表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
364/405

3ー3 方舟からの使者

久しぶりの一コマ。

「それで、戦うことにしたんですか?」


「ああ。俺の力を確かめたいんだってさ。キャロルさんの力も確認したいからちょうどいい。彼女の力を抑制する方法がわかるかもしれないし」


 今日は久々に学校に来て授業を受けていた。中休みにミクと天海と一緒に机をくっつけて弁当を食べている。

 護衛には銀郎と瑠姫、ゴンがいるので金蘭と吟は陰陽寮にいる。一週間に一日は学校に来ないと単位を渡さないと学校側に言われてしまったので仕方なく来ている。

 それと。


 俺やミクのことが気になるのか廊下などにたくさんの人がやってくる。気になるのはわかるけど、注目されすぎて視線が痛い。学校に滅多に来ないレアキャラ。難波の当主、安倍晴明の産まれ変わり。世にも珍しい半妖。

 そんなことで俺はすっごい注目されているし、ミクも俺と婚約者だとどこからかバレたので滅茶苦茶注目されているわけだ。本当にそういう話が好きなお年頃だ。


 今実質陰陽寮を取り仕切っているし、法師にも術比べで勝ったという事実も大きいんだろうけど。休み時間に外に出づらいのは困った。

 ミクも学校でかなり注目されているらしい。帝を還せる桑名先輩以外の唯一の人材とか、元玉藻の前とかそういうのが噂になっているようだ。銀郎と瑠姫によると実害が出てないから静観しているらしい。


「そのキャロルって外国人の人と戦って、何かしようとしてるの?難波君がただ戦いたいだけ?」


「海外で一番強い人らしいから、その実力を把握しておきたいってことが一つ。指標になるし、もしもに備えられるから。本当の最強には敵わないってわかってるけど、人の戦力を知ることも大事だからな。あとはその人が呪われてるっぽいから、呪いの詳細を調べておきたい」


「ホント、難波君にわからないことってあるの?」


「あるさ。そういう異能的な何かだったらわかる眼を持ってるけど、人の心とか機敏なんて全然だ。それに本気で誤魔化そうとしている呪いなら見破れない。半年見てても気付かない体たらくだ。神様にもわからないことを、人間の俺じゃもっとわからない。それが道理だ」


 それだけ祐介の誤魔化しが凄かったと褒めるべきか、賀茂という家の闇から眼を背けていた結果か。あの二人についてはもう少し違う結末があったんじゃないかと今でも悔やんでいる。

 いくら俺の眼が神様に匹敵するとしても。過去や未来を確認できて、地球の裏側の現在すらも見渡せるとしても。身近な異常に意識を向けなければ気が付かない眼だ。どれだけ視野が広くなっても、石や草花に意識を向けなければそれが傷付いているのか、どんな形で色をしているのか考えることもないってこと。


 土御門光陰と賀茂静香に関しては意図的に視界に収めないように意識していた。土御門は地元を襲ったことで敵対していたからボロを出さないかと家を中心に調べていたし、そんな土御門光陰の婚約者な賀茂静香もロクでもない女だと思っていた。

 初対面から最悪だったからこそ、そうやって意識の割り振りをした。最初から壊れていたという可能性に思い至らなかったし、たとえ気付いたとしても自業自得だろうと切り捨てていただろう。やって良いことと悪いことがある。その事実を知るまで、賀茂静香という少女は俺にとって悪だった。


 深く調べようとしなかった俺のミスだ。ちょうど良いくらいに土御門光陰と実力が近しいから、本来の能力が制限されているなんて思考にならなかった。おかしな思考、態度は一千年の積み重ねでおかしくなっているのだと決めつけた。学内ではいびり散らし、学外では信奉者を得ているというあべこべも二面性がある、外面が良いだけと気にも留めなかった。

 そうして助けられる命を、見逃した。これは今の人生の、最大の失敗だろう。祐介が二番目。むしろ祐介が土御門家に連なる者だと気付いていたんだから、賀茂家にも関わっていると察してもおかしくなかったのに、祐介の手も取らなかった。


 ミクや、法師を。優先したために。

 祐介を助ける手段はあったはず。それを選択しなかったのは俺と法師だ。

 俺の精神の天秤が壊れないように。最も大事な家族を除いて、容赦なく裁決を下せるために。

 法師は祐介を踏絵にした。


「そんな失敗をしたばかりだから、キャロルさんのことはちょっと気にかけていてな。もしその呪いのせいで日本が滅んでもやだし」


「……えっと。その呪いってそんなに危ないものなの?」


「人類最古のストーカー?ヤンデレ?が施した呪いだから。人への迷惑なんて気にしてないし。駆除に失敗したら世界が滅ぶ」


「比喩じゃなくて?」


「比喩じゃなくて」


 それを聞いて天海は弁当へ伸ばす箸が止まる。俺とミク、式神たちは気にせずご飯を続けてるけど。スケールの大きさを知ったところで俺たちにできることはたかが知れてるし、その呪いもちゃんと調べるのはこれから。

 俺たちにもどうしようもなかったら、海外に核爆弾より酷い爆弾が放置されるだけ。いつ爆発するか、不発弾になるのか。それに注視するよう心掛けるだけだ。


 なんとかできそうなら手を施すけど。陰陽術は少し独特すぎて海外の呪いに通用するかどうか。魔術とかと系統が異なりすぎて使えるのか、系統が違うからこそ処置ができるのかすらわからない。

 こればっかりは実際に相対してみないとわからない。八月の共闘の時はそんなに気にもしなかったし、先月は龍とミクのことが気掛かりであの人のことまで気が回らなかった。


「難波君に世界がかかってるってこと?」


「それは違いますよ、薫さん。ハルくんがどうにもできなかったら、ただそのストーカーの都合が良い世界に改変されるんです。陰陽術がなくなったり、世界に魔術が浸透したり。こればかりは相手の出方次第なので、わたしたちはその結果を待つしかないんです」


「神様が言うにはもう数回世界は繰り返してるって言うし、俺たちはそこまで関われないからな。俺もミクも天海も存在はしてるんだろうけど、こうして一緒に食事をしていない世界に変わる。そもそも知り合っていないかもしれない。そんな変化だ」


「それは、嫌だな」


「俺も嫌だよ。だから調べるんだ」


「この日常は、難波君次第なわけじゃなくて、そのストーカー次第なんだ。……変な世界」


「まったくだ」


 でも世界を変えるということには手段が二通りある。一つはさっき言ったように世界の始まりへ巻き戻す方法。これはテクスチャを書き換えて、その決定的な差異が産まれた瞬間まで巻き戻るために、星が認める時点までしか戻せない。

 今回の場合、何故かそれが鳥羽洛陽に当たるそうなので巻き戻せて一千年。この一千年という時間でどうにかできるのかは、変わってみないとわからない。


 もう一つは、テクスチャそのものを壊すこと。この場合星そのものが変化するために俺たちはその改変にそのまま巻き込まれて、次の世界で生きる資格があるか試される。神々は同じ名前、同じ存在のまま記憶だけ失くして存在し続けるとは予測していたが、それは神々だから。

 人間や動植物、大地や海がどうなるかはわからない。


 この決定権を持つ存在はヴェルニカさんを始め数人いる。神々も一応その権利を持っているが、彼らはその変化もまた良しとするだけ。正直頼りにならない。ミクは現状力不足。

 人間なのにその権利を持っているストーカーというのは、本当におかしな存在だ。天海の言う通り変な世界だろう。

 その女性が、今の人間の礎を作った存在じゃなければ、そこまでおかしな世界でもないのに。


 星としても彼女を排しようとはしないし、そもそも彼女を排したらテクスチャが壊れ、星が割れる危険性がある。だから星は彼女が諦めることを望んで傍観しているだけ。

 その終止符になるように、期待を背負わされたのがキャロルさんだ。


「まあでも。一番信頼できる星見が当分は大丈夫って予知したから、天海は何も気負うことなく人生を謳歌してくれ。何かあったら俺たちでなんとかするから」


「難波君は日本の調停者じゃなくて世界の調停者になったの?」


「成らざるを得ないのかもな。呪詛に塗れない限り俺が死ぬことってないだろうし。星の終わりを見られる稀有な人間かもしれない」


「珠希ちゃんもでしょ?じゃあ二人には、私がおばあちゃんになって人生を謳歌して、その最期を看取ってもらおうかな」


「良いですよ。薫さんの最期はちゃんとわたしたちで見送ります」


 それって何十年後の話だよ。平均寿命考えたら六十年以上先の話だぞ。友達のお願いならそれくらい叶えるけど。

 俺たちはこれから、二十代半ばにでもなれば加齢による変化がなくなるだろう。その辺りが人間の身体でのスペックとしては一番都合が良い。五十代とかの身体で過ごす意味はない。平安の頃はそう見えるように幻術を使っていただけだ。


 こんななんてことのない日常が、いつまでも続くことを。

 心の底から、願う。


次も明日投稿します。


感想などお待ちしております。あと評価とブックマークも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ