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一章エピローグ

京都に泊った彼らの話。


 夜。親がすでに予約していた宿にミクと二人で部屋をとっていた。二人で泊まるにしては大きな部屋だったし、御殿荘という中学生二人が泊まるような場所ではなかったのだが、親の許可ありということで泊まれた。

 俺たち以外に式神が三体もいるからそれなりの大きな部屋じゃないとマズかったっていうのもあるけど。良い宿だ。さすが元・皇居。書院造りと綺麗な中庭には、今では味わえない風情が残っている。


「さてと。だいぶ京都の霊脈には慣れたと思うけど、ミクはどうだ?」


「もう少し馴染むには時間がかかると思ったんですけど、案外すんなりと馴染んでびっくりしました。わたしに憑いている狐さんがこっちの方の産まれだったからでしょうか?」


『それは伏見稲荷大社のおかげだな。あそこは今でも平安にやられた狐の呪いを一身に引き受けているとされ、狐の供養などはあそこに一任されているほどだ。オレも行ったことがあるが、狐の反感を喰らわないように霊脈の調整を施しているんだ。鬼や狐のホームグラウンドは伊達じゃないってことだな』


 というよりは、悪霊憑きにとっては京都はホームグラウンドだ。かつて数多くの著名なる妖怪が群雄割拠していた平安京。狐や天狗などもここに含まれてしまっているが、ぶっちゃけ他の土地より京都の方が霊気が安定して、能力が向上しやすい。

 この土地に縁でもあるのか、魑魅魍魎の多くは他の土地よりも活性化しやすい。だが人間は基本変わらず。そんな危険地帯だからこそ、常時四神の内二人が配属されている。東京に一人、他の地域にもう一人というのが平時のことだ。


 まあ、今日初めて麒麟が京都に常時配属されていることを知ったが。裏を返せばそれだけ京都には危険がいっぱい、ということ。

 伏見稲荷大社にはいつか行くとして。


「今日は初日だからな。さっさと休むか。明日も方々に足を伸ばすし」


「も、もうお休みになるのですか?」


「さすが京都というか、日付を跨いでいるはずなのに外は随分と明るいけどな。朝早く向こうを出てきたし、新幹線とはいえ長距離を移動してきたんだから長く休むべきだろ」


 そう言ったはずなのに、ミクは何故か髪や浴衣の裾などを気にして手で何度も直していた。休むって言ってるのに整える意味が分からん。

 顔どころか耳まで真っ赤な理由も分からん。お風呂上りでのぼせているわけでもあるまいし。


 そうそう。今は身内しかいないために耳と尻尾を出しているのだが、なんと尻尾が五本に増えていた。その原因は誰にもわからない。

 たぶんだが式神降霊三式が影響を及ぼしているのだろうが、確信はなかった。こういう時に前例が我が家にないというのは痛い。狐憑きについても調べないとな。


「あ、あの!服はどうしましょうか?」


「服?そのままでいいんじゃないか?だってそれ、寝間着だろ?」


「そ、そうですか……。着たままでと、ハル様がおっしゃるなら……」


 なんか会話が噛み合っていない気がする。ゴンの方を見てみると、ゴンも良くわからないのか首を傾げていた。


「あー、ミク?」


「で、では精一杯務めさせていただきますので!わたしも初めてですがご満足いただけるように──!」


『はーい、タマちゃん。そこまでニャ』


『坊ちゃん。ちょっと隣の部屋借りますぜ』


 さっきまでは実体化していなかった瑠姫と銀郎がミクの両腕を掴んで隣の部屋へ連行していった。そのまま襖も閉められて、防音の陰陽術まで使う徹底っぷり。

 今日付けで正式に父さんから下賜された式神二体。俺が銀郎を受け取って、ミクが瑠姫を。瑠姫は主にやってきたのは家事だが、陰陽術も使えるためにミクの護衛に抜擢された。伊達に長生きしていないのだとか。


「……誰が犯人だと思う?」


『全員だろ。大人連中片棒担いでんのさ』


「まったく……。ミクを騙してどうすんだか。そんなに早く跡継ぎが欲しいか?俺だってまだ正式には当主になってないのに?」


『それだけ狐憑きはお前の家では慶事だからな。狐憑きってことだけで分家の中での立ち位置とか一切無視して優先される。むしろあの小娘が男だったら当主になっていたかもしれないほどに優先される事項だ。次期当主の決定が九年前じゃなく、あの小娘がきちんと陰陽術を学んでいたら迎秋会でお前と術比べしていたかもしれないぞ?』


「だよなぁ」


 その可能性は多くあった。もし星斗が俺と同い年だったら起こり得た。もしくは、ミクがきちんとした分家の家に産まれていれば。

 そうはならなかったから、俺が次期当主でミクとこんな関係になってるんだろうけど。


『一応言っておくが、小娘が帰ってくるまでに顔を元に戻しておけよ?真っ赤にニヤけてたら男としても次期当主としての尊厳もないからな?』


「わかってるよ……」


 口を手で塞ぎながら、一つ溜め息をついた。どうやって収めればいいのか全く思いつかなかったからだ。


『他のことをやって紛らわしたらどうだ?今朝康平からもらった物があるだろ?』


「ああ……」


 そう言われて気付く。俺は旅行鞄の中から小さな銀のトランクケースを取り出す。陰陽術で施された封印を解いて、そこの中にあった物を取り出す。

 それは漆黒のハンドガンと、三本のストレージ。


────


『タマちゃん。あれはダメだニャ。たしかに初めての二人っきりでの外泊。高級な宿。これから三年間は過ごす新天地での初めて。条件が揃いすぎていますが、ああいうのは女の子から誘っちゃダメニャ』


「そ、そうですか……。お母さんからも、里美様からも強引に行きなさいと言われていたんですが……。たしかに御当主様は微妙な顔をされていました」


『あっしらもいるから二人っきりってわけではないですけどね』


『アッハッハッハ!坊ちゃんは見た目に反して純情で奥手ですからニャア。あちしが誘っても一切釣られてくれないニャア』


「ま、まさか瑠姫様もハル様のことを……っ⁉」


『坊ちゃんがまともなだけでしょう。っていうか瑠姫、お前式神の癖に何やってるんだ?』


『それはないニャア。タマちゃんがいる時点であたしが手を出せるわけニャいし。遊びがてら誘惑してみただけニャ。思春期の癖に引っかからニャいなんて、よっぽどタマちゃんのことが好きなんだニャア』


「そうだと嬉しいのですが……」


『このクソ猫。坊ちゃんの情操教育に悪い影響出そうとしてんじゃねえよ』


『あちしの尻尾よりも肉球の方が好きだからニャア。こんなぷりちーな尻尾をモフらないなんておかしいニャ。クゥちゃんや銀郎っちの尻尾はモフるくせに』


「ハル様はボリュームのある尻尾の方が好みのようですよ?」


『あっしも呆れているんですが……』


『そうなのかニャ⁉なら陰陽術でどうにか肉感を増やせば……!』


「どうでしょう?本物だからいいのかもしれないですよ?」


『なんとなく察してましたが二人ともあっしの話聞いていませんね⁉』


『ふうむ……。まあ、坊ちゃんのことは置いておいて。タマちゃん。もし子供ができちゃったらどうするニャン?』


「産みますよ?」


『即決ですかい……』


『十月十日として、今から逆算するとタマちゃん一年留年決定ニャ。産後とか保育とか考えたらそれ以上かも。そうしたら坊ちゃんと同じ学校生活は送れないんじゃ?』


「そ、それは困ります……。高校生活を楽しみにしていたのに」


『ならあんな言動しちゃいかんでしょう』


『ぶっちゃけた話子どもができさえしなければ問題ないニャ。タマちゃん、そういう物持ってるのニャ?』


「瑠姫様、天才です!その手がありましたね!」


『そういうことするには年齢的に早いって意味に決まってんでしょうが!成人とはいえ、超えちゃいけない一線でしょう!』


『ヌフフフ。まあ、そんな用意あたしはしてないし、タマちゃんもしてないっぽいから今回は諦めるニャ』


「そうですね……。次の機会に備えます!」


『お前珠希お嬢さんの護衛だろ!仕事しろよ!俺は仕事するからな!』


『ちなみに男の人には……』


「はいはい」


『……いい加減にしやがれー!』


 結局その日、ミクが寝るまで銀郎は明の護衛に戻れなかった。護衛にはゴンがいたことと、むしろ危険なのは女二人だと思っていたので銀郎はかなり嫌だったが仕事として割り切っていた。




これからもこの作品投稿していこうと思います。

次も三日後に投稿します。

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