5ー3ー2 最適化
呪いの真実。
世界は単純じゃなイ。ワタシたちの組織もあくまで西暦に変わるのと同時に産み出された組織。このケンタウロスのように神代から生きてきた存在からしたら知識不足も良いところでしょうネ。神代なんて書物で知るしかなくて、その内容も曖昧。どうしたって正確性には欠けてル。彼らは自身の知識として迷いなく正確なものを所持していル。
この差は大きいでしょうネ。
V3が吸血鬼じゃないっていう事実は困ったけど、それでも皆ならやってくれると信じてル。ワタシには及ばなくても、かなりの実力者が集まってるもノ。
リ・ウォンシュンの一件。JAPANの特異性。アキラたちの実力。どれをとってもおかしなことだらけだったから、本部から幹部じゃない実力者を引っこ抜いてきタ。軍曹とかその一人。結構戦闘のスペシャリストが集まったから大丈夫だと信じてル。
だからワタシは、目の前を見ていれば良イ。
「その不可解に、ワタシも含まれているのカシラ?」
『貴様は不可解ではなく、必然の犠牲だ。古くからある戯言の一つだろう』
「ワタシも、どうにかしたいと思ってるのヨ!」
身体強化の術式を全身にかけて突っ込ム。ワタシはワタシ。世界に決められているとか、女主人の遊びとかどうでも良イ。この呪いを解くために組織に入ったりしたけど、そんなことよりも人間が好きデ。この世界で少しでも長く生きていたいなって思っテ。
その願いの前に、こいつらは邪魔ダ。
「ハァ!」
『む?速度が上がった?」
ケンタウロスの左腕に斬りかかるけど、なんてことのないように受け止められル。けど、今までと違って、刃が肉に食い込ム。今の状態ならこの神代のバケモノにも通じるとわかればそれで良イ!魔術を使わなくても攻撃が通るなら、それで充分。
手段があれば、突破口も見えてくるはズ。倒せないなんてことはなイ!
空いているケンタウロスの右手が迫ル。ワタシを捕らえるつもりでしょうけど、そうはいかなイ。
腰に差してあった、刀を納めていた鞘。それを迫る手に掲げル。
「逆巻け、徒花!」
『バカか?』
鞘から蒼い障壁が生まれて、ケンタウロスの拳を弾いタ。やっぱりこんなバケモノ相手でもこの剣と鞘、それにワタシの魔術なら通じル。この力は神にも通じてしまう、神殺しの魔剣。
ケンタウロスに左腕を振るわれてワタシは地面に落ちたけど、何がバカなのカシラ?攻撃が通って、防いデ。こっちとしては想定通りなのになんで罵倒されないといけないのカシラ?
「あなたの攻撃、防いでみせたのに、バカって言われるのは心外なのだけド?」
『それは元々物理障壁ではなく、魔術障壁だろうが。二度殴れば壊れる物を採用する理由が見当たらない。戦士としては二流の判断だ』
「本来と違う用途をしたらダメっテ?使えるものはなんでも使う主義なノ」
『それで女主人に見付かったらどうする?お前の先駆者たちがどうなったのか知らないのか?お前はその呪いも、剣も理解していないな』
「理解していなイ?これが女主人による悪意だってことは──」
『そして最期には、原初の人間に置換されると知っているのか?』
「……なんですっテ?」
この剣も五芒星の刻印も、呪いだとは知っていタ。これを使い続ければ、星とは隔絶された楽園への道が開かれ、世界が終わル。組織でも有名になっていることだから、ワタシはその条件と限界を見極めて行動を取っていタ。
けど、ケンタウロスが言うにハ。
ただ楽園の鍵が開くのではなく、ワタシが人身御供にされるってこト?
『ただの人柱だと思ったか?ただの鍵だと思っていたのか?唄とその鍵と魔術師という産まれながらに神の被造物として恩恵を受けた身体。その三つが完全に同調することで楽園の扉は開き、あの阿婆擦れが望む楽園にこの星は上書きされる。鍵を開けるだけだったら誰でも良いだろう。それこそその刻印をばら撒き、素養があった者に事を起こさせれば良い。だがそれをしなかった。なあ、ヴェルニカ』
『そうそう。あなたは原初の人間になるべく選ばれた器。これと決めて、その器を育てることしか興味がないの。何度も何度も失敗しても、楽園の引きこもりはそうすることでしか幸せを感じられない欠陥を持ってるのよ』
バンピールのV3がこっちに近付いてくル。いつの間ニ。もう皆を倒して、こっちに戻ってきたっていうノ?
二対一。ケンタウロスを相手にしてV3も倒すなんてどれだけの力を出せばできるんだカ。二体を両目で視界に納めながら、距離を取ル。
『わたくしは戦わないから安心なさい。それよりも、その力を抑えなさいな。せっかく面白くなってきたのに、引きこもりに世界を掌握されるなんて嫌なの』
「何ヲ……?」
『ケンタウロスが言っていることは全て事実よ。あなたの身体も心も記憶も、全部世界を壊すための爆弾に変えられるってこと。あなた、世界を守りたいから騎士団に入っているんでしょう?あなたはこの調子だと、十年経たずに世界を破壊するわ』
その言葉が真実のように、右手の五芒星が痛み出ス。これは楽園の女主人の意志を帯びているらしイ。彼女が望むように力を発揮することが何度かあっタ。力を貸してくれることも、命を助けてくれたこともあっタ。
それが、ワタシの身体を改造していたのだとしたラ?
思い当たる節はいくつもあル。ワタシのように選ばれた者は身体が動かなくなるまでこの刻印に魘されたらしイ。完全に身体が動かなくなって、ようやく五芒星が消えたという事例もあっタ。
戦闘で死んだら作り直しが大変だから丈夫な身体にして、存在する魔術が全て使用できるのはそれをアプローチにして、楽園の扉を開くためだと思ってタ。彼女が自由になるためだト。
その前提条件がズレていたんだとしたら、本当の目的が世界を変えることではなく、この身体だとしたラ。
世界を改変してしまうことがただの、副作用だとしたラ?
この仮説が合っていたかのように、五芒星と頭が痛みを覚えル。気付いて欲しくなかった事を知られてしまったから、子どもが言い訳をするかのように誤魔化すように訴えてくル。
冷や汗が止まらなイ。いくら確認できなかったこととはいえ、ここまで致命的に間違えているなんテ。
条件を揃えなければ力をいくらでも使って良いと思ってタ。本当は、力を使うことそのものがダメだったなんて、気付けるはずがなイ。
『別に十年足らずで世界が滅びても良いだろう。その時我々はこの星から出ていけばいい』
『それもそうですね。でも、あなたも力を取り戻さないとそれもできないのでは?』
『あとはお前たちと戦って戻せばいい。爆弾に火をつける趣味はない』
ケンタウロスが拳を下ろス。それを見てワタシも剣を元に戻してしまっタ。
まだアキラは戦っていル。あのドラゴンと、一進一退の攻防を繰り広げていル。
だというのにワタシは、もうこの力を使えなかっタ。
力を使えなければ戦うこともできなイ。結局ワタシは、この力に依存したただのバカだっタ。
次も二日後に投稿します。
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