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5-2-2 新天地では、やることが山積み

天狐について。

「では、もう一つは?」


「はい。俺の式神についてです。ゴン」


『はいはい』


 隠形を解いて膝の上にゴンが現れる。狐は嫌われているが、ゴンを見た校長は驚くこともなくゴンのことを観察していた。


「さすがに天狐と会うのは初めてだ。どうも、ゴン殿。康平クンから話は聞いているよ」


『なんだ。康平もキチンと根回ししてるんだな。わざわざ明が聞くことじゃなかったか』


「天狐殿には申し訳ないが狐は嫌われているからね。そして一つ康平クンから興味深い話を聞いた。何でも天狐殿は一千年前から生きているとか。それであなたは鳥羽洛陽(とばらくよう)についてはどこまで知っておられるのですか?」


 鳥羽洛陽。それは今の時代において鳥羽上皇が床に伏した際に呪術の影響なのではないかと疑い、安倍晴明を呼んだところ来ていたのは玉藻の前であり、その狐に呪いをかけられたとか。

 すぐさま玉藻の前討伐隊が編成されて、日本を都から北上していくように逃走。最終的に安倍晴明の手によって那須野にて討伐。殺生石という置き土産があったが、今はその効力もなくなっている。


 狐の悪逆さと安倍晴明を讃えるために外せない事件だ。

 ゴンはどうやって話すのだか。過去視でその出来事の後を知っているから今伝わっているものが嘘だとは知っているが。


『あの頃はたまたま都に居てな。事件の詳細は知らないが玉藻の前が追われているのはわかった。それこそ関係のない狐は道中で皆殺しにされたよ。玉藻の前の眷属に違いない、放っておけば都に襲撃してくると。──あんなに神々しい存在を殺すなどと、大それたものだ。神の血を引くもの(天皇)すら超越する神そのものだったというのに』


「では、やはり?」


『ああ。玉藻の前は天照大御神の転生体だ。たった一人の男が気になって、日ノ本の自然が見たくてちょっとした権能を用いた、ただの少女だったよ』


 そうして人間ではなく狐として転生して、人の身に化けて人と歩んだ神様の成れの果て。過去視でも何回か見ている本物の女神。彼女は人を、式神を、安倍晴明を愛していた。そして神様の気まぐれで人を蔑ろにすることも、搾取することもなかった。

 本当に神様としてではなく、一人の少女として過ごしていた。一人の少女としての生活を楽しみ、そして愛に生きた女性。決定的な瞬間、鳥羽洛陽はまだ視れていないが、今まで見た過去の限り、彼女がいきなり天皇及び上皇を貶める理由が分からなかった。

 彼女はただ、安倍晴明と数少ない家族と暮らしたかっただけ。それだけのはずなのに。


「そうか……。そんな少女を異形として殺すなど、不敬極まるな」


『まったくだ。一説によると、安倍晴明はそんな少女を魑魅魍魎の手から、そして人間から守りたくて陰陽術を極めて貴族になったというぞ?』


「ふむ……。だがそれを天狐殿が今の呪術省に言っても変わらないだろう。すでにかくあるべしと安倍晴明像も玉藻の前像も定まってしまっている。それに天狐殿では、今の世での発言権はほぼない」


『知っている。一千年迫害されていれば嫌でもわかる。今の世の中には何も期待していないさ。それよりも建設的な話をしよう。オレの学校での過ごし方だ』


「たしかに大事ですな」


 ゴンは式神としては珍しく生きている。大抵の式神は死後に霊となった存在が陰陽師と契約して霊気をもらい実体化している。

 だがゴンは霊気で俺と繋がっているとはいえ、生き続けている。食事などが必要な存在だ。


『明の授業中は傍で隠形している。式神として主から離れるわけにはいかないが、姿を晒すわけにもいかないからな。教員共にもオレの存在を周知しておくべきだろ。タマキと同じようにな。あとは食事。オレも食事が必要だからオレがいて食事をしていても邪魔されないスペースか人員を置いておいてくれ』


「それくらいはやってのける。問題ないでしょう。それも康平クンから聞いていますので」


 本当に俺が交渉する意味がなかったな。大体父さんが終わらせてる。ゴンに関しては本当にやることはないな。


「あと確認することはあるかな?もちろん家の事情があれば忌引き扱いで公欠にしよう」


「でしたら他にはないかと。狐のことが一番の決め事でしょうから」


「そうか。ならこれで話は終わりだ。今日は京都に泊っていくのかね?」


「数日は。なので帰りの時間は気にされなくて構いません」


「それは良かった。──この学校に複数の護衛をつけている。君たちは自分から介入したとはいえ、蟲毒と関わってしまった。事件の表向きの犯人は捕まったが、黒幕はまだなのだろう?君たちが平穏な学校生活を送れるように尽力させてもらうよ」


「ありがとうございます」


 とはいえ、俺もミクも父さんから一体ずつ式神を貸し与えられている。護衛は必要ないくらい戦力としては整っている。

 とはいえ、それが大人のやるべきことだと思っているのだろう。それは享受しておくべきものだ。貰えるものは貰っておくべきだし、いつ何が起こるかはわからない。

 もう一度頭を下げてから退室する。


次も三日後に投稿します。

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