表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
265/405

4ー1ー2 封印の解けた先での決戦

天の逆鉾。

 両手から神気を穴に向けて投げ込みます。この封印術式はとても単純な仕掛け。龍脈に接続して、龍脈と槍で上下の蓋を作っているだけ。つまりは、龍脈に接続するか槍の権能を力による強引さで剥がしてしまえば良いだけ。その強引な手を使うにしても、かなりの神気が必要なので簡単にはいかないのでしょうけど。

 龍脈も先日姫さんが弄ったので、こちらを解除しても良いんですが。あくまで下の蓋なだけで、地上に出るためには槍をどうにかしないといけないでしょう。かといって槍だけをどうにかしようとしても、龍脈が力を与えて元どおりになってしまいます。そうなると並行して物事を進めないとこの封印は解けないわけですね。結構めんどくさい仕掛けです。


 龍脈。まさか龍が眠っているから龍脈という名前ではないですよね?確か八卦とかそういう自然学が関係していたと思うんですが。ただの偶然ですよね。

 銀郎様に横で見守ってもらいながら、まずは龍脈と槍の接続を外します。その後に槍を抜けば、龍は出てこられるでしょう。でもこれ、本当に龍脈と接続できる人じゃないと解除できませんね。昔からこの地で龍脈の様子を計測している大家の凄腕か、ハルくんや姫さん、Aさんや金蘭様のような実力者じゃないとそもそもとっかかりができないと思います。


 日も暮れて、それでもわたしの作業は続きます。神気の消耗は予想の範囲内なのですが、いかんせんやったことのない作業なので時間がかかります。辺りが真っ暗になり、秋の星と三日月しか見えなくなった頃、ようやく一段作業が進みました。

 穴から光の粒子が集まり、槍を形成していきます。その大きさはケンタウロスを遥かに超えるほど巨大な、神気でできた真っ白な槍。


 これが本物の、天の逆鉾。

 ここまでして、ようやくこの槍の本質が見えてきました。これはただの神具でも、神気で構成された概念的な物ではないことを。これは神々が()った物ではなく、ただ神気でそういう形にしたのでもなく。これは神の権能そのもの。それが具現化した物で、神気以外にも陰の気も含まれています。

 陰。地獄や黄泉の国、または魔に分類されるもの。代表的なものがそういった薄暗いイメージなだけで、地や女ですら陰ですから。陽の逆を示すものであって、マイナスというだけの性質ではありません。


 それを踏まえてこの槍を評価すると、地に接続するための天の属性を持ちながら、陰の性質も持っています。これは多分女性の神が楔として置いた物。そうじゃなければ天という陽の属性が色濃く現れる物であり、その名前を冠しているのにここまで陰を感じるはずがありません。

 まさしく、陰陽の象徴そのもの。


『久しぶりに見たな。何千年ぶりだ』


「ガワの部分ってどうしたんですか?龍の名前を持つ男の人が抜いたのは聞きましたが」


『そのまま天に還った。その時もこれは現れることはなかったな』


 伝えられている天の逆鉾はおそらく地表用のストッパー。それがなくても機能していたので、もしかしたら尋常ではない神気を持っている人だったら抜ける代物だったのかもしれません。ケンタウロスでは抜けなかったみたいですし、見るからに神具のような崇高なものを抜くという考えがなかったのかもしれませんが。


「じゃあ、抜きます」


『頼む』


 それからもやること自体は同じ。神気でこの槍と龍脈に接続して、システム自体を落とす。切り離す。龍脈を傷付けないようにやらなくちゃいけないのが難点ですね。せっかく元の龍脈と霊脈に戻ったのに、これでズタズタにしたら台無しですから。

 まだ神気と体力的には十分。そう思っていると、後ろでヴェルさんがいきなり上空へ飛びました。

 あれ、バンピールとしての能力なんですかね。羽とか異能とか使わずに空で浮かんでいられるのは。


『どうした?』


『お出迎えじゃ。あの坊じゃないのう。異端狩りの集団じゃ』


『邪魔だな。ここで妨害を受けるのは好ましくない』


『あーあ、おバカさんたち。ケンタウロスであるあなたに、ただの人間が敵うわけがなかろう』


『見学料だ。貴様が殺せ』


『えー?今お腹いっぱいなんじゃが』


 えっと。陰陽師以外の誰かが来たんでしょうか。それをヴェルさんが撃退すると。とても嫌そうですが、何かしらケンタウロスと約束があるのでしょう。逆らうつもりはなさそうです。

 それか純粋に、力負けしているから逆らえないか。日本の妖ならどれくらいの強さか指標がわかるんですが、海外の怪異だと上手く判別できません。海外の異能者の実力が掴めないのと同じですね。日本の異能者ならなんとなくわかるんですが。


『勝手に始めたりしない?』


『しない。お前が我々の喧嘩を見たいと言うのなら、それは守ろう。だからきっかり、殺してこい』


『餌以上の殺しはしない主義じゃ。同族以外は、無駄に殺さん』


『早く終わらせなかったら、始めてしまうかもしれん』


『さっさと行ってくるのじゃ!』


 ピューという音が聞こえてくるほどの全速力で山を下っていくヴェルさん。あの人なりの矜持なのでしょうが、餌は生きていくために必要だとして。どうして同族は殺すのでしょう。父親を殺したと言っていたのでその関連だとは思うのですが。

 わたしはわたしで、こっちに集中しましょう。気を抜いてどうにかなるものでもありませんし。

 ここに来た集団の方々。後遺症とかなく無事だと良いんですが。道中にいた陰陽師の方々は深刻な傷はなかったので大丈夫だと思いますが。


『あ。珠希お嬢さん。坊ちゃんたち来ましたぜ。天狐殿に乗って山を登り始めました』


「良かった……。無事だったんですね」


『手加減はしたぞ。そんなヤワな男ではあるまい』


「それとこれとは話が別です。それに人間にとって頭は急所ですから」


『そうなのか?顔なんていくら傷付こうが、再生させれば良いだろう?』


「え?……頭取れても、再生するんですか?」


『人間はしないのか?』


 しません。というか、それは生物的にもかなりの無茶じゃ。首を切られて生きてる生き物なんて見たことがないです。虫とかは胴体を割かれても少しは生き永らえているとは聞きますが。

 それも頭を治せるとか、くっつくとかでもなく再生できるということは、きっと切り口からそのまま生えてくるってこと。それは色々と生き物を超越しているような。これが神代でも稀有なケンタウロス。ラグナロクという大戦にも選ばれた勇士の力ということでしょうか。


 ……そんなケンタウロスでも勝てなかった龍を目覚めさせるってかなりマズイのでは?

 今更そんなことを思いましたが、今更辞められません。このまま作業は続けます。

 白い槍が段階的に、外装を剥がしていきます。どんどんと削っていき、あれが霧散すれば作業は終了。

 日本の神代から眠っていた脅威が、目覚める時。


次も二日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ