1ー2ー1 始まりの地への帰還
診療所での遭遇。
ゴンと大人しく待っていようと、待合室の自販機で飲み物でも買おうとしたところ、ミクが入っていった部屋とは別の部屋から二人組の男女が出てくる。
ここに人間の患者がいるなんて珍しい。悪霊憑きか、妖の血が流れているのか。そんなところだろう。
そうしてこちらに歩いてきたのは。
「かまいたちと、妹さん?」
「うん?俺がかまいたちって知ってるのか。こんなところにいるんだから、裏側の人間か?」
「え?でもお兄ちゃん。あれ、京都校の制服だよ?」
「見覚えあるとは思ってたけど、あの緑の制服って京都校のやつなんだ。……学生でも、俺のことを知っていてもおかしくないのか?」
首を傾げる二人。かまいたちさんは二十歳になるかどうかってくらいの年齢で、妹さんは確か俺たちと同い年だ。かまいたちさんの両腕には痛々しいほど包帯が巻かれている。
これじゃあ日常生活に支障をきたしそうだ。妹さんがピッタリと寄り添ってるけど。
「難波明です。初めまして」
「あー……。なら知っててもおかしくないか」
「どうしよ、お兄ちゃん!凄い有名人だよ⁉︎」
かまいたちさんは納得を。妹さんは興奮を。
TVで報道されてるから、名前は知っててもおかしくはないか。通じて良かった。芸能人ってわけじゃないから、顔写真までは報道されてない。めちゃくちゃ注目されてるけど。
星斗はすでにプロとして活動しているため、連日顔写真付きで報道されている。あいつを知らない日本人はいないんじゃないだろうか。
「神橋飛鳥だ。かまいたちはもう引退だ。この腕じゃもうできない」
「神橋真智です。わたしのことも知ってたんですか?」
「過去視で二人を調べまして。かまいたち事件の概要を知るためだったんですけど。あなたたちの過去を知っています。すみません」
「別に構わないよ。……俺には陰陽術の才能がないからわかんないけど、本当に過去とかわかっちゃうのかー」
星見の才能がないとダメだけど。この二人からは神気こそ感じるけど、霊気は感じない。二人とも陰陽術は使えないんだろうな。
妹さんは御魂持ちだからか、神気とは異なる白い波が身体全体を覆っている。これを視ることができたら、確かに狙われるだろう。
そして、飛鳥さんの言葉はちょっと引っかかった。
「俺が星見だって簡単に信じるんですね。誰かから聞きました?」
「いや?君が星見だって初めて知った。理由は、ほら。俺と真智って似てないだろう?それで一目見て兄妹って断言するのはそういうことかなと」
「仲が良いので、気付く人は気付くのでは?」
「そうかい?幼少期から兄妹に見られたことはなかったけどなあ。まるで恋人のようだと揶揄われたよ?」
はははと笑う飛鳥さん。そんなもんかと思ったが、隣の真智さんの顔がだんだんと赤くなっていく。
あ、これはおそらく違うぞと気付けた。飛鳥さんは冗談で言っているようだけど、真智さんは違うんじゃなかろうか。
「お、おお、お兄ちゃん⁉︎いきなりそんなこと言っても、難波さんが困惑するだけでしょう⁉︎ち、違いますからね!わたしとお兄ちゃんはれっきとした──!」
「あ、血が繋がってないことも知ってます」
「星見ってズルいぃ!施設のみんなの異能よりもよっぽど利便性あるよ!」
真智さんが憤慨するけど、その様子を不思議そうに見ている飛鳥さん。
俺、他人のことなら案外わかるんじゃないか?自分のことに鈍感なだけで。
……ミク。俺より鈍感な人見付けたよ。
まあ、真智さんのためにも話題を逸らそうか。
「飛鳥さん。その腕どうされたんですか?」
「ああ。御影魁人にやられてね。絶賛リハビリ中なんだ。半年もリハビリをすれば治るらしい」
「半年も、ですか……」
「いやいや。これでも運が良かったんだよ。朱雀にやられてこの程度で済んだんだから。一般人としては中々の快挙だろう?仇も取れて、妹も無事に暮らせる。その代償が半年の不自由なら十分お釣りがくるよ」
一般人、かなあ。神々の加護がある人間を一般人って呼んで良いんだろうか。影とはいえ、朱雀も倒した一般人。うん、一般っていう意味を辞書で調べ直した方が良さそうだ。
目の前の二人が笑っているから、それで良いのかもしれない。真智さんも文化祭で見かけた時よりはずっと良い表情をしている。あの時は暗かった。
きっと兄のことが心配だったのだろう。
そんな真智さんが、俺の膝の上に乗っているゴンへ目線を向ける。
「この子って、難波さんの式神ですか?大人しいですね」
「真智。その方は──」
『フン。産まれながらの異才。他者に請われる愛し子。可能性の象徴。久しぶりに見たぞ。こんな奇跡』
「……シャベッタアア⁉︎」
そうだよなあ。式神だからって喋るとは限らないよなあ。これこそが一般人の正しい反応だろう。
飛鳥さんは知っていたようだ。姫さんたちが活動を援助してたんだっけか。
「こら、ゴン。驚かせるな」
『話しただけで驚くなんて、一般人じゃねーんだぞ?』
「彼女、ほぼ一般人だから」
天竜会に保護されてるんだし。三年前に襲われたけど、陰陽師じゃない人だ。
一般人とは感性が違うだろうけど、ベースは一般人なんだから。
「やっぱり天狐殿でしたか。初めまして。話は協力者の方から伺っています。真智、この方は朱雀と同じような方だ。尻尾が三本あるだろう?」
「ホントだ……。えっと、初めまして。天狐様」
『おう。しかし神稚児に会うなんてな。そりゃあそんな能力も持ってるだろうよ』
「ん?真智さんって神稚児なのか?」
『そこまでは過去を視てなかったか?こいつは神の力を産まれながら持ってたんだ。だからかまいたちは──気付いてなかったのか?』
「真智がそんな存在だなんて知りませんでした。それって凄いんですか?」
『……ん、ああ。何百年に一人、いれば良いって存在だ。御魂持ちよりもよっぽど希少だぞ』
うん?ゴンが何か隠してる。後で聞くことにしよう。
神稚児なんて実在してたのか。神様がいるんだからいるんだろうけど。今じゃ民間伝承にちょろっと文献があるくらいの存在じゃないか。
『その首から下げたネックレスがあれば大抵は気付かれねえよ。眼が良い奴と、神だけだ。日常生活は送れるだろう』
「それは良かったです。お爺様の皮膚って凄いんですね」
『神の鱗だからな。凄くなかったら困るぞ』
「あれ?龍なんじゃないのか?」
『あそこのジジイは神だ。この前戦った龍より上だぞ』
「なんで竜の字使ってるんだよ……」
『隠蔽とかって昔言ってたな』
竜と龍は別の存在だ。龍の方が圧倒的に強い。そんな、龍神が偽りまでして異能を持つ人間の保護をしている。
慈悲深い方なんだろうな。
次も三日後に投稿します。
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