2ー1ー2 踏み出した一歩
男子風呂にて。
食事の流れのまま、桑名先輩とそのまま大浴場に行くことになった。部屋に戻ってタオルなどを持ってきて、脱衣場でロッカーに服を入れて浴場へ。今までは部屋の風呂で済ませてたから来るのは初めてだ。
男子が使えるようにと、浴場はかなり広かった。ホテルの浴場と大差ないだろう。寮自体も未来の陰陽師のための投資なのか、色々設備が整っているし綺麗だ。施設管理のために雇われてる人がいるくらいだからな。
ホテルと変わらない。俺としてはそこにあまり魅力を感じていなかった。寮として一部屋あればいい、眠るだけの場所って認識だったから。食堂以外まともに利用していないんだよな。
部屋に風呂も洗濯機も乾燥機もある。冷蔵庫もあるから、それ以上何がいるんだって感じだし。
ラウンジにはコーヒーメーカーとか新聞が置いてあるらしいけど、使ったことない。調理室もあるけど、俺は使わない。瑠姫は女子寮でよく使ってたけど。
浴場はシャワーのところにシャンプーなど一式揃っており、ご自由にって感じだ。うん、ホテルだな、これ。
シャワーを浴びて、身体と髪を洗って大きなお風呂へ。この前行ったホテルのように露天風呂や複数のお風呂があるわけではなく、大きな湯船が一つあるだけ。サウナも流石にない。そんなものあったら今頃クレーム来てるだろ。
湯船で桑名先輩と合流。吟と銀郎もシャワーを浴びてきたようだ。銀郎の毛がベシャリと身体にくっついてる。いつものフサフサ感がない。
「しかし、難波君も有名になっちゃったねえ。今日教室に行ったら酷かったよ。男子も女子も、君のことを聞きたがってきた。十月頭もそうだったけど、今回はもっとだ」
「何か特別変わりましたっけ?土御門の蛮行を止めたわけでもなし。有名になることありましたか?」
「法師と姫様と、仲良く話していただろう?それで陰陽寮の後継者が確定したってことと、土御門と賀茂の没落で、筆頭陰陽大家に格上げになるだろうっていう推測だろうね」
筆頭陰陽大家は今まで土御門と賀茂だったが、現状空白だ。そもそもそんな称号を作ったのは呪術省で、あの二家が威張るための肩書きだ。
一応複数ある陰陽大家で話し合って選定するとのことだけど、そんな会議は形だけのもの。あの二家しかなったことがないんだから。難波は呼ばれもしなかった。これは難波が拒否したんだったか。
陰陽大家を選ぶ会議はそこそこやって、入れ替わりもあった。ただ、そんな陰陽大家で裏のことを知っていたのは少数。妖や土地神の存在を知って抜けた家や、知っているからこそ間者として入っていた家もある。
正直そんな枠組み、どうでもいいんだけど。
「難波の分家として質問責めにあったんですか?」
「そんなとこ。その辺りがどうなるかなんて僕も知らないのにね。香炉さんのことを聞かれても知らないし」
「苦労かけます。俺の噂もそのうち収まるでしょう。もうそろそろ、今年に入ってからの騒動に決着がつきますから」
「今度の術比べでまた噂が広がるんじゃ?」
「その時はその時です。それにこの学校だったら、もうすぐ大峰さんが学校を辞めたことが広まるでしょうし」
「えっ⁉︎大峰さん学校辞めるのか!」
俺たちの会話に入ってきたのは摂津含むクラスメイトの男子数名。ああ、宿泊学習の時に大峰さんを探していた連中だ。大峰さんに騙されている哀れな子羊たち。摂津はどうだか知らないけど。
「よっ。桑名先輩、こいつらクラスメイトです。お前ら知ってるかわからないけど、こちら二年生の桑名雅俊先輩。難波の分家だから関わりがある」
「桑名先輩のことは流石に知ってるって。文化祭の術比べで優勝してたじゃん」
あの試合は全教室のテレビで放送されてたからな。一応この学校で最強の先輩って知られてるか。それに桑名は退魔の家系として有名だし。
クラスメイトの連中も湯船に入ってくる。吟を初めて見た奴らが驚きながらジロジロと吟を見ていたが、部外者だったらここに居ないだろうと思ったのか何も言われることもなかった。吟も気にしていない。
「それで、大峰さんのことだったか?あの人は現麒麟だぞ?それに土御門の護衛として高校に再入学させられたんだから、用事も済めば辞めるだろ」
「何でそんなに詳しいわけ?」
「俺たちはあの人が麒麟だって知ってたからな。情報共有してた。俺たちも予備の予備で護衛してもらってたし」
「難波も?何で?」
「一月にウチの地元で蠱毒を用いた事件があったわけだけど。その犯人が土御門だったからだ」
「……ハァ⁉︎蠱毒って、禁術じゃねえか!そりゃあ、まあ……捕まるなあ」
土御門光陰が捕まったことを知る人間は少ない。メディアに流れていないし、中庭で星斗が捕まえる場面を見ていた、聞いた人間しか知らない。学校では退学したことしか知らされていないために、何故辞めたのかは詳しく知っている者はほぼいない。
家関係だとほとんどの人が思っているはずだが。事実を隠す意味はないために俺は口を滑らせた。そうじゃないと祐介と天海が浮かばれない。
結局、天海が土御門をぶん殴るって約束、守ってやれなかったな。俺も半殺しや地獄を見せるって決めてたのに、ただ捕まっただけ。微温い幕引きだ。
桑名先輩も蠱毒については知らなかったようだ。姫さんから全てを聞いてるわけじゃないのか。
「蠱毒の件はひとまず済んだし、あとは天海のお父さんだけだからいいとして。大峰さんはこれから陰陽寮を引っ張ってもらわないと困るんだよ。名目上最強の陰陽師なんだから」
「名目上かよ?」
「法師や天海瑞穂さんに負けてたのを知ってるから、名目上だ。今の五神で最強は玄武だし、そんな五神よりも、今タマを看病してる女性の方が陰陽師としては強いからな?」
「明様。姉は攻撃術式は苦手ですが?」
「吟。それは誰と比較してだ?法師よりは下かもしれないが、瑞穂さんには十分勝てる。それに法師でも金蘭の方陣も障壁も破れないぞ?」
「失礼しました」
吟は金蘭をある意味一番贔屓目なしに見ているのかもしれない。だからこその発言だろうし、吟なら互角に戦えるんだろう。
それに、法師が負けるとは思っていないのだろうが。本当にお前たちはこの一千年で拗らせすぎだろ。もうちょっとこの一千年の積み重ねを信じろって。
「とにかく。あの年齢詐称ロリババア先輩はここでやることが終わったんだから辞めて当然なわけ。実年齢二十歳だからな?」
「ウソ⁉︎見えねえ!」
「同い年だと思ってた……」
「難波君、口が悪いねえ」
「これからの苦労を考えたらそうなるのも仕方がないでしょう?大峰さんにやってもらいたいことは山ほどあるんですから。瑞穂さんの二代後の麒麟としては実力不足ですから」
惚れていたと思われるクラスメイトたちの嘆きの声と、桑名先輩の苦笑。でも大峰さんには最低限麒麟の本体を詠び出してもらわないとこっちも困る。五神の中で一番温厚で難易度が性格的な意味で易しい麒麟を詠び出せないなんてなあ。
多分姫さんと血縁だからこそ、なんだろうけど。
「あのロリババア先輩、名前すら偽名だからな?高校入学用の名前だから、普段京都で使ってる名前も、本名も違うぞ」
「偽名?そこまでするのかよ……」
「難波、本名は⁉︎」
「あー、一回資料で見た気がするけど……。こっちの名前は忘れたし、本名も下の名前は思い出せない。天海なんちゃらさん」
「……天海?ウチのクラスの天海さんと親戚なのか?」
「あの人、裏・天海家の分家の人間だからな。ウチのクラスの天海は東京に根ざす天海本家の分家だから、すっごく遠縁の親戚ってところだな。天海瑞穂さんは裏・天海家の本家の人間」
今更どこの人間かってバレても問題ないだろう。裏・天海家の役割も、実質姫さんを世に産み落とした段階で終了。法師が裏の住人に働きかけたことで隠れる必要もなくなった。呪術省ももうないし。
いやー、大峰さん人気だな。でも本人は星斗に惚れているという。
星斗周りの人間関係、ドロドロすぎない?関わりたくないなぁ。
「……確かに姫様と大峰さん、面影があるね」
「でしょう?実際とても優秀な家なんですよね。麒麟を二人輩出。それに彼女らの村は全員八段のライセンスを取れるほどの実力者だとか」
「末恐ろしい。そんな一大派閥が誰にもバレることなく隠れていたなんて」
難波も少し前までは知る人ぞ知る家系だったからな。名前が売れるようなことをしてこなかったし。隠れるだけならいくらでもできた。
それからもクラスメイトによる質問がやってくる。のぼせないように気を付けながら、隠すべき情報だけは隠しつつも、基本的には質問に答えていった。
こんなバカみたいな話、次はいつできるかわからないんだから。
メリークリスマス。クリスマス一切関係ない話だったな……。男子風呂って。
次も二日後に投稿します。
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