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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
8章 家の呪縛・終わりの始まり
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4ー1ー2 最後の選択

拉致。

 住吉亜利沙という少女は、いたって普通の女の子だった。

 霊気もなく、学校の成績も中の中。高校は適当に楽しんでいる、宮城に住んでいるいたって普通の十六歳。

 他人と違うところと言えば、霊媒体質があったこと、だろうか。


 小さい頃から幽霊が見えて、金縛りなどに遭い。霊に襲われることもあったが、なんとか十六年生きてきた。

 陰陽師が作った呪具で霊を避ける物を作ってもらい、そのおかげでそれをもらってからは平穏な生活を送っていた。親がかなりの金額を払ってもらった呪具だが、霊媒体質に悩む国民が多かったために、昔から呪具の開発はされていた。


 そのため呪具は金額さえ払えばなんとかなるものでもある。

 霊媒体質は天竜会で保護されるような異能とはまた別に認識されている。日本では霊媒体質の者が多く、本人たちが生活上困ることはあっても、他人に及ぼす危険が少ないからだ。

 日常生活を送ることすら厳しかったら天竜会で保護されるが、霊媒体質は症例が多かったために対処法も確立されており、一般的な対処ができたためにわざわざ天竜会が出てくる理由にはならない。


 二十一世紀になると、そんな霊媒体質も実は珍しい症状になっていたが。

 御魂持ちや霊気を用いない発火能力者に比べれば保護する理由もなく。

 結局は一応平凡な生活を送っていた時。


 高校から帰った夏の日。何故か家にリムジンがいた。それも数台。そんなものが一般的な家である住吉家の前に停まっていることが不思議だった。閑静な住宅街で、高級住宅街でもなんでもない。

 亜利沙は疑問に思いながらも、門を潜って家に入る。玄関には黒い革靴がいくつも。リムジンのお客さんだろうと、一言だけ挨拶して二階の自分の部屋に篭っていようと考えた。自分には関係ないと。

 リビングには両親──珍しく父親もいた。おそらく仕事を途中で抜けてきたのだろう──と和服の男の人が椅子に座り、部屋の中には他にもSPのような黒服を着た男の人が複数人いた。


「ただいま。それと、いらっしゃいませ」


「ああ、亜利沙!お前に関わる話だ。こちらに来なさい」


 おかえりという言葉もなく、亜利沙はリビングの唯一空いている椅子に座らされる。黒服の男たちはサングラスをかけていたのでそれが返って威圧的に感じて肩身が狭かった。実家なのに。

 椅子に座っている和服の男性は片方が三十代、もう片方は二十歳を過ぎたばかりに見えた。二人ともイケメンだなと、亜利沙は率直な意見を思い浮かべながらも警戒はしておく。

 いたって普通の家で、この異常事態。警戒するのが年頃の娘としての当たり前だった。


「初めまして、亜利沙さん。いきなりで申し訳ありません。私の名前は土御門晴道(はれみち)。陰陽大家土御門の当主です」


 超お偉いさんだ、と思った。陰陽師の才能がなくても、一般人としての常識がそう訴えかける。そして余計に何故我が家にと疑問が増える。


「私は八尾洸夜(やおこうや)。宮城に根を下ろした土御門の分家です」


 それが二十歳くらいの人の自己紹介。こちらは特に知らなかった。流れ的に亜利沙は自分の番だと思って、自己紹介をする。


「住吉亜利沙です。高校一年生です」


 それしか言えなかった。両親と話している時点で色々話をした後だろうと思い、何を言えばいいのかわからなかったのだ。

 亜利沙は未だに、この状況で混乱しているのだから。


「単刀直入にいこうか。この度洸夜が妻となるべき伴侶を探していてね。それでお見合い相手に亜利沙君が選ばれたわけだ」


「お見合い……?ええっ、私がですか⁉︎」


 晴道の言葉に、思わず大声を出してしまった亜利沙。

 それも仕方がないだろう。

 まだ十六歳の少女で、相手は分家とはいえ土御門の御曹司。こんな平凡な少女が見合いの相手に選ばれるなど想定もしていないだろう。


「ああ、君だ。君は幼少の頃から霊媒体質で苦しんでいたと聞く。その霊媒体質を持っている者が親の場合、優秀な呪術師が産まれやすいということが最近の研究でわかってきてね」


「そう、なんですか?」


「ああ。そして霊媒体質だが、呪術省で把握しているだけでもかなりの数を減らしている。君は日本でも希少な人物でね。そんな君と洸夜で、この地域を守ってほしい。日本を守るには、大きな力が必要なのだ」


 普通なら、このような怪しい言葉で簡単に頷くことはない。いくら名誉なことといえども、常識があれば疑う言葉ばかりだ。

 だが、彼女は。いいや、住吉という家族は、この言葉に頷いてしまう。悪魔の契約を結んでしまう。


 その理由は呪術の行使だ。

 陰陽師の適性がない一般人には呪術による暗示・洗脳は容易で、三人とも晴道の言葉に乗せられてしまう。

 それが地獄への片道切符だとわかっているのに、理性を失い、判断力が衰えた彼女たちは、彼の言葉が酷く残酷なものだと気付けない。


「両親も納得している。まずは彼と過ごしてみて、その気になったら婚約でどうかな?」


「……はい」


「そうかそうか。それは良かった。霊媒体質は子どもに降霊の才能を授けるようでね。これで東北は安泰だ」


 それからのおべんちゃらを、三人は覚えていない。

 だが即日で亜利沙は高校を中退することになり。すぐに引っ越して宮城ではなく京都へ連れていかれた。

 八尾洸夜との婚約など偽装で、正確には土御門晴道の側室として京都に軟禁されることになる。洸夜と会ったことなどこの時ばかり。本当に宮城に根ざす土御門の分家だったのかすら怪しい。


 彼女が選ばれた理由は霊媒体質はもちろん。純粋に晴道の好みだったからだ。

 そうして彼女は訳もわからぬまま、いきなり全てを奪われて。

 晴道に犯されて、祐介を身籠もることになる。

 まだ十七歳の誕生日を迎える前の話だった。


 そんなスキャンダルは世間に漏れ出ることはなく。亜利沙の両親には亜利沙が元気にやっていると呪術で思い込まされて。全てのことを身内でやってのけたために賀茂も呪術省も気付かず。

 住吉家には何度も呪術を仕込むことで亜利沙が元気にやっていると信じ込み。家に帰ってこないこともさして疑問に思わず。


 姫──天海瑞穂が本家を制圧するまでその闇はずっと、蔓延っていた。他の子女も騙され連れられ、ロクに成果を出せずに捨てられる。

 だから成果を出した亜利沙は再び子を産むように彼らなりに大事にされ。

 亜利沙の反抗も相まって他に産まれた闇の子はおらず。晴道もある程度納得がいったのか、ここ数年はそのような暴挙もなかった。


 姫に発見された時の亜利沙の状況はかなり身体が衰弱しており、精神も病んでいた。そのため緊急入院することになり、今は人工呼吸器をつけられ、目を覚まさない状況だ。

 彼女はたった一人の息子が何をしようとしているか、まだ知らない。

 盛大な自殺とも呼べる、大儀式まであと僅か。


次も二日後に投稿します。

感想などお待ちしております。あと評価とブックマークも。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祐介のお母さん、平凡だけど特殊なことが一個あってイケメンから見合い話が来るって、これだけ見ると少女漫画の導入みたいなんだけどなぁ。 悪魔の巣なんだよなぁ、その先。 悪いことはしてないのに。…
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