3ー3ー2 二人の背景・喧嘩
奪われた物。
やはりと言うべきか。神気を纏った俺の弾丸が祐介の弾丸を食い破った。霊気よりも神気の力の方が力の大元として優れている。だから神は崇められるのだ。だから、神は畏怖されるのだ。
食い破った弾丸を祐介は横に前転することで避ける。その間にハンドガンのストレージを取り出して、赤いストレージを差し込んでいた。
そして引き金を引いたことで放たれた弾丸は、火を纏った弾丸だった。
俺も即座に引き金を引いたが、ただの力の放出よりも属性を帯びていた方が強いことが多い。俺の弾丸を突き破ってきたため、俺もサイドステップで弾丸を避ける。
神気を込めまくれば貫通できるけど、今の俺はミクの治療で大きな影響を与えないために神気をわざと消費してミクから神気を受け取っている。そのミクの神気は俺の神気よりも純度が高くて、正直そんな量を受け取れなかった。だからあまり力押しはできない。
そうやって脅せば祐介も折れるかと思ったけど、その見通しは甘かったらしい。
「明!そっちだって同じことできるんだろ!」
「もちろん」
祐介に釣られるように俺もストレージの交換を行う。俺のは他の物と同じく黒色のストレージだ。それに入れ替えて引き金を引くと、祐介のように火を纏った弾丸が放たれる。
それを連射したことで祐介は対処できなかったのか、何回か神具を使い──祐介の懐から神気の気配がなくなるまで撃ち続けた。やはりあれの効果は回数。どんな攻撃でも大抵は防げるが、その回数は限られている。
祐介が他にも同じ神具を隠し持っていないことを確認して、俺は攻撃の頻度を落とした。
「あくまで同じ属性で力比べしようってか⁉︎」
この速度なら対応できるのか、祐介の弾丸とぶつかって消えていた。やっぱりこの銃、神気には対応してるけど、威力の限界がある。何でもかんでも頼ることはできないな。呪符みたいに消耗品じゃなくて攻撃に使えるだけで十分だけど。
祐介の言葉に応えるように、俺はまた霊気を込めて引き金を引く。ストレージの刻印術式が反応して、それは銃口から放たれた。
まごうことなき岩の塊。それが射出されたのを見て祐介は単音詠唱をして同じような岩を作り出して防いでいたが、枚数に限りのある呪符を使ってしまった祐介。その表情は呆気に取られていた。
何でだ?
「お前、それ……。複数の属性使えるのかよ……?」
「うん?もしかしてそれ、火しか使えないのか?」
ひとまず神具の効果を打ち消すために火の弾ばかり放っていて、そろそろ意表を突こうと思ってたら予想以上の驚きでこっちが困惑したんだが。
ストレージが赤いのはそれが理由か?まさか属性ごとにストレージが分けられてる?そうでもしなければ特性の異なる属性攻撃を再現できなかったってところだろうけど。
『坊ちゃん。それが普通の、表の技術力なんですよ。考えてみてください。神はおろか、妖にもまともに備えなかった表の人間が何を警戒するんですかい?外への侵略を考えていた、元五神の力を非道にも扱ってたデスウィッチすら映像にあった通りの性能だったんですよ?』
「ああ……。あのパワードスーツ」
銀郎の言葉で後から見た映像を思い出す。全盛期の力を失くした元五神の、狸たちに負けるんだもんなあ。あの狸たち、無理矢理現世に残ってたから精々能力的には八段相当だっただろう。そんな相手に完封された存在しか造れない技術力か。こうして表と裏の中間にいるとわからないもんだ。
俺もミクも、父さんたちも。裏からの技術提供を平然と受けてきたからそこら辺の認識のズレが大きい。裏に関わってる家大半は呪術省の出す道具なんてまともに使えないんじゃないだろうか。
遺体という最高の呪物を使って産み出した侵略兵器があの欠陥っぷり。「婆や」が幽閉されていることといい、呪術省は俺たちに喧嘩売ってるとしか思えないんだけど。
陰陽術も、一千年前の努力も。穢しすぎだろ。
祐介が用意した物は表の中では上位から数えた方が早い逸品なんだろうけど、神具を除くとどうしても俺たちの基準からしたらグレードは落ちる。
バックが。抱いてる想いが、違いすぎる。
「なんだよ……。産まれから何から、ここまで違うのかよ⁉︎俺たちは過去の失敗を、こんな未来まで引き継がなきゃいけないのか!先祖の失敗を、ここまで背負わなきゃいけないのかよ……⁉︎」
「それは違うぞ、祐介。過去から失敗し続けてるんだ。過去の失敗から学ばないで、どれだけの罪を重ねてきた?現代法に照らし合わせても、相当なことをやってるだろ。一千年前の失敗だけだったら、ここまでなってない。……祐介が産まれるのが、遅すぎたんだよ」
「俺一人で変えられねえよ!どいつもこいつもまともに日本のことを見てない!他人を見てないんだ‼︎一人が違う視野を持ってても、この闇は広がりすぎた……。深みに沈みすぎたんだよ‼︎」
悔しそうに、膝を折って地面を叩いている祐介。その嘆きは本当に辛そうで。
変えたくても変わらない現実に直面して、疲れてしまったような、悲しき嗚咽。
……今なら分かるまいと、ストレージを再び変える。そうして装填が終わってすぐ、銃口を祐介に向ける。そしてすぐに、引き金を引いた。
パンッ!と乾いた音が林に木霊する。
今まで銃声なんて聞こえなかったのに、今回ははっきりと聞こえた。今までは霊気を放出していただけなので、精々気の抜けた音しかしなかった。
だが今撃った物は、薬莢が地面に転がる。銃口から硝煙が昇る。
俺は──実弾を祐介に発砲した。
心臓付近に銃弾を受けた祐介は後ろへ身体が仰け反る。麻酔弾とはいえ、反動は大きいだろう。麻酔を確実に当てるために弾速は速いが、威力は出ないように調整してある。成人男性に使う分には殺傷能力はほぼない。弾丸の中身もほぼ麻酔の薬物で、それを射出するためのわずかな火薬しか入っていない。
麻酔銃を人に向けることそのものが違法なので、こんな物を所持しているなんて誰にも言ったことがなかった。
このハンドガンは対人も想定された呪具だ。正直この呪具を使う相手は魑魅魍魎か陰陽師だろうと思っていた。妖や神にはまさしくオモチャでしかなく、呪符を使った方が戦える。
これは霊気・神気・実弾全てに対応した対陰陽師を想定した特注品。こんな未来を父さんは視ていたのだろう。だから用意させただけ。
この麻酔は鎮圧用に調合されたものなので、一発受ければ人間は意識を失うほど強い効能がある。そのため取り扱い注意な劇物だが、このように効果抜群だ。
これで止められたかと思っていたが、地面に展開していた祐介の術式──偽物の泰山府君祭が止まっていない。それを確認して祐介に近付けなかった。
「まさか……!」
足元から祐介へ、目線を戻す。すると直撃だったはずなのに立ち上がった祐介が、上半身のYシャツを破いて胸元を見せていた。
弾丸が直撃したはずの左胸に、禍々しく発光する赤紫のガラス細工のような結晶。そんな人間に埋め込むような代物ではない呪具を、心臓に直結させていた。
「殺生石……!お前、ただ持ち出したんじゃなくて!」
「ああ。静香たちの実証データを元に埋め込んだ。運がなかったな、明。ここ以外を狙っておけば、俺を倒せたのに」
「……死ぬ気か?」
「元からそのつもりだ!もう俺には……時間がねえんだよ‼︎」
祐介の絶叫に応えるように、胸元の殺生石は妖しく光はじめた。
それは命の灯火のように、儚く。憐憫を呼び起こす色だった。
次も三日後に投稿します。
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