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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
8章 家の呪縛・終わりの始まり
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3ー5ー1 二人の背景・喧嘩

邪道。

 祐介が殺生石の力を隠さなくなったことで、明は攻撃の手が緩む。

 殺生石の呪詛を身体に埋め込んでその呪詛を霊気代わりに使用したことで呪術の威力が増した。呪術の元となる呪詛が、身体にあるのだ。霊気を呪詛に変換する一工程がなくなったことで、術の構築速度が上昇した。

 明といえども、術式の構築速度には限界がある。珠希が規格外な能力を有している分家だったり、安倍晴明の名前が一人歩きしてしまっているために勘違いされているが、「難波家」は「戦うための家ではない」。


 桑名家のように退魔に特化していたり、現青竜のように近接戦闘に特化した家ではなく、あくまで「調停」のための家系だ。式神行使やその能力平均値の高さから勘違いされているが、陰陽師や人間と戦うことは得意ではない(・・・・・・・)

 一千年前の段階で、人間と敵対するつもりはなかったのだ。精々が抑止力として捕縛する力で、それらが拘束術式や結界、そして法師の呪術に当たる。


 一般的な才能がない陰陽師に比べれば圧倒できるだろうが、戦闘能力という意味では五神に勝てるかどうか。神気によるゴリ押しが可能であれば戦えるが、式神なしの戦いであれば負ける可能性が高いだろう。

 式神の助力、及び霊気・神気による力押しができれば五神にも負けないだろう。だが、今回銀郎を使わない理由があった。


 祐介の使っている泰山府君祭もどきが、祐介オリジナルの術式なのでどういう影響で発動し、暴発するか、止められるかわからなかったこと。それを探るために時間をかけながら安全に術式を解体しようと思って即座に無力化できる銀郎を投入しなかった。

 祐介を気絶・殺害してしまったら不完全でも術式が起動する可能性があったので、暴力に訴えることは最終手段にしたかった。


 また殺生石は死者の呪詛が大いに含まれた呪物だ。この呪物を慎重に取り扱っていた理由は魑魅魍魎を刺激することだが、それはつまり呪いを撒き散らすことともう一つ。死への干渉を容易にすることだ。

 呪詛を撒き散らすのは人間──生者だ。その生者はいつ、呪詛を撒き散らす?誰かを恨んだ時、誰かを妬んだ時。誰かに迫害された時、誰かに殺意を抱いた時。様々あるが一番は──死に瀕した時だ。


 死への恐怖は生き物全てに根付く本能だ。それから逃れようとして本当に死が近付いた時、呪詛を思う。しかもその死が誰かに演出されたものなら、余計にその誰か・何かを恨む。それが生き物の在り方だ。

 呪詛の塊たる殺生石は、周りの生き物が死に瀕した際、その死へ誘う権能が産まれてしまった(・・・・・・・・)。僅か二十年ほどで溜まった都の呪詛は神々の存在が希薄になり、人間に失望し始めた時期でもあったため、急速に増加した。


 そしてそれは、最高神の生まれ変わりたる玉藻の前ですら一時的にしか引き受けることができない呪詛。

 難波家が数百年をかけて土地と人生をかけて呪詛を取り払ってきたが、それすらも完璧ではない。呪詛は漏れるし、産まれてしまった権能はそのままだ。

 銀郎は一般的な式神と同じく、一度は死した狼が転生・変性したことで今の姿となっている。つまりは肉体的には一度、死んでいる。そうではない式神は生きたまま変性したゴンと、神のまま降りてきた五神くらいだ。


 そして一度死んだ存在は、死への境界線がただの人間より近い。急激に近付いてしまえば、それだけで死んでしまうほど。

 肉体を失うだけなので、魂さえあれば再び式神として使役可能だが。それでも様々なデメリットが存在する。それが理由で銀郎を戦わせていなかった。


 銀郎はその距離感を正確に掴んで、祐介から離れていた。絶対的なる安全圏を確保した上で、最悪の場合割って入れる距離。それを維持している。様々なデメリットよりも、明の命を優先しているためだ。

 明の待機命令を破ってでも主人の命を優先する。そんなもしもは限りなくありえないとわかっていても、もしもに備えるのが従者としての務めとしていた。


 今、殺生石の力を行使している祐介の実力はプロの八段に匹敵する。それは少し前の星斗の実力と同等であり、日本でもトップクラスの実力者だ。

 そんな祐介の呪術を用いた攻撃に明は。


(クソ、呪術一つ一つに合わせた対応術式を使わないといけないから銃がまともに使えない!それにこれ以上霊気を消費するのはマズイ!)


 内心ではすごく焦っていた。

 呪術は相手を侵す術式だ。小さな労力で絶大な効果を出すよう効率化された術式。法師が産み出した呪術は無駄がなさすぎて新しい呪術がこの一千年でほぼ産まれていないほどの完成度を誇る。

 その術式を破るには大雑把に量の多い霊気をぶつけるか、反抗術式を使うか、呪術に耐性のある結界を張るか。大まかに分けてこの三つだ。


 平時だったら明でも物量で襲おうとしただろう。だが明は祐介を無力化した後、発動している泰山府君祭もどきを解体するためにどれだけの霊気を消耗するかわからなかったのでできるだけ霊気を温存したかった。

 それに今の祐介は霊気をあまり用いずに呪詛を使って呪術を使っている。祐介の方が長期戦ができる状況だ。そんな状態で無駄撃ちをするわけにはいかなかった。


 結界を張ることも、足を止めて守勢に篭ったら無尽蔵の呪術と攻撃術式が飛んでくるに決まっている。その両方から身を守る結界は高度な術式の上燃費喰らい。複数人を守るためならまだしも、一人ならやはり霊気の無駄遣いだ。

 だから身体能力で避けられるものは避けて、基本は反抗術式で確実に防ぐ。それが消耗も少なく、今取れる最善の策だった。


 とはいえ、祐介の霊気だって無限ではない。無尽蔵に見えるだけで、呪術だけがほぼ無限に出てくるだけで、通常の五行の術式であれば祐介自身の霊気が消費される。そっちは無限ではないため、祐介にだって限界はある。

 それに祐介の方も、泰山府君祭もどきを行うために自身の霊気を温存しなければならない。呪術だけではいつかは突破されることが目に見えているからだ。


 祐介も呪符を用いての攻撃や、ハンドガンによる攻撃を行うものの、明が威力を調整したハンドガンの攻撃で防がれてしまう。弾丸を当てることで少しでも速度を落とせば、それだけで避けられる。明はこうなった以上実弾は通用しないと、霊気の弾丸のみ射出するストレージに変えていた。



 千日手、と呼ぶべき状況だ。



 お互いがこれ以上消費をしたくなく、かといって打開ができない状況。どちらかが動かなければならない場面へ推移した。


(これ以上は無理だ。動くしかない!)


 古来より攻城戦とは攻める側の方が難しい。守る側はホームグラウンドで戦うことができる上に、そこを失ったらもう頼れる場所がないために決死の覚悟で挑んでくる。攻める側も勝機を見付けなければ長引かせたくない戦いだ。

 兵糧攻めなどができない短期戦であればなおさら、攻める側が仕掛けなければ負ける。


 今回の戦いはまさしく攻城戦だ。祐介の術式の起点こそが城であり、明がそこを攻め落とそうとしている。

 拮抗したぶつかり合いに風穴を開けるのは、奇襲だ。

 祐介が放つ弾丸へ、一際大きな弾丸を放つ。祐介も行った目眩しだ。祐介は視界が晴れた後に大きな術式を使うのではないかと警戒し、手元に呪符を用意していた。


 ぶつかり合った弾丸が相殺して消えた後。

 祐介の目に映ったのはこちらへ突っ込んできた明の姿だった。


「嘘だろ⁉︎」


 祐介は再び引き金を引くが、それを察知していたのか明も弾丸を放つ。そうして縮めた距離で、明は何も持っていない左手を引く。

 それを見た祐介も、呪符を持っていた左腕を顔の前に出した。


「オラァ!」


「グゥッ!」


 近接戦闘(ステゴロ)である。しかも肉体強化を施した。

 青竜一派が一気に流行らせた、陰陽術を用いた接近戦。白虎も武芸百般なために槍や剣を用いて接近戦をしたりするが、陰陽師で接近戦を好む者はこの二人くらいだ。

 そして現白虎は妖であるため、正確には一人の一派だけである。


 明はそれを学んだということではなく、呪術省を襲った時の騒動でその戦い方を見て、学んだだけ。つまりは付け焼き刃。

 八月の一件から銀郎を再び身体に宿す可能性があったために剣術や体捌きは覚えたが、それが使い物になるかどうかに賭けていた。

 こんなもの、明たち難波直系からしたら邪道も邪道、禁忌と言ってもいいほどの戦法だ。だが今はそれしか霊気を消耗せずに戦う方法がなかった。


「そっちがその気なら!」


 祐介も肉体強化を施して回し蹴りを行う。明は膝を曲げた足を上げることで回し蹴りを受け止めた後、ハンドガンを銀郎の方へ投げて祐介へ殴りかかった。

 もはやそれは、陰陽師の戦いではなかった。


次も三日後に投稿します。

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