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3ー2ー2 方舟からの使者

組織の説明。

 大会議室で待っていると、一人の職員に案内されて入ってきたのは二十人近い外国人。全員が会談に挑むということで八月の時のようにスーツで統一されていた。

 先頭にはそれなりの歳を取った男と、キャロルさん。正直キャロルさんは初対面で山を間違えていた印象もあってスーツが似合っているとは思わなかった。

 先頭にいる二人が組織でも発言力が高い人間だろう。護衛以外でああも目立つ理由もない。それに警戒しているのは続いてやってくる人たちだ。ちょっとした視線を金蘭や吟に向けている。俺にもだな。


 むしろ先頭の二人は俺しか見ていない。交渉をしようと意気込んでいるからだろう。他にもそういう文官が何人かいるな。

 彼らも魔術や異能のスペシャリストなんだろう。こちらを探る力を持っている人もいるかもしれない。世界の守護者、だったか。陰陽寮を測りに来たってところだな。


「ようこそ、いらっしゃいませ。八月と先月はお世話になりました。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。どうぞ席に着いてください」


「そウ?じゃあ遠慮なク」


 キャロルさんが揚々と答えてさっさと座る。それを見て他の人たちも座っていく。キャロルさんの発言力が高いのか、それとも俺と面識のある人物だから矢面に立っているのか。

 全員が席に着いたことを確認して、俺は部屋の中を一瞥する。陰陽術じゃない魔術の起こりは感知しづらい。だが、同じテクスチャ上の異能だからか、ここが日本だからか、誰が魔術を使っているのか、俺たちに害はないのかくらいは把握できる。

 一人の女性が何かを感じ取って慌てふためいていたが、指摘する必要はないだろう。


「さて。では会談の前にあなた方の組織について説明していただきましょうか。応じたとはいえ、それは以前の事件での借りがあってこそ。CIAが嘘だとすれば、あなた方をどう扱っていいものか困っておりまして」


「……では、まず組織名から。僭越ながらこのモランが説明させていただきます。名前は『方舟の騎士団(アーク・ナイツ)』。クリーチャーの討伐や異能者の確保を主にしている、世界規模の組織です」


 そのモランという日本支部の男性の話は続く。

 クリーチャーが日本で言うところの妖のこと。人間以外にも動物や植物の生態系を破壊するような存在もいるため、そんな存在の討伐と確認をしているということ。

 異能者については魔術や陰陽術などのように体系化されたものを操る者から、無意識下で発動してしまい生活に困っている者も合わせて調査し、基本的には保護をしているということ。それと合わせて、犯罪者が異能者だった場合、率先して確保に向かうとのこと。


 八月の一件はそうした事情で追いかけていたリ・ウォンシュンが日本に入り込んだという情報が入って追いかけたこと。本来であれば国に許可を取って活動を許してもらうのだが、日本は陰陽師の存在を隠すために「方舟の騎士団」を知らなかったために許可を得ずに活動していたこと。

 八月は政府に組織の存在がバレるわけにはいかなかったのでCIAを名乗っていたこと。

 陰陽師の存在は大国なら知っていて当然だということ。旅行者などから魑魅魍魎の存在がバレて、そこから芋蔓式で知っている国ばかりだという。


(まあ、海外の旅行者を許可して、外国の高官とかも来て。大使館も各国のものがあるんだからバレてないはずがない。政府はそんな当たり前のことも気付いてなかったんだろうか。陰陽師の海外渡航禁止もどうにかしないとか)


 声に出さずそう考えながらも、モランの説明は続いた。

 日本には八月の一件から世界を知っている彼らからしても強大な存在が多かったので引き続き調査していたということ。「神無月の終焉」などこの国の問題には関わるつもりはなかったが、先月の「土蜘蛛動乱」は彼らが長年追いかけているV3ことヴェルニカさんを発見したことと、ケンタウロスが土蜘蛛だったために介入したという。

 現在ヴェルニカさんとケンタウロスについては調査中ということ。


「それで、アキラ?一緒にいたドラゴンはこの前単独でやって来て、倒したのよネ?あのバンピールとケンタウロスについては何か言ってなかっタ?」


「すみません。これといって何か話したわけでは。京都へやって来て強者との戦いを求めて帰ってきたと。俺が安倍晴明だったことを思い出したのも関連しているのでしょう。最後は満足そうに死にましたよ」


「それが不思議なのよネー。一緒に出ていったのに、帰って来る時は一体だけだなんテ。後の二体が復讐でやって来るんじゃナイ?」


「それは怖い。その時にはあなた方の力を借りたいものです。あの龍相手に、日本の最高戦力を総動員してようやくでしたので」


 キャロルさんは本当に不思議に思ってるんだか、こちらを疑っているのか表情と声色からは判別つかない。

 それもそうだ。なにせ彼女は、そう見えて聞こえるように魔術を使っている。いや、彼女とモランさんの二人は、だな。

 魔術禁止なんて言ってないから別に使ってから会談に臨んでも問題ない。俺も金蘭も吟も、普通の目じゃない。だから彼女たちが何か偽装しているのはすぐにわかったが、あえて指摘することもあるまい。

 そんな努力をしているだけ、日本の政府よりはよっぽどキレるとわかっただけ収穫だ。


「もし日本に戻って来たのなら、すぐに連絡をしましょう。一度会った相手ですから、日本の外側に仕掛けてある方陣で感知できます」


「あら、そうなノ?じゃあその時はお願いネ。後で連絡先を教えるワ」


「わかりました。その時は日本支部に?それともあなた方の本部に連絡すべきですか?まさか最高戦力が日本にいるとは思えません」


「あー。そのことだが。……我々の最高戦力は、キャロルだ」


「……はい?」


 その声は俺のものだったか。それとも「方舟の騎士団」の誰かの声だったか。

 俺としては若いキャロルさんが最高戦力でも別に変だとは思わない。積み重ねた年齢を超える実力者なんていくらでもいるだろうと覚えがある。姫さんなんて仮死状態になる十二歳で既に法師に近かった。

 それくらいの例外はいくらでもいるだろう。相手が世界規模の組織であっても。


 問題は、そんな戦力が日本にいることと、キャロルさんであること。

 キャロルさんともそこそこ話していたが、彼女の立場はあくまで平。諜報員と戦闘員の掛け持ちで、そこまで強くないとか言っていた。

 実際八月にその実力を見ているけど、リ・ウォンシュンが仙人としての力を発揮する前にやられていた。先月もケンタウロスには手も足も出ていなかったと記憶している。


 そんなキャロルさんが、最高戦力?八月はまだ実力を隠していたとしても、ケンタウロスに敵わない戦力が最強だとすると、日本に強敵がやって来ても足手まといにしかならないと宣言されたようなものじゃないだろうか。

 たとえこの日本が、魔術との相性が悪い土地だとしても。

 その辺りを確認しようと目線を向けると、モランさんは軽く頷く。


「皆の者にも、後で詳しく説明する。ナニワ殿。彼女の力を知っているからこう思ったのではないだろうか。キャロルが最高戦力なら頼れないと」


「ええ。魔術が日本と相性の悪いということが事実であったとしても。あなた方が言うクリーチャーは能力の減衰などないでしょう。そうなると、余計頼れない」


「ま、そう思うのも当然。けどね、アキラ?ワタシ、まだ実力を見せていないワ。本気なら、あなたと両脇の二人が一緒でも勝てル」


 ほう。それはそれは。

 俺と吟と金蘭相手に勝てると。金蘭の実力は彼女たちに見せていないが、吟と一緒にいるところからかなりの実力者と判断しているはず。

 それでも勝てると豪語した。それは興味深い。

 まあ、吟はともかく俺と金蘭は戦う人じゃないから、勝てたとしても自慢にはならないんだが。ミクには勝てなさそうだし。


次も三日後に投稿します。

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