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3ー2ー1 方舟からの使者

尻拭いと妨害。

 やることが多い。いくら省庁じゃなくなったからって政府と協力しなくちゃいけないことは多いし、変えるべきこと、変えなくていいものの精査はしっかりしないと、呪術省の頃から何も変わっていないと思っているバカたちが悪事を企てていることもある。

 政府にはしっかり釘を刺してほしいんだけど、こういうところから弱みを探そうとしている一派もいるんだろう。トップの総理大臣が認めたからって今まで利益供与されてきた旨味から抜け出せない溺れた人間も多い。


 意図的なのか、偶然なのか。それともやはり高校生の俺を信用できないのか、あの手この手で探ってくる。政府から送られてきた人間も半分はスパイのようなものだ。こっちでまともに仕事をしようとするより、調べ物ばかりに精を出している。

 それにかまけてばかりだったら役立たずとして送り返すけど。そろそろ怪しいのも何人かいる。陰陽寮の中で話すなんて迂闊だよな。俺の簡易式神がそこら中にいるっていうのに。そのせいで会話なんて筒抜けだ。

 政府に漏れたら困る弱みなんて今の所何もないから徒労で終わってるけど。

 そんな監視もしてるから、一向に資料が減らない。

 最近この執務室にこもりっぱなしだ。ミクとのデートもまともに行けやしない。


「何で現代法ってこんなややこしいんだ……?人が増えすぎたからか?」


『それもあるでしょう。あとは情報社会になって簡単に悪いことができてしまうこと。便利になりすぎたことですね。昔ならば孤児なんて当然でしたが、今は世間の目もあります』


「神々も管理を投げ出すわけだ」


『いや、あの。神はそんな理由で投げ出したわけじゃないと思いますよ?明様』


「わかってるよ。ただの冗談だ。一千年前から見放してるんだから、そんな理由じゃないのはわかってる」


 金蘭と笑いながら資料を捌いていく。金蘭が現代法を勉強してくれていて助かった。財布の中は旧札ばかりのくせに。逆に吟はこういう法関係は全くダメだから陰陽師を鍛えに行っている。的になりに行っているというのが正しい。あいつは昔から宮中に関わらせなかったから仕方がないんだが。

 俺も法師から知識を受け継いでいて良かった。法師は天海家を送り込むために昔から法については勉強してくれていた。裏・天海家が様々な分野に繰り出すために助言とかもしていたから現代知識に明るい。それに今どれだけ助けられていることか。


「……なあ、金蘭。政府に文句言っていいか?明らかに陰陽寮に関係ない書類まで送ってくるのは俺たちへの妨害工作だろ?」


『あちらとしては、可能性のある、関係があるだろうものを全部送っているのでしょう。こちらを怒らせないように。で、膨大な量の資料に紛れ込ませている仕込みも多いと』


「何で政府のバカの炙り出しまでこっちでやらないといけないんだか。……いや?同党の政敵の名前を使って落とそうとしている?」


『宮中でもそういうことはありましたね』


 気に食わない奴を呪術で貶めてほしいなんて依頼は宮中の頃もあった。基本受けなかったが。陰陽術はそういうものじゃないときっちり断ってたのに。

 俺の跡を継いだ土御門・賀茂はこういうのを受けて自分たちの権力を増していったんだろうな。お金も権力も、陰陽術をちょっと使うだけで手に入る。彼らとしては絶好の交渉相手だったんだろう。

 その結果、政治も統治も陰陽も心も。何もかも崩れていったわけだ。

 昔の陰陽寮は政治との線引きを厳格に決めていたのに。

 昔のことを振り返っても意味ないか。いくら思い返しても目の前の書類がなくなるわけじゃないんだから。


「……政府に少しは抑止になる人間が欲しい。姫さんが用意した人だけじゃ足りない」


『でもそうなると結局政治介入になってしまうんですよね』


「そうなんだよ。呪術省から供与を得ていた人間は今から利益なしですとか、後ろ暗いことなしですとかは受け入れられないんだろうな。それが普通だったんだから。そうやって政治家になった人間は特に。……選挙の平等とかも御構い無しだったんだ。だからこそ、こんな選挙管理委員会や監察官へ陰陽師の派遣なんて提案が来る。これは陰陽寮じゃなくて民間企業でいいだろ?」


『その辺りの判別を、国会を通して閣議に通していないので何でも送っている感じですね。与党と野党から同じ内容の嘆願書も来ています』


 そう、仕事が進まない理由の一つに同じ内容のもの、または似た内容のものが複数来ているせいで、一々確認したり資料を掘り返したりと二度手間三度手間になって時間がかかるという最悪なもの。

 こんなことが続くために政府からの妨害工作だと考えてしまう。資料も分野ごとに送ればいいのに、省庁もごちゃ混ぜになってとにかく確認したい項目が纏め終わったら送るという狂気の沙汰を繰り返しているために、俺たちの苛立ちも増していく。

 陰陽寮の事務員さんに仕分けを手伝ってもらっているが、それでも思い出したかのように過去判断した内容を送ってくるのは嫌がらせだろう。


「政府や役所なんて仕事を完全に言われた通り、自分の内容だけやるもんじゃないのか」


『おそらく総理大臣が陰陽関係の問題点を挙げろとだけ伝えて、横の連携ができていないのでしょう。国会中継を見てもまともに話し合っているように見えませんし』


 休憩時間に国会の様子やニュース、新聞に目を通しているけど、陰陽寮を認めたことと呪術省の解体以外で陰陽師のことについて話されていない。臨時国会を開いているのに、自分の痛い腹を探られたくないのか応酬は緩やかだ。

 むしろ近くにいる官僚の表情の方が死んでいる。国家の狗は大変だ。

 資料の確認にも一段落ついて、お昼ご飯をまだ食べていないことに気付く。時計はもう十四時を過ぎていた。


「吟誘って飯にしよう。美味しい物食べないと頭が働かないな。金蘭、何が食べたい?」


『あなたと一緒なら何でも』


「お前っていつもそうだよな。吟に食べたい物でも聞いてみるか……」


 携帯を取り出そうと思ったら、この部屋に繋がっている内線の電話が鳴り響く。金蘭が壁まで行って受話器を取った。


『はい、こちら執務室です。明様?いらっしゃいますが……。はぁ。海外の方々が。確認しますのでお待ちください』


 保留のボタンを押した金蘭が困惑の表情を浮かべたまま俺に質問をしてくる。


『あの、明様。CIAを名乗る面々が受付に来ているらしいです。おそらく、八月の組織ですがどうなさいますか?』


「ああ、嘘吐き連中か。組織名聞いてなかったな……。キャロル・コルデーはいるのか?」


『確認してみます。……もしもし。キャロル・コルデーという方はそちらにいますか?……わかりました。明様、いるようです』


「相手は何を求めてるんだ?内容次第で取り次いで構わない」


『内容次第で取り次ぎます。……会談というか、交渉というか。話し合いがしたいようです』


 キャロルさんたちとか。会うのは九州以来。話の内容としては政府じゃなく、異能を管理している俺たちにしかできない話なんだろうけど。


「受けよう。日時の指定はこの後すぐでいいか?」


『明様は受けることを決めました。こちらの予定もあるので今すぐを希望です。相手の人数に合わせて会議室の確保もお願いします。……十階の大会議室ですね?対応ありがとうございます。誰かに案内させてください』


 金蘭が話し終わって受話器を戻す。できれば電話か何かでアポイントを取って欲しかったけど、ご飯で外に行く前で良かったとしよう。


「行くぞ、金蘭。吟も呼ぼう」


『珠希様は呼びますか?』


「いや、今日は学校だから後で伝えればいいだろ。五神も方々に散ってるし、書記で何人か職員を同行させればいいか」


 今度は俺が内線を使って指示を出す。その後に吟も呼び出して三人で大会議室に向かう。

 最近こういう会談ばかりだな。これが仕事なんだから仕方がないとはいえ、やることが多すぎる。一段落ついたらミクにでも甘えようか。金蘭でもいいかもしれない。

 アニマルセラピーで癒されたい。動物園とかも良いかもな。ちょっと調べておこう。


次も三日後に投稿します。

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