕える存在しかいないから、くれぐれも粗相の内容にしてくれ。俺たちですら敵わない存在ばかりだから」
「ハルくんの嘘吐き。結構倒せるでしょう?」
「やりたくない」
「こんな時に軽口叩かなくても……。大丈夫だよ、難波君。ここの在り方から、いらっしゃる方々まで風水のおかげですぐに感じ取ったから。おとなしく見物してるよ」
天海に一応注意しておく。いつまでもじゃれあっていて宇迦様が困っているので、ゴンを掴み上げてミクに渡した。ミクも神としての力を使って暴れないようにゴンの行動を縛る。
予定と変わったけど、やることは変わらない。ギャラリーが増えただけだ。
次も明日投稿します。
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