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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
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3ー4ー1 組織と怪異と人間と

病院にて。

 目が醒める。覚醒する。知らない天井だが、たぶんどこかの病院だ。窓の外を見ると夕暮れ。まずは状況確認だ。服は学生服のまま。変に入院衣を着せられていなくて良かった。ここら辺はゴン辺りがなんとかしたんだと思う。

 それも込みで確認のために、近くで寝っ転がっていたゴンを起こす。


「ゴン、状況は?」


『おう。今回は早かったな。倒れてから四時間ってところか。外傷や後遺症とかは気にしなくていいほど処置は完璧に済んでる。点滴があるが、それは保険だ。引っこ抜いて問題ない』


『いやー、本当はダメニャンだけど。まあ坊ちゃん元気そうだしいっか』


 瑠姫も実体化して苦笑しているが、目が覚めて身体に異常がないんだから点滴をしてたって意味ないだろ。点滴を引っこ抜いてから立ち上がって身体を動かしてみるが、痛みやだるさはない。身体の奥へ意識を向けてみても、霊気や神気も問題なさそうだ。減ったりしているわけじゃない。

 荷物も、班行動の時に持っていたカバンごと近くに置いてあった。中身はハンドガンだけ見当たらなかったが、それ以外は呪符など問題なく揃っていた。


「ゴン、銃は?」


『ほらよ。見つかったら困ると思ってオレが持ってた。銃刀法とかめんどくせーよな』


 ゴンが霊気で隠していたハンドガン型の呪具を前足から受け取る。これ見て呪具だってわかる人がどれだけいるだろうか。呪具に詳しい人か、プロでも上の段位の人じゃないと分からないと思う。カバンの中に戻して、忘れ物がないかだけ確認して部屋を出ようとする。


「どこに行けばいい?」


『天の逆鉾だ。それを珠希に抜かせようとしてやがる』


「天の逆鉾?今置いてあるのはレプリカだって……。いや、違うか。概念的に何かを縫い止めているそれこそが天の逆鉾ってことか」


『そうだ。急げよ。もうあっちに着いていてもおかしくはない頃合いだ」


 携帯電話でルートを見てみる。車で飛ばしていけば二時間で着く距離。ミクが連れ去られたのが昼過ぎで、今は夕方だ。誰にも邪魔をされていなければ、既に天の逆鉾へ着いていてもおかしくはない時間。むしろ俺が間に合うかを心配すべきだ。

 ドアを開けて早く向かおうとしていると、病室の近くのベンチに天海が座っていた。近くに居たんだし、俺に付き添いで居たっておかしくはないか。ミクも連れ去られちゃったからなあ。そんな優しい天海は俺が病室から出てきた様子を見て、点滴などがない状態を見て慌てて近寄ってくる。


「難波君⁉︎え、大丈夫なの⁉︎」


「ああ、心配かけたな。ゴンのお墨付きだから大丈夫」


「ゴン先生はすぐ目を覚ますって言ってたけど……。……行くんだね?」


「タマが連れ去られたままで、泣き寝入りする男に見えたか?」


「見えない。……二人とも、ちゃんと帰ってくる?住吉君も追いかけちゃうし……」


「祐介が?……わかった。ちゃんと三人、無事に帰ってくるよ。祐介も同じ方向に行ってればいいけど……。見付けて三人で帰ってくる」


 何やってるんだか、祐介のやつ。あいつ今霊気の波が狂いまくってるんだから、無茶なことしなければいいのに。それに実力差を考えろって。俺やミクですらおそらく負ける相手だ。そんな敵に調子の悪い祐介が行ったところで何になる。

 思わずため息が出たが、祐介のことは優先事項としては低い。天の逆鉾なんて代物と彼女を優先するのは仕方がないだろう。特に天の逆鉾なんて何が詰まってるかわかったもんじゃない。


「で?あのバカは何で追いかけたわけ?」


「賀茂さんも追いかけたみたいで。それを見て慌てて追いかけた、みたい。あの二人ってそこまで親交あった?それとも危険だから?」


「危険が一番だと思うけど。規格外の妖に立ち向かうのは、少数で行ったって意味ないだろ。せめて前線を維持できる存在がいてこそだっていうのに。で、ゴン。相手はどこの誰さんだ?」


「妖って言っていいのかな……?」


『日本での名前は土蜘蛛。本当の種族はケンタウロス、らしい』


「ハァ?」


 俺は腕しか見てないから確証はないけど。えー?どっちもビッグネームではあるけど、全く違う種族のような。土蜘蛛は挿絵でしか見たことない伝説的な存在だけど、それはケンタウロスだって同じ。

 だからってその二つがどうやったって結びつかないわけだけど。共通点があるどころか、出身の国すら違うんだけど。土蜘蛛って日本固有の種族じゃなかったのか?


「待て待て。金蘭様を襲ったのは土蜘蛛だって話だろ?」


『その時の土蜘蛛はさっきの奴だな。土蜘蛛は日本固有の種族ではなく、海外からの来訪者だったわけだ』


「で、そう呼ばれた存在が雲隠れしてたから目撃情報がなかったと。……ゴン、どれだけ強いんだ?」


『式神総出でお前と珠希が万全なら勝てなくはないだろ。他に敵がいたらわからん』


「ということらしい。帰ってこられそうだから、天海は安全な場所で避難していてくれ。福岡なら大丈夫だと思うけど」


 こっちまでは被害が出ないとは思うけど。県が離れてるから、ここに留まってれば大きな被害に遭うことはないはず。これ以上同時多発的に何かが起きる可能性は低い。今までそういうことをやってきたのはAさんだ。そのAさんが今回は関わっていない。だから妖関連で何か起こることはないはずだ。

 だからミクの場所へ向かおうと歩き出すと、天海に袖を掴まれた。何だろうと振り返ると、天海の瞳に涙が溜まっていることがわかる。


「今回は、いつもと違うんでしょ?本当の本当に、死んじゃうかもしれないんでしょ?」


「だからって行かない理由はないぞ?タマが捕まってる。天の逆鉾に何があるのかもわからない。俺が行く理由はタマのためだけど、もし協力者がいたら手伝ってもらうから、天海が心配するようなことはないと思うけど」


「心配するよ!今までのことは法師が、難波君たちを試すために色々事件を起こしてたんでしょ⁉︎今回はあの人が出張ってきてない!今までのように命の保証はされてないんでしょ⁉︎」


 そういう物の見方もできる。全部が全部Aさんが仕組んだことじゃないけど、天海の言う通り俺たちを鍛えるという側面はあっただろう。あの人たちは星見だ。それも父さんを凌駕するほどの。そんな人たちがこの前の呪術省を落とす時のことを視ていないわけがない。ということは、俺たちは壮大な計画で培養されてきたってことだ。

 もちろんそれはあの人たちの計画からしても必要なことだったから。父さんはあと十数年は良くても、それ以降は歳の問題がある。それよりは俺や星斗の方が後々まで任せられる適正年齢だったということ。それとミクという血筋初めての狐憑きとゴンの存在が大きいだろう。


 呪術省を崩壊させるなら後釜が必要。だけど実行犯たるAさんたちはその後の呪術省を率いるつもりはなし。そうなると現代で唯一の晴明の生き残りに期待を寄せるのもおかしな話ではない。

 今回はその加護がないって話だけど。


「それ言ったら、天海のお父さんが関わってる事件は法師たちも無関係だし、俺たちが夏休みに帰省してた時に起こった事件も法師は関わってないなあ」


「一月の一件、関わってないの?……八月の事件って、外国人が引き起こしたやつ?」


「そう。その二つは法師関わってないけど、俺たちは結局命がけだった。俺たちは法師に守ってもらわないといけないほど、弱くはないよ」


「でも、学生なんだよ⁉︎あんな、プロでも倒せるかわからない相手なのに……!」


 間近で見たためか。相手の土蜘蛛の実力を一番把握しているかもしれない天海。俺だってわかっていた不意打ちでやられたわけだし。

 それでも。天海の言い分は今回一つも通らない。


「身分なんてどうでもいい。好きな人が攫われて、立ち止まっていられるほど情けない男になりたくないだけだ」


「それが無謀だって言うの!もしも珠希ちゃんが天の逆鉾を抜いちゃって、あの土蜘蛛と同じくらい強い相手が出てきたらどうするの⁉︎朝ロビーにいたヴェルって女の人も敵みたいだし、相手は土蜘蛛だけじゃないんだよ!」


「じゃあ天海。なんて言ったら止めるのをやめてくれる?俺は、行かない理由がないよ。どんなことを言われたって、制止を振り切って向かう。これだけは譲れない」


「……『私が』、行かないでって言っても無駄なんだね?」


「誰だって無駄だよ」


 それがAさんであっても、父さんたちやゴンであっても。ミクが攫われて行かないなんて理由はどこにもないんだから。

 そう思っていると、背中に暖かみが。天海が背中から腕を伸ばして、背中から引き止めていた。


「あー。物理的にやられても、解いてすぐ向かうぞ?」


「……ごめん。あと十秒だけ待って」


 その言葉の通り、天海は十秒くらいしたら離してくれた。離れる動作はやたらゆっくりだったが、何だったんだか。この程度で俺を止められるとは思っていないだろうし。陰陽師としても実力は離れてるからなあ。


「ちゃんと、みんなで帰ってきてね」


「ああ、行ってくる。天海もちゃんと、安全な場所で待ってろよ」


「うん」


 さあ、行こう。取り返しのつかなくなる前に。最愛の人を攫いに行こう。


次も二日後に投稿します。

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