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1ー3ー2 地盤固め

認定式の始まり。

 大峰さんから黄色い近似点である呪符を受け取る。こんなものなくても詠ぶだけならできるけど、今回の主目的は大峰さんと麒麟をきちんと契約させること。となるとこの近似点を通した方がいい。

 というわけで少しの霊気と多めの神気を近似点に流し込む。敢えて名前を呼ばない。そうすると俺が契約することになってしまうから。

 二つの力を通して現れる麒麟。姫さんが契約を手放したために宙ぶらりになっている唯一の五神。今までは唯一契約している五神だったのに、最後でひっくり返った。


「麒麟。全力でやってくれ。彼女も及第点には届いているだろう?」


『……』


「いや、まあ。姫さんや先代とは比べるな。あの人たちは法師が俺に匹敵するって認めた人たちだぞ?お前が過去に契約した人物に、大峰さんくらいの人はいただろ?」


「え、ちょっと待って。明君、麒麟の言葉わかるの?」


 大峰さんが驚愕の表情を浮かべる。おっと、もしかしてそこからか。今までは影を詠び出していたから喋るなんて思ってなかったんだろうけど、本体が話せるのは玄武や他の四神が実証済み。麒麟だけ話せないなんてことはない。


「金蘭にも聞こえてるだろ?」


『どちらかというとこれの適性は神気を宿しているかどうかが大きいですから。彼女の潜在量は少ないです。裏・天海家とはいえ、瑞穂が特殊な先祖返りだっただけでしょう』


「神気って生まれつき以外にどうにかする方法ないの?」


「ありますよ?神と近くで過ごす、神へ信仰を捧げる。この辺りが堅実ですね。生まれつき神気に目覚めてなくても、後天的に獲得することも可能です。裏・天海家は家系的に神気を獲得しやすいので、知覚さえできてしまえば伸ばすのも訳ないかと。マユさんのように実家と玄武に囲まれて急激に神気を伸ばした例もあります」


 マユさんは家系から土地から環境から、何もかも揃っていた。その結果が神に最も近くなってしまった女性。一時期のミクと同じだからな。人間でいるならば、少し手を加えないといけないくらいに神に近付いてしまった。

 星斗も近しい女性が二人も神の御座へ送還されるなんて悲劇を経験したくないだろう。あんな経験、俺だって二度もしたくない。


「神気って便利ですけど、俺や金蘭、吟のようにその後を全て投げ売れるなら積極的に獲得しても良いと思います。けど、人間で居たいなら。ただ力として欲するなら。先代朱雀と何も変わらないことだけを留意してください」


「力の狂信者になるってこと?それは嫌。気を付けるよ」


 先代朱雀のことも公表しないと。アレの被害者は多い。「かまいたち」が殺して終わり、という事案じゃないんだから。

 五神には既に通達しているために、どれだけ歪んでいたか理解してもらった。ああなってほしくないというサンプルケースにはなったために、一つの抑止力として機能している。アレが力に溺れた者の末路だ。

 海外の妖精に弄られたとしても、ああはならなかった可能性もあった。吟のように。


「さて。そろそろ始めましょうか。麒麟、一旦離れてくれ」


 麒麟は首肯した後、空へ高く駆け上がる。俺が張った隠蔽用の方陣からは出ない距離に留まってくれている。ありがたい。

 これから麒麟と大峰さんはおそらく戦うことになる。京都で暴れられる場所は少ないし、人目も気にしないといけない。そうなると俺の目のつくところで巨大な方陣の中でやってもらえば良いと思ってこの屋上を選んだ。

 もしもの時のために金蘭もいるため、もしもは起こりえない。


 麒麟と五神の陰陽師がぶつかったら大惨事になりかねない。それだけ力を持ってる存在だ。そのぶつかり合いを堂々とやったら住民を困惑させる。やっぱり隠蔽は必要だ。

 政府関係者が先行して京都に入っている可能性もある。その人たちに付け入る隙を与えたくない。

 俺と金蘭も大峰さんから離れて、場を整える。これはあくまで大峰さんと麒麟の駆け引き。俺たちは邪魔でしかない。


「それでは大峰さん。どうか麒麟に認められてください」


「任せなって!行くよ、麒麟!」


 大峰さんが腰につけていたポーチから呪符を出す。それが合図になったようで、麒麟も臨戦態勢に移ってしまった。


「アンサー!」


『……!』


 大峰さんが一条の雷を放つと、麒麟はそれを避ける。麒麟の本来の属性は土。雷は木。木剋土(もっこくど)という五行の相剋関係がある以上、それに則って攻撃するのは正しい。わかりきっている弱点だからそれを突くのは戦術として間違っていない。

 大峰さんの麒麟が弱かった理由もここにある。本来土の属性の麒麟が大峰さんの属性に引っ張られて相性の良くない木の属性として顕現していたんだから。影だということも含めて二重に弱体化していれば、姫さんの黄龍に負けるのも当然。

 黄龍は五神に匹敵する存在で、しかも土と木の属性で相性最悪。その後も麒麟同士で戦ったらしいけど、相性から能力差から勝てない試合をふっかけていたようなものだ。


『あーあ。始まってしまいましたね』


「予想していた範囲内だ。麒麟も逃げ回ってるけど、その内攻勢に転じるだろ」


 金蘭がおどけてみせるが、それに頷くだけ。

 大峰さんには認めてもらってほしいが、俺たちの意思とは別に決めるのは麒麟自身。俺たちが無理を言って従わせるのは間違いだ。

 だから青竜だって奏流さんの意思を確認してから詠び出して、朱雀の譲渡だって星斗という人物を知っていたからこそのものだった。


 白虎については玄武の説得の結果だろうが、それだって白虎自身が認めたからこそ。認めていなければああやって実体化するわけがない。人間じゃないからこそ、価値観が違うから認めたという側面もありそうだ。

 空を逃げ回っていた麒麟だが、とうとう陰陽術に対して同じような雷撃を返し始めた。本格的な争いになったな。


『ダメだったら私が麒麟をやりましょうか?』


「十二神将で被らせるのもなあ。最悪ゴンをフリーにすれば俺が空くわけだけど?その方が収まりがいい」


『クゥに怒られません?』


「あいつが式神をやってる方がおかしいんだよ。前のようにミクの眷属扱いでいいだろ。俺があいつの霊気を肩代わりする理由がもうない」


『それを言ったら私や吟にもなさそうですが?』


「お前たちは特別。ゴンが式神やってたのはお前たちの代理なんだから、その役目ももう終わっただろ。それにあいつ、色んな女性に腹を見せる浮気狐だぞ?俺が面倒見なくていいだろ」


 ミクにはわかるが、天海やラーメン屋の奥さんやら、瑠姫やら。宇迦様やコトにミチもいたか。そんなええかっこしいの狐なんて生活を援助してやればいいだろ。もう戦う気もなさそうだし。


『昔も葛の葉様や玉藻の前様にベッタリでしたものね。……それに明様。その言葉は少々ズルうございます』


「んー……そうか?普段通りに振る舞ってたら狡いか……」


『今も昔も、女を泣かせるのが得意のようで。クゥのことは言えませんよ?』


 クスクスと金蘭に笑われて、若干気恥ずかしくなる。そんなつもりじゃなかったのに悲しませるということは人の心がわからないからだろう。

 こんな中途半端な心だからこそ、調停者として選ばれたんだろうけど。人間だけを優遇するわけにはいかなかったとはいえ、少しは善処しよう。

 そんなことを考えながら目の前の戦いに目を向けた。


次も三日後に投稿します。

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