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4-3-3 冬の空に、輝け清浄なる焔

後始末。


 蟲毒は蒼い狐火に焼かれて、邪悪な霊気は全て浄化された。そのまま狐は増幅された分が萎んでいき、ゴンと変わらないサイズの小さい狐へとなってから天へ昇っていった。

 この世に未練はないのか。それとも今回の一件で現世を嫌になったのか、他の霊狐のように残らないようだった。

 蟲毒がきちんと消えたのを確認してから、ミクは携帯電話を出して明へ繋げていた。コールが五度ほど鳴ってから繋がる。


「タマか……?」


「はい。明様、終わりましたよ。もう術式を解除して大丈夫です」


「そうか……」


 術式を解除したからか、狐たちが各々の場所へ帰っていった。万を超える狐たちが集まっていたのに、用事は済んだとばかりにさっさと帰っていってしまった。

 元々、一時的に式神契約する術なので、簡易契約が済んでしまえば帰るのも道理。いつまでも仮の主に囚われる必要もないからだ。彼らには彼らの居場所がある。彼らが愛した土地がある。


 それを霊気という力業で収集したに過ぎない。

 誰かの式神になっている狐もいる。人間が嫌いな狐もいたはず。ただ眠っているだけの狐もいる。今を生きている狐もいる。

 そういうしがらみを全て取っ払って呼び寄せてしまう術式。それは狐を信仰する難波家にとって人道的ではないからと自ら禁術指定しているもの。

 街から全ての狐が去った頃、明の方から声が届いた。


「タマ。そこに銀郎いるか?」


「いらっしゃいますよ。代わりますか?」


「いや、父さんを呼んでくれるように頼んでくれればいい。さすがに麒麟門の修復は今の俺には無理だ」


「わかりました。銀郎様、御当主様を呼んでほしいそうです。たぶん方陣の修復かと」


『あいよ』


 銀郎が懐から携帯電話を出す。それで康平へ連絡を取って今回の騒動の終了の報告と手伝いを要請していた。


「明様。あと伝えることとして、上空にいた人間は撤退したのか姿が見えなくなってます。蟲毒が消えてすぐにいなくなっていたので、どこにいったのかまではわかりません……。すみません」


「ああ、別にいいよ。目を覚ました祐介にでも聞けばいいんだから。他に気になったことはあるか?」


「あとは……。わたしのことを監視しているような、二人組がいました。その時は耳と尻尾出しちゃってたので、狐憑きとして見られていた気がします」


「二人組、ねえ……」


『それはオレの友人だな』


 ゴンが戻ってくる。姿は大きなまま。生傷が多かったので、ミクは霊気を送る治癒術を用いて治療し始めた。式神や陰陽師相手にならできる、専用の術式だった。

 携帯をスピーカーモードに切り替えて、ゴンも会話に参加できるようにする。


「ゴン、友人ってことは狐に理解のある陰陽師か?」


『理解はあるが、あいつは陰陽師というより呪術師だ。今のじゃない、昔の呪術の使い手だ』


「そいつは今回の件に関わってないんだな?」


『ああ。あいつはこんなちんけなことしないからな』


『どうですかねえ?あの男、何やらかすかわかったもんじゃありやせんぜ?』


「銀郎も知ってるのか?」


『康平殿も知ってますよ。彼は有名なので。いくつも名前があるんで今は何て呼ばれてるかわかりやせんけどね』


 だが、これ以上の情報をゴンは話すつもりはなかった。精々今使っている名前くらいだ。

 できるなら、Aとは絡まない方が良いと考えている。なにせAは様々な事件を起こしている犯罪者だ。明たちが関わる必要性はない。

 向こうから関わってくる可能性はあるが。


『その二人の内、男はエイという名前だ。他にいたのはどんなやつだった?』


『女の匂いがしましたぜ?たぶんあの男の式神でしょう』


『女……。ああ、あの幼女か。名前はたしか姫と呼ばれていたな。陰陽術の達人っていう珍しい式神だ。あいつらからこちらに手を出してくることはないだろう。こっちがちょっかいかけたらわからんがな』


 ゴンは姫に会ったこともあるし、彼女が式神になった経緯も知っている。だからこそ、彼女が昼に一緒にいなかったことに吃驚した。

 Aが傍から離すとも思えなかったからだ。鬼二匹は別だが。


「上空の男については?」


『坊ちゃんほどの実力はありませんぜ?霊気の量からしてそれは確実かと。武闘派でしょうけど、天狐殿が傍にいれば難なく倒せるでしょう』


「素性はわからずじまいか……。それは星斗に任せればいいか」


「あとは何かありますか?」


「…………」


 ミクの質問に答えない明。しばらくの沈黙の後、ようやく返事があった。


「笑わない?」


「え?何でです?」


「俺……霊気の使い過ぎで今立ち上がるのも困難なんだよね」


「えっ⁉」


「ヒヒヒ……。膝笑ってて一歩も動けねー」


「大変じゃないですか!」


 直後、ゴン!という大きな音がした。音は携帯の繋がっている先からだった。


「危ねー……。瓦礫落ちてきた。あと一メートルズレてたらペチャンコだったわ。ハハハ」


「笑ってる場合じゃないですよ⁉」


「あー、視界が霞んできた……。そういや霊気不足って貧血と似た症状でるんだっけ……?」


「ゴン様、背中に乗せてください!明様がまずいです!」


『何やってるんだ、あいつは……』


 大きくなったままのゴンの背中に乗って、ミクは市役所の頂上から明の救出へ向かう。

 なんとも締まらない終わり方だが、百鬼夜行に並ぶ災害は、今夜限り顕現し、今夜限りで終焉した。

 もうすぐ、夜の帳が明けて、寒い土地に朝日が射す。




次も三日後に投稿します。

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