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2ー1ー1 交渉と脅し

「婆や」との雑談。

 大峰さんが麒麟に認められて数日。俺とミクは「婆や」がいる箱の中へ来ていた。「婆や」と話したいというのもあったけど、一番の目的はここに入り浸っている子狐を回収するためだ。

 いくら代役が終わったからと言って、まだやることはたくさんあるんだよ。なのに自分だけ隠居しようとしやがって。お前は先代麒麟や姫さんじゃないんだぞ。


「『婆や』お邪魔するぞ」


『いらっしゃい、晴明。主様』


 部屋の中央に立派な赤光色の九尾。その近くに寝そべっているゴン。「婆や」が大きいからか、ゴンが子どもに見える。本当の姿ならゴンの方が大きいんだろうけど。それを言ったら「婆や」は今の姿が本当の姿じゃないんだけど。

 俺とミクも近付いて適当に座る。


『主様。クゥを引き取ってくれませぬか?晴明の悪口を聞くのは飽きたのじゃ』


「まあ。ゴンのお口を縫いましょうか?」


『シャレにならないからやめてくれ。悪口じゃなくて、ここ十年ちょっとで苦労した話をしてただけだ』


『それが悪口じゃなくて何と言う?お前さんが二人の記憶を留めていたのは知っておる。苦労したのは自業自得じゃ』


 そういやその話流してたな。俺って三歳辺りまでは普通に記憶あったし、ミクは俺に会えば思い出すように術式を仕掛けておいた。

 なのにゴンの独断で封印されてたんだよな。


「ゴン、式神契約解除するか?」


『まあ、もう必要ないんなら解除しろよ。お守りはやっただろ?』


「……この前は断ったくせに、どういう心境の変化だよ?」


 一週間経ってないぞ。それで今度は契約解除してもいいとか、意見が変わりすぎて流石に問い詰めないといけない。

 この一週間であったこと。五神会議に麒麟との本契約に、こうして「婆や」を訪れたくらいだ。それ以外に大きな出来事は起きていない。


『簡単だ。「婆や」に未来を視てもらった』


「お前と契約してなかった未来でも識ったわけ?」


『ああ。オレは誰とも契約していないそうだ。十二神将のままだけどな』


「まあ、十二神将から外すつもりはないが。『婆や』、何が起こる?」


『日本の崩壊、じゃの』


「はあ?」


 それは聞き捨てならない。これから日本を再生させようとしているのに、崩壊するとは何事だ。「婆や」は未来視しかできない代わりにその精度は高い。俺よりもよっぽど鮮明に、遥か先のことを視られるだろう。

 その「婆や」が断定する。日本が崩壊すると。


『崩壊と言っても、日本という名前がなくなって地形も変化があるくらいじゃ。地形の変化なぞこの星の地殻変動なのじゃから、そこまで差し迫った事態ではなかろう?』


「それはそうだけど。日本って名前がなくなる?戦争を吹っ掛けられても守りきる自信があるぞ?それともそんなヤバい科学兵器でも開発されるのか?」


『いやいや。星のテクスチャが書き換えられるだけじゃ。歴史がリセットされれば名前もなくなる。晴明が日本と名前を付けなければ、ここはただの島国じゃ。神々も名前までは気にせん』


「……まあ、いつかはテクスチャが変わる時も来るだろう。すぐじゃなければいい。そんなに差し迫ってないって言ったな?」


『事態も状況も、時間の流れからしてもそんなにすぐじゃないの。星斗たちも亡くなった後じゃ』


 平均寿命を考えれば五十年以上ある。まずはその五十年を乗り切ることを考えるべきか。

 俺も未来視を後でしよう。確認すべきことが増えた。

 テクスチャ。昔の俺は理と呼んでいたものだ。世界全体を覆うこの星の常識であり真理。それが膜のように覆っているために今の歴史がある。

 これが壊されたり、新しいテクスチャが星を包めば世界が一新する。神のいない世界だったり、人間のいない世界だったり。妖が溢れた世界だったり、陰陽術のような異能が全くない世界だったり。


 テクスチャを認識している者からすれば書き換えられたとしても自意識を保てることが多い。神々なんてその最たる者だろう。大規模な変更だった場合、神々も抗えないらしいが、大きな変化はないと考えている神が多い。

 夏休みにリ・ウォンシュンが命を懸けてまで変えようとしたもの。あるいは覗こうとしたもの。この世界の全てがある、目には見えないこの星の全て。

 海外ではテクスチャのことを別名称でアカシック・レコードと呼ばれることもあるようだが。これは的確じゃない。テクスチャはあくまでこの星を覆っている膜のことだ。アカシック・レコードはテクスチャの一部。


 そして、アカシック・レコード──真理を読み解くだけならリ・ウォンシュンのやり方でもできるし、俺やミクだって知ろうと思えば調べられる。というか、今の世界を滅ぼそうとすればテクスチャなんて簡単に崩壊する。

 だからこそ、テクスチャの書き換えと言われてもそこまで驚きはないわけで。


「そのテクスチャ関連の出来事のためにゴンと契約を解除するってことか?」


『その時になれば十二神将総出で取り掛からなければならぬ。吟とも金蘭とも契約を解除しておったよ。クゥが特別なわけではないのじゃ』


「じゃあ今解除する理由はなんだよ、ゴン」


『……オレの力なんてもう必要ないだろ。オレの実力なんて本気の銀郎と瑠姫以下だ。吟と金蘭がいればお前には十分だし、珠希の眷属の方が位は高いだろ?褒美として昇格させろって言ってんだよ』


 このツンデレ狐め。そっぽ向きながら答えてんじゃねーよ。十二神将としての役割があるから式神としての役目は終わりだって悟ったのか。

 実力としてはその通りだ。銀郎と瑠姫も神に戻した。そうなると一番実力がないのはゴンになる。それに元々はミクの眷属で、暇つぶしに陰陽術を教えただけ。式神じゃなくても、ミクの元に戻す方が元の鞘だ。


 ミクの護衛としても銀郎と瑠姫は一歩劣る。そのカバーにゴンがいた方が誰もが安心する。ミク自体の強さは最高峰でも、本人に抜けているところがある以上フォローできる存在は多い方がいい。

 迷惑をかけたくない。その一言が言えないだけの捻くれめ。

 式神じゃなくなったって関係性なんて変わらないだろうが。


「本音を言うとゴンと契約を切った方が俺が楽だ。龍脈を使ってるとはいえ日本の方陣を起動してたら疲れる。少しでも霊気の消耗は抑えたい」


『けど、金蘭と吟には負い目があるから契約を続けたい、だろ?』


「まあな。それにゴンなら銀郎や瑠姫のように契約をして存在を固定させなくても生きていける。──霊線の繋がりなんてなくたって、お前は俺たちの家族だよ」


『ほら、そう言ったじゃろ?お主を仲間外れにするわけなかろう』


 「婆や」が上品に笑う。ゴンも顔を赤くしたまま、相変わらず顔は背けたままだ。

 契約を切ったくらいで蔑ろになんてしないのに。そんなことで不安になるなんてゴンはバカだ。それくらいで切れる縁なら十二神将に迎え入れてないっての。


「なーんか傷付いたから、ゴンの毛並みの艶をなくしてやろうか?」


『それ、本気だったのかよ?』


「一度見てみたいですよね。皺々のゴン」


『……マジ?』


『マジじゃろ。それに二人の記憶を封印したのは独断が過ぎる。せめて法師と金蘭に相談しておけばそんな罰も受けんかったじゃろうに』


 さっきまで顔を赤くしていたのが嘘のように、ゴンの血色は悪くなっていく。

 ゴンもその毛並みを豊穣の神として維持しているが、それに干渉する(すべ)はある。

 そう、泰山府君祭だ。


「ま、その内な。片付けないといけない問題多いし」


『皺々は確定かよ……』


「確定です。わたしだってこの前まで記憶のことで悩んでいたんですよ?ゴンが主犯なら、罰も当然です」


『うへえ』


 ゴンが嫌そうにしてるけど、事情を知っていただけの銀郎たちと実行したゴンじゃ話は別だ。父さんたちはゴンの決定に口を出せなかっただろうし、金蘭たちも知ったのは後になってから。

 ゴンは未来を視えないくせに、よくその決断を下したよな。ミクの眷属だったからミクの状態を把握してたんだろうけど。


 だからってなあ。俺は記憶が戻るのをゆっくり待ったと思うぞ。俺だけ記憶があるからって悲観しないだろうし。こいつ、俺にも相談しないでやりやがった。

 三歳の時の俺は霊気も神気も制御がまだまだだった。ゴンと比べたら余裕で劣ってる。不意打ちだったらゴンにあっさりやられたわけだ。それで契約をこじつけて、やってることは詐欺師同然だ。

 罰も、仕方がないと思う。切実に。


次も三日後に投稿します。

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