3ー1ー2 組織と怪異と人形と
現状把握。
話し合いが終わった後も、装備の点検や情報収集などバスの中は慌ただしく動いていた。そんな中で戦闘班とでも言うべき、戦うことが主な人たちが集まって飲み物を飲みながら、映像を見ていた。
見ていた映像は先程まではV3のものだったが、今は八月に撮影していた明たちの戦闘映像。これだけの実力者が負けたという事実を再確認してもらうためだ。とはいえ何かしらの干渉があったのか、映像は所々途切れている。戦いの余波が凄くて途中までしか映せていないが、それでもリ・ウォンシュンと遜色なく戦っているのだ。
神の領域に至ったという話も聞いているために、彼らの実力も推し量れた。
「……改めて見たが。彼らは本当に学生か?この前の騒動の、五神と遜色ないが?」
「そーなのヨ。彼らとその式神はJAPANでも最高峰だワ。気絶しちゃって覚醒した後のウォンシュンと互角に戦ってたわけだシ」
「少年の方は不意打ちでやられたようだが。少女の方もあっさりと連れていかれたことからケンタウロスの実力は相当だろう。……追いかける側というのは厄介だな。罠を張れないとなると、純粋な力比べになってしまう」
「力比べって、このメンバーで?本部のような戦闘班はいないんですよ?」
「それでもやるしかないのだ。我々はなんのために組織に入った?人々をこういった事態から守るためだろう?無辜の民を守る盾となるためだろう?弱気なことを言っている暇があれば対策の一つでも考えるべきだ。最悪のケースを考えたら、無駄にする時間はないぞ」
「軍曹って、軍人ってより気概としては騎士ですよねえ」
戦闘班の少女がそんなことを言う。見た目は怖そうな軍人の割に、考え方は昔の騎士のような人物だ。軍人だって元を辿れば人々の生活のために命をかける職業だが、なんというか志が高潔なのだ。
この組織ではそういう人も確かに多い。多いのだが、軍曹は立場が低いにしてはとても高潔だった。自分の立場など関係なく目の前の人間も、目に入らない人間も救おうとするのは組織がかなり大きいとはいえ、希少種だ。
「じゃあ、ケースの確認といきましょうカ。ケンタウロスとV3が仲間だと最低限想定しテ。あとはタマキが殺されちゃって、アキラが増援に来られないっていうのが考えられるわネ」
「それと新しい情報だ。学生が二人、V3を追っているらしい」
「……さっきの子たちと同じ学校の子だから、実力はそこそこあるんでしょうけど。だからって、V3に敵うかって言われたら……」
「無理だろうな」
嫌な情報ばかり増える。仮にも彼らは世界を股にかけてきたその道のプロだ。いくら日本が怪異まみれだったとはいえ、学生に劣る実力をしているとは思っていない。明たちの実力が飛び抜けていることはわかっている。
いくら彼らが属している学校の生徒でも、明並みではないことはわかるだろう。同じクラスの実力者が何人もいるとは思っていない。それなら名前ぐらい覚えているはずなのだ。もう二ヶ月近く真剣にこの国について調査しているので、京都に住んでいる実力者なら把握していた。
実際賀茂は一度ヴェルにあしらわれている。実力は大きく乖離していた。
「V3が純粋に我々から三百年逃げ続けていることには、奴の強さもそうだが、フラッと市井に溶け込み、人間を喰らって痕跡を残さないからだ。今回のもケンタウロスを笠にしているだけで、このまま消える可能性もある」
「やれることは吸血鬼と変わらないですからね。のくせに、太陽を克服した常識崩れ」
「混血児だからこそ、でしょうケド。目撃情報が減っていたのはJAPANに潜伏してたからでしょうネ。吸血鬼のお姫様はどうして大人しくしていてくれないのカシラ?」
「吸血鬼だからだろう」
「そんな正論は聞きたくないのだけド。……他にもクリーチャーがいると想定すべきでしょうネ。それも彼女らクラスが複数」
軍曹の言葉の通り最悪を考えると、そうなる。あの二体だけが敵だというのは安易な考えだ。だから敵はあれだけではないのだと、そういう前提でいくのが確かな予防策だ。
「まあ、ケンタウロスがあまり暴れずに、あの女の子を攫ったってことは何かしら理由があるはずだからね」
「姿を見せれば捕捉されやすいのに、わざわざ本当の姿を見せたのだ。陽動という可能性さえある。本筋は九州のどこかで、何かしらを企てているとかな。その時にたまたまあの子を攫ったのか、あの子が必要だったのか」
「タマキの実力はJAPANでもトップに近いワ。それを偶然とは思えなイ。可能性として、JAPANを脅すのが目的とカ?」
「脅してなんとする?キャロル」
「本っ当に一番考えたくないんだけド。……法師と繋がっているんじゃないかっテ。JAPANの対応に苛立ったとか、理由なら色々考えられそうじゃなイ?対応の遅さとか、これからの在り方だとカ」
「それは正直、あまりない線だと思っている。あのアキラ少年は法師一派から指名された少年だろう?もし法師一派なら、仲違いか自作自演の罠になる」
「そも、クリーチャーたるケンタウロスが日本の一犯罪者と仲間か?たとえ一千年生きていた傑物とはいえ」
「そうかもネ。可能性の話ダカラ」
キャロルも一応浮かんだから話しただけで、これは違うかなと思っている。その予想は合っていて、法師たちとケンタウロスは仲間ではない。法師としても明を傷付けられ、珠希を連れ去られたというのは憤慨ものだ。過去に金蘭が住んでいた村を壊滅させたこともあり、感情としては敵だ。
それでも、法師は今回の一件では動かないが。今彼は「婆や」と今までのことについて話すことで手が塞がっている。
「住民や変な横槍が入る可能性もあると思う。まだケンタウロスとV3がどこに向かっているか、判明していないんですよね?」
「ああ。南下しているというだけだな。だから大都市はないとはいえ、どんな被害が出るかはわからん。日本側で何かしら動いてくれないと手が足りなくなる」
「そこは安心して良い。あの瑞穂という少女、すぐさま行動に出てくれたようでな。九州で外出が許されているのはプロの陰陽師だけになっているようだ。それぐらいしてくれなければ、被害がどれだけ出ることか」
「あの女の子やるじゃなイ。そうやって動いてくれればワタシたちも楽なんだけド」
「じゃあやっぱり法師たちとは別勢力なんじゃ?」
「まあ、可能性の一つとして頭の片隅に入れておこう。あとは?」
「内通者の存在は流石に除外して良いでしょウ。一番あり得る嫌な事態ってのは、ワタシたちの攻撃が全く通じないことじゃなイ?」
「その際撤退するかどうかも、頭に入れておかなくてはな……」
それからも現地に着くまで、休養を除けばずっと話し合っていた。様々な問題点を挙げて一つずつ潰していく。そして奴らの逃走まで選択肢として含めて、フォーメーションなども考えて作戦会議は順調に進んでいった。
彼女たちが参戦するまで、あと僅か。その合間に、キャロルは軍曹に質問していた。
「軍曹。直感で良いワ。今回の戦い、どうなると思う?」
「随分とアバウトな質問を……。まあ、良い。死人は出るな。それが我々なのか、巻き込まれた誰かなのか、クリーチャー側なのか。それは定かではないが、これだけの戦力が動くんだ。そうなるのが自然な流れだろう。……おそらくだが、状況は色々と泥沼化するだろう」
「それが先見の軍曹たるお言葉?」
「ああ。異能ではないから戦場を経験した勘でしかないが、嫌な予感はずっとしている。ここらが儂の潮時かもな」
「そんな寂しいこと言わないでヨ?あなたのことは頼りにしてるワ。死なれると困ル」
「はっ。娘みたいな年齢のガキにそんな殊勝なこと言われても、何も響かねーな」
「結婚してないでショ?お父様?」
「妻も子どももいねーな。だからこんな風に、命をかけられる」
「軍曹には教わりたいことがあるから、まだ死なないでネ?」
「ガキが死ぬくらいなら、儂みたいな老骨が死ぬのが道理だ。おめえこそ、死ぬんじゃねえぞ」
次も二日後に投稿します。
感想などお待ちしております。




