表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
354/405

2ー2ー2 交渉と脅し

場の支配。

 一人の官僚が資料を机に叩きつけながら立ち上がる。威圧行為も含めているんだろうけど、ここにいるのは戦闘のプロと言われた五神たちだ。こちらを威圧するにはあまりにも幼稚な行動でただ目線を向けるだけで終わってしまう。


「こ、この資料が正しいという証拠はどこにある⁉︎これも偽証したものではないのか!」


「最初の表紙に記載していますが、この論文の執筆者は医療と呪術の組み合わせについての権威である早乙女先生です。早乙女先生にも直接確認されますか?」


 まあ、人間ではなく裏・天海家と協力している妖なのだけど。法師傘下の妖がかなり人間社会、しかも色々な部署に入り込んでいて驚いたほどだ。

 俺たちに協力的なのも当然だったりする。

 早乙女先生の名前は陰陽師大学でもかなり有名で、それこそ陰陽術を用いた治療と医術の発展に寄与してきた妖だ。政府の人間も当然知っていて、そんな人物が偽証などするはずがないと納得している人もチラホラ。


 実際偽証はしていない。無理言って作成してもらったものではあるし、試行回数は少ないデータだ。大峰さんと賀茂家長男、それに土御門家に仕えていた使用人しかデータがない。

 使用人たちに関しては洗脳といっても違和感を覚えないように意識誘導であって記憶そのものが書き換えられたわけじゃないからまた少し違うデータなんだが。それでも記憶野に現れた呪術の痕跡を示すものとしてはおかしなものじゃない。


「それに付随して、土御門・賀茂家に拉致監禁された方々の記憶のすれ違いや戸籍の改竄データも今配ります。国民が不当な扱いを受け、更には行政も歪められた数々の証拠になります」


 畳み掛けるように西郷さんに資料を配ってもらう。これはまだ確認中のデータだが、土御門・賀茂家に嫁ぐなどの理由で連れてこられた女性や、その人が産んだ戸籍のない人間のデータ、架空の人物の戸籍など。わかっているものを一纏めにした資料だ。

 これには祐介や祐介の母親も含まれる。所在地の偽装、出生届の不提出。戸籍の改竄。日本国内に存在しない人物。戸籍抄本が存在しない人、一致しない人。既に亡くなっている人、亡くなった人の名前を名乗る人。


 管理社会が聞いて呆れるほど、グチャグチャに煮詰まった混沌の坩堝。それが呪術省のトップにいたわけだ。

 良心がある人ほど顔を歪めている。そのリストの多さを見れば一目瞭然だ。百人を超える被害者が出ている。そしてこの改竄には確実に呪術省と市役所も関わっているし、県を跨いでの移動もあるのだからどこにまで偽証の魔の手が伸びているのかわからないほどだ。


「これもまだ検証中の一部でしかありません。このほとんどの方々が記憶の不一致、強制されていたことへの混乱などで入院しています。これはあくまで二つの家の不祥事でしかありません」


「……これが偽証だとは……」


「実際に被害者がこれだけいて、その人たちへ嘘をついていると糾弾なさるのですか?それではこの方々が救われない。冤罪だと仰られるのであれば、まだ証拠は出せますが?」


 今度は奏流さんが資料を配る。二家によって行われてきた人体改造実験の数々。人間に呪具や神具を埋め込み、妖や土地神の血肉を喰わせるという狂気の産物。

 それと、呪術省の地下で行われてきた元五神の死体を用いた実験の数々。デスウィッチの原材料に稼働実験、検証実験のデータ。そして制作過程による日本政府との交渉記録。

 あのパワードスーツを作るのに日本政府が絡んでいるという事実。時の総理大臣の認証押印までされている資料のコピーも付随させた。


「呪術省を解体するにあたり、これらの悍ましい実験の即時凍結、証拠の押収などを行いました。こんなことをしていた省庁というのは行政府としても相応しくないでしょう?しかも、行政府が認めたという証拠まであれば」


「我々を強請るというのか⁉︎」


「これら全てをありのまま公表したら日本国が潰れるのはわかっています。そして魑魅魍魎が溢れ、この島国は住めなくなる。そうならないようにこうして闇に葬り去ろうとしているのです。そして身から出た錆を取り除くために両家へ証拠の提出、降伏を勧告しましたがそれに抵抗したことが先日の事件になります」


 それと同時に土蜘蛛と龍の事件が起こったから日本全国が混乱に陥ったわけだ。

 この国から人間がいなくなれば神々の維持もできなくなる。それは調停者として認められない。だからこんな後ろ暗いことを揉み消してでも、日本政府がまだ成り立つようにしているのがこの会談の目的だ。

 それに強請るって言っても、こちらの要求なんて大したことじゃない。陰陽寮を認めることと、今まで通りプロへの給金を国で支払って欲しいというだけ。対して難しいことじゃない。今までとそんな変わらないのだから。


「両家が汚職に手を染めていた証拠も配りましょうか?」


「待て、待ってくれ。それはつまり、我々が呪術省や両家に依頼していた証拠も残っているのか?」


 今まで何一つ発言しなかった総理大臣がそう言ったことで、俺は頷いて星斗に資料を配らせる。

 会食、接待なんて序の口。プロの陰陽師や一般企業への陰陽師としての護衛に払うには法外な金額による両家への護衛依頼。呪術による違法行為への抵抗緩和、その指示。人攫いや政権与党が野党への追求逃れのために呪術を用いた公的文書の改竄指示など。

 政治に異能を組み合わせるから出てくる出てくる。それだけ陰陽術が便利だったという証拠。俺が晴明の頃に宮中に関わったせいで政治と陰陽術が切り離せないという認識になってしまったのだろう。


 元々は賀茂のように星見による助言だけだったはずなのに。

 不自然な金銭の譲渡や、土地の買収など叩けば叩くほど埃が出てくる。陰陽師による暗殺依頼もあれば、対立候補を落とすために魑魅魍魎に見せかけた式神による強襲や簡易式神による誤情報の送信など、枚挙に(いとま)がない。

 これで言い逃れしようとか、それこそ最初に噛み付いてきたけど、どれだけ見通しが甘いんだ。


 こっちは呪術省を完全に掌握したんだぞ。

 この証拠に心当たりがあったのか、青い顔になっている人間が数人。本人の名前が載っているんだからそうもなる。しかもお互いに口外しないという呪術、誓約文まで残っている。これを第三者が見付けて突き付ける分には問題ないが、本人たちが口を出したらどんな呪術が発動するんだか。

 これもあって本人の口から認める言葉がなかったのだろう。


「これ以上必要ですか?まだまだ資料に纏めていませんが、証拠の誓約文だけならまだありますよ?」


「わかった、わかった!君達の目的はなんだ!それを認めてやってもいい!」


「認めてやってもいい?これを公表して困るのはそちらだけですが?」


 陰陽寮はこういうことを許さない綺麗な組織ですというアピールになる。公表にメリットはあれ、デメリットは存在しない。「神無月の終焉」がこういったことに対するクーデターだと言ってしまえばそれまで。

 実際膿となる両家やそれに追随する陰陽師、非道な実験を行なっていた研究者を排除しているのだから。同じ過ちを繰り返さないように管理委員会も置くなどと言って全てを潰す権利はこっちが持っている。


 相手が強気になれる理由は、ない。

 叫んだ官僚は総理大臣にひと睨みされて着席する。けどここに総理大臣の名前が入った依頼書もいくつか残ってるから人のことを全く言えないんだが。


「まず、陰陽寮を行政府が認めること。陰陽師への給金や陰陽寮の運営資金は変わらず国民の税金であること。陰陽師及び陰陽寮の活動内容は変わらず魑魅魍魎など国内の問題解決のためであること。金輪際そちらの個人的な依頼も、政府主導の悪巧みも一切受け付けないこと。主だったことはこれくらいですよ。玄武、資料を」


 マユさんがこちらの要求が書かれた資料を配る。書いてある内容は本当に今言ったことに悪霊憑きの保護など細々したものが書いてあるが、正直難しいものなんて一つもない。

 そしてこれを認めてくれるのであれば、様々な誓約文の呪術を解呪してもいいと追記してある。星斗や奏流さんに甘いと言われたが、逆。これは後押しするための一手である上に、これ以上めんどくさいことを抱えたくないから清算したいだけ。


 それにむしろこれは脅しだろう。これから祐介の母のように、被害に遭った人たちが政府や土御門などを相手に裁判を起こす可能性がある。

 その際に呪術をなくしているんだから口にしようとした瞬間呪術が発動するということもなくなる。真っ当に裁くには呪術を消す必要がある。


「君なら、この呪術を外せると?」


「こんな幼稚な呪術、すぐにできますよ。先代麒麟という最巧の陰陽師が仕掛けた呪術を、実際に消しているでしょう?」


 会議の冒頭でそれを示している。大峰さんの呪術を消したのは俺だ。

 呪術省の誓約文には専用の呪物が用いられているが、その程度で先代麒麟の呪術に勝てるわけがない。実際お粗末なものだ。年月を重ねているから発動すればそれなりの呪いになって効力を発揮するけど。


「そこに書いてあることを認めるのであれば、誓約文を作成しましょう。もちろん呪術など用いません。もし不安であればそちらお抱えの陰陽師に確認していただいても構いませんが」


 ニッコリと笑って威圧する。奏流さんと星斗が憤って睨んでるから、余計に圧力になる。もちろん他の五神だってこんなことをされたから怒っている。表情に出していないだけで。

 積み重ねてきた悪事がここで回り回って噴出しただけ。しかも脅しの内容だってそこまで酷いものじゃない。負け戦なのに、子どもが代表をするという一点だけで場をかき乱そうとしたあっちのミスだ。

 こっちの要求は些細なもの。あとは最後の一手で向こうは頷くしかなくなるはずだ。


次も三日後に投稿します。


感想などお待ちしております。あと評価とブックマークも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ