1ー2ー3 地盤固め
ズレの真相。
「そんな感じで五神の在り方についても変化があります。ただ国民を安心させたいために戦闘屋であることに変わりはないんですが。プロの役割も基本変わりません。陰陽寮としてもあくどいことをしないだけで大きく変えるつもりはありません」
「それだけ長い間土台ができちゃったんスからね。むしろ今から研究者になれって言われても無理っスよ」
「でしょうね。なので国民にとっての抑止力。それはこれからも変わりません」
人柱じゃなくしたんだから、それで納得してほしい。本来は守護者だったわけだけど、その本質からはズレてないんじゃないかな。
それに魑魅魍魎はまだしも、この前みたいに龍や土蜘蛛が暴れるなんて事件もあるかもしれない。それに対応する戦力は確保しておきたい。
「さて。それを踏まえてあなた方は呪術省から陰陽寮に変わること。このまま五神として活動を続けること。私を陰陽寮のトップとして認めること。これを承諾できますか?」
「俺は異論なし。要にお前が難波から陰陽寮に鞍替えしたってだけだ」
「わたしも、大丈夫です。あなたたちになら任せられます」
「オレも異論なーし。と言うかこれ以上の適任いないっしょ」
「我も同意見だ。土御門・賀茂が没落した以上、陰陽大家の格としても難波が相応しい。人格も能力も問題なかろう」
「ボクも良いよ。この前の術比べを見たら実力は納得できるし。任せたゼ?」
全会一致。陰陽寮側は大丈夫で、神々と妖たちからも了承を得ている。後は政府だけか。姫さんが根回しをしてくれているから、その効果がどれだけ出ているかで交渉が上手くいくかかかってる。
地盤固めは大変だ。特に前任者がめちゃくちゃだったから余計に。
では、承諾も得たことで最初の仕事をしようか。
「ありがとうございます。それでは、正しい五行の解説といきますか」
「あー、ズレてるって話ね。ボクも実家に問い合わせしたけど、簡単に答え合わせできたよ。裏・天海家には正しい五行が伝わってたけど、天海本家は間違ったままだった。これって何で?」
「もちろん法師の工作です。天海本家は表での陽動を、裏・天海家は来たる時に合わせて手助けできるようにと法師の援助を。そうは言っても、天海本家も風水を使う関係でズレについては気付いていてもおかしくはありませんが」
風水は自然と連動させて陰陽術を発動させるので、関わる五行の変換効率などから呪術省が広める五行がおかしいと気付いてもおかしくはない。それでも台頭してきたのが高々五百年ほどの新参者であるために呪術省には受け入れられなかった、そんなところだろう。
法師も本家についてはそれで良いとした。力を蓄えている裏・天海家が露呈しなければどうでもいいと考えたのだろう。
「全部のズレを指摘できているわけでもありませんが、ほとんどは網羅できていると思います。珠希」
「はい。急遽作成した物なので抜けもあるとは思いますが、基礎的なものは抑えています」
ミクが全員に資料を配る。ミクの立ち位置って陰陽寮ではどうなるんだろうか。俺の婚約者だけど、それで重用したら忖度になるのだろうか。今みたいにそばにいて欲しいから秘書とかが適任かもしれない。
それなら身内でもおかしくはないはず。政治家もそういうことしてるし。
五神の皆さんは資料を眺めていく。十数枚のレジュメだから目を通すだけならすぐだろう。
資料の作り方なんて知らなかったから八神先生に頭を下げて一緒に作ってもらった。授業サボって。都築会長も手伝ってくれて、なんとか形にはなった。土地神二柱は五行のことを正しく把握していたので助かった。
学校の先生と受験生がそれで良いのかって思うけど、どっちも気にしていなかった。都築会長は既に推薦で上の陰陽師大学に入ることが確定しているからとかなんとか。八神先生に至っては授業より大事と言って手伝ってくれた。本人が受け持っている授業自体はきちんと行なっていたので問題はないはず。
「うん。問題ないだろ。俺は全部に修正をかけていけばいいのか?」
「そうしてくれると助かる。俺と珠希、それに金蘭だけじゃすぐには終わらない。桜井会も臨時バイトとして使いたいくらいだ」
「それは声をかけてみる。知識の刷新と資料作成はどれだけ人がいても足りないぞ……」
桜井会。難波分家筋の若い意欲旺盛な集団の総称。そんな彼らの取り纏めは星斗で、知識は難波なのでこういう仕事は割り振れる。桜井会というか、分家がたくさんいるってやっぱり便利だよなあ。
数はどうしたって必要だ。質も時には大事だけど、数でどうにかできることは全員で振り分けた方が楽できる。
「ボクも手伝うよ!なんたって今は、ボクが瑞穂なんだからさ!」
「あ、わたしも大丈夫です。センパイやゲンちゃんに前から教わっていましたから」
「え”。玄武もできるの……?」
「え?はい。大学の頃から巧くんやセンパイに教えてもらって、ゲンちゃんからも補足されていましたから。こういう資料作りは大学の時にたくさんやったので苦じゃありません」
「キィー!折角できそうな仕事だと思ったのに!なんでこうも間が悪いのか……!」
キャットファイトが始まりそうになったけど、その対象であるはずのマユさんと星斗が首を傾げてるから取っ組み合いにならなかった。目の前でドロドロの愛憎劇が始まらなくて良かったと安堵すべきだろうか。
先代麒麟も色々手を出してるんだな。マユさんのことは視ればわかることだっただろう。とにかく手が増えたことは助かる。
愛憎劇になろうが、そこは見捨てよう。他人の恋愛に首を突っ込んで麒麟や玄武辺りに蹴られたくない。
なーんか、西郷のマユさんに向ける目線も怪しいんだよな。こんな小さい枠組みでギスギスしなくてもって思うけど、俺たちも似たようなものだった。
星斗のこと、とやかく言えないと気付いてしまった。ちくしょう。
「確認したいのだが難波殿。この五行はいつ頃ズレたのだ?お主が成立させた当初は正しかったのだろう?」
「ああ、いいえ?最初から間違っていましたよ?」
奏流さんの質問に答えると、またまた皆さん破顔する。ここにいる人たちで星見はいないから一千年前のことなんてわかるわけないか。
星見だって一千年前のこと全部視られるわけじゃない。父さんが精々で、あとは裏・天海家に何人かと元麒麟の二人。探せば他にもいるだろうけど、把握しているのはその程度だ。
「……それは異なことを。創始者自ら間違いを流布したと?」
「はい。人間の成長をある程度の線引きで留めるため。そして魑魅魍魎という自ら出した膿の処理くらいはできるようにと。かと言って強くなりすぎれば先代朱雀のように驕り慢心し、人を害する。そのため制限をつけました。膨大な研究をすればその間違いにも気付ける程度の細工ですが、結果は力の魔力に囚われてしまい、間違ったままの力を伸ばすことを続けただけです。いずれは科学にとって変わるだろうと思っていたらこんな結果ですからね。不甲斐ない」
魑魅魍魎なんてここまで残ると推測していなかった。未来視を外した結果だ。それだけ一千年前の失敗は大きかったということ。
陰陽術は全てを伝授したわけじゃない。俺たちがずっと日ノ本を平定すると思っていたので教える必要性がなかった。計画が総崩れした名残が今も連綿と残っているというだけ。
こんな間違った力でも一千年前に我が母を殺し、今も呪術省や先代朱雀のような者が現れる始末。今度こそこれ以上の失敗を引き起こさないために、正しい力を伝授することを決めただけだ。
その正しい力も身内には贔屓して伝えたわけだけど。
「尻拭いをさせてしまって申し訳ありません」
「謝るな。今の世の中を作ったのは呪術省だ。それを止められなかった我々五神にこそ責任がある。……現代人にも責任を取らせてくれ」
「奏流さんはお堅いっスねー。まあ、現代社会で何もかもワントップがどうにかするなんて不可能ですし?それが陰陽師の総本山となれば尚更。オレたちもできるだけ手伝うっスよ」
「……ありがとうございます」
皆肯定的で良かった。五神っていう実力者も仲間に引き込めたのならプロも早々と抜け出したりしないだろう。待遇とかは一切変わらないし、このまま公務員として働いてくれるはず。
次は、麒麟だな。
次も三日後に投稿します。
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