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2ー2ー5 交渉と脅し

首肯。

 大峰の最後の言葉に、納得できなかった者たちも次第に納得していく。

 彼らは呪術省と懇意にしていた。だから五神の力は正確に把握しているとは言えなくても、呪術大臣を務めた者の実力と土御門・賀茂家の実力と総力は理解していた。

 近年五神に選ばれる者がいなかった家とはいえ、陰陽大家としてはやはり群を抜いていた。規模と総合力の観点で言えばどこの家もそこまで強いとも言えないだろう。


 魑魅魍魎相手であれば桑名が戦闘一家として名前が上がるかもしれないが。退魔の力も全員が発現するわけではない。他の陰陽大家も実力はあるが数が少なかったり、平均的な質と数を両立させた家だったり、呪具製作で功績を残してきた家だったりと、実力だけで陰陽大家になれるわけではない。

 過去に功績があるから弱体化しても続いている家や、ただ単に龍脈がある関係で土地が霊地として優秀だったから管理を任されている家もある。難波もこれに含まれていた。

 実力が全てではないのだ。呪術省にその傾向fがあっても、実力一辺倒では統治に不具合が出た。だからこそ、実力があり京都に根差した二家が呪術省を牽引してきたのだが。


「映像にも写っていますが、今参戦している陰陽師は防御に徹しています。それしかできていません。防御は彼らに任せて、我々はできるだけ霊気を式神に送るのが最善です。これはあの龍が再び現れた時に合わせて執り決められた戦術です」


「あれが、また現れると確信していたのか?」


「あの龍は天の逆鉾に封じられていた日ノ本原産の龍です。土蜘蛛はケンタウロスだったのでそのまま海外に移住する可能性もありましたが、龍の方は戻ってくる可能性は十分ありました」


 龍と土蜘蛛のことは語られているが、一緒にいた吸血鬼ヴェルニカのことは日本国内であまり語られていない。京都校も彼女に生徒を殺されたことを公表していない。

 正確には八神しかその事実を知らないため、吸血鬼の存在については隠蔽されている形だ。

 明たちもあの三体とことを構えるのは嫌だった。今になっても勝てるかわからない。だから海外に行って楽しんでいるのならそれで良いと放置している。


「明が国の周りに方陣を展開した理由でもあります。日本の妖ならある程度生態もわかっていますが、龍ほどの強力な個体や海外原産の個体がこちらに攻めてくればこちらの情報が足りず、あっけなくやられる可能性があります。即時対応できるためのソナーを設置したと思ってください」


「海外から妖がやって来たなどという記録はないぞ?」


「そりゃないっスよ。たとえ海外の珍しい個体でも全て『妖』って一括りにしちゃったんスからどれが海向こうの怪物なのかわからない。なにせ日本人は神様と妖の区別もついていなかったんですし?日本か海外かなんて余計にわからないっスよ」


 星斗の説明に西郷が追従する。神については既に前回の会合の際に瑞穂が詳しい資料を送っていた。天皇を擁立する国家が神を認めないなど、そんなバカな話があるはずがない。

 大天狗を例に出したが、あれだけで証拠など十分なものだ。

 どこの誰が一週間日本中に嵐を巻き起こせる。強力な妖の仕業と言ってもいいが、それだけで現代科学に基づいた天気予報を壊されて、日本が誇る陰陽術でも不可能なことを立証されて。


 自分たちの常識が通じない神だと受け入れた方が精神的に楽だと、無理に頭を使わない方が平穏だと瑞穂は資料で教えただけだ。

 その資料はきちんと読み込んできたらしい。それでも呪術省に拘りたかったようだが。

 もう、目の前の事象はそれを軽く吹っ飛ばしていた。


「おお!」


 歓声が上がる。吟が龍の胸を一閃。大量に噴き出す赤い血と共に後退したところを麒麟と玄武がタックルを決め、明が超巨大な雷を落とし、山の中へ龍が落ちた。同時に凄まじい土埃が舞い散って視界が明瞭にならず状況が把握できなかった。

 結局それが決着の合図だったのか、それ以上戦闘音が聞こえなくなる。


「麒麟、どう?……うん、うん。そう、ご苦労様。じゃあ明君が色々終わらせたら帰っておいで。頑張ったね。──皆様、難波明があの龍を討伐しました。今は残った遺体の処理と周りに出した被害の確認をしているようです」


「「「おおおおおおおっ!」」」


 こめかみに指を当てて麒麟と意思疎通を取っていた大峰がそう伝えると、誰もがその英雄譚に歓声を上げた。人によっては抱き合ったり、涙を零す者もいた。

 あの龍は戦いたい一心で現れた。そして日本で戦える者は自衛隊を除けば陰陽師だけだ。ならば陰陽寮に攻めてくることも、それこそ京都の街並みを全て灰燼に帰すことだってできたはず。


 東京はここまでの存在が現れることはなかった。毎回京都だったのだ。大天狗やがしゃどくろと同じような戦いを肌で感じて、だからこそ全員が心で感じた。

 難波明を失えば、京都と言わず日本が滅びると。あのような存在がまた現れたら、あの少年でなければどうにもできないと。


「──それで。総理大臣殿。我々陰陽寮を、そして難波明を認めてくださいますか?彼ならこの日本を調停できると」


「ああ、認めるとも!……だが、それも数十年のことではないのか?我々の下の世代はどうなる?」


「ご安心を。彼の一千年の時をかけた転生は二度の失敗をしないようにと強靭な肉体で産まれてきました。つきましては、一千年程度寿命で死ぬことはないそうです」


「なんと……!そんなことが……」


 危機を逃れた瞬間にそのようなことを言われて、怪しく目が光る人間も少々。自分たちも寿命の延長などという甘美で人間の欲望のような死への回避という永劫の夢に縋れるのではないかと。

 だが、これまでの流れを理解し、今の言葉を正しく理解した者たちはそうではないと悟る。

 まず、政府と陰陽寮の関係性は悪い。陰陽寮は前身である呪術省の悪どい行為全てを唾棄すべき事柄として切り捨てている。


 そのことからも政府関係者に執拗に関わろうとしなければ、政治家の個人的なお願いなど一切聞かないだろう。

 そして、明がその寿命を得たのは一千年時間をかけたからだという。産まれの時点で異なり、今からでは寿命を伸ばすなど不可能だろうという推測が立てられる。特に彼が安倍晴明であるならば、その転生の儀こそ謎の多い泰山府君祭だろうと当たりをつけて。


 正確には。


 明は生前からそのくらいの寿命を悠然と保持していた。そもそもが半妖であり、最高神の分け御霊である玉藻の前と全ての人生を一緒に過ごしていたために神気を身体に宿していた。寿命なんてあってないものだった。

 鳥羽洛陽というかつてないほどの災厄さえ現れなければ、今も安倍晴明は現人神となっていたことだろう。

 それから三十分ほどした頃だろうか。諸々の作業が終わった明と吟が会議室へ戻ってきた。五神も戻ってきて近似点へ戻っていく。玄武も今回ばかりは近似点へ戻っていった。

 明は白い羽織を一瞬のうちに黒いスーツへ変えてしまった。現代の会議はこの格好でするものだとして。


「お待たせいたしました。会議を続けましょうか」


 明のその言葉に、彼から出る提案に。

 政府側は壊れた人形のように頭を縦に振り続け、全ての事柄を了承して帰っていった。


次も三日後に投稿します。

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