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3ー2ー4 方舟からの使者

要求の終わり。

「……アキラ。乙女の秘密を暴くのはマナーが悪いわヨ?」


「それは失礼しました。ではその秘密を漏らすことはしないと約束しましょう。それに協力もできなさそうですから。そちらの魔術に関しては、我々は門外漢。処置できません」


「これのことはいいのヨ。二つの組織の話が大事だワ」


 指貫き手袋を着けたままのキャロルさんが右手をフリフリと払う。あの手袋はその秘密を守るためのものだったわけだ。

 さて、テクスチャやキャロルさんの話題で脱線したが、こちらもそちらの情報を掴んでいるんだぞとアピールになったから効果がなかったわけじゃないだろう。だから向こうも無茶な要求はしてこないはず。

 してきたって対応できるかどうかはまた別だ。日本国内のことなら融通もできるけど、海外の事件の解決に手伝ってくれと言われてもそれは難しい。


「我々が後求めるのは、大規模な異能の行使を都市部や住宅街でやめていただければ特に求めることはないので。海外のクリーチャーがこちらで暴れたら協力して倒そうくらいは思います。犯罪者が入り込んでも、秘密裏に処理してくれるなら異論はありません。もし大規模な事件を起こそうとしていればこちらでも対処しますし。それ以外にこちらへ日本国内で求めることはありますか?」


「この国への駐在許可と、能力の行使。そして日本の陰陽師へ我々への参加を求めるのは陰陽寮ではなく政府になるだろうか?」


「そうですね。陰陽師の参加も、海外渡航が緩和されるので陰陽寮にいるプロ以外なら好きに勧誘してくれて構いませんよ。こちらへ牙を剥かなければ」


 優秀な陰陽師は陰陽寮に参加して欲しいが、だからってどこに所属するかくらいは個人の自由だろう。能力があるからってプロにならなくていいし、民間会社に就職しようが大学で研究しようが自由だ。

 職業の自由くらい認めているし、その選択くらい個人ですべきだ。「方舟の騎士団」に加入しようが止めはしない。人材の推薦もしないけど。


 陰陽師が海外でどの程度戦えるか検証していないから、相手にとってもどれだけ頼れるのかもわからない。そんな実験をするつもりもないし、今プロになっている人は辞職しない限りは放出しようと思わない。

 だからスカウトは勝手にやってくれという投げやりだ。

 駐在や組織の認知などは政府任せ。そこまで俺たちに頼ってほしくない。


「政府への架け橋にはなってくれるだろうか?」


「後で嘆願書を出しましょう。政府との交渉には参加しません。それでいいですか?」


「ああ。ありがとう」


「陰陽寮としての要求は以上ですが、そちらはまだありますか?」


「もちろんある。陰陽寮の戦力を、世界の一大事には徴用させてほしい。特にV3と戦うことになった場合、世界で総力を挙げなければ倒せないだろう。あの吸血鬼は世界を簡単に滅ぼせる」


 おや。彼女のことをかなり気にしているが、それにしては敵対する気満々なことには驚いた。まさかただ国をいくつも滅ぼしたバンピールだと思っているのだろうか。

 俺のように未来や過去を視ることはできないのだろう。もし時空を超えて確認する術があるのなら、こんな無謀なことを提案しない。

 彼らもテクスチャや星のことを詳しく理解していないのだろうか。組織の資料や伝聞だけで理解した気になっている、とか。本当の怖さ、力、在り方を理解していないようだ。


「お断りします。彼女と敵対するつもりはありませんよ」


「……あの吸血鬼の強さは、把握しているとみてよろしいか?」


「ええ。だからこそ、不可能です。彼女を倒すために協力なんて。この星という方舟に逆らう気ですか?」


「何……?何で彼女の話題で、方舟が出てくるノ……?」


「キャロルさんも気付いていない様子。方舟はこの星のことかと推測いたしますが、間違ってはいませんか?」


「間違ってはいないが。それと彼女がどう繋がる?」


「あのバンピール。星に選ばれた代行者ですよ。星の意思を託された、星そのものです」


 その事実を伝えたが、誰もその言葉を理解してくれなかった。あまりの内容に脳が理解を拒んでいるような。言葉の羅列だけじゃどうも足りなかったようだけど、それを示す証拠が今手元にない。

 つくづく千里眼と星見が異常な異能なんだと腑に落ちる。

 キャロルさんが一番復帰が早く、首が油のなくなったロボットのようにギギギと音を立てるような緩慢な動きをしつつ、顔全体が俺の方を向いて声を震わせて質問してきた。


「どういうこト……?彼女が、星そのものですッテ……?」


「ええ。彼女に敵対した者は灰も残らず消えたでしょう?アレはバンピールの能力じゃなくて、星の自浄機能です。不要だと判断されて消された現象そのもの。彼女には現代武器も魔術も通用しなかったのでは?星そのものに、そんな矮小な力が通用するはずがありません」


「じゃあ、何?彼女が暴れても気にするなってこト?たくさんの人が殺されているのよ?」


「殺されているのは少数の人と、大量の吸血鬼でしょう。彼女が殺すのは基本的に吸血鬼だけ。あとは巻き添えになった人間だけですよ。それと、あなた方のように彼女を妨害しようとする人物。先月、彼女と敵対しても殺されたのは一人だけだったでしょう?それくらいの分別は彼女にもありますよ。殺せない、邪悪でもない存在なんて放っておけばいい。彼女が全人類を殺そうとすれば重い腰も上げますが、見付けただけで討伐と考えているなら協力などしないというだけです」


 俺が日本の調停者なら、彼女は星の調停者だ。吸血鬼だけ滅殺を考えているからそこだけはバランスを保っていないけど。

 そんな似通った相手を倒すためには立ち上がらない。これだけは言っておかないと無駄死にが増えるだけだ。彼女を殺そうと思ったらこの星の息を止めるか、テクスチャを強引に破壊するしかない。どちらも御免被る。


「むしろ彼女を放っておけば勝手に吸血鬼を殲滅してくれるのに、手を出す理由がありますか?」


「その言葉に、信憑性は?」


「私の能力で調べたことですので。同じように調べていただくか、どこかの国にいる神にでも訊ねてみてください。彼女の母親は人間だったので、滅多なことで人間を殺したりしませんよ」


「……持ち帰って調べよう」


 どこの国の神に聞いても、彼女のことはわかるだろう。ヴェルニカさんは現状一人しかいない星の代行者だ。どこの国だって神の御座はあるんだから、二千年以上の歴史ある組織ならどうにか取っ掛かりを得て神と接触してほしいものだ。

 それがまかり間違って、阿婆擦れに行き当たらなければいい。


「陰陽寮は、海外に戦力を派遣してくれないということだろうか?」


「そうですね。そもそも、陰陽師は学者です。生物学や植物学、占星術などを納め宮中のために働く者たちのこと。戦うのは本分ではありません。魑魅魍魎と妖を相手にするのは生活がかかっているので仕方なくです。『神無月の終焉』を見ていたと思いますが、陰陽師はプロでもそこまで妖と戦えません。海外のクリーチャーを相手にしても、そこまで戦力にはなりませんよ」


「リ・ウォンシュンを倒したっていうのに、随分謙虚ネ?」


「私と珠希、それに五神くらいしか戦力にならないということです。私たちが日本から離れたら国民が不安がるでしょう?それに──そんな大暴れする存在は当分いませんよ」


 リップサービスで未来視の結果を零す。当分をどう汲み取るか次第だが、本当に大きく暴れるクリーチャーも犯罪者もいない。龍とケンタウロスが無人島でハッスルしているが、ヴェルニカさんも監視しているので星にも人にも迷惑はかかっていない。

 俺の星見も完全じゃないけど、大きな事件なんてキャロルさんの行動次第だ。


「やっぱりアキラの眼は便利ネ。今からでもウチに来なイ?」


「ご冗談を。日本の建て直しに奔走している状況で世界のために働いたら、身体が保ちませんよ」


「あら残念。モランさん、直感だけどアキラの言うことに嘘はないワ。陰陽寮とは最低限の協力が関の山みたいヨ?」


「そうか。いや、それでも十分だろう。敵対することがなくなっただけで十分だ。彼らも悪戯に能力を使うような自制の効かない集団でもないとわかった。それを成果としていいだろう」


「そうネ。ところでアキラ?──ワタシと戦いなさい」


 キャロルさんの一方的な宣言。これにはペンを持っていた者たちが一斉に机や床にそれを落とした。この部屋にいる人間全員がキャロルさんへ注目している。

 当の彼女は、ニコニコとこちらを見ているだけだ。


次は明日投稿します。

GW中はできるだけ更新したいと思います。


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