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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
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4ー2ー1 封印の解けた先での決戦

強襲。


 キャロルたちは高千穂山に近付くと、事前に送り込んでいた部隊が様々な罠を仕掛けていた。その部隊と合流し、途中からバスで来る部隊と前線に出る部隊で別れて行動をした。戦闘部隊は違法改造したバイクに乗って山へ突撃していた。

 祐介たちがいるルートには警察や陰陽師など人が多かったために、迂回してバカみたいな速度を出して向かった結果明たちを追い越し、すでに戦う準備はできていた。その準備で夜が更けてしまったが。


「軍曹、本当にこれでV3がこっちに釣られるわケ?」


「もちろん。彼女はこっちに来る。アレは、こういう挑発に弱いからな」


「そんなこと資料に書いてあったカシラ?」


 キャロルが軍曹の言葉に首を傾げながらも、作業を完了させた。キャロルも組織の一員として有名なクリーチャーの資料は頭に叩き込んでいたはずだが、軍曹の言うように挑発に乗るような相手だったという記憶はない。読み違いか記憶違いを疑ったほどだ。

 キャロルの本当の実力は、組織の中でもトップだ。だからこそ、本当の力を使わないように強敵の情報は調べ尽くした。何かの拍子で世界のテクスチャを変えてしまわないように、細心の注意を払っていた。V3なんてその筆頭だ。


 300年前にとある国の王を殺し、家臣も含めて全てを血の海へ変えた血濡れ姫。それからも周辺諸国で目撃情報があり、100年ほど目撃情報はあれど討伐記録はなし。キャロルの組織も出動して戦ったことはあったが、一度も勝てなかった。彼女は吸血鬼よりも完成された吸血鬼だった。

 その戦いに参加し、偶然にも生き残った者が残した日記など悲惨なものだ。血を滴らせた美女が、血を吸おうと、殺そうとしてくる。その殺人者の目を見て、背中から生える羽と口内の鋭い牙、伸びる爪を見て異形なのだと理解しても、その造形が惑わせる。姿も、血の半分も人間なのだ。そんな境界線に立つ者が人間を殺す。国を滅ぼす。

 それが耐えられず発狂したような書き殴りが今でも残っている。それをキャロルも全部見たが、酷い有様だった。全部を見た上でそれを情報の一部として、心に留めただけ。同情はしなかった。


「それで軍曹、こっちは任せていいのネ?」


「ああ。むしろキャロルこそ一人でケンタウロスに向かっていいのか?我々が着くまでの時間稼ぎだとはいえ」


「いいのヨ。それにタマキを一人にしておけないシ」


「ケンタウロスと共に、ドラゴンが出て来る可能性がある」


「そうなる前になんとかするワ」


 最初からそのつもりだった。V3対策は組織でもできるが、ケンタウロス対策はできていない。それなら最高戦力をぶつけるのがいいだろうという判断だ。絶対的な力に、数ではどうしようもできないことがある。今回がそれだ。一騎当千には一騎当千をぶつけるしかない。そこに千分の一が混じっていても戦況は変えられないのだから。

 今回の一件で組織内のキャロルを見る目は変わるだろう。以前の中国人の出来事と、今回の単独任務。それをただの兼任調査員にさせるわけがない。組織の中でも特殊な者なのだろうという憶測が立つだろう。


 それは間違いではないのだが。

 キャロルは周りを警戒しつつ山を登っていく。どこからヴェルがやって来るかわからないので、魔術を使う準備だけはしておいた。

 そうして走っていると、耳が風切り音を捉える。聴覚で捉えたものを信じて、キャロルは魔術を使った。


「All's Well That Ends Well!」


『うん?シェイクスピア?』


 空から強襲をかけたヴェルだったが、女性から逃げ続けるという魔術を使ったためにキャロルはその伸びて来る爪を躱すことができた。

 とはいえ、魔術とて万能ではない。魔術にも強度というものがある。その強度を破る攻撃──例えば神通力とか神の権能とか──には無力なものだ。今も相手が女性という相性をもってどうにかしているだけで、キャロルの今の実力では魔術を破られるのも時間の問題だ。

 ヴェルは羽を生やすことなく空に浮かんでいた。それをどうやっているのかキャロルには見当がつかない。空を浮かぶ魔術は存在するが、そんなものを使っていないことはわかる。


『あーっと、なんたら騎士団。こんなところまで追ってきたの?暇ねえ』


「目的の一致ヨ。日本にいたら別件としてあなたたちを見つけただケ」


 お互い英語で話していた。ヴェルもヨーロッパ出身なだけあって英語は流暢だ。日本語では古風な話し方をしていたが、英語ではそうはならない。

 ヴェルも何度かキャロルたちの組織と戦ったことがあったのでどことなく記憶に残っていたが、正式名称は思い出せなかった。組織の名を示すような装飾は一つもないが、異能者の組織なんていくつもあるものではない。国籍もバラバラで日本という辺境まで足を伸ばせる組織は世界広しといえども、キャロルたちの組織しかなかった。


『上に行きたい?行かせないけど』


「無理にでも押し通るワ。V3」


『……V3?それってわたくしのこと?可愛くないわ。美しくない』


「バンピールがそれを言うノ?」


『化け物だとしても、美的観念はあるわ。人間と違うところもあれば、共通することもあるかもね』


 そう話しながらも、ヴェルは爪でキャロルを引き裂くとするが、魔術の力で強引に回避するキャロルにはかすりもしなかった。無理な避け方をしているためにキャロルの身体は悲鳴を上げそうだったが。

 化け物と渡り合うために身体能力も底上げしているが、生粋の化け物にたかだか数十年生きているだけの人間では敵わない。それが種族的限界とも言える。この現場に入るにあたって身体強化の魔術は使っているが、その上がり幅にも限界はある。人間という殻に収まったままでは、出せる全力にも限界があるのだ。人間という枠ではないヴェルの猛攻をどうにか凌げているのは、キャロルの戦闘勘によるもの。


 他の者だったら既に決着はついていたかもしれない。

 そこへようやく援護が入る。サイレンサーで放たれた銀色の弾丸(シルバーバレット)。それがヴェルのこめかみへ迫るが、右手で握りつぶしていた。その方角を気にすることもなく、キャロルへ意識を向けたまま。


『まさか十字架を溶かした弾丸?考えが古くないかしら?』


「吸血鬼の、定番の弱点でしょうガ」


『あんなもの、ブラム・ストーカーとそれを真似た人たちの馬鹿らしい冗談だっていうのに。流れる運河、日光、ニンニク、白い杭。他にも色々あるけど、それが吸血鬼の弱点として。混血児(バンピール)たるわたくしに通用するとでも?』


「あなたとの交戦記録では確かにどれも有用という判断はできなかったようだけド。それが諦める理由にはならないワ」


『……あなたたちは吸血鬼を嘗めているわね。弱点を突く?これなら通用するはずだ?そんな妄想に駆られて、用意して。──吸血鬼は、地上最強の化け物(ついほうしゃ)よ』


 敵意と殺意が増していく。人を殺すことを厭わない化け物。その化け物がキャロルに牙を剝く──かと思われた。

 伸ばした腕は、間に入り込んだ軍曹の白いトンファーによって防がれていた。


『なっ……』


「軍曹、ありがト!」


 一瞬怯んだ隙に、キャロルは風の魔術を使って山頂へかっ飛ぶ。見事に突破されたヴェルは軍曹から距離を離した後、ため息を一つ。


『囲まれているわね。……この程度で足止めのつもり?』


「我々は、あなたを倒す。ここであなたの自由は終わりだ、血濡れ姫」


『早く終わらせるのは歓迎だけど。始めるのはちょっと待ってね。あの子は通すから』


「何?」


 山を駆け登っていく一つの大きな黄色い影が。その影の背中には一人の少年と猫型の式神が乗っていた。

 巨大化したゴンと、明に瑠姫だ。


『坊、さっさとするのじゃ!今ならまだ間に合うからのう!』


「失礼します!」


 それだけ言って、明たちは突破する。彼らだけは見逃そうというのがヴェルの考えだった。軍曹たちも、敵ではない人物を警戒することはない。一度キャロルを助けてくれた人物だ。その本質も理解しているつもりだった。

 彼は味方だろうと思い、トラップなどは作動させなかった。


『さあて。役者は揃った。不純物が一人入っちゃったけど。……あなたたちも邪魔。殺しはしないから安心して。今はお腹いっぱいなの』


「かかれぇ!」


 そうして視界の悪い夜の森で。

 騎士団と姫は、舞い踊った。


次も二日後に投稿します。

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[一言] キャロルたちでは敵わなさそうな気がする……
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