4ー1ー2 望まれた器に注がれる全て
五神の観戦。
星斗はマユと一緒に橋の上から観戦していたわけだが、いつの間にか他の五神全員──奏流に大峰、西郷がその場に集まっていた。大峰だけ星斗の隣にマユがいるのが当たり前のようになっているのが気に入らなくて頬を膨らませていたが、星斗自身はその理由に気付かず首を傾げていた。
「いやー、さすが歴代最強の陰陽師。日本も安泰っスねー」
「西郷さん。……皆さんは、明が陰陽寮を率いることを認められますか?」
「オレは認めるっスよ。っていうか皆さん、この前法師にボコボコにされてたじゃないっスか。そんな法師と互角な明君を認めないわけないっしょ。年齢とか関係なく、アレは本物だよ」
「白虎はこの前戦ってなかったじゃない」
「だってオレ、法師に呪いかけられてるんスよ?まだ死にたくないし」
大峰の言葉におちゃらけて返す西郷。
だが星斗とマユは西郷が妖だと知っていて、呪いなんてかけられていないと知っている。その辺りも確認が取りたくて星斗は西郷に目線を向けながら聞いてみたわけだが。
「白虎。それはどういう呪いだ?どうしてかけられた?」
「歯向かおうとすると金縛りにあって動けなくなる呪術ですよ。いやー、昔アレと戦ったらそれ仕込まれて。命からがら逃げたっス。この前のは地上に降りたら使いもんにならなかったでしょーね」
そういう設定でいくということを了承して、星斗とマユは頷いた。妖のことは公表せず、だがこのまま五神として残るのだろうという意思表示。
「いやそれにしても凄いっスね。まさしくレベルが違う。大峰さん、あそこに混ざれます?」
「無理。ボクは皆のように麒麟の本体を詠べるわけでもないし、法師との実力差は理解してるからね。明君があそこまでできるっていうのは知らなかったけど……。この中で可能性があるのは玄武くらいでしょ」
「わたし、ですか?」
「あなた、今でも相当霊気抑えてるつもりだろうけど。漏れてる。無意識でそれだけ垂れ流しにしてるんだったら、瑞穂さんにも匹敵するんじゃないかな。瑞穂さんならあそこに割り込めると思うから、玄武もできそうって思っただけ」
大峰は客観的に、そう述べる。マユは今まで非公式の場で無闇矢鱈に霊気を漏れさせて振る舞うような人間ではなかった。「神無月の終焉」の際にもかなりの霊気──正確には神気──をその身に纏っていたのだ。まるで別人かと疑うほどに隔絶していた。
その時のことと、今も制御できていないほどの膨大な量の霊気。そこからこの中ではマユが一番可能性があると判断した。聞けば五神の中でも最初から玄武の本体を召喚していたという。その事実からも一番実力があるのはマユであると断言した。
麒麟が一番強いという常識をないものとして考えていた。大峰自身、瑞穂や巧には勝てないのに世代最強とは思わなかったし、今の明と法師の術比べを見れば諦めもつく。
これからはまた一から、精進するのみだ。
「……もう少し、ちゃんと制御しますね」
「ご当主様も仰っていたが、マユの身体の変化が原因だ。無理するなよ。玄武に神気を渡すのが一番堅実的な方法なんだから」
「はい。渡された薬もちゃんと飲んでいますし、気を付けます……」
「……ん?んんっ⁉︎何で玄武が難波康平さんに会ってるのかな⁉︎だってあの人、難波から基本出てこないでしょ!」
「え?そりゃあ、この前二人で本家に顔を出したからだけど……?」
「二人でっ⁉︎」
大峰が気付いてはいけないことに気付いてしまい、それを問い詰めたらなんでもない風に星斗が答えた。
星斗は何をそんなに騒ぎ立てているんだかわからずに困惑していたが、察してしまった奏流と西郷はさっと顔を逸らした。
大峰の小学生のような恋心は、同僚には本人たちを除いてバレバレらしい。
星斗としては神に近付いてしまったマユの治療法を求めて、そして婚約者の神奈夢月の容態が急変したと聞いて本家に戻ってマユのことも康平に聞こうと思っただけだ。
結果、マユの身体は幾分かマシになり、夢月は帰らぬ人となってしまったが。二人が進むきっかけにはなった。
「その節は先輩には本当にお世話になりました……」
「結局俺は何もできなかったけどな。お礼はご当主様と金蘭様に頼む」
「はい。そういえばその金蘭様もいらしてますよね。那須さんの近くにいらっしゃいます」
「あー、さっきあの方陣を編み出していたご婦人か。星斗、彼女は何者なのだ?」
「えっと。安倍晴明の式神です。ご当主様曰く、最高の陰陽師だとか」
「その言葉も満更嘘じゃなさそうっスね。あの女の人と近くに座ってる金髪の女の子。霊気は誰よりも多い」
各々が金蘭を見付けて、奏流の質問に一番詳しいであろう星斗が答える。星斗もここ一ヶ月で知ったことが多いので消化しきれていないが、惜しげもなく知識を披露していく。
隠しても意味がなく、明の補佐をしようと決心した星斗は五神にも話を通しておいた方がいいと判断した。
金蘭は術式を使っている関係上、そして珠希は抑えているつもりだろうがその潜在量が多すぎて一目見ればどれだけの実力者か判断できてしまった。金蘭が明と法師を超えていることも驚きだが、珠希に至ってはその三人を足してもまだ上。
一人だけ次元が違った。
「珠希ちゃんもすっごい変化があったんだね……。あそこまで霊気が多かったらゴリ押しによる暴力でなんでもできそう」
「麒麟が知っているということは京都校の生徒か?」
「うん、そうだゼ。明くんの彼女?」
「婚約者です。高校卒業したらすぐ式を挙げるそうですよ?」
「……あの子たちはいつもボクを驚かせるなあ」
星斗の訂正に肩をがっくし落とす大峰。大峰はなんだかんだ二十歳になるのに恋人がいなかったことを今更気にしている。麒麟になるための修行三昧だったので仕方がないと割り切っていたが、霊気も実力も上をいかれてその上恋愛までうまくいかれたら面白くなかった。
星斗も婚約関係までは知っていたが、この前康平から卒業と同時に式と聞いて驚いた。だが、そこは急ぐ必要があるという理由もわかる。陰陽寮を背負って立つというのなら地盤固めは早く終わらせた方がいい。
幼馴染を一途に想って結婚となればイメージもいいということだろう。
こうもまったり雑談をしていられるのは周りが目の前の術比べに夢中だから。どちらも一歩も退かない互角の争いをしていて、しかも陰陽師としてのパフォーマンスとしては最高級。見たことのない術式が飛び交い、式神たちの戦闘も人間では真似できない高速戦闘。
カメラで撮りながらスロー再生したり、陰陽師が実況していたり。盛り上がりが凄くて五神が集まっているということに気付かれることはなさそうだった。
周りの観客はどんどん増えていく。中継ではなく生で見たいと思った近くの人間が多かったのだろう。
これは世紀の一戦。これを超える術比べはこれ以降起こらないだろうと確信したからこその大熱狂。
歴史の立会人になりたくて、人々は押し寄せる。これを見逃したら日本人ではないと熱弁した者も多数。
その術比べの内容は、陰陽師最強の五人と言われる五神たちでも全てを把握できていなかった。
次も三日後に投稿します。
明日は野球もの更新します。
感想などお待ちしております。あと評価とブックマークも。




