3ー3ー1 二人の背景・喧嘩
同じもの・違うもの。
俺が放った弾丸は祐介が懐から出した神気を纏った樹の一部によって防がれてしまった。資料で見たことがある、土御門の家が好む防御用の呪具だ。春先の法師の事件でも、あれを使って光陰は茨木童子の攻撃から身を守っていたのだろう。回数制限があるとはいえ、優秀な呪具とされている。
正確には神の遺物だけど。それを彼らは理解していない。そうでもなければ、どんな攻撃でも防ぐことはできないだろうに。
「お前の攻撃手段なんて、対策してるに決まってるだろ。あれだけ派手に戦ってれば、ある程度の対策はできる」
「祐介、この銃がどんなもんかわかってるのか?」
「今のストレージはただ霊気を込めた弾丸を放つだけだ。多様性も何もない単一術式を刻印されたもんだろ。それでストレージを変えることで弾丸の種類を変える呪具だ。そのストレージに込められた術式しか使うことができない。しかも威力はそこまでじゃない。弾速だってまずまずだ。銃口を向けられてからでも十分対応できる」
「そうかよ」
対応ができているからと、攻撃の手を緩めることはしない。また引き金を引くが、今度は神具を使わずにポケットから出した新しい呪具で迎撃された。
その呪具の見た目も、やはりハンドガンのようなもの。俺との差は色で、向こうは白かった。それの引き金を引いたことで、お互いの霊気の塊は消える。
詳しい理由は、そういうことか。
「その武器がお前だけのものと思うなよ」
「なるほど。土御門ともなればそれくらいの呪具も用意できるか」
「理論自体は単純だからな。類似品はいくらでもある。だけど、この防御用の呪具の代わりをお前は持ってないだろ?」
「ああ。持ってないな」
なにせあの樹の神具は御神木を切らなければ手に入れられない代物だ。そんなものを難波家がするはずがない。御神木は御神木として育て、保護しなければいけない。枝葉を切るくらいはしても、それを集めただけではあれほどの神具にならない。あれは幹そのものを使っている。
枝程度であれほどの神具にはならないのだから。
神は奉るもの。崇めるもの。それに等しい御神木を伐採するようなことを、神であるゴンを保護している時点でするわけがない。
たとえその効力が得られる神具が作れるとしても。絶対にやらない自信がある。
「それでも銀郎さんを使わない気か?」
「ああ。式神は使わない。これは俺とお前の喧嘩だ」
「そうやって……足元見てんじゃねえぞ‼︎」
祐介のハンドガンから弾丸が放たれる。それを走って避けたり、俺も引き金を引いて白い弾丸たちが相殺する。
向こうの呪具も、基礎性能は変わらないみたいだな。一度に込められる霊気の量には限界がある。試しに霊気はそれなりに込めて、引き金を引く。俺の銃口からは細かい小さな弾丸がいくつも祐介に向かうが、祐介も同じことをしたのか全部防いでいた。
何発かは届いたみたいだけど、それは神具の効果で祐介の身体の前で消滅していた。
散弾機能もついてると。まあ、あまり特徴のない呪具だし、似ているものはあるだろう。これだってちょっと特殊なだけで、俺以外にも使える。
「こういうことはできるか⁉︎」
祐介の銃口から出てきたのは身体全体を巻き込むほどの大きな弾丸。
出力や弾丸の大きさを調整することはできる。だから、相殺できるように同じ威力、同じ大きさで弾丸を放った。それくらいは眼があればできる。
で、だ。こんな風にわかりやすく大きな弾丸を使うってことは、目眩しだ。
大きな弾丸が相殺して消えると、祐介が呪符を三枚用意していた。強力な術式を使うための容易だったのだろう。
「喰らえッ!金剛雷槍‼︎」
三枚の呪符が姿を変えたのは、ダイヤモンドでできた雷を纏った槍のようなもの。それが俺に向かって飛んでくる。金と木の二重属性、難しい術式だ。それを使える祐介の実力が惜しいと思ってしまった。
俺は焦ることなく、引き金を引く。
ゴギャギャギャン‼︎という音が辺りに響き渡る。
放たれた槍と黄色い弾丸がぶつかった音だ。それが鳴り止むと、そこには強力な術式がぶつかり合った衝撃が地面に穴を作ったという結果だけを残し、他には何も残さなかった。
その結果が意外だったのか、祐介の表情が曇る。
「な……なぁ⁉︎何で単音詠唱でもなく、ただ呪具から放った一撃が!これを破壊するだって⁉︎」
「祐介。神気って知ってるか?」
俺の問いに、思い当たることがあるのか警戒しながらも頷く。
神気なんて大学でも学ぶ者は極一部。熱心な教授が専攻していれば教わるくらい。神の存在を信じていない呪術省のカリキュラムでは、神に関わることは全くもって必修項目ではないのだから知らない者も多い。
「五神や神が持ってる特殊な力だろ?」
「まあ、あながち間違ってない。神に連なる者に与えられる祝福。霊気に似た、規模の異なる奇跡。……人間にだって、使えるんだぞ?」
「まさか……!」
「先代麒麟や瑞穂さん。それに現五神の玄武も使えるんだ。安倍家正統後継者の俺が使えてもおかしくはないだろ?安倍晴明は神気を使えなくても、混ざり気ない神の血を引いているんだから」
神気が使えることに納得したなら、あとは簡単だ。そんな力を使えるようなものを用意すればいい。
実のところ、神気を呪術省が把握していないから市販の物では呪符にしろ呪具にしろ、俺やミクではまともに術が使えない。補助にならず、力を発揮しきれない。いつぞやのミクのように、簡易式神が一枚の呪符で大量に現れたり、呪符が増えるという異常事態が起こる。
姫さんだって使ってるのは特別な呪符だし、マユさんはぶっちゃけ能力が制限されている。専用の物を用意できればもっと強くなれるはず。
俺とミクは妖に神気を用いても大丈夫な専用の呪符や呪具を用意してもらってるから、威力の低下は起きない。その見返りが保護と金銭なんだから、安いもんだ。
「このハンドガンにしても、呪術省が用意した物よりもよっぽど高性能だよ。神気に対応してるから、大抵の陰陽師には競り勝てる。妖や神、それにさっき言った数人にはどうってことないもんだけど。──神気が使えないお前相手なら、すっげえ有利になる代物だろ?」
「そうやって、持ち物自慢かよ……!」
「ただの事実だよ。それでも、まだ抗うんだろ?」
「諦めてたまるかよ!お前がいくら高い壁でも、それを乗り越えるだけだ……!」
まだ、祐介は諦めない。それでこそだと、ハンドガンを握る力が強くなる。
お互いの銃口が、再び向かい合う。放たれる弾丸は、またぶつかり合った。
次も三日後に投稿します。
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