1ー2ー2 まだ踏み出せない一歩
確認すること。
陰陽寮をもらうことはある意味決定事項だったからいいとして。この話だけだったら姫さんがいれば済む。両親がいるのは、それ以外の理由があるから。
「次の確認事項ですが。二人の身体は問題ないですか?」
「ここの霊安室に安置されてるわ。専用の方陣も組んでおいたし、防腐処理もしてあるもの」
「それは良かった。どっちがどっちの交渉に行ったわけ?」
「私が賀茂に行ってきた。当主の方は既に正気を失っていてな。まともに話もできなかった。そのため暫定次期当主である、栄華君に話をしてきた。彼はもう意識を取り戻していてな。難波に任せる。ただし遺骨は京都にお願いすると」
内容としてはとても真っ当だ。それに、意識が戻ったのなら良かった。彼は今まで辛い事が多かったためになるべく賀茂家の負債は残さないようにしたいが。それが彼女の望みだと思うし。
賀茂・土御門はもう本当に、どうしたものか。国民からも相当責任を取れだの謝罪しろだのって声が挙がっている。日本人としては珍しいが、政府への抗議と共に両家への訴えとしてデモが起きているほどだ。
それを止めようとは思わない。陰陽師の仕事を邪魔しなければいくらでもやっていいと思っている。国民の権利だ。
これ以上引っ掻き回されても困るから、その両家に発言なんてさせないけど。
父さんが賀茂に当たったってことは、母さんが土御門か。
「土御門には直接交渉をしていないわ。住吉さんが生きているとも思っていないでしょうし。その住吉さんの希望で、遺骨は地元に持ち帰りたいって。治療が済めば、地元へ戻るそうよ。ここには辛い思い出が多いから」
「それは予想してた。護衛は?」
「いらないそうよ。もう陰陽師に関わりたくないと」
「……わかった。見舞金を多めに包もう。治療はいつぐらいまでかかりそう?」
「精神的なものもあるし、身体的にもかなり衰弱しているわ。その上今回の一件だもの。年明け……年度始めくらいまでかかるかもしれないわ。その辺りは私も専門外だからちょっと。瑞穂ちゃんは彼女の診察をしたんだったっけ?」
「ごめんなさい。栄華さんの方だけで、亜利沙さんは診ていないわ」
俺も医術についてはわからない。そっちの専門は法師だったし、それも込みで色々できる裏・天海家がおかしいんだけど。
万能すぎるだろ。
「亜利沙さんが退院するまで、祐介の遺体は陰陽寮預かりですね。静香の方は、栄華君の体調次第でしょうが」
「彼はもうしばらくしたら退院できるわよ。彼に施されていた改造は、まだ良識的だったから」
姫さんはそう言うけど、俺も後で顔を出そう。容態の確認などはできなくても、状態の把握はしておくべきだ。二人には罵倒されるだろうけど、それでも顔を出す義務がある。
祐介を止められなかったのは俺だし、静香を殺したのは銀郎なのだから。
「……うん。それは俺がなんとかする。父さん、難波分家と、桜井会は説得できた?」
「ああ。本家に残る巻物を見せて納得させた。星斗の一件が終わってから説明したために星斗には伝えていないが。あいつにはお前が直接伝えろ。これから一番迷惑をかけるだろうからな」
「わかった。……星斗から聞いただけだけど。神奈さんは、御座に昇ったんだって?」
「ああ。地上では身体の維持ができなくてな。星斗と別れの挨拶をして、昇ったよ」
夢月神奈さん。星斗の婚約者で、玉藻の多大なる信仰を受けて土地神になってしまった存在。
星斗は奔走したようだが、どうにもならなかったようだ。金蘭も手伝ったらしいが、神として存在を確立させるのは厳しかったらしい。金蘭からも伝え聞いて、星斗からは電話で聞いた。
星斗もそうやって失ったのに、今は動いているんだ。俺だって動かないと、星斗に失礼だ。
「星斗も気にした方が良いかな?」
「星斗くんは結構立ち直ってると思うけど?マユさんも隣にいるし、良いんじゃない?あの二人は持ちつ持たれつだろうけど」
「……ペアにして良いんですか?先輩後輩として良い関係でしたけど、男女ですよ?」
「やあねえ、明。男女だからじゃない。玄武はいい顔しないでしょうけど」
母さんに笑われる。いやいや、男女だから問題なんじゃって思ったのに、そういう返しが来ることは想定外っていうか。
星斗は婚約者を失ったばかりで、それなのに女性のマユさんと一緒に仕事させるっていうのは。呪術省の頃からそうみたいだけど、それって外聞良くないんじゃなかろうか。それが心配で……。
玄武はいい顔しない?もしかして。
「そういうこと?……マユさんって白虎にも好かれてなかったっけ?そんなことで五神が崩壊するのは見過ごせないんだけど」
「あら、明にしては鋭いじゃない。でも、一目で見抜けないところはまだまだね」
「マユさん、結構わかりやすいと思うけど?五神については朱雀がいない時点で問題だし、翔子ちゃんに麒麟をちゃんと詠び出してもらわないと意味ないでしょ」
「そうですね、半壊状態でした。……朱雀は最悪俺が兼任するとしても、大峰さんの指導は急務だなぁ」
「星斗に朱雀を任せてしまえ。それか麒麟にさせればすぐ終わるぞ」
まさかの父さんからの助言。
星斗の適性としては麒麟が一番なんだけど、あいつ本当に万能で朱雀をやらせても詠べてしまうと思う。本当の意味で麒麟が務まる人物は、先代麒麟のように五行全てを修めているためにどの五神にも対応する。
星斗はそういう、アベレージの高い陰陽師なわけで。
「……マユさんと一緒に仕事をしている良い口実になるから、無理矢理朱雀にするか?前任からの印象回復としては申し分ないし、実力も十二分。でもなあ、下世話すぎる気がする……」
「最適解ではあるけど、立場からして勧めづらい。そういうことは今後増えるはずよ。むしろ星斗くんでその罪悪感を覚えたら?」
「外堀埋めるようなことしたくないけど、それが最適解なのも事実……。今度、直接話すことにします」
そこは俺が直接やらないとマズイだろうな。マユさん云々は抜きにしても、早急に京都を立て直したいのは本当だ。
実家の方は父さんに当分頑張ってもらおう。それか次期当主を選出し直すか。そこらへんはもう数年様子を見て良いだろうから、後回し。
「とりあえず、この四人で話すことはこれくらいですかね」
「そうだな。瑞穂君から何かあるか?」
「いいえ。引き継ぎのための細かい書類はもう渡してありますし、こんなところかなと」
「じゃあ終わりにしましょう。姫さんにも、予定があるでしょうし」
「予定?わたしはもう、結構空いてると思うけど……」
姫さんが首を傾げていると、会議室に入って来る人物がいた。法師だ。俺は千里眼で確認していたから驚かないけど、姫さんだけ驚いていた。
「会議は終わったな?姫、出かけるぞ?」
「え。はい?今から?」
「ああ、今からだ。明、三日後に喫茶店の前でやろう。それまで姫を借りていくぞ」
「姫さんはお前の式神だろう?好きにしろ」
法師は一つ頷くと、姫さんをお姫様抱っこしてそのまま部屋から出ていった。見せつけていってそのままかよ。まあ、俺は見慣れてるから良いけど。父さんと母さんは呆れている。
「……なんだ?あのバカップルは」
「父さんと母さんそっくりだと思うけど?」
「あそこまでかしら……?入学式の時は私たちの姿をして、あんな感じだったの?」
「あんな感じ。今の見た目なら、若いカップルなんだなって思えるけど」
「……瑞穂君の見た目は、その。若すぎやしないか?」
それは言わないお約束だ、父さん。
なんだか締まらないなあ。すごい大事な約束をしたはずなのに。直前までは陰陽寮についてこれからのことを話していたはずなのに。
次は三日後に投稿します。
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