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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
8章 家の呪縛・終わりの始まり
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1ー1ー2 始まりの地への帰還

新幹線のホームにて。

 京都駅に着いてからは、俺たちはちょっと違う対応を受けた。一般生徒と一般客は先に降ろされて、俺たちや土御門たちは後から降りることになった。

 まともに歩けないミクや、多くの棺を運ぶには時間がかかるからだ。

 車両から全員出たのを確認して、瑠姫と天海がミクの両肩を掴んで運び出す。俺と祐介が二人のキャリーケースも纏めて運ぶ。


 駅のホームに着くと、スーツ姿の人間が多数いた。どうやら先に柩が運び出されているようで、その確認に来ているようだった。

 その集団の先頭にはいつも通りの華やかな紅い着物姿の姫さんが。今の京都の守護者は実質彼女だから、それもそうか。

 運び出される棺の横で、土御門が怒鳴っていた。


「どういうことですか!静香の遺体だけ呪術省が預かるって⁉︎」


「そのままの意味やけど?あなたも、今京都がどういう状況だかわかっているでしょう?」


「……反乱分子だから、遺体も家に返せないと?」


「それは正確やないね。彼女が賀茂家のご令嬢ということの前に、賀茂静香として用があります」


「もう彼女は死んだんだ!だというのに、尊厳まで踏み躙るつもりか⁉︎」


 土御門が姫さんの小さい身体に掴みかかる。駅のホームで、大声でする会話じゃないだろう。乗ろうとしているお客さんが何事かと眺めている。

 そんな中でも出発準備をしている駅員さんや、棺の運び出しをしている呪術省の職員は凄い。仕事熱心だという、日本人の気質というやつだろうか。


 呪術省の実質的トップに掴みかかって良いんだろうか。土御門晴道は呪術大臣を自主辞職したことになっていて、政府は後任を決めていない。それで実質動かしている姫さんがトップで間違い無いだろう。呪術省に残った職員やプロの陰陽師たちは彼女を認めている。

 天海瑞穂、先々代麒麟のファンだった人も多いのだろう。麒麟時代に誰彼構わず助けてきたらしい。


「ええ、尊厳を土足で蹴り飛ばします。賀茂本家で保護した賀茂栄華(えいが)さん。意識不明の状態で本家にいたので、今病院で精密検査をしています。原因は無茶な外科手術による体力衰退。この先は……言わなくても大丈夫ですよね?」


「栄華が……」


「この先はここで話すつもりはありませんが。彼女の身体が必要です。一人の命を救うために、一人の尊厳を踏み躙ります。……あなたが彼女を大切に思う理由もわかります。人間として当たり前です。ですが、どうかそれを今だけは捨ててください」


 姫さんがいつもの口調ではなく、呪術省が陥落した時のようなまともな口調で諭す。

 賀茂の次男、賀茂栄華。賀茂家次期当主とされている三つ下の男の子だ。京都に来てから賀茂家の後継者を知ったくらいだけど、姫さんの言葉から彼も賀茂と同じ処置をされたのだろう。

 星見を得るため、最強の呪術師を産み出すため。何も確証がない、人体実験を受けたのだろう。


「あなたは土御門の人間です。だから本来あなたは口を出せないことですが、あなたに納得してほしいので言葉にします。一人の孤独な少年を助けるために、あなたの優しさを奪わせてください」


 だから彼女は慕われるのだろう。本来必要のないことを、誠実に話す。不利になることも、包み隠さずに伝える。

 見た目も合わさって、彼女を支えようと思う人が続出するのだろう。見た目で言えば十二歳、経緯的にも呪術省の被害者だ。いくらAさんに式神にしてもらって長く、見た目と精神年齢が異なるとしても、庇護欲が狩られるのだろう。


「……彼女は、五体満足で返されますか?」


「はい。彼女に埋め込まれた物は抜く予定ですが、きちんと今の可愛い姿のまま、お返しします。それも賀茂本家ではなく、婚約者のあなたに。葬儀などは親を頼ってください」


「………………わかりました。彼女を、お願いします」


 土御門が頭を下げて許可を出したことで、スーツの男たちが棺を運び始める。土御門も八神先生に連れられて、ホームから退散していった。

 一仕事終えた姫さんは、そのまま俺たちの方へ歩いてくる。


「あ、そっか。見たことあると思ったら、いつぞやラーメン屋さんの帰りに見た人だ」


「ああ、天海からしたらそれが初めてか」


 マユさんに会った後に、姫さんが一人で歩いてる時に出会ったんだった。俺は入学式の時に会っていたからそれよりは少し前だけど。


「明くん、大変やったようやね。珠希ちゃんは……まだダメみたい」


「はい。ご心配おかけしました」


「あの人が心配しててなあ。下にタクシー用意してるから、蜂谷先生のところすぐ行きぃ」


「すみません。ありがとうございます。……俺たちにはその口調なんですね」


「素で話してもええんやけどね。君たちと話してると別のスイッチが入っちゃいそうやから、堪忍な?」


 そう悪戯っぽく笑われてしまった。その内容に深く言及することなく、もう一度頭を下げて改札から出ていく。棺の脇を通って、他のクラスがやっているような解散の話も素通りして、俺たちは駅前のロータリーへ向かう。

 八神先生には先に伝えてあったので、俺たちが先に抜けても問題はない。

 姫さんの霊気を感じる蝶の簡易式神がいたタクシーまで来て、二人にお礼を言う。


「天海、祐介。ここまでありがとう。あとは俺の方でやるから良いよ」


「大丈夫?病院までついていこうか?」


「そこまでは良い。結構山奥にある診療所だし。銀郎、瑠姫。俺たちの荷物を寮に戻しておいてくれ。こっちに来る時に俺たちの着替えを数日分。頼むぞ」


『了解です』


『超特急で行ってくるニャ』


 蜂谷先生にはやれることはないからすぐ帰れって言われそうだけど。診せてみないことにはわからないからな。

 天海と祐介とは別れて、俺たちはタクシーに乗り込んで診療所へ。場所はすでに伝えてあったので、運転手さんがすぐに向かってくれた。

 相手もかなりの良いところの人間だったのかこちらを何も詮索せず、無言のまま運転してくれた。狐が乗っていることも気にせず、着いた先でお金を払おうとしたら姫さんが前払いをしてくれたらしい。


 本当にあの人には頭が上がらないな。

 診療所では蜂谷先生がすぐにミクを抱えて、診察を始めてくれた。俺はその間、診療所でずっと待っていた。

 一応父さんたちにメールで京都に戻ってきたことを伝えると、すぐに返信が来た。ミクのご両親にはすでにミクの状態を伝えているとのこと。明日には一度ミクの顔を見に来るらしい。「土蜘蛛動乱」に陰陽大家の反乱もあって即日には来られなかったのだろう。


 父さんたちも来るらしい。星斗もこちらに向かってるとか。星斗には特に伝えなくて良いか。あっちもあっちで大変だろうし。


次も三日後に投稿します。

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[一言] 土御門がまともなやつにみえる
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