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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
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5ー3ー1 最適化 

右手の呪縛。

 龍とアキラが戦いを始めた頃、ワタシも目の前のケンタウロスに集中すル。アキラもタマキも、きっと彼らは大丈夫。八月の時もなんとかしてしまったんだもノ。同じような脅威だから、きっと大丈夫だと言い聞かせル。

 左手にこの剣を持つのは久しぶり。剣を持つのも、左手に武器を持つのも久しぶリ。利き手が左なんて誰も知らないんじゃないカシラ?いつもは右利きとして振舞っているもノ。


 でもこれくらいしないと、ケンタウロスと渡り合えなイ。世界の理に干渉してしまっても、ここで倒さないと後々に禍根を残ス。だってこんな存在を野放しにしておいたら、普通の人間は壊滅すると思ウ。福岡だってよく破壊されなかったなと思うもノ。それだけの脅威が人里に現れたのに、道路と建物が少し破壊されたくらいの被害しかなかったというのは奇跡に近イ。


 たとえあの龍を復活させるために現れたとしても、次はなイ。むしろあの二体が一緒になったら、世界が滅んじゃウ。そこにV3もおそらく一緒になって世界を回られたら、世界の理を崩されル。

 そうなる前に、ワタシがちょっと干渉しても良いでショ。


『起源、楽園の種。そこから与えられた一種の禁忌。それを身に宿して、宿されて。その禁忌に従うように諭されて、抗って。その力を使うと近付くのではなかったか?こんなお遊びに付き合って華を咲かせるならそれも結構だが。責任は持たぬぞ?』


「お生憎様。というか遊びだとしてもあなたたちに付き合うならこれくらいの力は必須。ワタシはあの女の思い通りには──」


『ならないと思っているのか?貴様は確かに性別が異なる。だが、あの女が求めているのは器だ。男であれば尚良しというだけで、貴様も置換される可能性はあるだろう。それこそが、その右手の呪縛だ』


 手袋の下に隠している右手の金色の秘密。それすらも知っているなんテ。組織が情報統制をする前の時代に知ったのだから、知識は公になって……ないわネ。ワタシの前任者たちもこれが呪いだとわかっていたはズ。それをこのケンタウロスにバラす理由がなイ。

 となるト?


「前任者に聞いたのネ?」


『ああ。おそらくお前たちの組織ができる前だな。その男は悩んでいた。人類の歩みを止めてしまうかもしれない呪縛を、その身に宿していると。私のような者にしか零せなかったのだろう。確かその頃は神代も終わったばかりで魔術など使える者は少数でな。魔術を使え、その身は人間のスペックを遥かに超えている。神代の英雄と遜色ない存在がポツンと、ただの人間の群れに紛れている。それは苦痛だっただろう』


「その苦痛を解消してあげたってこト?お優しいことデ」


『優しくはないな。私は話を聞いた後、彼を殺しただけだ。それが彼の望みだった。だから殺した。阿婆擦れ女の操り人形なんて嫌だったのだろう』


「ナ……⁉︎」


 殺しタ?それが望みだったとはいえ、この呪いに侵された身を殺したって言ったノ?ワタシたちの身体はその阿婆擦れの願いを叶えるために特別強固にできていル。多少の無茶どころか、自殺を許されないほどワタシたちは事故死をしなイ。寿命で死んでようやくあの女の呪縛を超えられるというのニ。

 そんなワタシたちの内の一人を殺しタ?


「化け物メ……!」


『殺されたことが不思議だったか?もしや貴様、自分たちは死なないなどと盲信しているわけでもあるまい。あの女主人はあくまで、人間だぞ?神の時代の、神による遊戯だとしても万能ではない。人間の尺度では確かに万能だと誤認してしまっても仕方がないが、人間だという事実は不変だ』


「最近ようやく強者への耐性がついてきたところだったのニ……!確かにこれじゃあ、楽園への鍵は閉ざされたままネ!」


『もし我々のような化け物が少なく、人間で争っている内は、可能性があるかもしれないが。いや、人間とは足の引っ張り合いをするものだったか?どちらにせよ、奴の願いを叶える必要性はないわけだが』


「ないわネ。だからってあなたたちを放置もできないノ」


『なら来るがいい。禁忌の左手を持つ者よ』


 ワタシは走り出ス。それと同時に右手で魔術を使っタ。

 今までのようにシェイクスピアの真似事なんてする手間はなイ。ワタシが思うだけで、何を使いたいか考えるだけデ。魔術というルールは変わル。

 魔術は人間の技術の結晶。様々なルールがあり、それにマナを掛け合わせることで発動する世界の神秘。神秘といえども、明確な決まりに則って発動する、いわゆる公式があル。人間には人間のための魔術のルールがあるけど、ワタシはその絶対的なルールを無視できル。


 詠唱や定義付ケ。頭で浮かべる構築式、周りの環境。それら全てを無視して、即時発動できるワタシだけの特権。

 それによって右手に描かれた金色の五芒星は光出すが、それだけで破格の魔術をノーコストで発動できル。

 ワタシは即座に竜巻を起こして、ケンタウロスにぶつけタ。


『魔術とは、自然に干渉するものではなく。世界のレールに沿うものである。誰が言ったものだったか』


「少なくともワタシは聞いたことないわネ!」


 竜巻に捕らわれたケンタウロスは身動きが取れないまま、ワタシの剣の一撃を受けル。足を落とすつもりだったのに、傷は浅イ。今まで出会った存在の中で最も硬い肉体構成。神代に生きた化け物はその身体すらも特別性ってことネ。

 つまりワタシと同じってこト。


『ふん!』


 腕力だけで竜巻を霧散させたケンタウロス。魔術の起こりはなイ。ケンタウロスが魔術を使えるなんて文献を見たことないけど、どうなんだろウ。

 これで魔術やそれに類する異能を使えるなら、こっちにもやりようはあるんだけド。

 竜巻から逃れたケンタウロスはワタシに向かって前足を振り落としてきタ。確かめたいことがあったから、上げられた両足には当たらないように場所を定めて、片足を剣の腹で受け止めル。


 バキャアッ!という聞きなれない音と共に、地面がその勢いに負けて亀裂が入ル。だけどワタシの剣に欠損は見当たらないし、身体にもダメージはなイ。

 つまりこの剣があれば、接近戦でも渡り合えル。それがわかれば戦いの見通しも立てられル。


「これでどウ!」


 今度は氷塊と細い光線を撃ち出ス。氷塊は右手で粉砕され、細い光線は左手で受け止められタ。左手は少しだけ手が焦げたみたいで煙が出ていたけど、そこまで決定打になる一撃じゃなかったみたイ。これ、他の人だったら発動すら難しい大魔術で、二つ同時発動なんて頭おかしいほどの偉業なんだけド。

 格が違いすぎるわネ。


『魔術師としての才能は神代と大差ないな。複数戦でなく一対一ならこの程度か。いや?奴らは魔術を使うばかりで接近戦などできなかったか。なら剣で結び合えるだけ戦士としては貴様の方が上だな。そうそう、今ので思い出した。先ほどの魔術は世界のレールに沿うものであるというのは神代の魔術師が言っていたのだった。奴らは神への信仰や教えを守って魔術という叡智を授かった者たちだ。神に従うのは当然だったのだろう』


「一つ賢くなったワ。アリガト」


『貴様がそれだけの魔術を使えるのは女主人による刻印のせいか。その五芒星は魔術を使うためのものではなく、世界のレールを誤魔化すもの。そして生じた穴から園への扉を開く螺旋とするための道具か。人間が背負うには重いものだな』


「……何?心配してくれるノ?」


『ああ。あの阿婆擦れが世界を掌握するのも時間の問題だと思っただけだ。悪いことは言わない。それを使うのをやめろ。私は友が本調子を取り戻せばそれに合わせて力を取り戻せる。サンドバックはヴェルニカに頼んでもいい』


 呆れタ。要するに完全な状態に戻ることは可能だから見逃せと言っていル。全員が本来の力を取り戻したら楽園の女主人が世界を変える前に、世界が滅びるでしょうニ。

 ワタシの役目は世界をこんな化け物たちから守るこト。そして女主人の望む展開にさせないこト。

 両方を為すためには、今は目の前の存在を仕留めないといけなイ。そのためにはこの忌まわしき力も使わなければいけないノ。


「お生憎様。優先順位はあなたたちを倒すことなノ。ここで引けないワ」


『それはヴェルニカも含まれているのか?』


「モチロン。あの吸血鬼は国をいくつも滅ぼし、餌のために人間が殺されてるノ。野放しにできるわけないワ」


『やめておけばいいものを。貴様ら組織の人間でも、いくら束になったとしても、あの女には勝てん。あれを吸血鬼だと思っている時点でな』


「ハァ?」


『世界は不思議に満ちているということだ。強さも愛も存在も。予想以上に不可解に捩れているということだ』


次も二日後に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本国外の魔術とかで何が起こってるのかがまだあんまりわからないな…… 早くモフモフしたい
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