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1ー2ー2 地盤固め

以前との変化。

 会議室に静寂が訪れた理由がわからずにいると、口を開いたのは大峰さん。親族である彼女が一番槍だった。


「妊婦さん?妊娠?……瑞穂さんが?」


「はい。いつそうなったのかわかりませんが、時間が戻ったのは先日でしょう」


「相手は?」


「法師しかいないんですが?」


 何故そんな当たり前のことを。大峰さんは「建巳月(けんしげつ)の争乱」で姫さんが法師と恋人だと知っていただろうに、確認する必要があっただろうか。

 他に彼女と関係があったのは鬼二匹と妖に、精々が桑名家。そのどれもありえない。彼女は法師を愛しているんだから。


「肉体年齢十二歳よね?犯罪なんだけど⁉︎」


「精神年齢で言えばもう三十にもなる方ですが?それに法師も瑞穂さんも、呪術犯罪者だ」


「そもそも法師って人間との間に子どもなんて作れたの⁉︎だって彼、君たちが産んだ式神だったんでしょ!」


「その最たる例があなたたち、天海家ですよ?天海の創始者は蘆屋道満。その辺りの子どもを拾ったわけではなく、彼と最初の妻の子どもです。長男を東京に根ざす天海家の当主に。次男を裏・天海家の当主にしたという実績がありますが?」


 道満はどの生物とも異なる産まれをしている。海外であればホムンクルスや、現代技術で言えばクローンという手もあるんだろうが、神の権能にも似た陰陽術の極致によって産まれた存在が子どもを作れるのかわからなかったらしい。

 そんな特殊な産まれとはいえ、道満を構成したのは俺という人間と妖の交じり物とミクの神の力を混ぜたハイブリッド。人間としての生殖機能なども至って普遍的にしたために問題なく子どもも残せている。

 そういう風にしておいて良かったなと、今回の出来事で改めて思った。


「……そうだったゼ。ボクたちが生き証人なんだった……」


「まあ、いわゆる式神に近い存在が子どもを残せるっていうのは驚きっスけどねー。オレもんなことできるんだって疑問でしたが。神やら妖やら混じってても人間なら問題あるわけないっス」


 白虎たる西郷が大峰さんに追従するが、妖の彼でも驚くようなことだっただろうか。陰陽術で命を産み出せるということの意味を考えているんだろう。アレはミクがいたからこそだ。似たようなことはできても、また一から生命の神秘を歪めて誰かを産み出すことはできない。

 今度こそ、他の神々に目を向けられる。特に海外の。

 というか。西郷は自分が妖だと発表してくれないんだろうか。そうしてくれれば人間と妖の融和政策も推し進められるのに。


「身体が元に戻ったばかりですし、肉体はそれこそ十二歳です。なので万全を尽くすためにも瑞穂さんには仕事を振れないですね。これまで散々日本のために奔走してくれましたし。麒麟になった八歳からずっとですよ?流石に休んでもらいましょう」


「それは承知した。だが先代麒麟はどうなる?彼も左腕を取り戻して、陰陽師としては最高峰だろう?」


「彼は呪術省に裏切られて、その上左腕を呪物として利用されました。いくら陰陽寮に変わっても心にしこりが残っているでしょう。それにこの三年間、もう四年になりますか。生きていくために今の仕事を見付けています。麒麟とも朱雀とも契約を切った以上、彼に何かをさせるのは酷でしょう」


 奏流さんの質問にも答えるが、先代麒麟もこれ以上陰陽師に関わらせるつもりはない。緊急時となれば手伝ってくれるかもしれないけど、陰陽寮の運営にも五神も手伝ってくれないだろう。

 だから朱雀を星斗に、麒麟を姫さんに託したんだから。


「その先代麒麟は今何をしている?身体は健康なのだろう?」


「飲食店を経営なさってますよ。呪術省が人質にしようとした奥様と静かに暮らしています」


「……呪術省は、本当に屑だな。それに気付かなかった我もまた悪の一端を担っていたか」


「今後はそういうことのないような、クリーンな組織を目指しています。皆さんのご協力をお願いいたします」


 一応西郷さんに確認の目線を送ってみるが、彼には首を横に振られてしまった。妖だという公表はなしと。じゃあバレないようにしてもらえばいい。彼が妖だと知ってるのはマユさんだけになる。彼女に口止めを頼めばこれ以上は広がらないだろう。


「何で明はそんなこと知ってんだよ?──あ」


 星斗が口にした瞬間に、何かを思い付いたようだ。先代麒麟というか、麒麟の個人情報は呪術省によって抹消されている。歴代の麒麟は戸籍から何から、全て消されているのだ。だから本来名前も、辞めた後の行き先も知らないはず。

 呪術省の調べでも、先代麒麟は海外へ逃亡したことになってたし。海外に逃げられてしまったらそれ以降の追跡などできない。そこまで人員も、掛かる手間もかけられなかったんだろう。

 それを考えると、父さんも呪術省のように戸籍のでっち上げをしてるのか。人民救済のためとはいえ、やってることが一緒というのは。そうするしかなかったんだろうけど。


「星斗。何か?」


「……その飲食店。ウチの領地にあったりしないか?」


「正解。難波で保護してた」


「……明くーん?どういうこと?難波で彼と奥さんを保護してたの?」


「仕方がないでしょう?呪術省に見付かれば捕縛命令が出て戦闘になります。しかも先代麒麟は悪いことをしたのではなく、ただ呪術省を抜けようとしただけなのに。そんな彼らに偽りの戸籍を渡して領地で一凡人として暮らすのであれば、父は手を貸しますよ。狐憑きも同じように保護してましたし」


 星斗はどうやって気付いたんだか。いや、多分この前実家に帰った時に会ったな?金蘭も何か手を貸したようだけど、彼の知識を求めたか何かで会ったんだろう。彼もそういうことには手を貸しそうだし、俺たちのことも見守ってたんだから。

 大峰さんの質問も助かる。これから悪霊憑きだからと問題になることは陰陽寮が総力を挙げて保護に乗り出したいし、呪術省のやらかしは表に出したいし。

 いくらお金がかかってでもやらなくちゃいけないことだ。


「巧くんはやっぱり、隠居なのですね?」


「そうなります。マユさんも彼と会ったのですか?」


「はい。わたしの体質改善と、ある方を救うために奔走してくださって」


 他の面々は「神無月の終焉」の際に会ったキリだから、星斗がマユさんと一緒に難波に行った時に手を貸したらしい。隠居するんじゃなかったのか。

 これ以降は本当に何も手を貸してくれないだろう。今度、またお店に行くか。


「マユさん。体調の方は?」


「大丈夫、だと思います。やっぱりまだ神気が漏れていますか……?これでも抑えてるつもりなのですが」


「一般人からすれば問題なく。ただ私たちのように神気を感じ取れる者からすれば少し漏れている程度です。珠希と金蘭なら制御方を伝えられるので、この後詳しく聞いてください」


「わたし、神気の扱いなら誰よりも自信がありますので。頼ってください」


 ミクが自信満々に言う。今だとそうだけど、その前はだいぶ大変だった。身体に神気が馴染んでいなかったけど、そういう経験があるからこそミクはうってつけだろう。

 マユさんの今の症状は入学したての頃のミクそっくりだ。宇迦様の神の御座で無茶をやって神に近付いたからこその弊害。身体が神に近付きすぎていて、実際構成が書き換わっている。これを制御して人間でいるためにはミクと金蘭の教えが必要だろう。


「話が逸れましたが、先代麒麟は隠居を望んでいます。そんな人間を無理矢理招集することはしたくありません」


「無理強いは良くないな。その分我々が働けばいいのだろう?」


「奏流さん。この場合は大峰さんっスよ。彼の弟子で、瑞穂さんと同じく裏・天海家なんスから」


「……なんか、ボクの個人情報だけダダ漏れじゃない?」


「瑞穂さんが現れた時点で仕方がないことかと。先代も生きていますし」


 一応大峰さんの個人情報も呪術省によって抹消されている。そのせいで俺も未だにこの人の本名を知らない。それでも先代と師弟の関係だったとか、裏・天海家の分家筋だとかは公然の秘密となっている。

 ただ紙や電子上の情報を抹消したとしても、生きている人間な限りどこからか情報は漏れる。山の中で仙人のように隠れ潜んで暮らして、誰とも関わらなかったということがない限り、どこからか繋がりがわかってしまう。

 大峰さんの場合関係者が多くいたこと、開示しなければならない状況に呪術省が陥ったことなどが原因として挙げられる。


「それに関係して。大峰さんには麒麟の詠び出しを早急(さっきゅう)に行っていただきますので」


「あー……。本体を詠び出せてないのはボクだけだからね。……影の状態だと寿命が縮むっていうのは本当?」


「本当です。本来は楔で良かったために、神々を縫い付けるためそういう制約を求めました。ただ都の守護を手伝うというだけの条件で五神を説得したんです。それを捻じ曲げたのは呪術省。彼らに力を求めた結果、方陣の維持以外による詠び出しは別料金、つまり生命力を対価としていたわけです。特に麒麟の寿命が短かったのは頼りにされた場面が多いからだと思います」


「それで死んだら、燃料行きか。本当に嫌になる話だね。……詠ぶコツとか教えてくれる?」


「後で手本を見せましょう。それで麒麟に認められれば大丈夫です。麒麟が一番ジャジャ馬な気がしますが」


 他の四神は契約者のことなんてどうでも良かったとして放置。麒麟は愛情が深いからこそ時々本体が出てきていたが、むしろその愛情に敵う存在へのハードルが凄く高い。姫さんと先代麒麟という二代続けて本体を詠び出せたなんて史上初だろう。

 麒麟は助けようと思った存在については最初から最後まで気にかけるが。どうでもいいと思ったら一切手を貸さない冷酷さ。

 なんか麒麟がヤンデレみたいだな。可愛い奴なんだけど。


「大峰さんが麒麟に認められれば、京都と日本の方陣も安定します。そうすればたとえ京都を離れていても方陣は持続しますので、好きに旅行に行っても構いませんよ。呪術省の頃はそういう自由がなかったと聞いています」


「ん?明、五神って京都にいた方が方陣が安定するんじゃないのか?」


「前まではな。けど今は俺が龍脈で色々結んだから、日本国内ならどこに行ってもいい。海外に行きたいなら俺に近似点を預けてくれれば、それも許可を出せる。これからは北海道や東京に長期出張もしなくて良くなるぞ。龍脈の不完全な呼応に合わせた百鬼夜行がなくなるから、龍脈がある土地でもそこまで被害が出なくなる」


 前までなら星斗の言うように京都に置いておきたかったが、今は逆にどこに行ってもいい。先代麒麟だけ旅行して他の人には移動制限をつけるなんて真似もしたくない。

 出かけたいなら好きに出かければいい。


「俺が難波に帰っても良いわけ?」


「良いぞ。五神をやりながら香炉家を継いでも良い。五神の要石として契約者は必要でも、京都にいないからって方陣が崩れることはなくなった」


「それは良いことを聞いた。妹に無理させる理由はないってことだ」


 星斗。妹の彩花さんを気にかけるのは家族としてポイント高いけど、今両隣に座ってる女性からの悲しげな目線はポイント低いぞ。気付け、鈍感。一緒に居たいらしいけど、どうするんだか。星斗の今の心境とかもあまり聞いてないからな。

 この会議が終わった後にでも聞いてみるか。朱雀を押し付けたようなもんだし、フォローは必要だろ。押し付けたのは俺じゃないけど。


次も三日後に投稿します。

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