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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
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3ー4ー2 組織と怪異と人間と

天海の想い。


 私って最低の女だ。

 難波君が倒れた時、何ができた?ただ呆然と立ち尽くしていただけ。治癒の術式を使うこともできず、止血もできなかった。ただそこに現れた脅威に怯えて、立ち尽くしていただけ。珠希ちゃんのように啖呵を切ることも、ゴン先生や瑠姫さんのように治癒術式を使うことも、住吉君のように追いかけることもできなかった。私はそこにいただけ。


 そしてその後も、駆けつけた八神先生が病院を手配して色々と手を回していて、ただ事情聴取を受けて、病院で座っていただけ。私は何もやっていない。警察や陰陽師の人たちに答えた内容だってあの場にいれば誰でも答えられる内容で。それがもたらしたものなんて皆無。

 だって呪術省がすぐに事態を察知して、緊急事態宣言を出して。九州で厳重警戒がすぐに始まった。私が事情を説明しなくても、千里眼を持っている人たちはすぐに全てを把握する。星見だったら過去を視て状況を理解する。その場にいたからと、私がしたことは何にもならなかった。


 本当の天才たちには、私がその場にいた意味なんて見出せなかったと思う。

 風水ができて、三段とはいえ準プロと呼ばれる資格を手にしていて驕っていた──なんてことは一切ない。だって私よりも年下で麒麟になった人が学校を襲ってきていたという事実。十六歳でプロの資格を得た人がどれだけいることか。そんな本当の天才たちと比べて、私は風水ができるだけの凡才だ。ゴン先生に覚醒を促してもらって、その上でその程度なんだから。


 それに近くにいたからこそわかる。本当の天才というのは、難波君と珠希ちゃんのことだ。あの二人の背中がまるで見えない。霊気の量も、知識量も、実戦における心構えも、その実力も。何もかもが隔絶している。中学の時点で天狗にはなっていなかった。だって、いつだって難波君が私の前に立っていたから。聳え立つその頂は、とてつもなく強大だったから。

 中学の時からそうで、高校に入ってすぐゴン先生に才能開花していただいて。だからこそ、余計に勘付いてしまった。ゴン先生や銀郎さん、瑠姫さんを使役しているからそうだろうという推察はできても確証ではなかった。けどそれが確信に変わる。プロの陰陽師のお父さんを遥かに超える、高校で世界の広さを知ったからこそ、世界に通じる人だとわかってしまった。


 私は精々、プロの陰陽師にはなれるけど大成はしない程度の実力しかない。血筋とかそんな話ではなく、それが私の人間としての限界。人間を辞めれば、外法に手を伸ばせば、その壁も壊せるかもしれない。けど、それは私のお父さんを貶めた人と同じだ。私は、人間のままで良い陰陽師になりたい。

 お父さんが立場を失ったということもあって、私は自分の価値を示さなければならない。あの事件の犯人はまだ捕まっていない。だから犯人に狙われても呪術省に保護してもらえるよう、または地元の取りまとめである難波君のお父さんに私という存在を、有用性を示していかなければ私の家はなくなってしまう。


 そうして難波の家の二人と良く接するようになって。悪い言い方をすれば取り入ろうとして。中学からの想いも叶わないくせに引きずって。

 そして今日。親友であり、好きな人の好きな人を、見殺しにしようとした。


 私の心の、天秤が崩れた。珠希ちゃんが死んでしまっても、難波君には死んでほしくない。女として最低のドス黒い感情に支配されて、そちらに傾いてしまった。それがさっきの、醜い引き留め。

 あんなことをしても、難波君は振り向いてくれない。たとえ珠希ちゃんを失ったからといって、私のことを女としては見てくれない。


 私は珠希ちゃんのことも好きだったのに、こうしてしまった。あの二人の仲を知っているのに。入り込める余地なんてないのに。

 だから、ごめんなさい。珠希ちゃんが帰ってきたら、謝ろう。思いっきり抱きしめよう。そしてこの想いに、蓋を閉めよう。


「二人とも、無事に帰ってきて……」


 その願いを汲み取る神はいるのか。それは誰にもわからない。


────


 天海と別れて病院の一階へ向かっていると、看護婦やら病院に来ていた人に奇異の目で見られた。制服が京都校の物だとバレているのか、見覚えのない緑の制服だからか。呼び止められて病室に戻されることがなかったからいいけど。

 そうして一階に降りると、今は会いたくない人がそこにいた。


「難波。もう大丈夫なのか?」


「八神先生……」


 彼は近付いてきたが、俺は彼に関して警戒していた。病院なので術式を使うわけにはいかなかったが、それでも向こうは何かをしてくるのではないかと疑心暗鬼になっていた。

 この人は俺がやられた現場を覗きに来ていたヴェルさんと親しくしていた人だ。妖であるヴェルさんと。そんな人がどうして陰陽師学校で教員をやっていたのかだが、スパイとして入っていたということが考えられる。この人が妖という感じはしないが、妖と協力する人間だっているかもしれない。Aさんに協力する人間からしたら、相手が妖でも変わらないだろう。


「先生は、俺たちの敵ですか?」


「……ったく。ヴェルのせいでやりにくい。いいや、敵じゃない。呪術省は、いや。陰陽寮は、お前が治めるべきだと思ってる。生徒のことだって教師として真剣に守るさ。突発的なことで守れなかったりもするが」


「ゴン、嘘は?」


『ねえな。とりあえず、あの女との関係を吐けよ』


「本当に、天狐は嘘発見器になってるなあ。神を偽れるとは思ってないが」


 ゴンの真贋判定は百発百中だ。彼の前に偽れる者はいない。そのゴンが嘘はないと言ったんだから信じよう。警戒は続けるけど。

 八神先生は一つため息をついてから、説明を始める。


「彼女に初めて会ったのは、それこそ天の逆鉾を見に行った時だ。興味があったから行ったら、そこに居座っているあいつに会ってな。妖とはわかったが、殺されることなく普通に会話した。とは言っても、交流はそれだけだ。目的とかは聞いたし、どういう種族かもわかっているが俺じゃ倒せないし、被害は最小限に留められていた。だから放置してただけだ」


「あの人はなんという妖なんですか?」


半吸血鬼(バンピール)。人と吸血鬼の混血児で、吸血鬼の中の、女王だ」


「……また海外の存在ですか。目的はなんなんです?」


「土蜘蛛と、天の逆鉾に眠ったドラゴンの戦いを見届けることだ」


「ドラゴン?九州に言い伝えのある、土蜘蛛と争ったという……。あの言い伝えは本当だったわけだ」


 御伽噺、伝承。どれにしろ昔話として天の逆鉾に封じられた土蜘蛛と争った竜というものは現代にも残っている。土蜘蛛の存在が確認できる数少ない資料だから程々に有名なものだ。

 それが真実で、それをミクに抜かせようとしているということは。


「ドラゴンが目覚める……」


「だろうな。ヴェルも土蜘蛛も今更ミスをしないだろう。つまり那須なら確実に抜けるということだ。あの土蜘蛛が勝てなかった存在が、目覚める。ヴェルが学生を殺さなければ止めてたんだが」


「まさか、タマを殺す気なんですか⁉︎」


「いや。彼女は餌として土御門と賀茂の取り巻きを四人殺したんだ。那須を殺すことはないと思う」


 利用価値がなくなったら殺すということもありそうだ。ならなおさら急がないと。


「行きます。先生、天海を安全な場所に連れていってくれますね?」


「ああ、任せろ。病院のこととかは俺に任せて、お前はさっさと行け。これ以上生徒が死ぬのは見たくない」


「はい」


 頷いて、駆けて病院を出る。出るのと同時に烏を呼び出して、天の逆鉾の方向へ飛び立つ。二時間もあれば着くはずだ。千里眼を用いて道中の祐介も探さないといけない。本当に面倒ごとを増やされた。

 その千里眼を使った時に、見知った異能の力を感知する。


「キャロルさん……?外国人も同じ車両にいっぱいいる。まさか、キャロルさんの組織が動いてるのか?」


『あー。まあケンタウロスとバンピールが見付かったのニャラ、それもしょうがないんじゃニャイ?だってあちしたちでも知ってる存在だし』


「……足止めとか任せていいんだろうか」


『あいつらはそれが本業なんじゃないのか?陰陽師みたいなもんだろ。お前は珠希を取り戻すことに集中しておけ』


「ああ。それともうちょい状況を細かく教えてくれ。すでに死人が出てることと、賀茂が追いかけた理由とかわかる範囲で」


『つっても、オレらも又聞きだからな』


 状況確認をしながらも飛ばす。もうすぐ陽が落ちる。これだけ離れているとミクの霊気も銀郎の霊線も感じられないが、決定的な何かは起きていないと思う。もしそんな存在が本当に目覚めたのなら。きっと日本に何かしらの影響を及ぼすはずだから。

 まだ日本自体に大きな何かは起きていない。姫さんとかも手を打ってくれているけど、逆に言えばそれだけの事態が起こるということ。ゴンたちから話を聞きつつ、全速力で移動した。


次も二日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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